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【VFK】VSレノファ山口(A)2022.6.26(SUN)挑戦の果て

◆大和優槻先発起用◆
 吉田監督らコーチングスタッフは、内容・結果とも素晴らしかった札幌戦の勢いをリーグ戦につなげるべく、新たに3人を山口戦スタメン起用した。左WBに荒木翔、CFに三平和司、そして左CBに大和優槻である。

◆野澤陸の1年と大和優槻◆
 苦しいCB事情から前半戦の多くの勝ち点を失いながらも、クラブで育ててきた野澤陸。このタイミングで野澤ではなく大和優槻を起用するのは大きな挑戦だ。なぜなら、手に入れられなかった前半戦の勝ち点という投資を、再び後半戦で行うことだから。

 だが、この起用は野澤・大和の成長を促進する。前半戦を通じ、野澤陸は、「ある点」を除いて素晴らしい成長を遂げた。大和は野澤の足りないものをもっている。野澤はベンチから大和を見ることで、自分の課題と向き合うこととなる。天皇杯を見る限り、試合を通じた大和の成長力は凄まじい。どちらの成長が相手を凌駕し、スタメンを射止めるのか。2人の特性や成長を考えたとき、指導者としては最高のタイミングで成長への刺激を与えたといえるだろう。

 開幕から考えても、今年は野澤陸のための年。勝負の1年。出たくても出られない選手たちがいる中で、プロとして、ここまで恵まれた状況でプレーできる選手は、まずいない。大和優槻と切磋琢磨し、真のDFへ。奮起して自分の未来を勝ち取ってほしい。

◆起用への不安◆
 先発を入れ替えるにおいて、不安を覚えたのは、山本の不在。山本を連戦で使うことは年齢と怪我のリスクを考えると難しい。ベンチにも入れない徹底ぶりだ。これは、前回の離脱時の途中投入への反省だろう。
 天皇杯では、山本の効果的なフィードが右サイドの荒木を生かしていた。三平の活躍も荒木からのボール。左CBの大和も山本の存在によって安心感をもって戦えていた。つまり、3人の活躍は根本的に山本英臣の存在ありき。山本不在の中で、どれだけのパフォーマンスを発揮できるのかは不安要素となる。

◆最高の立ち上がりと山口の挽回◆
 前回対戦時、山口にほぼ試合を支配された経験を活かし、守備時の陣形を5-3-2に。対応力の高い三平をセンターに据えたのも納得である。山口は左サイドが強烈なチーム。14番の橋本を自由にしないことが最重要課題となる。素早い切り替えと裏への狙いを明確にして立ち上がりはリズムを掴むことができた。

ー1分ー
 須貝が、相手DFラインの裏へ抜け出す鳥海へロングフィード。伸びのあるランニングでキーパーと1対1の状況となる。とはいえ、シュートコースはかなり限られており、入るとすればニア上ズドン一択。しかし、鳥海が放ったのはゴールキーパー正面。大きなチャンスには違いないが、決まらないことを嘆くほどのチャンスでもなかったというのが本音。吉田監督のいう「真面目過ぎて」鳥海のシュートは相手の正面にいく事象が実証されただけの場面。遊び心で入る場面でもない。

ー5分ー
 左サイドで橋本が意表をつくタイミングでクロスを上げると、大槻が浦上の死角をついてフル加速。1点物のシーンだが、大槻の動き出しに気づいた大和が猛然とシュートコースをダイビングヘッドで遮断。気合と勇気と執念が感じられるファインプレーで今までチームになかった球際の「強さ」を発揮してくれた。

 立ち上がりこそペースを握った甲府だったが、山口も徐々にペースを握り返す。

 ー27分ー
 佐藤の縦パスを池上がフリック。それを受けた大槻が左斜め前に素晴らしいパス。須貝との1対1を制した沼田が左足で強烈なシュートを放つも、キーパー河田がビッグセーブ。

 甲府の良さも山口の良さも見られた中身の濃い前半が終了した。

◆甲府最高のビッグチャンス◆
 この試合最高のビッグチャンスは、後半2分に訪れた。浦上のフィードを三平がヘッドで落とし、鳥海、長谷川とつなぐ。長谷川が抜群の強さとバランス感覚を持ち合わせたドリブルで前進すると、オーバーラップした荒木にパス。一度戻して作り直しながら、大和、林田、大和、荒木とつないで、裏へ走った長谷川へ。

 長谷川はファーサイドでフリーになった関口を確認すると、ピンポイントクロス。関口も最高のトラップで最高のパスに応え、左足一閃。

 決まったかに思われたが、山口のGK関の鉄壁の守りの前に無得点。非の打ちどころのない素晴らしい攻撃だっただけに、関の素晴らしい反応をたたえるしかない。

◆采配の明暗◆
 後半27分、甲府は3枚替えを敢行する。
三平和司→ウィリアン・リラ
荒木翔→小林岩魚
林田滉也→宮崎純真

 これにより、長谷川がボランチに入り、宮崎純真と長谷川元希の共存が図られる。三平、荒木は天皇杯メンバーであり、疲労が考慮された形だろう。

 ウィリアン・リラの投入は早速チームに光をもたらす。リラが右サイドをもちあがりクロスを上げると、相手DFの足に当たりそのままゴールイン。ラッキーな形で甲府が先制に成功する。

 点を取るための采配としては、リラ・小林でパワーを上げる。長谷川をボランチに下げ、宮崎との共存を図り新しい武器をチームにもたらす挑戦的な采配といえた。

 だが、取った点を守り切るという意味では、大きなリスクがある采配だった。豊富な運動量で守備のフィルター役となっていた林田の不在。今までほとんど出場経験をもっていなかった大和優槻の疲労度。

 そして、失点は起こるべくして起こる。

ー32分ー
 リラのファールを取られたところからのクイックリスタート。関口が1人で2人を見なければならない状況。ここで橋本がオーバーラップを仕掛ければ、沼田にはマークが付けなくなる。林田がいれば、おそらくここまでフリーでやられることはなかっただろう。ノープレッシャーの中で沼田はのびのびとクロスを上げる。左サイドでの数的優位は山口に対して与えてはいけない。わかりきったことだった。でも、徹底しきることは難しかった。

 そして、疲労により両足をつった大和の頭を越えたボールは池上にどんぴしゃり。林田不在と大和の疲労。

 采配の明暗。1-1。得点も失点も監督の交代策によりもたらされたが、偶然性の高い得点よりも、必然性の高い失点を見るにつけ、吉田監督には珍しい明らかな采配ミスだった。

◆挑戦は失敗と成功を生む◆
 吉田監督の試合後のコメントを見るに、大和優槻の疲労を考慮した交代が3枚替えの前に考えられていたそうだ。19歳で初の連戦。疲労を考慮しないわけがない。起用する以上、それを見極めチームの勝利に向けた最善のタイミングで交代させることは、監督の責任である。だから、監督も公に采配ミスを認めている。
 では、なぜ監督は大和を交代させなかったのか。これは、スラムダンクの山王工業戦で、怪我をした桜木花道を使い続けた安西監督の気持ちとつながるものがあったからではないか。
 どんどんよくなる大和優槻の成長を見続けたい。それほど大和のパフォーマンスは素晴らしかった。監督が替え時を見誤るほどに。

 挑戦しなければ失敗しない。挑戦すれば、成功も失敗もすることができる。この日監督は、挑戦した。大和優槻の可能性をより引き出すことに。宮崎純真と長谷川元希の共存に。そして、失敗した。だからこそ、次の成功に向けて進むことができる。

 天皇杯に出ていなかった林田滉也を代える必要があったのか。長谷川をボランチに下げずに宮崎と共存させる方法はないのか。そして、大和優槻と交代させる選手が。。

 今いる選手を成長させ、ギリギリでプレーオフを狙える位置をキープしている吉田甲府。クラブとして本気で昇格を目指していることを示すために、強化部の動きにも期待している。

◆心をえぐられた先に◆
 後半AT。審判団の判定によって、甲府コーナーキックは相手のフリーキックとなり、決勝ゴールを奪われ、甲府は敗れた。要約するとこうだが、コーナーキックがフリーキックになった誤審は、PKや直接ゴールに関わるような誤審とはまったく異なる。それを失点と結びつけることは極めて難しい。最低でも引き分けで終わらせなければならないゲームだった。言ってしまえばそう。

 それでも、コーナーキックだったなら、おそらくラストプレーは甲府のものだったし、相手の得点は生まれなかっただろう。勝ち点3~1の振れ幅と1~0の振れ幅は許容できるものではない。

 監督として、審判に対してチームの気持ちをぶつけ、その理不尽を乗り越えるエネルギーを生み出すことはやらなければならない。イエローカードをもらっても、抗議する姿勢は必要だった。

 ただ、選手のプレーに目をうつしたとき、判定への不満から、プレー精度や判断力が低下したのであれば、そこはチーム・個人として修正しなければならない。

 いわて戦の敗戦を経て、攻撃時において甲府はセルフジャッジをせず、気持ちを切り替えて最後までやり切る力を手に入れた。

 今回は、守り切る力を試された。橋本の心臓をえぐり取るようなミドルショットを浴びて、勝ち点を失い、強烈に向き合わされる勝つために必要なもの。山口にあって甲府にないものは何か。それは運だけで片付けられるものでは、きっとない。

 挑戦したからこその勝ち点1から、ジャッジと圧倒的な個という理不尽を経ての勝ち点0。悔しすぎる敗戦を、絶対に次の試合の勝利へとつなげていきたい。

◆長崎戦に向けて◆
 まず、山本がCBとして復帰するかどうかが大きな分岐点になるだろう。山本がいることによって、浦上、大和、荒木、三平の良さが引き出されることは、天皇杯で証明されている。もし、山本が復帰できるなら、今節、相手の決勝点を生むミスパスをし、評価を下げた野澤陸には、天皇杯鳥栖戦でCBの中央として活躍し信頼を取り返してほしい。
 宮崎純真も鳥海との交代を試してみてほしい。1点目の失点も宮崎のプレスバック力ならあるいは沼田にプレッシャーをかけられていたかもしれない。長く共にプレーする山本・荒木がいることで彼のよさも引き出されるだろうし、長谷川と近い位置でプレーすることでより可能性のある攻撃が見られるかもしれない。


 7月2日ホーム長崎戦。
 山口戦での挑戦から得たものをチームとして昇華させ、さらなる成長を見せてくれることに期待したい。 

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