フロム・ダスク・ティル・ドーンなみの唐突な展開。 深圳の成長を描ききったプロパガンダ映画「照相師(The Photographer)」
改革開放のプロパガンダ映画は、かつての深圳がいかにビンボーで毎日ブラック労働ばっかりで、人々も田舎者で気質が荒く殺伐としているかをえがいた後、今の深圳がいかにハイテクで格好良くて人々も優しいかを描く。
そのコントラストがデカいほど、水戸黄門の「この印籠が目に入らぬか!」的なカタルシスを得られる。
この「照相師(The Photographer)」もその典型だ。公開は2018年、改革開放40周年にまさにフォーカスして作られたプロパガンダ映画だ。(創客兄弟より1年古い)
歴史映画からスタートアップハイテク映画へ
カメラマン3代(改革開放第1世代50年代生まれぐらいの祖父、70年代生まれぐらいの父/母、90年代生まれぐらいの息子)の話なので、便宜上祖父・父などと説明していく。
映画:照相師は、1978年の宝安県から香港への大量離脱から始まる。祖母はそこで死んでしまう。残された祖父(当時40歳ぐらい?)と父(20歳ぐらい?)は、深圳で写真屋を始める。
1978-80改革開放が始まり、大量の出稼ぎ民が来ることでID写真を撮る写真屋は大ヒット。父は母と結婚することになり、子供も生まれる。
1982 深圳で株取引が始まり、母は株で大もうけして父と意見が合わなくなる。株は儲かるが、何度かの暴落のたびに悲劇が繰り返される。
父はもともと香港に憧れがあって、仕事に身が入っていなかった。
1996年の深セン株価暴落で呆然とする女性
歴史劇がハイテクハッカー映画に
110分の映画の中で前半60分ほどはそうした歴史劇が展開される中、息子が大学に入り、学友と写真ソフトの会社を立ち上げたあたりでいきなりハイテクハッカー映画のような展開になる。フロム・ダスク・ティル・ドーンなみの唐突な展開!
祖父と父、父と息子の間で、反抗期は繰り返される。
資金調達やアルゴリズムの開発で苦しんだ息子の会社も、最終的には高画質のスマホ写真ソフトを作って成功するのだが、なにしろ引退した写真家の祖父を前に出す台詞が
「このスマホは、父の友達の会社で組み立てられたもので、中のチップは外国製だ。だけどいつか、中のチップまで自分たちで作ってみたい」である。前半の歴史人間ドラマはどこへ行った?
コメディの創客兄弟と違ってシリアス映画の照相師でも、唖然とするシーンはいくつかあった。
成長を駆け抜けた40年間。
実直だけど投資はできない祖父、ちょっと稼ぐと芸術写真を撮りだす父、株にハマって家を顧みない母、工場の浮き沈みが激しい父の友人など、過大なエネルギーを抱えた人たちが商売での天国と地獄を繰り返す様は「創客兄弟」にも共通していて、深センのエネルギーそのものだ。
ハイアンドローを繰り返しながらも、主人公一家は豊かになる。40年間深圳で働いていれば当たり前だ。3階建てのショップハウスで暮らしていた家族はタワーマンションに住み車はベンツになる。それでもリーマンショックなど、天国と地獄のつづら折りは続く。
そうしたてんやわんやのしめくくり、どうハッピーエンドに盛っていくかと思ったら、エンディングに、実際に行われた2018年の「改革開放写真展」が登場する。祖父、父の撮影した写真が、息子のソフトで撮った写真が、深圳の歴史の一部として紹介される。ずっとテンションが高かった映画が、急にリラックスする。
その写真展のなかで、冒頭に紹介される、株暴落で呆然とする女性写真の前で立ちすくむ上品な婦人が「これ、18歳の時の、30年前の私だわ!」
そして、「すみませんが、撮影してよろしいですか?」と断ってその婦人を撮影する写真家(主人公達とは別だけど、カメラマン友達ではある)を見て
「あなたは、30年前に私を撮影したのと、同じカメラマン!」
「申し訳ありません。あのときは一言かけるなんて思いつかなかった。申し訳ありません。」
「いいえ、何が申し訳ないものですか。これこそありがとうです!」
そして、聴衆全員の大拍手。映画はまたテンションを上げてエンディングへ。
30年前の暴落のシーンと今。持っているカメラ、人々の服装、表情、ゆとり、欧米人、すべてが違う。かつてのカオスなエネルギーも、今の洗練も、どちらも間違いなく深センそのものだ。プロパガンダとわかっていてもグッとくるシーンである。
このプロパガンダが効果的なのは、誇張はあってもそれが事実だということだ。今の深圳は中国全土でもっともボランティアの割合が多い場所になっている。お年寄りに席を譲るとか、ゴミを捨てないとか、そういうところでも模範都市の一つだ。そして、今も深センはエネルギーに満ちている。
創客兄弟に比べると、さらにプロパガンダが前面に出すぎていて映画としての完成度は低いけど、深圳の成長を喜べる人にはお勧め。英語字幕もあるし、ストーリー的にわかんないところはないので、理解はもっとしやすいとおもう。下のサイトでVPNなしで、日本からフル版が視聴できる。