全ての選択に祝福を
2020年春、大学4年生になった僕は就活の中でお世話になった『就活サポーター』の先輩に最後の面談をしてもらっていた。
「就活お疲れ様!結局ベンチャーの方選んだんだって?」
「ありがとうございます。ベンチャーの方選びました。直感で。」
「直感、か。まあ、とにかく内定おめでとうだ!さすが俺の後輩!」
「いやもう先輩のおかげですよ。先輩のサポートがなかったらどうなってたことやら。」
「俺は何もしてないよ。むしろ俺の方が感謝してるくらい……ってなんか暗いな!どうした、就活終えたやつの顔じゃないぞ、それ。」
「いや、なんとなく…これでよかったのかなって。」
「これで、って?」
「いや、就職先これでよかったのかなって。」
「でもちゃんと考えたうえで、納得して選んだんでしょ?」
「まあそうなんですけど…」
「……お前も『就活サポーター』やってみない?」
「いきなりですね。何で僕なんですか。」
「んー、まあ直感?」
「……興味がなくはないけど、僕には務まらないですよ」
「なんで?」
「僕、先輩みたいに聞き上手じゃないし、うちの大学から僕と同じ会社選ぶような人絶対いないですよ。」
「だろうね。」
「だろうね、って…だから僕にはできないです。」
「いや、だからそれを分かったうえで俺は頼んでるんだよ。お前を信じる俺を信じろ!」
「肝心なところパロディに頼らないでください。」
「ダメ…?」
「……わかりました。先輩になら騙されてもいいですよ。」
「いや、だから騙してないんだって!」
かくして僕は『就活サポーター』になることを選択した。
そこから僕は何人もの後輩とオンラインでの面談を繰り返した。
後輩A「私、就活の風潮嫌いなんですよね。なんか競争って感じがして。」
「わかる…僕も嫌だった…」
「どこか気になってる業界とかあるの?」
後輩B「不動産とか商社ですね!部活の先輩がたくさん行ってるので!」
後輩C「やっぱり人生お金だと思うんです!稼いでなんぼでしょ!」
「そ、そっか…」
後輩D「先輩は何でベンチャー選んだんですか?」
「んー、まあ最後は直感かな。」
ある日の面談、僕は後ろめたい気持ちを後輩に気づかれるのが怖くて、わざとらしく明るく答えた。
後輩A「なかなかインターン受からなくて、もうつらいです…やめたい……」
後輩B「部活のOBさんの話聞いてみたんですけど、なんか面白くないかもと思ってしまいました…」
後輩C「外資系企業で高給取りを目指すか、起業して億万長者目指すか…どっちがいいですかね!」
みんなの悩みは三者三様で、僕はそのどれにも100点満点の回答を出すことができなかった。だからこそ、一緒に悩み、考えるようにしていた。
後輩A「だんだん私がやりたいことが分かってきた気がします。そしたら、面接も通るようになってきました…!」
後輩B「やっぱり僕、人が好きなので人材系の会社が気になってきました!ただ、部活のOBさんはあまりいなくて、OB訪問どうしようか迷ってます。」
後輩C「若いうちからお金欲しいので外資系企業目指します!これなら妹の大学進学のタイミングにも間に合いそうだし!」
少しずつ小さな選択を繰り返し、自身のキャリアを描いていく後輩たちの姿は逞しくもあり、眩しくもあった。
「先輩って何で直感で選んだんですか」
「え、」
「以前言ってたじゃないですか、直感でベンチャー選んだって。僕、内定いただいたところに行くか悩んでいて、先輩がなんで直感を信じることが出来たのか聞いてみたいんです。」
「そっか、あの時ちゃんと話せてなかったもんね。ごめんね。」
僕が直感で選べたのは、その方が僕の人生には合ってるって確信を持って言えたから。悩んで、悩みつくした中で、「将来の理想像から逆算するよりもがむしゃらに目の前の取り組む人生の方が、自分が想像もしてない自分に出会える人生の方が、僕は楽しい」って、そう思えたから。
あの時は忘れてたけど、後輩の悩む姿を見てきた今の僕なら言える。自分の選択を誇れる。
これもあの時、先輩の誘いを、先輩の信じる自分を信じるという選択をしたから。先輩はここまでわかったうえで僕を『就活サポーター』に誘ってたんだろうか。だとしたら本当に敵わないな。
2020年ももうすぐ終わり。僕がサポートしている後輩の多くは人生の大きな選択をまだもう少し先に残しているけど、僕は彼らにとってその選択がきっと素敵なものになるだろうと信じている。
ああ、全ての選択に幸あれ!