山下達郎「クリスマス・イブ」覚書
1983年のアルバム「MELODIES」B面の最後に「ひっそりと」収録された1曲。
ええ、ひっそりと。
達郎さんが、そう言ってたんです。(「TRESURES」曲目解説で)
今でこそ「誰もが知る、クリスマスのスタンダード・ナンバー」だと思う。
私自身も、「山下達郎と言えば、クリスマス・イブ」と、ふんわり思っていた。
今となっては再発盤いっぱい買いそろえて、今年もクリスマス・パッケージが出て、かさむ出費とCDの収納スペースが…ゴホンゴホン…
「しのごの良いから、オススメのクリスマス・イブ収録CD教えろ」と言う方は、記事を「結局、クリスマス・イブを聴くなら」まで飛ばしてください。
そこからも、しのごの書いてます。
結構ある、曲のバージョン違い
「クリスマス・イブ」には、曲自体にバージョン違いが存在する。
CDごとにマスタリングが違うのは当然なのでカウントしないが、ミックス違いをバージョン違いとしてカウントするなら、知ってるだけでも、
1.オリジナルの日本語バージョン
2.英語バージョンと、そのカラオケ
3.英語バージョンのリミックス、そのリミックスのカラオケ
4.キーがDのデモバージョン
5.ライブ音源
ざっくりこれだけある。
1.オリジナル・バージョン
アルバム「MELODIES」やベストアルバム「TRESURES」「OPUS」でも聴ける。シングルも当然コレが1曲目に収録されている。
日本語の、達郎さんの歌入りなら、漏れなくコレだろう。
どういった再発モノでも、リイシューでも、山下達郎のCDで「クリスマス・イブ」とだけ曲目に書いてあれば、大概この音源が入っている。
バージョン違いで収録される時は、その横に色々書いてあると思う。
2.英語バージョンと、そのカラオケ
アルバム「Season's Greetings」1993年オリジナル盤(1999年再発含む)と、シングル「クリスマス・イブ」2000年盤にのみ収録されている。
主に何が違うのかと言うと、ピアノの入るタイミングが、2拍だけ早い。
他にも細かい違いはあると思うけど、特筆すべきはソコ。
英語バージョンの初出は、1991年のビデオ作品「TATS YAMASHITA PRESENTS CHRISTMAS IN NEW YORK」。
恐らく、この為に英語で歌を録音したのだろう。
ここから話が長くなる。
この「クリスマス・イブ」を含めたこの時期(1983年頃)の達郎さんの作品、おそらくオリジナルミックスでのカラオケ音源は作っていなかったんじゃないかと思う。
「クリスマス・イブ」が世間的に注目されだしたのは、1988年にJR東海「クリスマス・エクスプレス」に使われた後。
ベストアルバム「TRESURES」にて、達郎さんによる曲目解説があり、「当時のシングルはこんな地味な曲ではダメでした」とか、88年からブレイクした事について「キツネにつままれた気分でした」とか諸々あるので、相当な作り込み具合の一曲ながら、あまりウケは期待してなかった模様。
しかし、ヒット後、海外でも「クリスマス・イブ」をカバーする歌手が出て来た中で、各解釈による英詩でのカバーが出回り、大本の達郎さんサイドで解釈一致の英詩に統一するために、達郎さんご本人の英詩バージョンが作られたのだろう。
その時に、元のアナログテープから演奏をリミックスして、新たに英語の歌を乗せたのが英語版、更にそこからカラオケを作ったのが2000年盤のシングルに収められているのだろう。
簡単に纏めれば、「オリジナルミックスのカラオケが存在しない曲に、英語の歌を載せ直すために、オリジナルに似せたリミックスの演奏に英語の歌を載せ、後でそのミックスからカラオケを作った」と考えるのが自然。ややこいな(説明下手)
詳しい人向けに言うと、達郎さんの「RIDE ON TIME」を筆頭に、「CIRCUS TOWN」「WINDY LADY」「2000tの雨」「夜の翼」のカラオケ音源は、曲の制作当時に作られたオリジナルのミックスから、ボーカルだけ抜いたオリジナル・カラオケが作られているのだけれど、「LOVE SPACE」「あまく危険な香り」「パレード」「DOWN TOWN」あたりは、オリジナルミックスのカラオケは無くて、再発の必然性がある時に、リミックスされてから作られたカラオケだったりするハズ。音の定位とかリバーブとかEQ処理とか、そもそも楽器の鳴り方が違って聴こえます。ただ、カラオケのテープ自体、あんまり使うことが無いのか、テープ劣化も少ないみたいで、「CIRCUS TOWN」「WINDY LADY」あたりは、2002年再発のCDで聴いてみると、歌入りよりカラオケの方が高音域が強く聴こえます。同じミックスだろうけど、カラオケのマスターテープはあまり使われず、そのまま保存状態が良くて、ヘタらなかった、っていうテープの個体差の結果でしょうかね。この説明要らんし、そもそも説明間違ってるだろうし、誰が分かるんだ
3.英語バージョンのリミックス、そのリミックスのカラオケ
これはシングル「クリスマス・イブ」の2003年盤以降で採用されている。
よく聴くと、ピアノの入るギリギリ手前から、フェード・インでピアノが入って来るのが分かる。
リミックスされた理由は定かじゃないが、オリジナル音源とは違う2000年盤収録ミックス特有の2拍早いピアノの入り方、そもそも2000年盤でオリジナル版と英語版を聴き比べると結構露骨な音量差があるので、これらを改善するためのリミックスだったのだろう。
2003年盤『以降』に採用されている通りで、シングル2003年盤には「2003 New Remix」と明記してあるが、2013年にリマスターされて発売された「Season's Greetings (20th Anniversary Edition)」と「クリスマス・イブ (30th Anniversary Edition)」、その後の「クリスマス・イブ」限定盤にも、何の表記もないが、この2003年のミックスが引き続き使われている模様。
つまり、中古市場やレンタルCDなどで、当時流通していたCDを品番から頑張って発掘する以外に、ピアノの入りが2拍早いバージョンを聴く事は既に出来ない。
英語版が出た上記『2.』の時点で一度リミックスされていて、更にミックスをし直すという、かなりの拘りの末に生み出されたのが「2003年ミックス」という事になる。
4.キーがDのデモバージョン(謎)
2013年に「MELODIES」の30周年盤がリリースされ、掘り出しモノの音源がボーナス・トラックに収録されている。
その中に、「クリスマス・イブ (Key In D)」がある。
達郎さんによる解説によると、未完成のオケ、仮歌の状態。いわゆる「デモ」と呼ばれる音源である。
そして、説明というか、憶測がこう書いてある。
クリスマス・イブには、パッヘルベルのカノンが、達郎さんのア・カペラ仕立てで挿入されている。
私の知識が間違っていなければ、パッヘルベルのカノンは「Key In D」で、クリスマス・イブのオリジナルは「Key In A」なのだ。
上記引用の解説は、記憶違いというか、単なる勘違いだろう。
考えられる可能性としては、「パッヘルベルのカノンを多重録音によるアカペラで挿入する前提で、一度、キーをDに合わせたデモを作った。だが、デモの段階で歌の出来に納得いかなかったか、間奏のパッヘルベルのカノンをDでアカペラするのは困難と判断し、キーをAに改めた上で、正規音源を制作した」のではないだろうか。
こんな細かい話をして伝わるか疑問であるが、そもそも達郎さんの曲で、Dメジャーの曲は数少ない。もしかしたらあるかもしれないけど、そもそも私は聴いた覚えも無い。(ニワカだからね)
感覚的な話だが、Dメジャーは、ヤケに明るく聴こえる音階。達郎さんの曲だと、Cメジャー、C#(D♭)メジャー、Gメジャー、Aメジャーが多い。これは、達郎さんが聴いた音楽の影響に基づく選択だろうと思う。(正確にはメジャーなのかマイナーなのか色々あるけど)
5.ライブ音源
2008年5月5日、浜離宮朝日ホールにて。
達郎さんのアコースティック・ギター、難波弘之さんのキーボード、伊藤広規さんによるベースの、アコースティック小編成でのライブ演奏音源。
これはシングルの30周年盤、2014年盤、2019年盤で聴ける。
数多い再発盤
ここまで、あくまで曲の音源違いについて焦点を当てたが、再発盤についても書いておこう。
と、言うのも。
達郎さんオフィシャルサイトにて、『再発ヒストリー』というのがあるのだが、2014年を最後に更新が止まっていて、それ以降の再発について、Wikipedia先生もロクに記述されていない状態が続いている。誰か加筆したれよ(他人事)
なので、ここに、私が所持している12cmCDや、ネットに転がっている情報を頼りに、纏めておこう。
(8cmCDとかレコードとかの類いは、1枚も持ってないので割愛、ニワカなんですエェ…)
ざっくり再発まとめ(2000年以降の再発)
2000年(WPCV-10034、2000年リマスター)
2003年(WPCL-10059、2003年リマスター、英語版・カラオケはリミックス)
30周年初回盤(WPZL-30763/4、2013年再発、ショートフィルムのDVD付き)
30周年通常盤(WPCL-11665、2013年再発)
2014年盤(WPCL-12036、追加収録、後述)
2019年盤(WPCL-13162、追加収録、後述)
2020年盤(WPKL-10006、7インチ限定レコード)
2021年盤(WPCL-13340、追加収録、後述)
ざっくりクリスマス限定・パッケージまとめ
2012年
2003年CDに、2012年発売のベスト盤「OPUS」ジャケットの、とり・みきさんによるデフォルメキャラ「タツローくん」がサンタ姿をしているデザインのBOXを被せた。
この年、ベスト盤「OPUS」通常盤も、「タツローくん」がサンタ姿になったBOXを被せて出している。
2015年
30周年通常盤に、SUGAR BABE「SONGS」40周年再発に掛けて、金子辰也さんデザインのBOXを被せた。
2017年
30周年通常盤に、「COME ALONG 3」発売に掛けて、鈴木英人さんデザインのBOXを被せた。
2018年
30周年通常盤に、映画「未来のミライ」と「ミライのテーマ / うたのきしゃ」のタイアップに合わせて、青山浩行さん原画、細田守さん監修デザインのBOXを被せた。
2022年
30周年通常盤に、アルバム「SOFTLY」ジャケットの、ヤマザキ・マリさんによるデザインのBOXを被せた。
アルバム「SOFTLY」でも、達郎さんの肖像画を基に、熊に置き換えたデザインのパッケージが出ている。
2014年限定盤
この年、映画「MIRACLE デビクロくんの恋と魔法」とのタイアップがあった。これに合わせて、30周年盤の音源に加えて、「THE CHRISTMAS SONG (Vo.竹内まりや) ~ HAVE YOURSELF A MERRY LITTLE CHRISTMAS (Special Medley)」が追加収録されている。この音源、Wikipediaの「Season's Greetings」に記述がある。
このメドレーを、そのまま収録したのだろう。メドレー形式での音源は初出、各曲は単体でリリース済みだと思う。
2019年限定盤
この年、新作「RECIPE」を発売。「RECIPE」では最新ライブ音源として「サウスバウンド #9」の2019年ライブ音源が入った。
これに合わせて、「クリスマス・イブ」2019年盤では、30周年盤の音源に加え、「Bella Notte」と「Smoke Gets In Your Eyes」の2019年ライブ音源が追加収録された。どちらも「Season's Greetings」収録曲。そこから歌を抜いたカラオケを用意して、ライブで歌い上げる形で披露している。
オマケとして、ジャケットサイズで、「RECIPE」ジャケットと同じ構図ながら、クリスマス風にアレンジされたデザインのグリーティングカードが封入されている。
2021年限定盤
このCDでは、クリスマス・イブの英語版、ライブ版が外された。
2020年から続くコロナ禍。
外出自粛の要請も相まって、より「おうちカラオケ」「おうちアカペラ」が捗ったらしい。サンデー・ソングブックでは5月に「おうちカラオケ&おうちアカペラで棚からひとつかみ」とかやっていた。
その後も不定期にラジオでのオンエアがあり、その中から計5曲「おうちカラオケ」「おうちアカペラ」が選ばれた。
特筆すべきは「Misty Mauve」「おやすみロージー」である。
鈴木雅之さんに提供した「Misty Mauve」は青山純さん生ドラム、達郎さんセルフカバーだと打ち込みのドラムで、歌詞も違ったりする。
「おうちカラオケ」では、青山純さん生ドラムの音源で、鈴木雅之さんの歌詞に合わせたらしい。
「おやすみロージー」に関しては、曲全体を通して、アカペラスタイルなのだ。
鈴木雅之さん提供の音源だと、終始楽器が入っていて、達郎さんセルフカバーでは曲の途中から楽器が入るエディットだったが、この「おうちアカペラ」では、全て達郎さんの声と指パッチンだけになっている。これが意外と聴き応えがある。
ただ、あくまで「おうちカラオケ」「おうちアカペラ」であり、メインの歌声が少し不自然に浮いて聴こえるような気がする。「Misty Mauve」も、ドラムの音がちょっと馴染んでないミックスに思えてしまったり…。
元はラジオでオンエアするつもりで、「おうち」での「カラオケ」と思えば、これ以上のクオリティ求めてもしょうがないんですが(生意気)
結局、「クリスマス・イブ」を聴くなら
アルバム「MELODIES」が一番良いだろう。
特にリマスター効果とかは考えていない上で、
実は一番大事なのが「黙想」という、「MELODIES」収録曲の存在。
「黙想」については、
とのこと。
シングルで「クリスマス・イブ」単体をリピートして聴くのも良いのだが、この「黙想」が前にあるのとないのとでは、「クリスマス・イブ」を聴くまでの心情が変わって来る。オリジナル・アルバムならではの醍醐味だろう。
アルバム全編を通して聴かなくても、一度は「黙想」から「クリスマス・イブ」の流れで聴いてみて欲しい。
ただ、まぁ…
「Key In D」は、曲目解説で本人が書いてる通り『珍品』で、別に聴かなくても無問題で、そこを基準にどの盤がベストとかは無いので、30周年盤でもオリジナル盤でも、どっちでも良いだろう。
個人的な趣味嗜好によるが、何気に「ひととき」とかも良い。夏になれば「高気圧ガール」「悲しみのJODY」聴けば良いので、アルバム一枚を買った流れで、オールシーズン、山下達郎さんの世界を堪能してみて欲しい。
…敢えて、マスタリングにも触れるなら。
「MELODIES」30周年盤は、結構音がデカくなってる。しかも、音にキレがある。イマドキの人なら、30周年盤が良い入門盤だろうか。
「MELODIES」旧盤は、音量こそ小さいものの、『アナログで録音された音源です』という暖かい音がそのまま入っている気がする。音量を容易に上げられる環境を持っているのなら、旧盤が良いだろう。
初期寄りの盤だと、よりアナログさを感じられるだろう。
ちょくちょくリマスターされてたようで、新しいものほど、少しだけ音量が大きくなっている。
「OPUS」は、そもそもオールタイムベストで、古い音源から新しい音源まで、30年近く年の差がある音源に、出来る限り統一感を持たせるためのマスタリングが施されている。「そのマスタリングが、クリスマス・イブにとって、一番良いマスタリング」とは思えないので、よほど達郎さんを深掘りするつもりが無いのなら、コレじゃなくて良いだろう。
「3枚組49曲の中の、たった1曲」ってハードルが高すぎる。(「硝子の少年」セルフカバーがあるから、初回盤なら迷わず買ってほしいけど)
シングル「クリスマス・イブ」だと、30周年盤は「もうこれ以上、音量を上げたら世界観崩壊する!」ってところまで音量を持ち上げて、キレッキレな音に仕上げている気がする。こんなマスタリングしといて、更に40周年盤が出て来る事はないだろう。いやまぁ出て来るかもしれんけど。
何気に、探して出てくるなら、音量が結構小さい2000年盤がオススメかもしれない。
音量が小さいお陰で、大袈裟にかかっているボーカルのリバーブが引き立ち、心魅かれる。音量がデカいと、その分、リバーブそのものも近くに寄りすぎて聴こえるので、正直、このくらいの音量感が一番余裕をもって楽しめる。2000年盤だと、更にレアなミックス違いも楽しめるから良いぞ
【余談】
Wikipedia先生によると、シングルでのB面・カップリングの「White Christmas」も、一番最初にリリースされた12インチのシングルレコードがレア音源らしい。
それ以降に流通しているレコード・CDでは再録音された別テイクらしい。
その初期版は聴いたことない。
でも、そこまで後追いするのは…もう良いかな
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