見出し画像

【天皇杯準々決勝】VS福岡 9.7 新たなる歴史 

ー延長前半6分ー

甲府ベンチ前にスタッフ選手が一体となった歓喜の輪ができる。長らく見かけることのなかったこの光景の中心には、決勝ゴールを決めた鳥海芳樹がいた。

獰猛な獣の如くボール保持者から刈り取り続ける松本凪生。決勝弾もきっかけは松本の守備だった。甲府の右サイドで湯澤がボールを保持しかけたところ、松本のしなやかで激しい対応でボールを奪う。湯澤も素早い切り替えでスライディングタックル。湯澤の脚にからめとられたボールが転がる。

この時の関口のポジショニングが最高だった。ジェトゥリオがオフサイドポジションで宮とグローリの気を引いてくれていたことも効いた。関口は鳥海の絶妙な抜け出しを見逃さず、スルーパス。精度、強さともに完璧。完全に福岡の最終ラインを出し抜き、抜け出す鳥海芳樹。

だが、ドウグラス・グローリのスピードとパワーは圧倒的で、急激な加速から鳥海がシュートモーションに入るタイミングに間に合ってしまう。そして、的確なチャージで鳥海をつぶすことに成功する。激しいチャージだっただけに、鳥海としてはPKだ、とアピールしても不思議な場面ではなかった。

今シーズン中盤まで鳥海はダイバーと思われてもおかしくないプレーをしていた。主審から鳥海へのチャージをファールと判定してもらいづらい現象も起きていたほどに。だが、鳥海は変わった。セルフジャッジをせず、最後までやり抜く。抜け目なく切り替えの速度を高め続けてきた。

その努力の、意識し続けたことの証明だった。鳥海には、アピールも迷いも必要なかった。転び、起き上がったその瞬間にボールは鳥海の脚元に確かに存在したのだから。彼の努力に、チームの献身に勝利の女神がほほ笑んだかのように。

わずかな迷い、アピールの気持ちを表せば、逃げていくような、試されているようにも思える運命の分岐点。

鳥海芳樹は勝ち取った。冷静に左足でコントロールし、そのままゴールへ丁寧に流し込む。そして、冒頭の歓喜の場面へとーーー

2022.9.7Wed. ベスト電器スタジアム
天皇杯準々決勝 アビスパ福岡戦

【スタメン】
     三平
  宮崎    長谷川
荒木 山田  石川 関口
マンシャ 浦上 須貝
     河田
【ベンチ】
岡西 北谷 フォゲッチ 松本
鳥海 イゴール ジェトゥリオ

史上初の天皇杯ベスト4入りへ、5度目の挑戦となる福岡戦。ジェトゥリオの先発起用に失敗した徳島戦の反省を生かし、三平を先発起用。宮崎が大腿部の負傷から復帰し、左シャドー、長谷川が右。そして、チームの核である山田陸もピッチへと戻ってきた。

鳥海のベンチスタートは意外だったが、試合終了後の監督のコメントから、途中から入っても抜群の安定感でチームに良いリズムを与えてくれる選手として絶大な信頼を勝ち取っていることが分かった。

また、ここまでジョーカーとして破格の活躍をしてきた三平を先発で起用できた要因の一つも、そんな鳥海がいてくれるからこそ。天皇杯の舞台における歴史を新たに塗り替える戦いが幕を開ける。 


◆◇◆右の活性とゴール前の寄せ◆◇◆
立ち上がりから主導権を握ったのは甲府だった。積極的なディフェンスで相手に自由を与えず、セカンドボールも拾う。裏へ抜け出そうという選手がいれば素早くフィードを送り込んだ。

 ー1分51秒ー

それまでの三平へのフィードで福岡の意識を中央へ寄せたところで、右サイドを一気に駆け上がる関口。そこにフィードをぴたりと合わせる須貝。関口の駆け上がりに対し、絶妙の距離感でインナーラップを仕掛ける長谷川。長谷川は右サイドの最深部まで侵入し、右足でクロスを上げると見せかけて鋭い切り返しを見せる。そして、ペナルティエリア中央へポジションをとっていた荒木翔へグラウンダーを通し、荒木がダイレクトシュートを放ったのだった。

シュートは相手DFの体に当たってしまったが、流れは理想的。特に須貝、長谷川、関口の右サイドの絡みは素晴らしく、長谷川の右サイド起用のよさが早速見られたシーンだった。さらに、逆サイドのウイングバックが中央でフィニッシャーになる形は左サイドアタックでも再現されており、福岡戦における甲府の攻撃の迫力を生む一因になっていた。 

一方の福岡はゲーム内容では甲府に圧倒されるもののペナルティエリアの中で相手にしっかりと寄せ仕事をさせないという部分では流石の強さを見せ、甲府の得点を許さない。

◆◇◆宮崎の突破と判定への疑問◆◇◆

ー3分30秒ー

福岡のサイドチェンジに遅れることなく素晴らしい対応を見せる荒木。荒木の対応によって前嶋がボールコントロールをミスし、甲府ボールのスローインとなる。宮崎はその瞬間の前線のスペースを見逃さず、荒木も宮崎の動きを捉えて素早くボールを投げ入れる。素晴らしい集中力。

宮崎は左右に体を揺さぶって相手をけん制しながらペナルティエリア内までドリブルで侵攻。最後の仕掛けで熊本雄太を振り切ったかに思えたが、熊本は上半身を投げ出し、純真の腰に肩をぶつける。そして、転んで伸びた手にボールが当たり、キーパーがそれを弾く。

ここでは2つの疑問が湧く。
・ハンドではないか?
・ファールチャージではないか?
しかし、審判団の判断はVARも介入してのノーファール。

ハンドとしては、転んでしまった自然な手の動きによる不可抗力、チャージに関しては正当なショルダーチャージという判断なのかと思う。

しかし、熊本のプレーはボールに対するアタックというよりは宮崎の体に対する進路妨害に見える。ボールへのアタックとすれば、頭でボールにチャレンジしたところ宮崎の体があってそれが適わなかったという判断か。

正解はわからないものの、ショルダーチャージとは何なのか、改めて考えさせられる場面となった。

◆◇◆偏らない選択肢と有機的な連携◆◇◆
甲府はポジショニングとパス回しで、上手く攻撃のポイントを作っていく。浦上を中心とする最終ラインからのフィードが放たれる。そうして荒木のスルーパス気味のアーリークロスに長谷川元希が飛びこんでいく新しい攻撃の形も見られた。慣れない形で長谷川が出遅れたが、大きな可能性を感じさせるプレーだった。

サイド攻撃も選手の距離感がよく、細かいパス回しから深いところを抉ることができる。難しければ最終ラインで作り直してサイドでのずれを生み、鋭いフィードを送り込む。普段はリラを目がけるような単発的な攻撃が多いのだが、この日の甲府は様々な攻撃の選択肢をもっていた。

最終ラインの裏、両サイドWB、ボランチからの縦の差し込み。どの選択肢もバランスよく選択するので、福岡も対応が難しくなる。ただ、サイドにボールを転がして、最終ラインに戻すようなダラダラと感じるような展開がない。誰もがさぼらず今いるべき位置を探ってポジションを取り直し続けることで、甲府は今まで以上にチームとして戦うことができていた。

◆◇◆三平、待望の先制点◆◇◆
ー15分40秒ー
福岡の最終ラインのパス回しに対し三平がしっかりとプレスをかけてパスコースを限定する。その結果、熊本からジョンマリへ半ば苦し紛れの長い楔が打ち込まれる。それを読んだ石川がスライディングでパスカット。山田陸がフリーで拾い、タイミングよくフォローに入った荒木に展開。前線では宮崎が福岡の最終ラインのギャップを上手くついたポジショニング。的確に縦パスを打ち込む荒木。振り向いてドリブルを始める宮崎。

マッチアップするのは、再び熊本。彼の脳裏には、宮崎の鋭い縦突破が刻み込まれていたことだろう。縦がよぎったその瞬間に、宮崎は右足アウトサイドで三平に流す。このパスのスピードも抜群だった。三平がトラップした瞬間、シュートコースが拓けた。ジャストミートではなかった。福岡DF宮も福岡のセオリー通り対人守備を怠らなかった。だが、わずかに空いた膝と地面の隙間を三平のシュートは転々と転がっていく。本来飛んでくるはずのないコースへのシュートに、GK村上も反応できない。

前半開始から主導権を握り続けた甲府が待望の先制点を挙げる。三平を中心に歓喜のアフロパフォーマンス。この流れならば、勝利は固い。だが、ヴァンフォーレはそんな試合を数多く引き分け、あるいは落としてきた。

さらに、相手はJ1福岡。個々のもつフィジカルレベルや技術は甲府を上回っているし、一発のある選手もいる。いつも以上に何事もない時の警戒感をもち、体を張って守る力、決定力が求められる。

◆◇◆福岡同点弾◆◇◆
20分、甲府に主導権を握られ続ける福岡は、監督からの指示で4バックから3バックへ変更する。甲府に生まれていたサイドの優位性を、消しにかかってきた。

ー25分20秒ー
そんな矢先だった。きっかけは小さな誤審。森山公弥の左足クロスに対して、須貝と金森が競り合う。ボールは金森が後ろ向きに伸ばした右足に当たってラインを割ったが、審判団には見えておらずコーナーキック。ここから同点弾が生まれる。

キッカーは北島。インスイングのボールがエリア中央に放たれる。落下地点に入る河田。だが、そのパンチングがあまりにも中途半端で小さかった。ペナルティスポット付近に落下した絶好球を狙って走り込む金森。危機察知した荒木翔がスライディング一発でかき出し、河田のミスを取り返し。。たかのように思われたが、そのこぼれ球に走り込んだ森山公弥が、これぞJ1クラスを見せつける凄まじい威力のダイレクトシュートを甲府ゴールに突き刺した。

宮崎もシュートブロックに入っていたが、寄せきれず、シュートコースはガラ空き。河田の前にはブラインドとなる選手たちがいた。それでも河田は触った。だが、一歩及ばなかった。

審判団のミスから河田のパンチングミス、荒木のクリアの小ささ、宮崎の寄せの甘さ、そして森山の素晴らしいシュート。数多くの要素が積み重なり、圧倒的な試合内容が1プレーで帳消しにされてしまう同点弾が生まれた。

またか、と。意気消沈してしまう場面だが、この日の甲府はむしろ燃えた。この戦いぶりで負けるようなことはあってはならない。カテゴリーの差こそあれ、この日のチームの出来は天と地だ。勝つ。勝って未来を切り拓く。

天皇杯準々決勝の舞台で、個々の頑張りが組織を活性化させ、その中で個人の技術が光を放つ。サッカーにおける理想的な循環が起こり始める。

◆◇◆長谷川元希と遊び心◆◇◆
法政大学時代の長谷川のプレーは非常に特徴的だった。大木政権で最もパス攻撃に特化した試合となる2006年12月23日天皇杯準々決勝札幌戦を思い出す。サイドであろうが中央であろうが徹底的なショートパスでつなぎ倒す。この日の倉貫一毅は、そのショートパスサッカーの司令塔であり、多彩なアイデアで攻撃に色付けしていた。マエストロ林健太郎をアンカーに、藤田健、倉貫一毅の稀代の2セントラルのトライアングル。茂原・石原のウイングに俺たちの須藤大輔。0-2と結果こそ出なかったものの遊び心に溢れるトリッキーなパス交換に胸が躍ったものだ。

長谷川には、あの時の倉貫に通じるアイデアと遊び心があった。今季、チームの中心選手としての大きな責任を、自らに課し続けた長谷川元希。彼から当時の遊び心を感じ取れる場面はほとんどなくなっていた。当時のチームメイトの関口も「あいつは背負いすぎるとよくない。自由にやっているくらいがいい」という趣旨のコメントを残している。

だが、福岡戦の長谷川からはその片鱗が感じられるようになる。心境に変化が生じたか、チーム全体の有機的な連携が彼の眠れる創造性を引き出したか。甲府で身に付けた力強さと大学時代のファンタジスタ性が融合したプレーを見せ始めたのである。

ー28分37秒ー
浦上がサイドに張り出した須貝に展開。須貝から浮き球のパスが三平に入る。三平が頭で落としたボールを石川がダイレクトで長谷川へ。長谷川は代名詞ともいえるトラップ&ターンで前嶋と熊本の間に割って入ると、関口とのアイコンタクトで絶妙なヒールパス。抜け出した関口のクロスこそ合わなかったもののニアには三平、ファーには宮崎、中央には荒木が走り込んでいた。崩しとして最高の形がセットされていた。

まさに、個の頑張りが組織を活性化し、その中で個が輝く。福岡戦の中でも屈指の崩しだった。長谷川のプレーは甲府の攻撃を怖ろしくも美しいものへ昇華させるアクセントになっていた。

◆◇◆前半終了◆◇◆
前半30分を過ぎるころになると、徐々に福岡も盛り返し、甲府ゴールに迫るシーンが見られるようになる。お互いがポイントとなるサイドを厳しくつぶし合い、一進一退の展開となる。

ただ、セットプレーの質と怖さでは福岡が明らかに上回っている。

ー41分6秒ー
福岡の右サイドからのコーナーキック。キッカーは北島。ゾーンで守る甲府に対し、ファーサイドに向けたインスイングのボールを送り込む。

甲府は人数は揃っているものの、熊本に4人が注意を引き付けられている状態であり、最も外に位置する宮の存在に注意を向けている選手は誰もいない。ボールは運よく枠を捉えなかったが、非常に危ないシーンとなってしまった。

前半終了間際には5-4のブロックを引いて守る福岡。試合は大きな変化を起こすことなく、淡々と前半終了のホイッスルを聞くこととなる。

◆◇◆後半開始早々のビッグチャンス◆◇◆
後半開始早々からチャンスを立て続けに作り出したのは甲府だった。
ー1分16秒ー
荒木が最大出力のパス&ゴー。宮崎のその動きにしっかりと応えるスルーパスで一気に左サイドを制圧する。三平もタイミングを計って動き出すが、荒木のクロスがわずかにゴール方向にずれてしまい、村上にキャッチされる。

だが、この村上のキックミスにより、再びボールは甲府に。宮崎はシュートフェイントを入れながら長谷川とのワンツーを選択。長谷川は宮崎が裏へ抜け出せるような浮き球のパスを選択するが、DFの頭に引っかかってしまう。そのこぼれ球を長谷川が拾って左足ボレー。うまくミートしなかったが、流れは再び甲府のものとなる。

そして後半開始早々のビッグチャンスが訪れる。
ー2分20秒ー
今度は右サイドから攻撃を仕掛ける甲府。サイドバックの位置に張り出した須貝、ボランチ石川、右ウイングの位置取りを見せる関口の連携で一気にゴールライン際までボールを運ぶことに成功する。

すかさず長谷川が関口のフォローに走る。その長谷川が石川に戻すと同時に裏へのランニングを仕掛ける須貝。石川のスルーパスも最高。須貝の右足のクロスも最高の弾道を描く。

仕留める位置には、BHS(ボンバーヘッドストライカー)三平和司。もらった!誰もがゴールを確信するような理想的な展開。だが、三平のジャンプするタイミングがわずかに早かった。数センチのずれからくるシュートコースの逸失。普段三平やクロッサーがハイレベルな仕事をしているのか、改めて感じさせられた。

◆◇◆可変を超越せし者◆◇◆
そして、須貝英大のポテンシャルの高さはやはりチーム内でも群を抜いている。本職は左サイドプレイヤーであり、運動量とスタミナは破格。右はもちろんだが、左サイドからの左足クロスの質が抜群の選手である。それが今やセンターバックとして、もともとの地上戦の強さに加えて、空中戦でも本職と見劣りしない実力をみせている。さらに、機を見てオーバーラップをしかけ、右サイドから高精度のクロスを上げる。

須貝の存在は、チームに可変という硬い表現を超えた状況に応じた流動性をもたらす。吉田監督が可変という言葉をあまりよしとしないのも恐らくこれ。状況が常に変化する中で選手たちがベストと思える立ち位置を判断し、選択できる流動性の前には、可変は当たり前の前提にしか過ぎず、あえてスローガンとして掲げるようなものではないのだろう。

須貝は、得点力も特筆に値する。メンデスのように頭でセットプレーから5点をとるセンターバックはいるが、流れも含めて脚で4点を奪うセンターバックはなかなかいない。かつてDFWとして日本代表や浦和、名古屋の最終ラインと最前線に君臨した闘莉王とはまた違うタイプではあるが、日本サッカーの歴史の中でも稀有なタレントであることは疑いようがない。今シーズンのヴァンフォーレの戦いを振り返る上で外すことのできない最重要選手の一人だろう。

◆◇◆バランスよく質の高い攻撃◆◇◆
ー3分18秒ー
福岡のロングボールをマンシャがマイボールとする。荒木と山田がよい距離感でボールを保持。荒木の縦パスを宮崎がポストプレーで山田に落とす。斜めに走り出す長谷川にボールを渡すと一気に加速する甲府の攻撃。長谷川の目の前にはすでに4人の選手たちが勢いをもって走り出している。

特に右サイドの関口の加速の勢いとタイミングは目を見張るものがあった。マックススピードのタイミングで長谷川からボールが出ることはなかったが、少し落ち着いたタイミングで出されたボールを右足でクロス。

ファーサイドの三平が頭で落として、山田陸が左足で振り抜く。これも形は完璧だった。だが、山田のシュートは枠を捉えず。前半から通して左右どちらのアタックも相手の脅威となる攻撃を仕掛けられる。

ー13分ー
浦上が左サイド宮崎へのフィードを送ると、前嶋が処理を誤る。それを拾った宮崎の背後を的確について走り込む荒木。宮崎もシンプルに荒木を使って福岡にとって最も怖いスペースを奪取。そこから三平を狙って荒木がマイナスのクロスを送り、三平も合わせるが、宮が意地のブロックで弾き返す。

ー17分ー
ボール保持が目的ではなく、相手をずらし、急所を強かに狙うボール回しでリズムを掌握する甲府。一度ボールを奪われてもセカンドボールの落下点にいるのも甲府の選手。山田陸。

ペナルティエリア正面でトラップすると、目の前の浮き球に対し、右足で弾丸ミドルを放つ。キーパー正面に飛んでゴールはならずも、今度は中央から。

バランスよく質の高い攻撃が繰り広げられる。

◆◇◆選手交代◆◇◆
後半20分、福岡はルキアンを、同23分に甲府は鳥海芳樹を投入する。そして、それぞれが投入直後に見せ場を作る。

ー22分45秒ー
まずは、ルキアン。最終ラインからのロングボールを胸で受けたジョンマリが、逆サイドを駆け上がるルキアンへ浮き球のパスを送ると、ペナルティエリア内まで運んで、迷わずシュート!圧倒的なシュートへの自信。サッカーにおける個の質の違いを再認識させるようなシンプルかつ豪快な攻撃。

ジョンマリとルキアンの2人で決定機を作り出せる事実。河田が防いでくれたが、やはり福岡は格上である。甲府はチャンスを量産し、ピンチは極力減らす。数を撃ち、撃たれないようにすることでしか勝利は手繰り寄せられない。

ー24分58秒ー
対する甲府は手数をかけて攻撃の糸口を探す。そこで突破口を開いたのが鳥海だった。ゴール前の大混戦を一度回避して最終ラインからやり直す甲府。

マンシャ、浦上、須貝と経由して関口へ。関口が左足で浮き球のパスを中央へ入れると、福岡の選手が誰もいない絶妙の位置取りを見せた鳥海にピタリ。さらに、鳥海のトラップもビタリ。鳥海のトラップ精度のえげつなさ。そして、そこからの反転シュート!

相手に跳ね返ってセカンドボールを拾おうと脚を伸ばす鳥海。その脚を福岡のDFに蹴られて、痛み、転がる鳥海。鳴らない笛。叫ぶベンチメンバー。

鳥海の方が先にボールに触れており、宮の脚は鳥海に当たったかどうかという場面。VARもある中での判断で、「距離があって、プレーを続けられる状況」だったとのこと。

総じて倒れるような接触ではなく、PKをもらいにいく動きだったという判断だろうか。では、シミュレーションではないという判断は、多少の接触があったということか。要するに、キックの程度によって、キッキングはペナルティエリア内ではノーカウントということになる。

いずれにせよ、途中出場の選手が両チーム相手の脅威となる働きを見せてくれた。

◆◇◆FK、マンシャ、惜しいヘッド◆◇◆
ー27分45秒ー
右サイドからのフリーキック。キッカーは荒木。非常に素晴らしいボールが弧を描くようにファーサイドへ。そこで待ち構えるは、エドゥアルド・マンシャ。頭2つは飛び出ようかという圧倒的な高さでボールを確実に捉える。

だが、シュートはわずかに枠の左へ外れてしまう。マンシャ加入前には、ほぼほぼノーチャンスだったコーナーキックに、得点の匂いが漂い始めていることは甲府にとってプラス材料でしかない。

◆◇◆湯澤、クルークス、松本、ジェトゥリオ投入◆◇◆
28分、福岡は、甲府から移籍後、福岡で一気にJ1へ駆け上がった推進力ある湯澤、超高精度の左足をもつクルークスを投入。ただのセットプレーすら大ピンチと感じさせるような個を再びピッチに解き放つ。

対する甲府は、両脚からのキャノンと闘魂を備えた松本凪生、優れた個人戦術をもちながら、それを生かすフィジカルを未だ回復できない新加入ジェトゥリオを投入する。

◆◇◆鳥海ビッグチャンスとジェトゥリオ◆◇◆
ー35分29秒ー
マンシャのロングフィードを鳥海がペナルティエリア内で胸トラップして反転。ジェトゥリオが裏に走ったおかげでDFを2人引き付けてくれたことで完全にフリーとなった鳥海。だが、反転時のボールの運び出しがボール一個分長くなったことでプレーに迷いが生じ、打つべきところで打てない。さらにシュートコースを求めて持ち運ぶも、完全に消されたシュートコース。

あとわずかの精度。今鳥海はスーパーな選手の一歩手前まで登ってきている。組織の一員としても、個としてもバランスよく高水準のプレーを安定して続けられる鳥海芳樹。

あとわずかなプレー精度の向上がなされたとき、彼は手の付けられない選手になるだろう。

そして、目立たないところではあるが、ジェトゥリオが囮として機能したからこそ生まれた場面であることは記しておきたい。

その後も地味な裏抜け、守備の意識などやろうとすることの意識の高さ、質の高さは感じさせるプレーが見られたジェトゥリオ。

だからこそ、W杯イヤーという短期決戦の弊害を強く感じるし、合流状態の低さが悔やまれる。海外から獲得する際に、信頼できる現地スタッフやオンライン技術を有効活用して、確実な情報収集選手のコンディション把握をしていかないと、貴重なスポンサー資源を無駄にするどころか足枷にしてしまう。

このままでは、ジェトゥリオがそれなりに適応するころにはリーグは終わるだろう。一刻も早いコンディション回復を目指し、フィジカルコーチには頑張ってもらいたい。

◆◇◆なだれ込む意識、勝利への執念◆◇◆
ー44分8秒ー
相手右サイドからのFK。こぼれ球に食らいつく両チームの選手たち。須貝が執念でもちだすが、湯澤も負けずにそれを絡めとる。だが、そのボールを今度は長谷川が回収。一気に駆け上がる甲府の選手たち。長谷川の前には5人もの選手たちがなだれ込んでいく。

前に人数をかけ、ひっかけられても奪い返してゴールへの圧力を高めていく甲府。この意識、この執念を今シーズンずっと求めていた。全員が勝利を求めて前へ、前へとなだれ込む攻めの意識。

やればできるのだ。
なぜやれない。やらない。やらせられない。
リーグと何が違うのだ。甲府はやれる。

松本凪生が、相手ボールをかすめ取り、ヒールで流した先に、ライン間でフリーの位置に立った長谷川元希がいる。シュートコースは空いている。狙いすました鋭い左足シュートが大宮ゴールへ襲い掛かる。

しかし、わずかに右。

ー46分49秒ー
山田陸からライン間で受けに来た鳥海にパスが入る。鳥海はボディフェイクで中を意識させて外へ持ち出す。DFに体を当てられながらも強靭な足腰で耐え、大外を抜け出した荒木へスルーパス。

完全にポケットを奪取した荒木。ペナルティエリア中央には長谷川がフリーで走り込む。マイナスのクロスが見事の長谷川の足元へ。ダイレクトシュートを放つ長谷川。

だが、ボールと人から目を離さなかった宮のスライデングタックルの餌食となり、最後の絶好機をモノにすることはできなかった。

2度の好機逸は、勝敗に関わらずチームに疲労を色濃く残す延長戦突入を招く。長谷川だからこそ期待する次元がある。

鳥海だけでなく、長谷川元希もまた、さらにワンランク上に上がるためのプレー精度の壁の目の前で戦い続けている。もともと高次元にある技術と創造性。創造性が戻ってきた今、それを表現するイメージの明確化と実行する技術がかみ合ったとき、長谷川のさらなる覚醒がなされるだろう。

鳥海も、長谷川も更なるブレイクスルーは間近。願わくば、天皇杯も含めた今シーズンの中でそれを見届けたい。

福岡もアディショナルタイムに入って意地の猛攻を見せる。しかし、それよりも気になったことは外国籍選手によるアピールである。

ジョンマリの関口に引っ張られたというアピール、ルキアンの浦上の顔面ブロックをハンドだというアピール。

特にルキアンの方は不当にも程がある。いくら勝ちを欲していようとも、このような態度はいけない。後の鳥海の決勝弾はこの場面で抱いた嫌な感情を吹き飛ばしてくれた意味でも最高のゴールだった。

◆◇◆延長戦◆◇◆
延長前半は、松本のセットプレーが光った。本田圭佑を彷彿とさせる無回転に、浦上のクロスバー直撃のヘディングも演出した。

そして、場面は冒頭に戻る。

勝ち越し点を奪っても、甲府は攻撃の手を緩めない。

-9分59秒-
中央に空いた広大なスペースをドリブルで持ち上がる山田陸。左を走る鳥海に預け、鳥海がカットイン。さらに、鳥海からバスを受けた長谷川が、ペナルティエリア内でフリーとなった山田陸へ、ダイレクトパス。

だが、ボールが浮きすぎた。なんとか胸とラップするも、その間に熊本に寄せ切られシュートを打てず。

長谷川は見えている。そして、出せる選手だからこそのさらなる精度の向上を求めたい。その際たる場面がここだった。

そして、地味にグローリのクリアに詰めているジェトゥリオ。狙いどころ、動いてる場所はいいだけに。本当に、キレと機動力が有ればとつくづく残念な気持ちになる。

-10分42秒-
松本の鋭い寄せから再びボールを奪取。ジェトゥリオが反応して溢れたボールを関口が積極的なミドルショット!

ぶれながらゴールを捉えていたが、村上がファインセーブを見せる。

延長後半になると、グローリを前線に送り込みシンプルに前線の強さを生かした攻撃にシフトする福岡。肉体的な疲労もあって甲府も弾ききれず、押し込まれる場面が増えてくる。

だが、最後の最後まで体を張って自由にシュートを打たせない甲府の守備陣。紙一重だが、熱い気持ちのこもった戦いぶりが心を打つ。

怒涛の福岡の攻撃。
6分には渡のミドルがゴールを襲うが、河田がしっかりとおさえて得点を許さない。

そんななか、前がかりになった福岡を引き離すビッグチャンスが訪れる。

-9分-
須貝のクリアボールをジェトゥリオか競って溢れたところにフォゲッチ。ワンタッチで最高のボールをジェトゥリオに送る。

完全に抜け出したジェトゥリオ。疲労困憊の福岡ディフェンス陣も追いつくのをあきらめた。完全にキーパーと1対1。サポーターの信頼を勝ち取るためにも是が非でも決め切りたい場面。

だが、無情にもキーパーに当ててしまい、ノーゴール。鳥海芳樹も全力でフォローに入っていたが、ダメ押しゴールはならなかった。

九死に一生を得た福岡。放りこむワンプレー、ワンプレーが甲府にとっては恐ろしい。いつ、何が起きるのかわからないリーグ戦がフラッシュバックする。

11分には福岡の絶好の位置からの直接フリーキック。北島の右足から放たれたボールは、的確にゴール枠左上を捉えていたが、守護神河田が弾き出す。

福岡の脅威は最後の最後までなくならない。後半延長アディショナルタイム。

クルークスの鋭いクロスをニアでフリックして
最も危険なエリアへとボールが舞い落ちる。グローリを超えて、須貝のトラップが乱れ、再びグローリの足下へ転がるボール。

北谷が寄せにかかるが、グローリはフォワード顔負けのフェイントで北谷を翻弄し、左足で振り向き様のシュート!

これを、まさに守護神となった河田が体の正面で弾いて守り切る。

そして、苦しかった120分の終了を告げる笛が鳴る。

ヴァンフォーレ甲府にとって、天皇杯ベスト4という新たな歴史が刻まれた夜。

現地に駆けつけた歴史の生き証人たるサポーターが歌う輝く夜空が、美しく福岡の空へ響き渡っていた。







◆◇◆追記、アオアシ◆◇◆
天皇杯を勝ち上がったことで、メイン放送局であるNHKで、放送中のアオアシとのコラボにも期待ができる状況になってきた。

アオアシに登場する福田監督のプレーヤーモデルは福田健二氏、指導者のモデルは吉田達磨甲府監督、中村順トップオブコーチと言われている。

吉田監督に関しては、来年度の続投は普通のクラブで有れば極めて考えにくい状況ではあるが、準決勝ともなれば、アオアシとの関連についてNHKが取り上げても不思議はない。

監督としてのキャリアの終焉を迎えてもおかしくない状況にある吉田監督。

だが、アオアシの監督のモデルとして、注目を浴びることになれば、柏の黄金時代を含めて改めて評価されるチャンスともいえる。

天皇杯での進撃は監督にとって最後の砦であり、登竜門であるともいえる。

いいなと思ったら応援しよう!