【労務論点①】給与の銀行振込に労使協定は必要か?

こんにちは、社会保険労務士の川住です。
労務の現場で意見が分かれる点について、「労務論点」シリーズとして投稿していきます。
第1弾は、「給与の銀行振込に労使協定は必要か?」です。

労働基準法では現金の手渡しが原則とされていますが、2018年にKDDI株式会社が行った調査では、89.5%の人が銀行振込で給与を受け取っているという結果が出ています。
今や一般的となった給与の銀行振込ですが、法的根拠はどのようになっているのでしょうか。
まずは、現金の手渡し、つまり通貨払い・直接払いを定める労働基準法第24条を確認してみましょう。

労働基準法第24条第1項(一部抜粋)
賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。ただし、法令若しくは労働協約に別段の定めがある場合又は厚生労働省令で定める賃金について確実な支払の方法で厚生労働省令で定めるものによる場合においては、通貨以外のもので…払うことができる。

給与の銀行振込については、厚生労働省令である労働基準法施行規則第7条の2に規定されています。「法令に別段の定めがある場合」に該当し、労働者の同意があれば、銀行振込は通貨払いの原則には違反しないと考えられます。「当該労働者の預金又は貯金への振込み」に限定しているため、直接払いにも違反しないと考えてよさそうです。

労働基準法施行規則第7条の2第1項(一部抜粋)
使用者は、労働者の同意を得た場合には、賃金の支払について次の方法によることができる。
一 当該労働者が指定する銀行その他の金融機関に対する当該労働者の預金又は貯金への振込み

この労働基準法施行規則第7条の2第1項には、労使協定が必要とは書かれていません。では、労使協定が必要とする根拠はどこにあるのでしょうか?
昭和63年1月1日付け基発第1号では、労働基準法施行規則第7条の2第1項は昭和50年2月25日付け基発第112号を法令上明記したものであるとされています。

賃金の預金又は貯金への振込みによる支払いについては、従来昭和五〇年二月二五日付け基発第一一二号をもって一定の要件を満たす限り、法第二四条に違反しないものと解されてきたところであるが、規則第七条の二第一項は、これを法令上明記したものであること。

昭和50年2月25日付け基発第112号は、証券総合口座への賃金の払込み・資金移動業者口座への賃金の資金移動(給与デジタル払い)を含めた令和4年11月28日付け基発1128第4号に継承されていますが、以下の両要件を満たすことが求められています。

  1. 個々の労働者の同意

  2. 労使協定の締結

これが、労使協定が必要とする根拠になっています。昭和50年2月25日時点では労働基準法施行規則第7条の2第1項は存在せず、給与の銀行振込は形式的には通貨払いの原則に反するため、厳密な要件のもと、労働基準法第24条違反として取り扱わないものとしたと考えられます。

労働基準法施行規則第7条の2第1項が労働者の同意のみ要求しているため、現在は労使協定は不要とも考えられますが、最新通達でも労使協定の締結が要件とされているため、労使協定の締結が無難でしょう。

大阪労働局は、「賃金を当該労働者の銀行その他金融機関の預金又は貯金への振り込みにて支払う場合、労働者の代表との書面による協定を締結した上で、個々の労働者の同意を得る必要があります。」として、労使協定の雛形を公開しています。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?