【VFK】VS FC琉球(H)8.6(SAT)~反撃開始~
水戸戦と群馬戦を非常に難しい状況下で引き分けて得た勝ち点2。0と2
の違いは本当に大きい。ぎりぎりで繋いだ秋田戦の闘志の炎を再び燃え上がらせ、躍進したい。まだ全選手のコンディションが完全に整ったわけではないが、現時点でのベストメンバーを組むことができた琉球戦。この試合での勝利は昇格戦線に躍り出るための最低条件。今シーズンを占ううえで極めて重要な一戦の幕が切って落とされた。
◆スタメン◆
リラ
長谷川 宮崎
小林 山田 石川 荒木
野澤陸 浦上 須貝
河田
◆ベンチ◆
三平 鳥海 飯島 中山 松本 関口 岡西
◆第一選択肢◆
FC琉球は直近5試合で負けなし。失点も少なく、守備の硬い最下位と侮ってはいけない強敵となる。甲府は立ち上がりとしてはまずまず。攻守の切り替えや寄せの激しさはまだまだ。試合開始当初からエンジン全開で行けるほどには、まだチーム状況は回復しきれていない。
この試合に臨むうえで大切な意識は、ボールを持ちすぎないこと。ボールを大事にしすぎることで、カウンターのチャンスを失うことはもったいない。ゴールへの最短距離を第一選択肢に入れ、それがダメならボールを保持する。この共通認識をチームとして持てたことが先制点を生む。
◆裏への意識が生んだ先制点◆
裏へ。今までは前線の選手が裏抜けの動きを見せても、横パスやバックパスでより安全に、確実に繋ぐ姿勢が色濃く見られた甲府。琉球戦では裏抜けに対してスルーパスや、フィードのチャレンジが増え、あと一息で決定機という場面を数多く作れている。
ー21分ー
起点は浦上のフィードだった。競るのは長谷川と上原。上原のヘッドがゴール方向へ逸れていく。そこに動きを止めずに走り込む宮崎。角度的にも宮崎のシュート力を考えると絶好機。しかし、若干力んだか、クロスを意識したか、シュートは枠を捉えずにファーサイドに抜けていくかに思えた。だが、カバーに入った大森がカットしようとしたボールがこぼれる。甲府で最も決定率の高い長谷川元希の前に。長谷川はいとも簡単にゴールに流し込み、今季8点目。幸運な形で甲府が先制する。
今まで運から見放されることが多かった甲府に、いよいよ運が味方につく。苦しい2戦を耐え抜いたご褒美でもあり、裏への意識を高めた宮崎と長谷川の姿勢が呼び込んだものともいえるだろう。
◆PK2発で3ー0へ◆
琉球のサイド攻撃に対して、須貝がスライディングでクロスを防ぎ、最大の脅威であるサダム・スレイに対してはしっかりと浦上が体を寄せる。最終局面での守りの鋭さによって相手の決定機を阻止。直後にチャンスは訪れる。
ー26分ー
小林から野澤陸へバックパス。大きく開いた右サイドへ正確なサイドチェンジを送る野澤陸。トラップでボールを落ち着かせた荒木翔が選んだのは、ペナルティエリア内に走り込む長谷川元希。
このボールをカットに入った上原がまさかのハンド。甲府がまたも幸運な形でPKという追加点の大チャンスを得る。キッカーはウィリアン・リラ。PKに関しては絶対的な信頼感のあるリラ。この場面でも名手カルバハルの逆を突いて危なげなくゴールをゲット。今季6点目。2-0と琉球を突き放す。
ー30分ー
荒木翔の素晴らしいサイドチェンジから小林岩魚へ。小林から中央の山田陸へ。普段なら、ここで縦へ差し込めずサイド展開するところだが、この日の甲府は違う。素早い展開から中央のずれが生まれ、そこを宮崎が動き出しでしっかりと突く。それを的確にとらえた山田の鋭い縦パス。きわどいボールを自分のものとする宮崎の力強さ。そして、一気にスピードに乗り、3人を置き去りにするドリブルを発動。最終局面で体を滑らせ止めに入った大森の左手がボールに当たる。支え手にするつもりだった手が上からボールをとめに動いたような印象を与えてしまったか、ハンドの判定。PK。
宮崎は自らが獲得したPKを絶対に譲らないという強い気持ちの下、カルバハルにコースを読まれながらもネットに突き刺し3-0。前半35分にしてゲームを決定づけるゴールを決めた。
3点をリードされた琉球は、上原と人見の右サイドをケルヴィンと田中に2枚替え。
だが、甲府の勢いは止まらない。左サイドを起点に決定機を生む。ウィリアン・リラの力強いドリブル突破からサイドに圧力をかけるとこぼれ球を小林がワンタッチで中央におとし、それを宮崎がセンスあふれるダイレクトヒールでフリーの山田陸へ。鋭くカットインしてミドルシュートを放つ山田陸。DFにディフレクトしたシュートに対して一歩も反応できないカルバハル。決まったかに思われたシュートは惜しくもサイドネットをかすめていくのだった。
続くコーナーキックからも決定機。荒木のコーナーキックをスレイがクリア。落下地点に入った阿部がヘッドで落としたボールを拾う長谷川元希。左足で裏へ抜け出す荒木を正確にとらえたスルーパスを出す。荒木はラインぎりぎりまで攻め上がり、リラにマイナスのクロスを上げる。それにしっかりと合わせたリラが再びゴールネットを揺らすも、クロスの手前でゴールラインを割っていたという判定でノーゴール。ダメ押しのチャンスを逃してしまう。
◆反撃の狼煙◆
立て続けにチャンスを逃した甲府。前半途中から流れを掴み、2点をリードした時点からトランジションも高まって流れを大いに引き寄せていた。だが、点差からくる緩みも同時に見られ、若さゆえの勢いと甘さの2面性を見せていた。
ー41分ー
スレイを狙ったロングボールのこぼれ球をケルヴィンが拾って左サイドに展開する。大本には、誰もマークに行けていない。右足からふわっとしたクロスが放たれ、サダム・スレイが反応する。マークするのは、野澤陸。しかし、思ったより短くなったクロスに出足が遅れ、スレイにプレッシャーを全く与えられない状況に。そして、スレイはペナルティスポット付近から易々とゴールを陥れるのである。
ワンチャンスではない。ここまでも何度かサイドを攻略されて点を取られていてもおかしくないシーンはあった。だが、局面での寄せによって防いできていた。それが、クロス、最終局面で対応を甘くしてしまった。3-1。このゴールがまさに琉球反撃の狼煙となり、試合は風雲急を告げる。
◆恐るべき攻撃力と防戦◆
ここまで対戦してきたどの試合よりも圧力を感じる攻撃。後半に入ってからのFC琉球の勢いは凄まじいものがあった。後半、甲府は2点差の怖さをまざまざと見せつけられることとなる。
徹底。まさに徹底的だった。サダム・スレイを目がけたロングボールとセカンドボールへの寄せ。ボール保持者への連動した圧力。甲府は繋げることも蹴りだすこともすべて琉球の攻撃に繋がる悪循環。
ー47分ー
そして、後半2分。奪うべくして得点したのはFC琉球だった。激しい寄せと素早い切り替えで甲府を上回る琉球。ペナルティエリアへ打ち込んだクロスを荒木が弾き切れずにケルヴィンが拾ってすかさずシュート。ここは荒木と浦上が寄せてブロックするも、こぼれ球にいち早く反応していたのは、やはり琉球の選手だった。中野が左足でゴール右隅にきれいに打ち込んで3-2。1点差に迫る。
勢いは完全に琉球。サダム・スレイの圧倒的存在感。琉球の一体となった激しい圧力の前にラインを下げてしまう甲府。ここからはまさに防戦一方。同点・逆点も時間の問題だ。これほど攻撃時に怖いと思ったチームはほとんどない。本当に、強い。このまま勢いに飲まれてしまうかという瀬戸際で、チームを踏みとどまらせてくれたのは守護神、河田晃兵だった。
◆ビッグセーブ◆
ー49分ー
池田のロングフィードをケルヴィンがすらすと、サダム・スレイが受けて、膝を使った絶妙のターンで浦上をはがすと、左サイドを駆け上がる中野にはたく。完全にフリーでキーパーとの1対1を迎える中野。必死で駆け戻り、中野に圧力をかけようとする荒木。それが中野のシュートのタイミングでの余裕を奪う。そして、左足で放たれたシュートを河田が足でしっかりとはじき返す。
ここで決められていたら、琉球の圧力に完全に飲まれ、逆転され、3-0からひっくり返された試合となり、選手は自信を失い、順位も急降下。そんな未来が待っていたかもしれない。
そんな悲惨な未来を切り捨て、チームを救ったのは、キャプテンの献身的な寄せと、守護神の反応だった。
チームを支えてきた2人の力が合わさって生まれたウルトラビッグセーブだった。
◆絶望的な展開◆
窮地を脱したかに思えた甲府だが、圧倒的な琉球の攻撃はとどまるところを知らない。
51分 サダム・スレイのヘディングシュートが枠をそれる。
52分 右サイドからの鋭いクロスはわずかにスレイに合わない。
ボールを持っても囲い込まれて奪い返される。
54分 アーリークロスにサダム・スレイが合わせるも、2人がかりで自由を与えない。
55分 コーナーキックからヘディングシュートを許す。
57分 阿部の上手い引き出しからサイド攻撃を許し、田中のクロスを須貝が頭でクリアする。そのボールをダイレクトヘッドでペナルティエリアに送られ、中野にゴールネットを揺らされるも、オフサイド。
絶望的な試合展開が続く中、久々の甲府の攻撃機会が訪れる。甲府ボールのスローインからリラが琉球最終ラインの裏を取り、中央になんとかクロスを送り込むが、合わず。ボールが逆サイドへ転々と転がっていく。悪い流れを断ち切るべく、そこへ全力で走り込んだのは小林岩魚だった。一度DFがボールを拾ってバックパスを出したところに体を投げ出すようにアタックを仕掛けた。
そして、相手が一歩早くクリアに成功。DFの振り抜いた右足が小林の右足を捉え。。これまで甲府のサイドを支えくれた小林が負傷退場。少しでも軽傷であってほしいと願うしかない。
そして、甲府ベンチが動く。
ウィリアン・リラOUT 三平和司IN
小林岩魚OUT 関口正大IN
この交代にともなってセンターバックの並びが左から須貝、野澤陸、浦上に変更された。
それでも流れは変わらず、ケルヴィンの突破から何本もクロスを許す時間が続いていく。状況を打開するには、前線で効果的にボールを呼び込み、的確にパスを裁ける人材が必要だった。そして、甲府ベンチには、その役割を担うにおいてこれ以上ない人材がいた。
鳥海芳樹である。
◆救世主投入◆
66分
宮崎純真OUT 鳥海芳樹IN
前半3-1の立役者宮崎純真に代わって、後半の救世主鳥海芳樹が投入される。
ー67分ー
ファーストプレイだった。フリーキックの流れからボールをはね返され、河田までボールが渡る。そして、鳥海が最終ラインとの駆け引きを感じ取った河田が前線へ一気に蹴り出すと、絶妙のトラップでピタリと収める鳥海芳樹。ドリブルでワンフェイク入れて、2人を引き付けながらペナルティエリア内に切れ込む。そして、左サイドを駆け上がる荒木翔へと琉球DFの間をくぐり抜ける横パスを送る。
荒木はそのボールをワンタッチでふわりと。斜めの走りでDFの死角を取った三平和司の頭がそのボールを正確に捉え、見事ゴールネットを揺らすことに成功する。
三平和司の2試合連続のボンバーヘッド弾により、あまりにも苦しい絶望の時間帯を打ち砕くことに成功したのである。
鳥海芳樹の鮮やかなチャンスメイク。求められた働きを一発回答でやってのける。三平和司、荒木翔、そして救世主鳥海芳樹による値千金の得点が生まれたのだった。
三平のゴールで心のゆとりを取り戻した甲府。琉球のロングボール+ケルヴィン突破作戦を最終局面で抑えながら耐える構図は変わらない。しかし、鳥海という中継者を得たことによって、ゆるゆるになっている琉球の最終ラインを切り裂くカウンターを発動させられるようになる。
攻守に渡って必要なところに必要なタイミングで広範囲に現れる鳥海の存在感は、本当に際立っていた。前線からのプレッシャー、味方のフォロー、ボールを引き出し、パスを散らし、必要に応じてドリブルで揺さぶり、機を見て裏へ抜け出す。タイプこそ違うが、かつてのチームの中心であった藤田健氏の姿がオーバーラップするような存在感だった。
◆沸き上がる拍手とダメ押しゴール◆
ー84分ー
左ストッパーに位置を変えた須貝がケルヴィンとマッチアップ。体を投げ出す守備でライン際のバトルを制し、ゴールキックを獲得すると、場内から大きな拍手が沸き起こる。
そして、一度収まりかけた拍手が、選手たちを鼓舞するように再び高まりを見せると、キャプテン荒木翔がバックスタンドに向けて、感謝を表し、さらなる盛り上げを求めるように両手を掲げ、打ち合わせる。その姿に、バックスタンドが応える。小瀬にチームを勝たせようという熱い拍手がより鮮明に鳴り響いたのである。
ー87分ー
そのときはついに訪れた。左サイドでパス交換を行う荒木と長谷川。荒木から須貝へボールを戻し、須貝からの横パスを石川が前向きで受ける。その視界の先には、最高の動き出しで琉球DFを置き去りにする鳥海芳樹がいた。30メートルはあろうかという石川のロングスルーパスに最高の抜け出しとトラップで応える鳥海。あとは、ゴール右隅に向けて左足を振り抜くのみ。糸を引くように、ファーサイドのゴールポスト内側を捉えたシュートは、ゆっくりとゴールサイドネットに包まれていく。
5-2。
正真正銘のダメ押しゴール。ゲームメイカーとしての質を高め続けてきた鳥海が、ストライカーとしての役割も果たす。
今季2点目。
琉球戦は、鳥海芳樹の1年間の成長の証をピッチ上に刻み込んだ試合だ。甲府に鳥海あり、と。
91分には右サイドを飯島陸に対して素晴らしいクロスを供給するなど、最後の最後まで相手にとって脅威となる活躍を見せてくれた。
琉球も最後まであきらめることなく甲府のゴールに迫り続けたが、甲府の最終ラインも集中を切らすことなく対応を続け、須貝がドリブルでボールを運ぼうと歩を進めたところで試合終了のホイッスル。
3試合分はあっただろうかという内容の濃い90分間の戦いの幕は下ろされた。5-2とは思えない、綱渡りのような、ジェットコースターのような。恐ろしく、そして見ごたえのある、凄い試合だった。
◆反撃開始◆
運を味方とし、宮崎の活躍によって3-0としながら、サダム・スレイの圧倒的な存在感の前に1点を返された前半。
琉球のストロングポイントを全面に押し出した徹底したロングボール戦術に圧倒され、苦しみ抜いた後半。
荒木と河田のビッグセーブにより、運命の分岐点を乗り切って、救世主鳥海芳樹の大活躍とMVP男三平和司の2試合連続値千金ゴールによって勝ち切ったこの試合。
今までの甲府であれば、0-3からの逆転負けも十分に考えられる内容だった。それほどに琉球の割り切った攻撃は脅威だったし、恐ろしい破壊力をもっていた。
だが、今日の甲府は、あの、あれだけの苦しい局面をチーム一丸で乗り切り、ベンチも含めて自分たちで流れを手繰り寄せ、勝ち切った。
まだまだ課題はあるけれど、濃密な8月6日の経験はチームの血肉となり、これからの戦いを支えてくれるだろう。
熊本、千葉、東京と続く6ポインターの3連戦は、躍進の足掛かり。J1に昇格向けたかすかな希望を確かな好機に変えるため、1戦1戦を大切に、成長しながら乗り越えていこう。
琉球戦の自信と勢いを胸に。
甲府の反撃は始まった。