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VSジェフ千葉(H)2022.6.11(Sat)

 吉田達磨監督の分岐点となるだろう発言から1週間。J2リーグ前半最終戦となるホームジェフ千葉戦が始まろうとしている。勝つために必要な守備面、攻撃面のあと一歩を詰めるためにどのような準備をしてきたのか注目が集まる。

 5連続引き分けからの悔やまれる敗戦を受けて、甲府の選手一人一人が勝利へ向けた滾る思いを胸にこの試合を迎えていることだろう。須貝は「死ぬ気で」長谷川は「オレが全部やる」。若いチームなのでその強すぎる思いを束ねることができれば圧倒的なエネルギーが生まれるだろう。しかし、強すぎる思いは時に思わぬアクシデントを生むこともあるし、チームの空中分解も生む危険性も秘めている。監督に求められることは、選手の思いをいかに束ね、勝利へ導くか。そして停滞状況にあるチームの活性化を図る一手をいかに用意するかという点になるだろう。

◆強い思いとクロス精度◆
ー2分ー
 最終ラインから攻撃を組み立てる甲府。野澤陸から荒木、山田とつなぎ、山田と石川がワンツー。山田がフリーの長谷川に差し込んでドリブル開始。推進力あるドリブルで一気にゾーン3まで侵攻。チョンと左サイドをオーバーラップしてきた荒木にはたくと、その瞬間に全力疾走でゴール前に走り込む鳥海芳樹。ゴール前に体を投げ出すその意識の強さは、勝利への執念を示したもので、今までの甲府に足りなかったものだ。鳥海の意識の高まりは非常によいことだと思う。

 しかし、コンマ数秒間違えば相手の怪我につながるようなプレーにもなってしまったし、足の向きによってはレッドカードも考えられたプレー。鳥海は足裏が入らないように足の向きを変えており、大事には至らなかった。鳥海の強い思いは、結果としてイエローカードにつながってしまったが、動き自体は素晴らしいものだった。必要だったのは、それを生かし切る味方のクロス精度だろう。FWの入りが改善されたのであれば、次はクロス。個人技術にもより一層スポットをあてて磨きあげてほしい。

 ◆千葉の甘さとリラの甘さ◆
 ー13分ー
 野澤陸のパスから左サイドの高い位置に張った荒木へ。荒木、長谷川、山田とつなぐ。長谷川の走り出しはブロックされてしまうも、リラの動き出しをとらえた山田陸から最高のスルーパスが通る。オフサイドのように見えたが、山田が出した瞬間、福満とリラは並んでおり、オンサイド。これを千葉の選手たちはセルフジャッジでプレーを止めてしまい、リラに余裕が生まれる。しかし、ゆるい空気感に流されるように、本気でゴールへ流し込もうという気力を感じないリラのシュートは枠を捉えられず。

 絶妙のパスと絶妙の抜け出しに、千葉の甘さに。最高のゴールチャンスを甲府もリラの甘さで逃してしまう。ペナルティエリア内で、フリーであれば枠を捉える厳しさを練習からより厳しく求めてもらいたい。また、正当なジャッジへの不当な抗議に対しては、より毅然とした態度で臨んでいただいてよいとも感じた。この小さな傲慢の種を摘むことは、千葉という歴史あるチームにとって非常に大切なことの1つであると思う。これは、後半に起きる非常に残念な出来事にもつながる部分でもある。

◆ストライカーへの第1歩◆
 ゴールを奪うことへの意識を強化したチャンスメイカー鳥海芳樹は、ストライカーへの第1歩を踏み出した。
 左サイドで石川、長谷川、山田のプレッシングから相手のミスを誘いボール奪取に成功すると、長谷川はフリーのリラに鋭い縦パスを差し込む。リラはスピード感を増しつつあるドリブルで相手を引き付けると、エリア内でフリーとなっている鳥海へナイスパス。冷静にキックフェイントでDFを外した鳥海は、右足でファーサイドへ流し込むようなシュート。ミートせずに枠をわずかに外れてしまう。逆サイドで関口がフリーで、中央に石川も詰めていたので5分5分の選択ではあったものの、自ら生み出したチャンスをものにしようという強い気持ちがここでも感じられた。
 ただし、ここぞという場面の視野の狭さという課題が見えるシーンでもあり、ストライカーとしての第1歩を踏み出したのと同時にチャンスメイカーとしての高みも目指してほしい。長谷川・鳥海が恐るべきシャドーストライカーとして甲府に君臨する未来が実現できうるうちに。

 さらなるチャンスが再び鳥海に訪れる。
ー19分ー
野澤陸の鋭いパスで高い位置の荒木へボールが入ると、長谷川のランニングでできたスペースに入ったリラへ。リラが左にはたいて、荒木がダイレクトクロス。ここでもDFを長谷川が引き付けて、空いたスペースに鳥海!

 一歩足が合わず。脛に当たったボールは枠を捉えることができなかった。最高の流れを作った中で、出し手はボール1個、打ち手は半歩の精度が足りなかった。だが、素晴らしい攻撃の形を見せることはできた。

◆勝負の肝と強かさ◆
 素晴らしい流れから一転、ピンチは訪れる。最終ラインのつくりから右サイドの関口がボールをもつ。そして、中央へ差し込んだボールが後ろにずれ、石川が触らずスルー。この判断が最悪の展開を呼んだ。

 ボールを奪われ、ブワニカが収めたところを3人で囲んで奪いきったかと思いきや、石川のヘッドが田口に渡る。田口が右サイドへ展開し、風間。田口に戻して熊谷。絶妙の動き出しで荒木の裏をとった高木に素晴らしい縦パスが通る。風間は甲府の寄せで手詰まりになるが、チョンと浮かせて左のレオンソへ。レオンソがコントロールミスをしたことで浦上にクリアチャンスが訪れる。

 だが、浦上が痛恨のクリアミス。これをレオンソが頭で触ろうとして触れず、ブワニカの足元へ収まってしまう。そして、ボールウォッチャーになっていたこと、レオンソのヘッドが当たらなかったことによる野澤の寄せの遅れもあり、ブワニカに須貝と野澤の間を抜かれて決められてしまう。

 関口と石川の右サイドでの不用意なボールロストに始まり、高木と熊谷の連携の時点で左サイドを攻略されたこと、クリアミスと寄せの甘さ。千葉の素晴らしさと甲府のミスが混在する中で、目を引いたのは。浦上のミスに対するレオンソの反応の早さ。リラが発揮できなかった相手の甘さにつけこむ強かさ。

 体のサイズや強さで勝ることができない甲府が、強かさでも負けるのであれば、ゴールを奪われる可能性が高まるのは必定だろう。若さ、経験値の不足。それを補うためにいくつ勝ち点を落としてきただろうか。

 強かさと傲慢さは紙一重。だから、「抜け目なさ」の方が甲府にとっては適切か。予想・予見で勝負の肝を掴み、相手を上回ること。それでも上回られることはある。そこは気持ちで体を投げ出しカバーする。それでも失点してしまうなら、攻撃で返していこう。

 勝負の肝を掴む力は、一朝一夕では身につかない。だから、前半戦すべてをその獲得に注いで今があり、やりきれないままに後半戦へチームは進んでいく。山本・新井両選手の存在の重要性がますます鮮明になっていく。

◆攻撃の停滞とカウンターそして守護神河田◆
 サイドを攻略し、何度もチャンスを生み出した甲府だったが、サイドで停滞したときにボールを奪われてカウンターというピンチを何度も繰り返した。とりわけ、前線に並んだメンバーがボールを取られた瞬間に戻ろうとする気配が全くない。
 右サイドでボールを奪うのに3人、相手ゴール前に4人。この状況でかいくぐられたら最終ラインの数的不利は覆しようがない。切り替えを大切に臨んだシーズンの折り返しに、この姿を見るのはいささか寂しいものがある。結果が伴わないことで様々なことが中途半端になってしまっているのかもしれない。

ー31分ー
 ライン設定が悪く、がばがばになった中央を見木がドリブルでもち上がる。ここはなんとか守備陣形を整え、相手の攻撃を遅らせることができたが、右サイドを見木のトリッキーなプレーから華麗に突破され、クロス。野澤がカバーに入ってコーナーへ逃れる。

 そのコーナーキックから絶望的なピンチが訪れる。まずは、風間のヘディングがゴール左隅へ飛ぶが、河田がナイスセーブ。こぼれ球にいち早く反応した見木のシュートを再び河田が左肩付近でビッグセーブ。さらにブワニカが左足で詰めるも、三度河田が左足でセーブ。
 最後は相手のクロスを野澤がかき出して守り切ったのであった。守護神が最高の働きでチームを救ってくれた。

 ー45分ー
 中央で山田が千葉の鋭い囲い込みをいなして、石川へ落とすと、石川から目の覚めるような縦パスが鳥海へ入る。鳥海が長谷川へ流すと、長谷川からリラへ美しいスルーパス。フリーで受けたリラだが、右足を振りぬいた後にボールが向かった先はタッチライン。多くの選手が頭を抱えるシーンとなってしまった。

◆同点弾と残念な事象◆
 お互いに譲らず一進一退の61分。コーナーキックから試合が動く。右コーナーをインスイングで長谷川。ふわりとしたボールがリラへ。リラのヘッドが相手の体に当たってフリーの須貝へ。これを冷静にボレーで叩き込んで甲府が同点に追いつく。一見オフサイドに見える場面だったが、リラが触った瞬間は千葉の秋山が須貝と同ラインにおり、副審の判断によってゴールが認められるのは妥当だと言えるゴールだった。

 しかし、現場でオフサイドに見えたのは事実だし、大型ビジョンに映し出されたものでは21番の動きを捉えるのは難しく、千葉の応援席からは怒号が鳴り響いた。「もう一度流せ」「オフサイドだろ」。
 気持ちはわかる。でも、してはいけないことがある。リーグ全体で声出しについて試行しはじめたときに、それに水を差すようなことをしてはいけない。審判にもミスはあるし、それに対して怒る気持ちもよくわかる。(今回はミスかどうかもわからないが)それに対抗して、故意の声出し応援をするのはやはり違うと思う。やってはいけないこと。大型ビジョンに「声出しNG」が映し出されたことは残念でならない。
 甲府も昨年、誤審に対して、執拗に抗議してしまい、罰金まで受けているので、自分たちの駄目さもJFAや審判団の理不尽さも知っている。前節も審判に対する思いを飲み込んだばかりだ。選手・審判・サポーターみんな必死なのもわかる。千葉だけでなく甲府応援席にも、大声を張り上げている人はいる。天皇杯でもいた。他のチームにもいることだろう。もう少しでJリーグ全体で声出し応援ができるところまで来ている。
 だからこそ、今応援しているわれわれは、せめて大声を出さないってところだけはリーグ全体で守っていければと思う。

◆交代策ー右ウイング小林岩魚◆
 同点に追いついた甲府は、関口に代えて小林岩魚を投入。右ウイングバックに配置した。小林が右サイドで起用されるのは伊藤体制以来であり、この試合における吉田監督の隠し玉といえる交代だろう。
 小林が右サイドに入ることによって、左サイドに入ったような推進力を生み出すことはできなかったが、少し中で受けて縦にボールを差しこんだり、須貝の動きを前方の視野でとらえながら余裕をもってパスを出せたりと左利きの利点を生かすことができていた。抜き切らないクロスも他の追随を許さない精度がある。
 また、須貝とのセットで考えた場合、現状攻撃の起点として期待通りの活躍ができていない関口よりも相手の脅威になるセットになる可能性を感じることができた。
 カットインからの強烈なシュート、須貝がタイミングを逃してあげられなかったクロスを、左足ですばやく上げ直す。宮崎がいればピンポイントで抜け出しに合わせることもできるだろう。えぐっての精確なクロスが左サイドから見られないのは寂しいが、選択肢の一つとして大きな可能性を感じることができた。

◆野澤陸の成長と鳥海覚醒の予感◆
 この試合多くの場面で存在感を示したのが野澤陸だった。ヘディングではかなりの勝率を誇っていたし、荒木へ供給するパスも安定していた。ときおり、長谷川に決定的な楔を打ち込んだり、逆サイドへ正確なサイドチェンジを放つ姿も見られた。前半戦を通して使われてきたことで、全体的なプレーレベルの平均値が高く安定し始めてきているように感じられる。
 しかし、かつてのエデルリマまではいかないまでも、野澤がよりもち上がることでより多くのチャンスを生み出せるはずで、後半の後半になるまでその姿が見られなかったことは残念だった。実際73分の鳥海のチャンスは野澤陸のもち上がりから生じたずれで荒木がより深い位置でフリーで受けることができ、より正確なクロスを上げることができている。また、長谷川が引っ張ってできたスペースをリラと鳥海が有効に使ってテクニカルな反転シュートが生まれたのだった。この動きを後半戦はより多く、効果的な場面で見せてもらいたい。

ー75分ー
 ショートコーナーの流れからチャンスが生まれる。左サイド浅い位置から小林岩魚の高いクロスがファーサイドへ放たれる。これに競り勝った野澤陸。こぼれ球に反応した千葉DFが足をとられる隙にボールをさらってゴールにねじ込んだのは、鳥海芳樹だった。

 結果、オフサイドではあったが、セルフジャッジをせず、抜け目なく、ゴールにボールをねじ込む姿は、今までの甲府になかったもの。鳥海がこの姿、この意識をもち続けてくれれば、2点目の壁を打ち破るための鍵になってくれるだろう。

 まだ、本職歴が短いセンターバックとしては最後の寄せの部分で物足りない部分が目立ち、失点に絡む野澤陸だが、やはり成長著しい姿は見せてくれている。鳥海に生まれた抜け目ない意識を、守備場面で野澤陸が発揮してくれるようになれば、チームは勝利へと近づくことになるだろう。

◆交代策ーリラ→三平、石川→山本、荒木→宮崎、鳥海→飯島◆
 リラと三平の交代はやや早めに、残りの3人の交代はATも含めて残り7分の段階で行われた。
 輝きを見せたのは飯島。素早い切り替えや体を張ったキープがチームを活性化させる。90分に体を投げ出しながら三平に出したボールは彼の強い気持ちを十分に感じることができた。
 宮崎の左ウイング起用は意外だったが、長谷川がいる中で飯島と宮崎が投入されたことは今後に向けて一つよい材料かもしれない。欲をいえば、一番前で宮崎を見てみたい。

 櫻川ソロモンの脅威にさらされたATであったが、なんとかしのぎ切り1-1でドロー。1-1の世界記録を作れるのではないかという勢いだが、いわて戦からの1週間で上積みがいくつか感じられる試合となった。

◆まとめ◆
 普段通りの戦いに選手たちの熱い思いを上乗せし、パフォーマンスの上乗せができていた部分において、吉田監督は及第点の滑り出しを見せることができたのではないだろうか。小林の右サイド起用も機能していたし、今後に向けた大きなオプションになるだろう。

 気持ちの面で上乗せが見せられた選手の中で、特に際立ったのが鳥海だろう。切り替え、抜け目なさ、得点への意識すべてが今季最高の内容だったし、オフサイドながらゴールにねじ込んだシーンはこの試合の中でも鳥海のプレーが高まっていたことの証明である。今後に非常に期待がもてるし、鳥海が怖い選手になればなるほど長谷川の価値も高まってくる。甲府の攻撃も輝きを増すだろう。

 攻守において、勝利にあと一歩届かない。これは、選手・監督個人の問題ではなく、組織全体の問題でもある。これまでのように、そしてこれからも若手は伸びてくれるだろう。それが、ある一定のラインまで到達してきているのは感じられる。甲府は成長しているが、他のチームも成長している。そして、補強もしてくるだろう。勝利を掴めるまでの成長を加速させるだけでは不十分であることは前半戦を見ると残念ながら明らかだろう。
 監督が現状を理解したうえで自動昇格を明言した以上、悠長なことは言っていられないはず。フロントにも積極的に動いて現場の底上げを図ってもらいたい。今こそクラブ一丸となってクラブを浮上させるきっかけをつかまなければいけない。

 ただ、個人の覚醒に期待するなら、ストライカー鳥海芳樹。彼が最もそこに近い場所にいる。



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