エンジニアにおける「専門性」と「組織へのコミットメント」のジレンマ

株式会社iCAREのVPoE、安田です。
今日はエンジニアにおける「専門性」と「組織へのコミットメント」のジレンマについて書いてみたいと思います。

組織文化の理解や貢献を求められる

エンジニアとして企業に属していると、組織文化の理解やそこへの貢献を求められることがあります。
その時エンジニアはジレンマを感じるときがあります。
組織文化は、組織によって異なるため、そこへのコミットメントを、組織を越えたキャリアパスに役立てることは容易ではないからです。
別の言い方をすると、固有の組織文化へのコミットメントは、他社や他業種への転職に役立てるのは難しいとも言えます。

専門的な知識やスキルのほうが普遍的

その一方でエンジニアとして必要な「専門的な知識やスキル」は、容易に組織を越えて意味を持ちます。
組織固有の文化へのコミットメントは、その組織内での自分の価値を高めることはできますが、その価値は、組織の壁を越えることが難しいです。
そうなると、必然的にエンジニアは自分が所属している組織文化の理解やそこへの貢献よりも、普遍的で専門的な知識やスキルにエネルギーを費やしたほうが、キャリア形成上のリスクを最小化できると考えがちです。
これはエンジニアに限ったことではなく、専門性の高い職種においては皆同じことが言えると思います。

専門性の維持だけでも大変

また、専門職は当然ながら高度な専門性が求められます。
エンジニアの場合は、特に時間の推移とともに次から次に登場する新しい技術にさらされるので、得た知識は比較的素早く風化し、その価値は減衰していきます。
そのようなプレッシャーに晒されながら、この専門性を維持する努力の上に、組織へのコミットメントの努力をする、ということは大変な労力とそれこそそれらを両立させる高いスキルが必要ということになりそうです。

高い生産性には専門性の高さと文化の強さの両方が必要

そういった困難な事情にも関わらず、組織はこの文化へのコミットメントをエンジニアのような専門性の高いメンバーにも強く求めます。
文化の強い組織は生産性が高いからです。
最も生産性の高い組織は、専門性の高さと文化の強さの両方を兼ね備えた組織だということもできます。

組織文化へのコミットメントが重要である一方で、上記のような事情からエンジニアなどの専門性の高いメンバーは、これを忌避しがちです。
エンジニアはこのジレンマはどうやって解決すればよいでしょうか?

このジレンマへの解決方法はいくつもあると思いますが、自分は以下の二つが非常に重要だと考えています。

組織・事業への愛着を持つ

これはキャリアパスの形成とかリスクの回避とかとは別次元の考え方となります。メリット・デメリットの話を越えて、自分たちの「事業と技術」の「掛け合わせ」を「好きになる」ということです。
なんだそんなつまらないことか、と思われるかもしれません。
ただ個人的には仕事をする上では、「好きになる」ということが一番重要なのではないかと思います。
確かにこの「掛け合わせ」は組織の壁を越えて伝えることは難しいです。
その一方で「仕事の喜びを味わう」という観点からすると、この「掛け合わせ」こそが、その味わいの頂点とも言えるのではないかと思われます。

専門性と組織・文化へのコミットメントの両立が、新しい専門職の労働モデルであることを理解し、表現する

エンジニアの場合、専門的な「技術そのもの」が好きになってそれを追求し、そのスペシャリストになるという道もあります。
また多くの業務委託で働くエンジニアのように組織とは少し距離をおいた形で、高い専門性で事業に貢献するような働き方もあります。
それらはそれらで当然事業に高い価値を与えることができる労働モデルだと思います。
ただ、それらの労働モデルとは異なる形で、専門性と組織・文化へのコミットメントの両立をさせる働き方(多くの場合は正社員という形態をとる)もあります。
この働き方は中長期的に、もっとも強力な形で事業に影響力を与えます。
つまり「事業」に対してはこの働き方こそがもっとも「容易に」価値を与えることができる働き方だと思われます。

なので、この価値は当然組織を越えて理解されることが可能です。
他の組織にそれを伝えるのが難しいのは、単に「説明が難しい」というだけの話かと思われます。
転職の際に、履歴書や職務経歴書を「浅い」形式で記述したり、面接で自分の過去の業務を成熟しない形で説明する場合は、その価値を相手に伝えることはできないと思います。
ただし、それらを成熟した形で表現、伝達した場合、多くの企業において、ただ技術スキルを持っているだけよりもずっと高い評価を受けることができるのではないかと思われます。

以上のような二つの考え方をもって、多くのエンジニアの方々には、専門性と組織へのコミットメントのジレンマを乗り越えていただければと願っています。

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