演技レッスン【『梨泰院クラス』と『六本木クラス』の演技の違い②】
こんにちは。
演技講師、アクティングコーチのスギウチ タカシです。
この記事でが演技力アップに役立つような内容を不定期に書いています。
今回のテーマは【『梨泰院クラス』と『六本木クラス』の演技の違い②】です。
おかげさまで、前回の記事が好評だったので第二弾を書いてみようと思います。
まず、簡単なぼくの自己紹介ですが
ボクは元々20代前半から俳優として活動していて、今から約7年前に俳優から演技講師、アクティングコーチに転向しました。現在も講師として活動中です。今までたくさんのプロの俳優、女優さんのコーチングやオーディション、撮影本番の準備のお手伝いをしてきました。
俳優時代は全く演技のセンスがなく、事務所の先輩から満面の笑顔で「タカシは本当に芝居が下手だなぁー」と爽やかに言われるほどでした。その為、たくさんの演技レッスンやワークショップに通って色々なメソッドを学んできて今に至ります。
では本題に入っていきましょう。
『梨泰院クラス』と『六本木クラス』の演技の違い②
前回は両作品の第2話、刑務所での面会のシーンを挙げて韓国版と日本版のお互いの演技のアプローチの違いを書いてみました。↓
今回は「女同士のバトル」が繰り広げられる、スア(優香)とイソ(葵)のカフェでのシーン(梨泰院クラス第4話、六本木クラス第3話)を見てみましょう。(ネタバレあり)」
しつこい男からセロイ(新)に助けてもらったイソ(葵)は、お礼がしたいと言いますが、あっさり断られます。
何とかセロイ(新)との距離を縮めたいイソ(葵)は「集客について教える」といって、彼の気を引くことに成功します。(スア含め三人でカフェへ)
カフェでセロイ(新)がコーヒーを取りに席を外すと、イソ(葵)に対して警戒しているスア(優香)との女同士のバトルに発展していきます。
女同士のバトル
まず『梨泰院クラス』から。
シーン冒頭、三人でいるときにスアはイソをガン見です。
(口許には余裕の笑みも…)
ハッキリ言って、恐いです。
(それに対して、イソの目線も若干泳ぎます。そしてセロイに助けの目線を)
まずはお
スア姉さまからの先制攻撃です。
そしてセロイがイソに宣伝のことについて聞きますが、すぐに二人(セロイとスア)のことに話題を変えます。宣伝をエサにして、イソは二人の関係を探るのが本当の目的でしょう。
戸惑っているセロイの代わりにスアが攻めまくります。
「友達よ」
「でもセロイは私のことが好きなの」
このふたつのセリフ、セロイにとっては心穏やかではないと思うんですが、このときスアは一切セロイのこと(反応)を見ません!!(セロイ置いてけぼり状態)
イソに見せつけているんですね「反応を見なくても『わかる関係だ』」と。
そして、今思い出したかのように「もう十年よね?」とセロイに尋ねます。
(このときになって、やっとセロイを見ますが今度はイソの反応を見ません)
今度はイソの反応を見ないことで、イソを「蚊帳の外」にしようとしますが、セロイが答える前にコーヒーのブザーが鳴ってしまいます。(セロイにとっては助け舟!!)
セロイが「コーヒー取って来る」と立ち上がったときも、スアは余裕綽々に「サンキュー」と返します。
スア姉さまの怒涛の攻撃です!!
演技テクニック的にも「『間接的』に相手に影響を与えていく」という、高度なテクニックです。三人以上のシーンを演じるときに有効な演技法です。
それに対して『六本木クラス』では
まず余裕を持って相手を見ているのは優香ではなく、葵です。どちらかというと優香は困った顔をしています。
新が葵に宣伝のことを聞き、答えながらも葵が二人の関係のことを聞くと、新は戸惑い、優香は答えずに新の反応を見ます。そしてさらに「付き合ってるんですか?」と若者にどんどん突っ込まれます。
葵に「付き合ってるんですか?」と聞かれると苦笑いをして否定し、
「新は私のことが好きなんだよね」と事実を言い、「もう十年以上になる?」と新に質問します。新が「うん」と答えると満足そうに葵を見ます。
どちらかというと葵の方が押し気味、優香は防戦、ということだけではなく韓国版と一番違うのは
「すでに葵をライバルとして見ている」ということです。
スアはこの時点では、イソをライバルと認定していません。ヒヨッコ扱いです。そして自分の力を見せつけ、イソを黙らせようとしています。それがシーン後半ひっくり返るのが見どころなのですが、
日本版ではお姉さん風を装うだけで、葵を動かしていません。
なのでシーンのうねりがなく、ただ事実のみが情報として観客に届きます。
セロイ(新)がコーヒーを取りに行った後の、女性二人のシーンも見てみましょう。
カフェシーン(後半)
まず日本版から。
二人だけになると、優香は葵に唐突に聞きます。
「もしかして、新のことが好き?」
そうすると葵は
「うーん、好きかどうかわからないけど興味はあります」
と答えます。
そして会話は続くのですが
この件、ただの質問に対する答え、Q&Aになっちゃってるんですよねぇ…。
もしくは自分の感想を言っているだけだったり。
それに対して韓国版の方は、二人だけになるとスアはイソのSNSのことを『褒めます』。イソは『イヤミ』で応酬します。
そしてスアが「もしかして、セロイが好き?」と上から目線でイソに尋ねます。
スアはイソのことを「世界の中心は自分だと考える、温室の花」というセリフにもあるように、いわゆる「世間知らずのかわい子ちゃん」として見下して見ています。
そしてイソの逆襲が始まります。
スアの「営業停止を食らわせて、セロイに悪いと思わないの?」という言葉に対して、何かに気づきます。このときの反応が見事なんですよね。
『気づき(レセプション)』→『判断(アシミラション)』→『行動(リアクション)』
この流れが自然に行われています。
イソとして「本当にその場で考えて判断」しているので、自然な反応が起きています。
それに対して日本版の葵は、カットの関係もありますが『判断(アシミラション)』の時間が非常に見えにくいです。
やもすると「待ってました!!」という反応にも見えなくもないです。
葵として反応しているというよりも、葵というキャラクターを演じているように見えてしまいます。
イソに戻りましょう。
反撃の糸口を見つけたイソは怒涛の攻撃を見せます。
特に「あなたがチクったの?」のセリフの後は、スアの反応をみて弄んでいます。自尊心の高いスアからしたら、年下に弄ばれるのは相当の屈辱でしょう。無表情を装っていますが、心の中は穏やかではないのが見て取れます。
それともうひとつ注目してもらいたいのは、このときにスアがイソを見る『視点』が変わっていくことです。
「世間知らずのかわい子ちゃん」から「手強い相手」としてイソへの認識が変わります。(ライバル認定)
どちらも相手の反応にリアクションし合いながら演技をしています。(外向的演技)
日本版ではどうでしょう。
葵に「もしかして、通報したのお姉さん?」と突っ込まれてから優香は黙りますが、意識は自分の方に向いています。(内向的演技)心ここにあらず状態で、「気持ち」を演じてしまっています。
そうなることで、その後の葵のセリフが「一人芝居」になっています。自分で話して、納得して、次の言葉につないでいくという、お互いが独立した演技です。
韓国版と日本版では、ここでも演技のアプローチが真逆になっています。
その後スアはセロイが戻ってくると、イソの「脅し」(通報した事実を知ったらセロイが変わるのでは?)が無意味だということを「証明」するために、警察に通報したのは「自分だ」と告げます。(これはウソ)
その証拠に「アンタの店を警察にチクったのは、私よ」というセリフの「〜チクったのは」まではイソを見ながら言います。
そして、そんな事実を知ってもスアのことが「好きだ」という真っ直ぐなセロイの姿を見て、スアは「時間と共に汚れてしまった」自分に対する嫌悪感や、居た堪れなさなど色んな感情が渦巻き、その場を去ります。
その後、お酒に溺れるのも納得です。
優香の場合は、「アンタのお店を警察に通報したのは私だよ」というセリフを、下を向いた後、新を見ながら言います。葵のことは一切見ません。
純粋な『告白』になっています。
「ちょっと残念だけど」という新のセリフを伏し目がちに聞いた後におもむろに帰りますが、この反応だと「自分が警察に通報した罪悪感」から居た堪れなくなって、その場を去っているように見えます。
実際には自分は通報していないので、ちょっとチグハグな印象です。
さいごに
2回に渡り、『梨泰院クラス』と『六本木クラス』の演技の違いを書いてきました。
日本版と韓国版の大きな違いは「相手のセリフに反応している演技」なのか、「相手よりも自分の気持ちを優先させている演技なのか」だと思います。
予算の違い、尺の問題など他の要因もたくさんあるとは思いますが「演技」だけに特化した場合、「相手のセリフを聞いて反応する」という基本の部分だけでも出来ているだけで、全然シーンの印象は変わってくると思います。
「セリフを聞いてる風」と「本当に聞いてる」のは全然別物ですよ〜!!
では
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スギウチ タカシ