ジャンパー膝・膝蓋腱炎(Patella Tendinopathy)に対するアプローチ❷
パート2はパート1で述べたような膝蓋腱炎での特徴をもとに、アプローチについて少しだけ紹介したいなと思います。
ではパート1をもとに、今回の膝蓋腱炎に対するアプローチを考える中で、コアとなってくる点を二つピックアップします。
これらの点をいかに促進できるかが、アプローチの中での焦点になると思います。
健康的な腱を保つためにおいて適度な負荷の重要性
共通言語…?
どういうこと…?
腱組織というのは、Loading (負荷)によってかかる圧力を察知する(反応する)細胞が周りに含まれており、その圧力・負荷を細胞内に伝え、細胞内のプロテインの形成を促進させてくれることにつながります(Mechanotransduction)。
すなわち、腱の組織たちが察知して理解できるのはLoad(負荷)による圧力の変化のみ!ということ。
Nabeshima et al. の研究でもいかにLoad・負荷が腱に対して大切かが示されています。
腱組織のHomeostasis (恒常生・バランス)を保つためにはエクササイズなどによる適度な負荷がとても大切です。
腱組織への適度な負荷は、健康的な腱組織の形成に不可欠です。
負荷をかけることによって、健全なコラーゲンの形成や正常なコラーゲンの方向性の変異なども見られます。
Stress -Shielding Mechanism (負荷に対する保護システム)
炎症を起こした腱組織というのは、
パート1でも挙げたように以下のようなイメージとなってます。
多くの場合で、腱の深い部分が炎症を起こし、
その周りにまだ健康的な腱組織が囲うようにして存在します。
この腱に対して、エクササイズなどで負荷(Load)をかけると”Stress Shielding Mechanism (SSM)”(負荷に対する保護システム)というものがおきます。
簡単にいうと、炎症を起こしている深部の組織を守るように(Shielding)、周りの健康的な部分にだけ負荷(Stress)がまずかかるようになっています。
しかし、先ほど述べたように、炎症を起こした組織を健康的なものへとリカバリーを促進させるためには、炎症をおこしている深部にも適切な負荷(Load)が伝わることが大切・必須です。
Rate of Loading(負荷をかける速度) の重要性
Stress-relaxationの活用
ではどのようにして負荷をかけたい深部の組織をLoadingするのか?
ここで大切なのがLoading のスピード。
どのようにこのStress Shieldingメカニズムによって守られた炎症の起こってる腱組織に、適切な負荷をかけることができるのかというと、腱の特性であるStress Relaxation効果を使うことです。
腱というのは、一定時間(最低でも20秒以上)、一定の組織の長さ/角度で負荷がかかると、コラーゲン細胞など腱の中での圧力が下がり、腱全体的に緩み始め、負荷(力)が拡散される特性があります。これがStress Relaxation というものです。腱組織内での圧力・負荷が下がって周りに一律に拡散していくことによって、先ほどいったStress Shielding によって守られていた部分にも負荷が拡散されるメカニズムとなっています。
昔から腱の怪我にはIsometric!! (アイソメトリック)と言われているように、アイソメトリック(等尺性収縮)が効果的なのは、ある一定時間、一定の長さ・角度の腱に負荷を与えることでStress Relaxation効果が発生し、炎症をおこした深部の組織にも、適度な負荷をかけることができるからです。
アイソメトリックによる負荷と酸素の供給の関係
パート1でも話したように、
膝蓋腱炎が起きている腱では、酸素(安定した血液)の供給が欠如されています。
そこで、アプローチを考える中で、どのようにして腱組織への酸素(血液)の供給を促進させるか!が大切になってきます。
数々の研究で、アイソメトリックでのLoadingエクササイズによって膝蓋腱への血液の供給を促進されるといった発見もされています。
って思いますよね。
そこで!
一番効率よく、血液(酸素)の供給を促進するのに、どのくらいの負荷が必要なのか、この関係性について研究もされています。
Maximum Voluntary Isometric Contraction (MVIC:アイソメトリックで発揮できる最大筋力)の25%、50%、75%でのアイソメトリックトレーニング方法(この研究ではKnee Extension/8セット5秒、計40秒の負荷)では、
MVIC25%と50%では、50%の方が
トータルのヘモグロビン個数と酸素を含んだヘモグロビンの数が著しく増えていました。
一方で、
MVIC50%と75%では、それほどグループ間ではヘモグロビンの数の増加には変化はありませんでした。
この研究をもとに、"酸素供給の促進"をトレーニングのゴールにする際に、強度設定を効率的にできることでしょう。
加圧トレーニングによる血流交換の促進
もうひとつここで紹介したいのが、
欧米でもここ10年でリハビリ目的に使われることがとても増えてきている、
Blood Flow Restriction (加圧トレーニング)の応用です。
加圧(KAATSU)は日本ではめちゃめちゃ昔から研究されていて、最初は日本で使われ始めました。
現在は欧米でも、研究がたくさんされていて、プロや大学の現場ではリハビリ・トレーニングに応用しているチームはたくさんあります。
https://www.delfimedical.com/personalized-bfr/
このリンクにもあるDelfiが出している加圧の機械は、個人それぞれの動脈圧・静脈圧を測ることができ、圧力をカスタマイズを調節できることが可能です。
エクササイズ中も、自動に設定した圧力に合わせて、圧力を変動させてくれますので、とても安全性が高いです。
新たなテクノロジーの発展により、いろいろな会社がリハビリ・トレーニングに適した加圧マシンを作っています。
(下のSujiという会社は新しい加圧マシンの会社で、お手頃プライスでプラットフォームもしっかりしている)
先ほどのアイソメトリックトレーニングは酸素供給を促進するといった点で、理にかなっている…
では、
この加圧トレーニング(BFR) が
どのように、腱の怪我に対して応用できるか?
この研究でもわかっているように、加圧トレーニング・リハビリによって、体の血液交換の効率性も高めることができることがわかっています。
腱の怪我に対して、血液交換の促進(=酸素供給の促進)は腱の回復にとってとても大切なのは承知!
なので、
腱炎に対してBFR(加圧)トレーニングをリハビリで用いるのは、血液供給の観点からも、とても効果的ですし合理的!
加圧トレーニングで腱のYielding Capacityの向上
2種類の筋肉の収縮・性質
筋肉の収縮または働く性質には大きく2種類あり
Concentric(コンセントリック):短縮性
Eccentric(エキセントリック):伸張性
コンセントリック(短縮性)という筋肉の性質=
筋肉繊維が近づいていっているイメージ=
Compression・圧縮的な働き=
組織内での圧力が上がる=
中でのスペース(容量)小さくなる
逆に
エキセントリック(伸張性)という筋肉の性質=
筋肉繊維が伸びて離れていってるイメージ=
伸びる(Expansion・広がる)ためのスペースが必要=
スペース(容量)大きくなる=
組織内での圧力が下がる
加圧(BFR)による筋肉組織の作用・働く性質の変化
先ほど話したように、
アイソメトリックなどのトレーニングに加圧(BFR)を加えることによって、
酸素供給の促進など、さまざまな利点があるのはわかりました…
では
筋肉内の組織の性質がどのように変化するのか?
このように、
BFR(加圧)をアイソメトリックなどのエクササイズに加えることで、
もちろん筋肉組織内での圧力が高まります。
先ほどあげた2種類の筋肉の収縮と働く性質性のように、
BFR(加圧)によって圧力が上がった組織内では、
筋組織が広がる(Expansionする)スペースも物理的に小さくなり、
その中で働く筋肉繊維自体は、コンセントリックな性質で働きます。
このイラストに示したように、BFR(加圧)によるアイソメトリックトレーニングによって、筋肉組織はコンセントリックな性質で働きます。
この筋肉のコンセントリックな働きにより、その遠位でつながっている腱組織では、イラストのようにYielding(負荷に対して屈して伸びていく力)に働きかけることが可能です!
パート1でも話したように、腱のYielding する力(負荷に対して屈して伸びていく力)というのは障害予防・腱の回復にとても大切です!
BFR (加圧)を用いることによって筋肉の働く性質を変え、
腱障害では大切なYieldingする力・性質にフォーカスしたトレーニングを行うことができます。
このように、BFR+アイソメトリックを併用することによって、
最初に述べた…
この2点を、合理的に効率よく促進させることが可能です。
これらは、BFR を用いたアイソメトリックトレーニングの例の一つであって、選手の体の動きや可動域の制限に合わせ、適切なエクササイズを選んでいろいろと応用できると思います。
ターゲットとなる強度(Intensity)と負荷時間を段階的にあげていき、腱組織の正常なリカバリーとResilienecy(負荷に耐える力)の促進が可能になってくるでしょう。
参考文献
Järvinen TA. Neovascularisation in tendinopathy: from eradication to stabilisation? Br J Sports Med. 2020 Jan;54(1):1-2. doi: 10.1136/bjsports-2019-100608. Epub 2019 Oct 8. PMID: 31594793; PMCID: PMC6923943.
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