VSいわてグルージャ盛岡(A)2022.6.5 ー吉田達磨監督の分岐点ー

 現状のベストメンバーが並んだ甲府。ベンチには荒木がおらず、中山陸がウィングバックのサブの1番手に昇格。劣勢になった際には天皇杯で見せた高い決定力をリーグ戦でも発揮してチームを勝利に導いてほしい。

序盤はいわてのプレスと向かい風の前に得意のボール保持ができず。低い位置のボール回しを狙われてピンチ、という場面も散見された。前半もある程度過ぎるころにはいわてのプレスをかいくぐり、横パスで広げて縦パスを差し込むといういつもの組み立てができるようになる。

 サイドをとってのクロスからの攻撃が両サイドから見られ、左サイドからは小林の鋭いクロスが、関口からも数本に1本は可能性のあるクロスが上がった。しかし、リラの詰めが甘く得点を奪うに至らない。

 甲府のリズムでゲームが進んでいくが、自分たちではコントロールしきれない部分で再びビハインドを負うこととなる。

◆不運な失点◆
 今季の甲府はここぞという場面で不運に見舞われることが多い。この試合も失点は不運な形から生まれた。フリーキックのこぼれ球を山田がコントロールしきれずにいたところをいわての選手がスライディングカット。左サイドへこぼれようかというボールが主審を直撃し、このボールを拾ったいわての選手たちが一気に甲府陣内へ加速。
 主審にあたったボールがいわてボールのまま、という判断のもとプレーは流され、カウンター成立。
 
 ドロップボールだろうというセルフジャッジもあってか野澤の戻りの出足も遅れ、いわて3対甲府2の数的不利の状況となる。

 必死で戻る甲府の選手たちだったが、体に当てたボール弾いたボールがことごとくいわての選手の下へ。最後は石井に流し込まれて万事休す。

0-1。

 勝利を目指す甲府にとって痛恨の失点となった。

その後もゴール前で須貝がボールを奪われ、コントロールショットを浴びるも、河田が渾身のセーブで難を逃れる。

1点をリードしたいわての守備の硬さも増し、前半は0-1のまま折り返すこととなった。

◆攻撃の形はできているが◆
48分
最終ラインからの組み立てでチャンスを作る。浦上から石川へ素晴らしい縦パスが入ると、ワンタッチでリラへ。リラがキープして山田に落とし、ワンタッチで鳥海へ。鳥海はドリブルでもちだし左へ展開。小林岩魚の鋭いクロスが長谷川に向かうも、惜しくもDFにクリアされてしまう。

次の攻撃も最終ラインから。浦上、山田、石川、山田、浦上。浦上から上手くポジションをとった鳥海へナイスパス。そして左足でスルーパス。これがわずかに長谷川と合わず。しかし、1点物の素晴らしい攻撃だった。

ビルドアップからシュート、またはシュート手前までの形は確実に作れており、最後のゴール手前の質の向上がこの試合も課題として突き付けられ続けていく。

ー55分ー
須貝のロングフィードから鳥海が相手のギャップを見事についたランニングで抜け出し、右足で強烈なシュート!ゴールニア上を確実にとらえていたものの、キーパーのポジショニングもよく難なくセーブ。だが、こちらも1試合の中に数回見られるようになってきている攻撃の形である。

62分には、最近なかなか見られなかった鳥海のドリブルカットインから石川のシュートが生まれた。ここにきて少しずつ鳥海の状態もよくなってきているのは好材料だろう。

◆長谷川輝かず◆
 天皇杯では、圧倒的な存在感を放っていた長谷川だったが、この日は小林との連携も今一歩。惜しいシーンはいくつかあったが、これぞ長谷川という周りをうならせるようなプレーはほとんど見られなかった。

 ー65分ー
 長谷川が後ろからチャージを受けてボールロスト。それを仕掛けたビスマルクがドリブルで一気に右サイドを駆け上がる。野澤もついていくが寄せきれず、オタボへピンポイントクロスをあげられる。そして、完全にフリーとなるオタボ。浦上も須貝もマークに付けず、繰り返される失点の形。
 形を作れど決まらぬ得点。形を作られほぼほぼ決められるピンチ。だが、今回はクロスがボール1個分ずれて得点ならず。前半の運の悪さはこれで帳消し。0-1のスコアが妥当なものとなる。

67分
リラOUT三平IN
長谷川OUT宮崎IN

◆交代選手の明暗◆ 
ー72分ー
 小林の強引なドリブル突破からチャンスが生まれる。バイタルエリアへの効果的なランニングをした石川にパスを送るも紙一重でクリアされる。だが、山田がそのボールを回収して2次攻撃。三平がうまくボールを引き出してシュートフェイントを入れつつ、右サイドの関口へ展開。関口から素晴らしいクロスが三平へ。叩きつけたヘッドは枠をとらえるも、GK松山が再びファインセーブを見せる。決定的場面に関わる三平の状態の良さ、チームを活性化する能力の高さが垣間見れた。

ー78分ー
石川OUT松本IN
関口OUT大和IN 須貝が右ウイングバックへポジションを上げる。

松本凪生はプレイスキッカーとして小林岩魚とともに最も得点の匂いを感じさせる選手であり、この日も松本が入ってからのセットプレーは怖さが格段に増した。

ー83分ー
 大和が持ち味の高さを生かして松本のフリーキックをドンピシャヘッド!会心の当たりだったが、キーパーが弾き、ノーゴール。手ごたえがあったのだろう。非常に悔しがる大和の姿がそこにあった。
 大和はビルドアップがまだ危なっかしく、出場試合すべてでボールを受けた瞬間を狙われピンチを招きかけている。しかし、高さは非常に魅力で出場時間を伸ばしつつ、力を伸ばしてもらいたい。

 一方で輝けなかったのが宮崎だった。守備時におけるプレッシングは安定して行えるものの、相手の脅威となるような抜け出しやドリブル突破、シュートシーンがほとんど作れない。三平がチームを活性化しつつ、自分もゴールをとる位置に入っていくことができるのに対し、宮崎を生かす形がチームとしてできていない。単騎突破だけではいかに宮崎純真といえどもチャンスをつくることはできない。
 ゲームを作り、宮崎の走りを生かしたパスが出せる選手が宮崎が出場する時間にはいない。チームとして彼を生かすことができていないのが非常にもったいない。天皇杯同様、長谷川との共存が必要だと感じた。

 87分に中山陸を投入し、同点、逆転を目指した甲府だったが、8分のアディショナルタイムを経ても、ホーム初勝利に向けて気持ちの入ったディフェンスを続けるいわての牙城を崩すには至らず。

終了間際の連続コーナーキックも三平がさすがのヘディングシュートを見せるが、キーパーの正面でキャッチされてしまう。5連続引き分けのあとの、最も勝ち点3を取りたかった試合で非常に痛い敗戦を喫することとなってしまった。

◆最適解を◆
 この日の敗戦に関しては、吉田監督にとっても非常に悔しく、ショッキングなものになったことは、その眼と、声のトーンから痛いほど伝わってきた。チームが積み上げてきているものは確かに形を成してきているが、勝つための布陣については、この敗戦を受けて再度検討されることだろう。得点の可能性と失点の可能性のバランスを探る中で勝利に向けた最適解を見つけることは大変な作業だと思う。しかし、須貝のストッパー起用によって一度はチームを勝利の軌道へ乗せてくれた。もう一度、このメンバーの最大値を引き出すための最適解を探し出してほしい。

◆もっていない監督からの脱却◆
 失礼を承知でいえば、吉田監督はもっていない監督だ。選手に慕われ、監督としての指導力も評価もゆるぎない。素晴らしい人物であることもインタビューを見ていれば伝わってくる。今までどのインタビューを聞いても本当に真摯に答えてくれるし、納得のいく話ばかりしてくれていた。でも、勝てない。運がない。実力をもっているのに、チームを勝たせる運をもっていない監督。僕は、今までずっと思っていたけれど、口に出さなかった。
 
 でも、この試合を経て、「2位を目指すよ」と選手に伝えた監督の覚悟と決意。それを耳にして、「もっていない」を過去のものにできると感じた。「昇格は頭の片隅におく」「順位表は見ない」1試合1試合に向き合うためにあえて吉田監督はそうしてきたのだろう。だが、その姿勢は明確に勝ちを目指そうとするチームと対戦した時、勝利への執念のもち方において甲府は劣ることになる。開幕当初監督の語った「頭の片隅」という言葉が引っ掛かっていた選手たち、明確に「昇格するぞ」という言葉が欲しかった選手たちもいただろう。少なくとも、僕のような1ファンですらそうだったのだから。

 思い返せば、5連続ドロー中も、ボール1個分の差、、体をあと半歩動かしていれば、、そんなシーンで選手たちのあと半歩を突き動かすことができていたかもしれない。それが積もり積もって運となる。

 運が味方についてくれないのならば、言葉を発し、動機付け、味方につけていくしかない。2022.6.5。吉田監督がさらなる高みへ一歩踏み出そうと決意した、理不尽な敗戦の日。それを逆襲への分岐点とすることができるだろうか。

ホーム千葉戦、魂に炎をともしたヴァンフォーレ甲府の戦いに期待する。
今日の監督インタビューには、僕は心をゆさぶられた。
もちろん、あのインタビューに批判的な人も、本当に順位表を見ていないんだなと感じた人もいると思う。

でも結局は、この敗戦を経て監督・選手たちにどんな変化が見られるのか。それが全て。チームが劇的に変わるだけのエネルギーを、今までのどの試合よりも、この試合はもっている。

本気で昇格を目指すのであれば、変わるきっかけはここしかない。
見せてほしい。より一層勝利をどん欲につかみにいく、吉田達磨を。
そんな彼が率いる甲府の生まれ変わった姿を。

まずは千葉戦。勝とう。
魂を突き動かすような試合を見せてくれ。
そして後半戦、今度こそ躍進しよう。

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