ジャンパー膝・膝蓋腱炎(Patella Tendinopathy)に対するアプローチ❶
膝蓋腱炎(Patella Tendinopathy)とは?
バレーやバスケットボール選手などジャンプを要するスポーツでよく見ることから通称ジャンパー膝と呼ばれている。
NBA内でも1位2位を争う怪我の一つがこの膝蓋腱炎です。
膝蓋腱炎とはいわゆる、慢性的な適切でない負荷が繰り返しかかることによって起きる怪我です。
ダメージや負荷に対する腱組織のリカバリーとのバランスが間に合わず、腱組織の非健康的な変化を起こしてしまい、痛みだったり機能が低下してしまう症状のことを一概に言います。
そこで一番多くみられる膝蓋腱の部位として下の図に示されている部位に痛みを伴うことが多くみられます。
炎症を起こした膝蓋腱を上から見てみるとこのようなイメージになっています。ここで大切なのが、炎症を起こした腱では、下の3Dイラストで見られるように、深部のある特定の部分が関与していることが多いです。
僕がみているバスケ選手でもこの膝の痛みを抱えてリーグに入ってくる若い選手だったり、膝の痛みが常にあるようなベテランの選手もよく見かけます。
腱の炎症は
OVERUSE (使いすぎ)とUNDERUSE(使わなすぎ・負荷に耐える力を欠如)
負荷がうまく拡散できない
腱の炎症とは、ある特定の部位に負荷が集中してしまい、腱のうちの特定の部位がCompress(ぎゅっと圧縮)されることによって炎症につながります。
この集中したCompression(圧迫)する力は、腱組織内のコラーゲン細胞でStiffness(剛性)の味噌となるクロスリンク(架橋結合)に含まれる水分を外に押し出してしまいます。
すなわち、集中したCompression (圧力)は剛性を失った弱く・怪我しやすい腱細胞へと変化させてしまいます。
体がその負荷・Force(圧力)をうまく拡散できないことにより反応的な炎症をおこしてしまいます。
バイオメカニクス的な体の動きという観点で負荷をうまく拡散できずに、
負荷・Forceが膝に集中してしまう。
(股関節の内旋の欠如、足首の可動域の欠如から脛骨の内旋ができないなどなど…)
このバイオメカニクス的な観点は深すぎるのでまたいつかの回で(笑)
Lack of Yielding Capacity (圧力・力に対して適度に屈する力の欠如)
筋肉や腱などの軟部組織には二つの性質・力があります。
Overcoming (何かに対して打ち勝つ力)と
Yielding (力に対して屈する力)
Overcomingは先ほど述べたように上のイメージのようにぎゅっと圧縮(Compression)されるイメージで、腱の炎症で見られるような組織内の特定の部位でCompression(圧縮)が起こりがちです。
健康的な腱を形成するには、逆のYielding(圧・力に対して屈する力)がとても大切になってきます。
膝蓋腱炎での細胞レベルでは何が起こってる??
研究によると炎症が起きてる腱細胞の中では、酸素がない中での乳酸の分解で生じるLactate(ラクテート)が常にあること、そして壊死化しているテノサイト、そして血液の流れがブロックされていることがみられています。
まとめると…
すなわち、炎症がおきてる膝蓋腱ではHypoxic(酸素が欠落)した環境になっているのです。
ここで面白いのが、
腱はもともと血液の交換が乏しい組織でもあり、新しい組織の形成が難しいはず…
なのですが、実は新しい組織(細胞)の形成が盛んに行われていることが見られています。
ここで大事なのが先ほど述べた
炎症が起きてる組織内ではHypoxic・酸素が欠如した環境にあること。
そのHypoxic (酸素欠如)環境で作られる新たな組織(細胞)は、
決して健康的なものではないため、またまた炎症へと繋がってしまうような非健康的な細胞につながり、十分なリカバリーができない状態になってしまいます。
Neovascularization (新しい血管の形成)
炎症を起こしている腱組織の特徴として、もうひとつ!
それがNeovascularization (新しい血管の形成)です。
この難しそうな英語ワードを分解するとこんな感じです。
炎症を起こしている膝蓋腱では、この血管新生(Neovascularization)が頻繁に見られ、炎症を起こし、腱の痛みの原因かもとも言われています。
ここでも面白いのが、Hypoxiaの状態でできる血管新生、すなわち腱炎のなかでよく見られる血管新生は細胞壁がしっかりと安定したものではなく
Hyperpermeable(透過性の高い状態)=中にある物質(栄養素、酸素含む)がもれもれの状態
にあることがみられます。
下に引用したイラストで見てみると、炎症を起こした腱内で見られるNeovascularizationによってできた細胞壁は不安定で、中の物質がもれてしまっていることがイメージできると思います。
これにより
といった悪いサイクルとなり、リカバリー(回復)に適した環境を作れず、腱の炎症は慢性的で再発率も高くなってしまいます。
よく使われる物理療法の介入としてShockwave治療が言われますが、これはここで述べた炎症を起こした腱の特徴をアタックして失くすといったものですね。
ですが、研究でも膝蓋腱に対してはShockwaveはあまり効果がないと言われていて、おすすめはされていません。
では、実際に現場で使われて、効果が見られるアプローチには
どのようなものがあるのか???
パート1で述べた、大切なバックグランドとなる知識をもとに
パート2ではアプローチについてお話ししたいと思います。
参照文献
Järvinen TA. Neovascularisation in tendinopathy: from eradication to stabilisation? Br J Sports Med. 2020 Jan;54(1):1-2. doi: 10.1136/bjsports-2019-100608. Epub 2019 Oct 8. PMID: 31594793; PMCID: PMC6923943.
Jildeh TR, Buckley P, Abbas MJ, Page B, Young J, Mehran N, Okoroha KR. Impact of Patellar Tendinopathy on Player Performance in the National Basketball Association. Orthop J Sports Med. 2021 Sep 3;9(9):23259671211025305. doi: 10.1177/23259671211025305. PMID: 34504899; PMCID: PMC8422823.
Galloway MT, Lalley AL, Shearn JT. The role of mechanical loading in tendon development, maintenance, injury, and repair. J Bone Joint Surg Am. 2013 Sep 4;95(17):1620-8. doi: 10.2106/JBJS.L.01004. PMID: 24005204; PMCID: PMC3748997.
Baar K. Stress Relaxation and Targeted Nutrition to Treat Patellar Tendinopathy. Int J Sport Nutr Exerc Metab. 2019 Jul 1;29(4):453–457. doi: 10.1123/ijsnem.2018-0231. PMID: 30299199.
Earp JE, Gesick H, Angelino D, Adami A. Effects of isometric loading intensity on patellar tendon microvascular response. Scand J Med Sci Sports. 2022 Aug;32(8):1182-1191. doi: 10.1111/sms.14175. Epub 2022 May 8. PMID: 35485297; PMCID: PMC9283377.
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