電撃的成長における葛藤について
今日は最近読んだ組織・企業戦略に関する2冊の本のお話をしたいと思います。
Leaders Eat Last
まず最初は、
「Leaders Eat Last」(邦題:リーダーは最後に食べなさい! チームワークが上手な会社はここが違う)
「WHYから始めよ!」で有名なサイモン・シネックの著作です。
無理やり一言でまとめると「従業員が信頼しあって安心して働ける環境(組織)を作れば、従業員はその組織を愛し、仕事に情熱を注ぐので、企業は永続的に繁栄する」といった内容と言えるかと思います。
ドーパミンとオキシトシン
その中で、科学的な根拠や具体的な事例が列挙されます。
科学的な根拠の中では、ドーパミン、オキシトシンの分泌が比較されます。
オキシトシンは人と人との信頼関係から生み出されて、人を永続的に安心、幸福にさせるホルモン。
ドーパミンは業務の達成等で分泌され、人に強い満足感を与えるホルモンですが、これは短期的な効果しかない。
従業員を利益追求の道具とみなし、組織内で競争を促し、ひたすら数字を追いかけようとする時、この組織はドーパミンに依存した形で従業員を動機づけすることになるが、ドーパミンの性格上、この動機づけは長続きしない。しかも競争によって従業員同士の信頼関係は損なわれることになるので、オキシトシンは分泌されず、従業員は孤独・不安にさいなまれることになる。
その一方で、従業員が協力しあい、ひとりひとりが大事にされていると感じる環境を作る時、この組織ではオキシトシンが支配的になり、従業員は常に満足し、組織を愛することになる。結果、組織および仕事を大事にし、高いパフォーマンスを発揮するようになる。
なので、組織が永続的に繁栄するためには、ドーパミン依存な環境(競争、達成を大切にする環境)を作るべきではなく、オキシトシンが支配的な環境(安心、信頼を大切にする環境)を作るべきだ、ということになります。
永続的に繁栄する企業、しない企業
また永続的に繁栄する企業としない企業の比較もされています。
永続的に繁栄できなかった例として、ゼネラル・エレクトリックを率いたジャック・ウェルチが挙げられます。
ジャック・ウェルチは株主価値(shareholder value)至上主義のやり方で、アメリカで整理解雇ブームを引き起こした経営者です。
「伝説の経営者」とされる一方で彼の退任後、ゼネラル・エレクトリックはS&P グローバル・レーティングで最高評価のAAAを失い、彼自身も株主価値至上主義を「世界一まずい考え」と言ったとされています。
永続的に反映する企業の例として、コストコが挙げられています。
コストコは2009年4月の小売業の不況で売上が落ちる中、他社が解雇を始めているにも関わらず、$1.50の時給の引き上げをしました。「賃上げが長期的に見て、離職率を下げ、従業員の生産性、コミットメント、ロイヤルティを最大化する」という考え方からです。
また、コストコは社外の人間やビジネススクール出身者を管理職として登用するよりも、長く勤める従業員を管理職に昇進させる傾向があり、倉庫店の店長の2/3以上がキャッシャーなどからの昇進者を占めています。
シネックはこれもコストコのリーダーたちが従業員の安心、信頼関係(the Circle of Safety)を大切にしているからだと考えます。
BLITZSCALING
次は「Leaders Eat Last」と全く傾向の異なる本についてのお話をします。
BLITZSCALING(邦題:ブリッツスケーリング)です。
こちらも無理やり一言で表現すると、ネットワークで繋がれた世界では、ゆっくり成長していては、市場をいち早く占有した企業に駆逐されてしまうので、借金を垂れ流し、至るところで問題を起こしながらでも最短で市場を占有するために電撃的に急成長する(BLITZSCALING)方法、戦略の話と言えるかと思います。
市場をいち早く占有するためには、事業を急拡大させる必要があり、当然組織も急拡大します。
また、成長にはフェーズがあり、それぞれのフェーズで必要とされる能力や人材は変わります。
たとえば、事業の初期メンバーは、広い領域に渡ってプレイヤーとして具体的な作業をする必要があります。
ところが組織が成長にするのに伴い、具体的な作業をするのではなく人をマネージメントするか、もしくはもっと専門的な作業をしなければならなくなっていきます。そのどちらもできないとなると、より狭い領域に閉じ込められることになり、その従業員は疎外感を感じるようになっていきます。
また、成長の特定のフェーズを最短で乗り越えていくためには、他社において、すでにそのフェーズを経験し、知っている人材を外部から雇用するのが、最も効率的です。
ブリッツスケーリングがもたらすドーパミン依存な環境
Leaders Eat Lastでは、従業員を長期的に雇用し、内部昇進させるケースを、永続的に繁栄する企業の例として挙げます。その一方で、BLITZSCALINGでは、急成長のためにはフェーズにあった人材を外部から登用し、既存の従業員は企業の成長に合わせて再配置していくことを勧めます。
この二つのテーゼは相反してはいませんが、急成長を要求される企業、特にインターネットに関わる事業が直面する葛藤を表しているような気がします。
電撃的成長を必要とする事業は、Leaders Eat Lastが語るように、競争、成果を重視し、安心、信頼関係が損ねられるドーパミン依存な環境に陥りがちになるからです。
外部から管理職を登用する時、既存の従業員はその下に配置され、どうしても不満を抱えがちです。また外部から来た管理職は、既存のやり方と異なるやり方をもたらす(それが期待値でもある)ので、そこでも既存の従業員は心理的に不安定化します。
また組織規模が急激に増大すると、一人ひとりに期待される役割も急激に変わっていくことになります。
解決方法とそれに対する態度
BLITZSCALINGの中でも当然その問題は語られていて、その処方箋も提示されています。例えば、
- 組織規模の増大に伴い、従業員の役職が相対的に下がる場合、「役職」ではなく「責務」に意識をフォーカスさせる
- 既存の従業員は、外部からくる新しい管理職に「オープン」であり、外部からくる人材も入社後に何が起こるかについて学んでおくことに「オープン」であるようにする
といった具合です。
それらの助言は非常に重要だと思います。
ただ、BLITZSCALINGではテーマとして挙げられていない(Leaders Eat Lastでフォーカスされているような)従業員の安心、信頼関係構築も、結局は企業の電撃的成長の上では非常に重要のように思われます。
電撃的成長を妨げる要因を解決するため「仕方なく」従業員の安心や信頼関係の構築をしていれば、従業員はその真意を見透かすであろうからです。
また、ブリッツスケーリングが組織に対する急激な変化を要求する以上、ネガティブインパクトもまた電撃的に起こるはずで、ドーパミン依存な環境は永続的な繁栄を保証しないどころか、急激な組織崩壊も起こしかねないのではないかと思います。
ブリッツスケーリングは、インターネットに関わるような企業にとっては死活問題なので、最重要課題であることは間違いないですが、Leaders Eat Lastが語るような、従業員の安心や信頼関係の構築も、「車の両輪」のように組織の最重要課題なのではないかと思います。
以上、全く異なった視点から組織や事業を語った本を比較することで、自分の思うところを語ってみました。
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