【甲府】VSモンテディオ山形(A)2022.6.18 ダブルエース
◆リーグ後半戦スタート◆
7戦勝利のないまま前半戦を終了し、勝ち点27の13位で折り返したヴァンフォーレ甲府。攻守におけるゴール前のあと一歩を突き詰め、今度こそ勝利をつかみ取りたい。その一歩に関して、個人の意識を高めるのと同時に、甘さが見られるときには叱咤する厳しさも求められる。
悔しく苦しい7試合を経験したからこそ、甲府は、勝利するために足りないなにかとどこよりも向き合ってきたはず。前半戦は、初戦を落とし、波に乗り切れなかったが、後半戦は、初戦を取って、勝利に必要な「何か」をつかみ取ってより大きな波に乗ってJ2に甲府旋風を巻き起こしたい。
◆高レベルなウイングバック争いと先発林田◆
今節は、左ウイングバックに小林岩魚、右ウイングバックに関口正大が起用された。前節先発した荒木翔は、停滞感はあったものの左サイドの攻撃のキープレイヤーとして数多くのチャンスメイクをしていた。途中出場の小林が関口に代わって右ウイングバックに入り、小林ならではのプレーを見せるなど、高いレベルでスタメン争いが繰り広げられている。関口もここにきて復調の兆しが見られるのも好材料だ。須貝がセンターバックとして出場する中で、3人が熾烈なポジション争いができることは素晴らしく、今日もより出来のよかった選手が最後までピッチに立ち続けることができるのだろう。
石川の体調不良は心配だが、個人的に応援している林田が先発に復帰したことも大きな楽しみの一つである。
◆山形の果敢なプレス◆
山形は3連戦の最終戦ということもあり、コンディションとしては甲府優勢。しかし、とても力のあるチームであることは疑いようがなく、少しでも気を抜けば簡単にやられてしまう怖さがある。甲府はこれまで積み上げてきたサッカーをより細部にこだわりながら実行できるか、最後の詰めの部分で戦い続けることができるかが問われる。
前半開始からペースを握ったのは山形だった。ディフェンスラインからのビルドアップでボールを握り、甲府ボールになると前線から果敢にプレスをかけてくる。甲府はその圧をかわしきることがなかなかできずにいる。
ー8分ー
山形ボールを関口がひっかけて鳥海、林田、山田とつないで山田が左サイドへ展開。ハーフレーンに切り込んできた小林がボールを受けて、走り出した長谷川へ浮き球を送るが川井にカットされてしまう。
川井は素早く縦のチアゴにつけると、パス&ゴー。それを感じたチアゴがヒールで流して、一気に加速した川井が甲府の左サイドを攻略。グラウンダーの鋭いクロスを上げるも鋭い戻りを見せた須貝がデラトーレの鼻先でクリア。よい形での攻めを一気にひっくり返される山形の鋭いカウンターに肝を冷やした場面だった。
◆光る野澤陸、必殺の右◆
ー11分ー
前線で細かくパスをつないで山形の守備陣を揺さぶる甲府。長谷川と鳥海のワンツーをカットされクリアされてしまう。それを拾ったのが左サイドの野澤陸である。野澤は一度浦上に戻し、再びボールを受けるとわずかに中央へ切り込み、右足一閃。山形DFの頭を越え、関口の右足にビタりと合わせる珠玉のフィードを繰り出す。関口のファーストタッチも見事で、カットインから左足で強烈なミドルシュートを放つ。
キーパー後藤のファインセーブにあうも、一本のパスで相手を無効化する野澤陸の必殺の右が放たれた瞬間だった。
ー15分ー
今度は左サイドへの右足アウトサイドキック。ハーフライン上から蹴られたボールは美しい軌道を描いて左サイド最奥に走り込んだ小林岩魚にピタリ!小林がフリーの長谷川にボールを落とすと、得意の右足アウトサイドでクロス。リラには惜しくも合わなかったが、野澤の絶品ともいえるフィードから立て続けにチャンスが生まれたのである。
◆鳥海芳樹完全覚醒◆
盛岡との敗戦を経て、千葉戦からそのパフォーマンスを飛躍的に向上させている鳥海芳樹が、この試合も圧倒的な存在感を放つ。
ー24分ー
ハーフウェイライン手前でボールを受けた鳥海が、反転するや一気に加速するドリブルで2人を置き去りに。足がかかったかは微妙だったが、持ち前の体幹の強さと一歩目の伸びを兼ね備えた鳥海のドリブルの切れ味はすさまじく、国分にイエローカードが提示される。
千葉戦から高まった切り替えの早さはそのままに、縦横無尽に相手の嫌なところ嫌なところに顔を出し、攻撃の中継点になったり、ドリブルでかき乱したりと、山形戦の鳥海はまぎれもなく攻撃のキーマンになっていた。
ー32分ー
センターサークル内で縦パスを受けた林田が、鋭い動きで受けに来たリラへ的確な楔を打ち込むと、リラがトラップ。そのボールを鳥海が右足アウトサイドで林田へ。回り込むように走り出す鳥海に林田がボールを渡し、ランニングのギアを上げながらワンタッチで長谷川に入れる鳥海。長谷川が優しいワンタッチで鳥海に戻すと、鳥海はドリブルでPAに接近していく。そしてリラへボールが渡り、リラから長谷川にボールが渡る。
ペナルティエリアのライン上でボールを受けた長谷川は、右足で軽くボールを置き直すと、ノーステップからの強烈なシュートを放つ!弾道はまさに一級品。決まったかに思われたシュートだったが、わずかにゴール左に外れる。だが、長谷川のフィーリングのよさを感じさせる素晴らしいシュートだった。
鳥海を中心に攻撃を組み立て、長谷川が決める。甲府の2大シャドーの存在感が日増しに高まっていく。
ー34分ー
山形最終ラインからのボールを野澤陸が素晴らしいヘディングで前線へ撥ねかえすと、戻りながら胸トラップをした長谷川がダイレクトで左斜め後ろに立つリラへ。時間が止まるような浮き球のパス。完全に抜け出したリラが左足で強烈なシュートを放つも、キーパーに止められノーゴール。リラは一発目のタイミングで打てなかったことで自らシュートコースを狭めてしまっており、シュート技術をより向上させてほしい。
ゴールこそ決まらなかったものの、創造性あふれる長谷川元希本来の姿が再びピッチに戻ってきた。リラも決定的なシュートを枠内に放つことができてきている。攻撃陣が明らかに活性化してきていることを感じた。
◆林田と関口◆
ボランチとして久々に先発した林田滉也のプレーも素晴らしかった。攻撃では水を運ぶ人として、シンプルに、テンポよくボールを散らしていく。林田がいることで石川とはまた違った形で攻撃にリズムが生まれる。特に鳥海との相性がよく、コンビネーションからの崩しがいつも以上に甲府の武器となっていた。守備面でも力強い寄せや思い切ったアプローチで奪いきるシーンが何度も見られ、攻守に渡ってチームのパフォーマンスを引き上げる活躍を見せてくれた。
関口正大の復調も大きい。特にクロスの場面でキックの質に遊び心のような余裕を感じられるようになったことが大きい。入団当初に浮き球をワンタッチでグラウンダーのクロスにして質の違いを見せつけてくれた関口。山口戦では、スライス、アウト気味のボールなど、場面に応じた工夫の見えるクロスが効果的に打ち込まれた。
守備面の強度、オーバーラップのタイミングはもちろん、ミドルシュートが増加していることも頼もしい。果敢な仕掛けでコーナーキックを量産していた積極性は鳴りを潜めているものの、関口本来のよさがチームの中で再び輝き始めている。
関口のフィードを川井に撥ね返され、チアゴに強烈なシュートを許す場面もあったが、前半の途中から甲府がペースを握り返し、優勢に試合を進めて前半終了。なかなかの内容で折り返すことができた。
◆待望のゴール◆
ー50分ー
最終ラインの浦上から関口にロングフィード。これを松本にカットされてしまうが、胸トラップが加藤に渡ったところを林田がカバー。関口と林田に囲まれ、加藤のパスが弱くなったところを鋭い出足で林田がカットして鳥海へ。ヌルヌルからヌルキレへ進化したドリブルで攻め上がる鳥海。
たまらず後方からボールへアタックをかける加藤の足に絡んでバランスを崩してしまう。だが、覚醒した鳥海は止まらない。笛が鳴らない限り、より高い可能性を目指してプレーを続けるのだ。
そして、その姿勢、その気持ちは長谷川の右足にも乗りうつる。これ以上ない芸術的なトラップが発動。一気に抜け出し、ゴールキーパーと1対1に。勝負あり。キーパーの動き出しを完全に掌握した長谷川元希の左足アウトのチョップキック。
完璧。
ゴールを確信した長谷川はそのスピードを加速させ、ゴール裏へ!
現地に駆け付けたサポーターとともに喜びを爆発させたのだった。
13試合ぶり。待望の、本当に待望の長谷川元希のゴール。
林田の鋭い出足からのショートカウンターが、セルフジャッジをせずやり切った鳥海芳樹のプレーを介して、長谷川の技術によって得点と成った。後半戦のスタートにふさわしい、チームを勢いづける素晴らしいゴールである。
◆襲い来る山形◆
待望のエースのゴールによってリードを奪った甲府だったが、畳みかけ追加点を奪う理想的な展開は訪れない。それどころか大きなピンチに見舞われる。その起点となるのは、やはり10番山田康太である。
ハーフウェイライン手前で受けた山田はドリブルで駆け上がる。そして、右サイドに視線を移しながらドリブルのスピードを緩めると、常人では到底考えられないタイミングとコースをつく右足アウトでの異次元のスルーパス。これに抜け出したチアゴがニア上をズドン。
これを河田が右手一本で弾き出し、ゴールを死守。山田のパスに一度は置き去りにされた野澤も体を投げ出してシュートコースを限定しており、山形の攻撃と甲府の守備が光った名場面となった。
ー59分ー
だが、最大のピンチはその直後にやってくる。リラの甘いプレスで山崎のゆるっとしたもち上がりを許すと、右サイドの川井に展開される。小林がすかさずアタックに行くも、川井の国分へのフリックが小林のかかとに当たって相手にとって都合のよいこぼれ球となる。
国分に相対するのは野澤陸。しかし、絶望的な寄せの甘さで最高のクロスを許してしまう。木戸についていた須貝は木戸のスルーによって無効化。逆サイドではスタートポジションから遅れをとっていた関口が最後まで加藤に追いつくことはできずに。
やられた。
いつもの失点シーンと全く同じ。寄せきれないサイドと中央。繰り返される見慣れた光景の先にあったのは、運のよさだけ。
ノーゴール。今までが決められすぎていただけかもしれない。だが、決まっていないだけで起きている現象は同じ。他の部分のクオリティが高まっているだけに、悔やまれる失点は繰り返さないようアラート感を増していこう。
特に、野澤は攻撃面でも大きなアクセントになるほど存在感を増しているし、パスミスでひっかけられても自分でカバーするなど、成長曲線はさらなる右肩上がり。監督に挙げられていた「行くべきところと行かないところの判断の質」にここぞというときに体を投げ出す気迫が加われば、いよいよ今季の甲府DFの柱と呼べる存在になれるところまで成長してきている。野澤陸、開花直前である。
◆選手交代◆
山形に連戦の疲れによる出力の低下が見られる後半。この試合だけで筋肉系のトラブルが2人に発生するなど満身創痍の状態で、一度はペースダウンするも、選手交代を経て再びプレスの圧力を取り戻す。76分の河田に対する追い込みには、さすがの一言である。
ー83分ー
長谷川OUT 宮崎IN
小林OUT 荒木IN
長谷川は攻撃面において違いを見せつけてくれたし、貴重な先制ゴールを奪う大活躍。一方小林は持ち前のクロス精度がこの日は今一つ。関口の復調もあり、再び序列に変動が見られるかもしれない。
荒木・関口・小林の3人が素晴らしいウイングバックであることに変わりはなく、このポジション争いはこれからもチームを活性化してくれることだろう。
ピッチに送り出された左サイドの2人は、持ち前の走力を生かして守備の強度を高めてくれた。宮崎の果敢なプレスバック、荒木の出足の鋭いインターセプトはチームを勇気づけてくれた。
荒木はフリーキックでも、三平の頭にしっかりと合わせるボールを供給。惜しくもオフサイドにはなったが流石の存在感を放つ。
ー88分ー
絶好機を生んだのは荒木のコーナーキックだった。ニアに蹴り込まれたボールを三平が高い打点ですらすと、ゴール前でフリーになった鳥海へ。前節の須貝のゴールの逆サイド版。そして、ネットを揺らす鳥海芳樹。
前節同様、加藤がライン上にいたように見えるが、今回はオフサイド判定。しかし、最後までやり切ることでゴールネットを揺らした鳥海の姿勢はやはり称賛に値する。ストライカー鳥海芳樹の姿がそこにあった。
前節と比較して、チャンスメイカーとしての活躍が光った鳥海だが、ストライカーとしての輝きもラストプレーで見せてくれたことは今後に向けて好材料である。
◆甲府ー新時代の幕開け◆
今季、甲府は多くの若手が飛躍的な成長を遂げている。野澤陸・林田滉也のルーキー・準ルーキーを筆頭に、センターバック須貝英大。中堅では怪我から復帰した小林岩魚が最高のパフォーマンスを披露。浦上も3センターの中央としてチームを引き締めている。効果的なフィードもたくさん見られるようになった。
そして、長谷川元希。試練の時を経て、再び創造性溢れるシュートやラストパスが輝き始めている。直線的で推進力あるドリブルも切れ味を増す。チームを勝たせる選手へと進化を続けている。
もう一人、爆発的な成長を見せる男こそ鳥海芳樹である。勝つために必要な何か、そこから掴んだものが鳥海を覚醒させた。切り替えの早さ、あきらめない気持ち、やり切る力。常にチームの勝利のために考え、走り続けることでもともと備わっていた鳥海の高い能力が統合され、彼を1まわりも2まわりも大きな存在に押し上げることに成功した。さらに、ドリブルの初速が高まっていることが驚きである。上手さと切れ味を兼ね備えたヌル・キレ。チームの連動を生み出す動きとボールのはたき。そして、シュートを打てる場所への侵入。
今日、オフサイドながら決めきったように得点能力の向上まで見られたら、森スカウトが入団当初に語っていた「J2での跳びぬけた活躍」が現実のものとなる。そうなれば、長谷川・鳥海のいる甲府の攻撃はとてつもない破壊力となるだろう。
ー無類の双璧としての無双ー
長谷川元希、鳥海芳樹のシャドー・ダブルエース時代の幕開けは、鳥海覚醒2試合目にして早くも訪れたといっていいのかもしれない。