妄想シンデレラ
私、灰被(はいかぶり)シンデレラ!今年で3〇歳!彼氏はいないの!でも幸せ!
お家にはね、ぬいぐるみが沢山あるの。だって一人で暮らしていると寂しいもの。本当は人間がいてくれると嬉しいし楽しいのだけど、私はすっごい寂しがり屋だから、普通の人間じゃ満足できなくて、あそこのパジャマの持ち主はみ~んな出て行っちゃった。でも私に寂しい思いをさせる方が悪いと思わない?いくらお仕事が忙しいからって、限度があるでしょ!帰りが遅い日が続くと、きっと何処かでピンク色の油を売ってるんじゃないかって思ってしまうわ。
最初の一人にはね、何も聞かなかったの。だって、それで関係性が壊れたりしたら怖いでしょう?満足できていなかったのはそうだけど、いないよりはずっとマシ。だから私、ちょっとやそっとの不満は全部飲み込んできたの。トイレットペーパーの芯を替えてくれなかったり、食べ終わったお皿を洗ってくれなかったり、それでも私ね、ずっと我慢してた。他にも、お洗濯だったり、お掃除だったり……今思い出していくとキリがないほどだけど、それでも私はよくやっていたと思うわ!……でもね、結局捨てられちゃった。なんでもね、好きな子ができたんだって。それを彼の口から聴いたときはすっごくショックだったわ。今まで一生懸命尽くしてきたのに、私以上にあなたをお世話できる人はいないのに、どうしてこんなひどい事を言うんだろうって、涙がボロボロでてきたの。もう悲しくて悔しくてやりきれなくて、心がぐちゃぐちゃになるってこういう事なんだって知ったわ。その時はきっと、絵本の中の自分に酔っていたのかもね。まるで悲劇の御姫様にでもなった気分で、でもだからこそ、立ち直るのも早かったわ。絵本はいつだってハッピーエンドだもの。きっとこの後にいい事が待っているはずよ、そう思ってまた一人ぼっちの日々が始まったわ。
二人目にはね、ちゃんと言うことにしたの。「飲みかけの紙パックはちゃんと捨てて」「ティッシュが足りないなと思ったら買ってきて」「お料理したならちゃんと道具も洗って」てね。しつこく言いすぎると口を尖らせるから、やんわりとだったけど、それでも前の反省を活かして、自分の思う事はちゃんと言えたはずよ。相手もそのうち分かってくれて、お互いの不可侵領域っていうのかな、ここは超えちゃいけないな、っていうラインも分かってくるようになったの。嗚呼、きっとこの人とならうまくやっていける。結婚も夢じゃないわ!そんな感じに、もう私はふわふわ浮かれてたの。……でもね、また捨てられちゃった。この人はね、「シンデレラちゃんは強いから一人でもダイジョブだよね」って言ってね、お正月から帰ってこなくなっちゃった。出て行くにしたって、ひどいタイミングよね。新しい年が始まって心機一転していこうって時に、彼女を捨てるんですもの。もしかしたら、彼は私の知らないところで心機一転していたのかもね。でも私は新年しょっぱなからボロボロになったわ。ぼさぼさの髪で鏡餅を睨みながら、(神様ひどいじゃない!)ってずっと恨んでた。私だって何も強い女の子じゃないのよ。本当はか弱い乙女なのに、強いからダイジョブだなんて分かったような口を、近しい人にきかれたのはとても悲しかったわ。
三人目の人はね、私を一番大事にしてくれたわ。だってね、最後まで私を捨てなかったもの。一人目の反省と二人目の反省がかち合って、私、どうしていいのか分からなかったのに、彼はそんなところも受け入れてくれた。彼は本当に優しくてね、お料理も上手でお洗濯も干すところまでやってくれて、お風呂のお掃除だってやってくれたわ。悲しい事を思い出して夜中にエンエン泣いてる私の頭を撫でて、抱きしめてくれたりもしたの。そういうときの彼の手は、大きくて温かくて柔らかかったわ。そのうち私もほっとして、いつの間にか眠っちゃうの。……でもね、またダメだったの。だって彼、私を満足させられなかったんだもの。
ふとね、寂しくて寂しくて堪らない日が訪れたの。彼に甘えたかったけど、「あんまり寝てない」とかで、あんまり構ってもらえなかった。だから私、ユキくんに電話したの。
「ユキくんのお家に行っていい?」って。
後はご想像にお任せするわ。ただ帰ってきたときの彼、すっごい怒ってた。「ひどい」「裏切り」「なんで」って、あんまり顔を真っ赤にして興奮しているから、よく聞き取れなかったけど。でも人軋り怒ってガス抜きが終わった彼は、老人みたいな態度で私を受け入れたの。疲れちゃったのね、きっと。私は彼を嫌いになったわけじゃなかったし、彼が存外早く落ち着いてくれたのは助かったわ。その日は彼のおでこにチューして寝たのよ、ウフフ。
でもね、彼もいなくなっちゃった。病気で死んじゃったの。死亡診断書って本当にあるのね。私、知らなかったわ。眠ってるみたいな彼の死に顔を観た時、わたし、寂しくてたまらなくなった。また一人ぼっちになっちゃうなんて、耐えられなかった。私の事が大好きでたまらなかったくせに、最後はこんなにあっさり私とお別れするなんて、許せないとも思った。今までにないほど頭に血がのぼって、体の芯が冷えたわ。でもそのうち、まぁいっかってなって。またご飯が美味しい日々が始まったわ。
「あ”あ”あ”あ”~~~う”め”ぇ”~~~」
あーし、シンデレラ。ストゼロがやめられねぇ。絶賛ヘベレケ中。