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Lucinda Chua 『YIAN』 / 山紫水明のような幽玄で穏やかな音楽世界へと導く1枚

今年からは毎週1枚取り上げて何かしら感想を書いていこうと密かに目標を掲げていましたが、やはりそんな暇もなくただただ忙しない毎日が過ぎていきます。都会の喧騒や社会のノイズ、人間関係の面倒なこと、いろんなことから逃避して、桃源郷のような幻想的で落ち着いたところに行ってみたくなることもあるでしょう。私もその一人です。そんな中、個人的にもリリースが楽しみで仕方なかったアルバムが1枚ドロップされました。まさに異次元の癒しの泉へと誘うような最高峰のヒーリングミュージック。
それが名門レーベル〈4AD〉が送る、サウス・ロンドン拠点に活動するシンガー・ソングライター/マルチ奏者/プロデューサーであるLucinda Chuaのデビュー作『YIAN』です。

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Lucinda Chuaは以前にChris Summerlinと共にFelixというデュオで、これまでにDeerhunterなどを輩出したアメリカの名門レーベル〈Kranky〉から2作のアルバムを発表しています。その後は写真家としての活動やFKA twigsの作品『MAGDALENE』の時にチェリストとしても参加していました。
2019年より現在のソロプロジェクトを始動して、『Antidotes(解毒)』と題した2枚のEPを出したのち、満を辞して〈4AD〉から今作『YIAN』がリリースすることに。

中国とマレーシアをルーツに持つ父とイギリス人の母の元で生まれ育った彼女は、今作で自身のそのルーツと、トラウマからの解放を描いているそうです。それもあって中国語の"ツバメ"を意味する『YIAN』をタイトルにつけています。アルバム全体的にも希望と多幸感漂う作品になっていて、春の到来を知らせる渡り鳥として有名な"ツバメ"のような、まさにタイトル通りのアルバムに仕上がっています。

弦楽器の壮大なストリングスや空間を漂う幽玄なアンビエント。そして耽美的で澄み切った流麗な歌声。そんな最小限に抑えたオーガニックなサウンドは、まさに山紫水明のような優雅で穏やかなもの。そんな音楽を一聴でもすれば、邪悪なものを全て浄化されるような神聖ささえも感じます。
アンビエントやエレクトロニカ、ドローン、ニューエイジ、そしてポスト・クラシカルなどさまざまな音像を内包した本作は、マルチ奏者である彼女の才能が発揮されたシネマティックで奥行きのあるサウンドも魅力的です。
1曲目「Golden」から、音楽に身を委ねても大丈夫だと確信できる安心感や懐の大きさは作品通して終始感じます。

ラストはシンガポール出身で現在ロンドンを拠点に活動するyeuleとのコラボ曲「Something Other Than Years」で幕を閉じるわけですが、最後の最後まで豊かな最高の音楽体験を与えてくれる、2023年屈指の名作といったも過言ではありませんね。約37分半による神秘的でドリーミーな彼女の音楽世界に浸り、心体どちらにも安らぎを与えてくれる極上のヒーリングミュージックです。未聴の方はぜひチェックしてみてください。

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