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【VFK】VS東京V(A)8.21 復活のM

 千葉戦。

 攻めなくてはならない。しかし,チームは安全なボール回しを選択し続ける。守備に徹するチームを相手に,監督は最後まで有効な打開策を提示できず,必然のスコアレスドロー。むしろ岡西のセーブがなければ負けすらありえた。プロの興行として疑問符のつく悲しい試合。このままではいけない。こんな姿で終わってはいけない。1年かけて目指したサッカーが,こんなものであっていいわけがない。

 勝つために,チームは何をすればいいのか。どんな戦い方をすればいいのか。ふがいない敗戦が,チームの現状に最大限の警鐘を鳴らす。

 この一年でチームはボール保持をしながらアタッキングサードにボールを運ぶことはできるようになった。取られたボールを奪い返すネガティヴトランジションは高レベルを維持している。だが,ボールを奪ったあとの動き出しが鈍い。ここぞというカウンターの好機に,パワーを持って飛び出す選手がほとんどいない。サイドにポイントをとってもそこからコンビネーションで裏をとること,クロスに対する有機的な走り込みも少ない。選手のシュート決定率の低さもあるが,ゴールに直結する場面でのコンビネーションの乏しさも原因の一つと言えるだろう。

 奪い返す力がある以上,仕掛けていい。積極的なパス,ドリブル,シュートがあっていい。失敗しても奪い返して攻撃をやり直せばいい。そうやって攻撃陣の積極的なプレーを促す。そのためのコンビネーションを高め,攻撃的で魅力的なチームを作り上げる。今シーズン当初に取り組んでいた無謀なまでのボールへのアタッキングはそのためのものだったはずなのに。

 千葉戦は,吉田達磨監督のチームが恒久的に抱える矛盾や問題点を白日の下に晒すこととなった。

 そして,彼の冒険はそれが晒されるたびに終止符を打たれ続けてきた。だが,甲府は今その壁を超えるチャンスを手に入れている。今あるチームの力を基に,よりアグレッシブにゴールを目指す。勝ちたい気持ちが,変わりたい気持ちが選手に漲っている。今こそ監督と選手が一体となって,達磨サッカーのその先に挑むとき。

 8月21日。2年半ぶりに声援を送ることを許された日。チームとサポーターが,VF甲府の新たなる一歩を踏み出した記念すべき一戦。

その火ぶたが切って落とされた。

【スタメン】
     三平
  長谷川  鳥海
荒木 山田 松本 関口
マンシャ 浦上 須貝
     岡西
【ベンチ】
小泉 野澤陸 フォゲッチ 石川 
イゴール 飯島 リラ

【復活のM】
 この試合,輝きを取り戻した1人目のM。関口正大。バックパス選択率が劇的に減った。バックパスが悪いわけではない。だが,甲府はやりすぎた。積極的な仕掛けを失敗したときに,「戻していいよ」「無理しなくていいよ」という空気が蔓延し,攻撃が停滞するほどに。

 関口は仕掛けた。サイド深くでドリブルで抉って長谷川のヘディングシュートを生むクロス。安易なバックパスは選択せず,少しでもボールを前に運ぶために,後ろ以外の選択肢を常に探し続けた。チームに,自分自身に投げかけた言葉を体現する力。さすが法政大学主将。関口は,今季最高のパフォーマンスでチームに勢いをもたらしてくれた。

 関口のパフォーマンスに触発されるように,甲府最大の武器である長谷川元希も輝きを取り戻す。強靭なフィジカルをものともしない力強いドリブル突破,カットインからの鋭いシュートで東京守備陣の脅威となった。マンシャの機を見た鋭い縦パスも,長谷川のサイドでの仕掛けを大いに助けてくれた。

 チーム全体へ伝播した前への意識。サポーターの声に,想いに支えられ,勝利への執念がピッチに表現されていく。中3日で戦うチームと,2週間ぶりの試合となるチームの試合だった。体力的には甲府の方が厳しい。だが,そんなことは感じさせないくらい甲府がゲームの主導権を握っていく。

 だが,ヴェルディも甲府のミスを見逃してくれるようなチームではない。不用意なパスミスは,大きなピンチにつながったし,何もないところから強烈な無回転ミドルが飛んでくるような技術力の高いチームである。だが,この日も岡西がチームを救うプレーを見せてくれた。クロスバーも運も味方してくれた。

 均衡は破れることなく時計の針は進んでいく。そして,その場面は訪れる。

【ともにはばたこう】
85分。
 荒木のクロスに飯島がヘッドで合わせるも,逆サイドのフォゲッチに流れる。完全にフリーになったフォゲッチ。長谷川はファーから相手の死角をついて猛ダッシュ。ニアでフリーになることに成功する。だが,フォゲッチは飯島を狙い,相手の足に当てて合わず。不満をあらわにする長谷川。

 拾われたボールからカウンターが発動するも,オフサイド。

最終ラインでボールを回し,山田が攻撃のスイッチを入れる。山田の縦パスを受けた長谷川は相手のプレスを受けながらも右後方でチャンスをうかがう荒木へボールを通す。

荒木はグラウンダーで飯島へ見事にクロスを通すが,飯島のシュートは左足にヒットせず,てんてんと転がっていく。完全フリーでペナルティエリア内に侵入した長谷川元希の足元に。最高のシチュエーション。最高のシューター。誰もがゴールを確信した場面だった。

だが,無情にもシュートが枠を捉えない。

0-0。

スコアレスドローで試合は幕を閉じる。

0-0。スコアは千葉戦と同じ。だが,ピッチに描かれたのは,全く違う光景だった。内容は関係ない,勝つことが大事。確かにそうだが,内容はやはり大切だ。

ピッチ上の選手一人ひとりから迸る勝利への執念。
これだけの気持ちを見せられて,応援しないでいられるわけがない。

自分たちの抱える課題・問題点にここまで切実に向き合い克服しようとあがいているチームが,成長しないわけがない。

サポーター・選手の思いが共鳴し,新たなスタートを切ることができた。そんな大切な一戦になった。

きっかけは掴んだ。
勝てていれば,昨年の京都戦のようなインパクトをもつ試合になっただろう。だけど,決められなかったから,勝てなかったから高まった気持ち,一体感がある。

もう,あんな思いはさせたくない。

選手はサポーターに。サポーターは選手に。
だから,前向きに次に進める。

ともにはばたいていこうと思い合える。

この悔しさを今シーズン終了後の笑顔に繋げるために
次の金沢戦は,真の分水嶺となる。

それなら,僕たちは全力で拍手を送るだけ。
監督と選手たちが,自分たちの壁を越えて大きくはばたく姿を信じながら。


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