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テレビの光と影〜中居正広を守る無自覚なカルテル
テレビレギュラー時代、フジテレビのみならず、日テレ系でも、TBS本社でも、テレビ朝日でもうんざりするような話を見聞し続けた。3年間、ニューヨークタイムズで働いていた者からすると、日本のテレビ局(マスコミすべて)は信じがたい前近代的な「犯罪社会」そのものだった。
そのうちのいくつかの放送局の「事件」については、私は問題を直接上層部(経営陣や役員)に伝えて、改善や解決を促したものだった。結果は予想はしていたものの、やはりひどいものとなった。
たとえば、ある局では、私に相談を持ちかけた複数の女子アナは突然クール終わりで降板となり、私自身は中間管理職(コンプライアンス室長や編成局長)から、「上杉はとんでもないやつだ。会社の内部事情にまでクビを突っ込んで、タレントや女子アナたちを唆している」と危険視された。
そのうえで、局の内外に対して、その理由は明かされないまま「上杉は要注意人物」のお触れがまわり、プロデューサーやディレクターの態度が急変することになる(ちなみに同性の女子社員が加害になることも少なくなかった)。
こうした「事件」の数々はスタッフのみならず、当然ながらスタジオ出演者も知っていた。あるTBSの番組(上杉は非レギュラー)では「キャスターのセクハラが常態化し、(女子アナたちが)かわいそうだから、注意しましょうよ」と共演の有識者や評論家たちに声掛けしたが、誰ひとり行動に移す者はなかった。誰ひとりだ。放送ではモラルを語り、いまなおテレビやラジオで不正を追及しているコメンテーターたち(国会議員も含めて)の誰ひとりである。
私は、自身の会社であるNOBORDERを救済の場(オプエドなど)としたうえで、困ったことがあったら遠慮なく言ってくれと伝え、弁護士(複数名契約)を用意して声掛けを始めた。その上で、女子アナたちの逃げ場(シェルター)として、マネジメント会社(株式会社AICC)も作った。
また、放送局退社後も業界で干されないように、音事協の幹部たちにも仁義を切ってまわった。その試みは、当初、女子アナたちの退社後の「奴隷契約」(一年間仕事をしてはいけない等)を含むさまざまな待遇改善の場として機能する予定だった。
テレビ業界からの反撃はすぐに始まった。「NOBORDERには人材を供給しない。仮に、上杉の番組に出たら、うち(テレビ)では使わない」という脅しが女子アナたちにされることになる。そのお達しは徹底しており、あのMXテレビのみならず、ラジオ局にも及んだ。遂には、ジャニーズ事務所のみならず、吉本興業やAbemaTVからも上杉隆並びに上杉の会社の番組への出演見合わせを正式に伝達されるまでになる。
そもそもこの国のメディアに正義はないと思っていたが、ここまで酷いとは想像できなかった。これは、テレビだけではなく、マスコミ全体の病理なのだ。今回の松本人志と中居正広とフジテレビの問題は氷山の一角にすぎない。うんざりするような「事件」は横行し、業界は腐敗しきっている。だが、それらは「有名」や「人気」のまばゆい光の影として、存在を抹消されている。今なおテレビやマスコミに登場している人たちに良心の呵責というものはないのだろうか?テレビ時代にともにスタジオにいた彼ら彼女たちを観て、いつも思う。
ちょうど25年前(1999年)、政界(鳩山邦夫事務所)からジャーナリズムの世界に足を踏み入れた私には希望しかなかった。12年前(2012年)、公益社団法人自由報道協会(日本ジャーナリスト協会)やNOBORDERを創った私には夢があった。日本のメディアの不正と闘う準備はできていた。しかし、いま、その長い旅は終わる。私自身は力が無く、ほとんど何もできなかったが、なによりの救いとして、今こうしてテレビをはじめとしたマスコミの悪行がネットなどの力によって(ネットもネットで大きな問題を抱えているが)、世の中に晒され始めたことだ。
メディアはきっと変わるだろう。いや変わらなくてはならない。ただ、決して忘れてはならないのは、ここに至るまでに、もがき苦しんで、哀しみの淵に落ちた人たちがたくさん、それこそ数え切れないくらいたくさんいたということだ。彼ら、彼女らの犠牲なくして、光は届かなかったのだから。