中国へ工場見学に行ったら、廃墟に連れていかれた話
こんにちは。
KUMAGOROUです。
今日の話は、今から5年くらい前のものです。
色々思い出して書いています。
オンラインでもオフラインでも、ビジネスでは先入観でモノを見たり考えたりせず、常識や当たり前を疑う感性が必要ですよね。
今回はそんな話(?)です。
当時、私は自動車メーカーで働いていました。
ある中国資本部品メーカーのドライブシャフト(写真)という部品の価格が衝撃的に安く、その理由を誰も説明できませんでした。
その安い理由と日本でも使えるか?が議論になっており、
私と中国現地法人のエンジニアが共同で調査する事に。
ドライブシャフトとは車輪へ動力を伝えるために必要な部品であり、
そのため非常に要求される品質が厳しいものです。
1本あたり10数個の部品から出来ています。
一般的に小さな構成部品を下請け企業で製造して、
最終的に部品メーカーが組立てて自動車メーカーへ納入しています。
今回の話は、このドライブシャフトを作っている完全中国資本の部品メーカーを訪問し、その下請け企業に行った時の話です。
羽田(たしか)から中国は杭州へ。
出張ベースですが中国へは1990年代後半から20回以上渡航しています。
もちろん中国語は全く喋れませんが・・・。
色々ありましたが割愛(出張の度に何故か色々起こります)して、
その部品メーカーへ到着。
一代で大企業に育て上げた社長やその取り巻きさん達と名刺交換し、
ご挨拶も一通り終わったところで・・・下請け企業を含めた部品の造り方を全て見せてもらう事に。
社有車に乗って、市街地の外れにある下請け企業に連れて行ってもらったのですが、着いたのはなんと廃墟となったビルの前。
そして車はその中へ入っていくのです。
会社の看板は無く、門は赤錆びて開けっ放し。
多くの窓ガラスは割れ、そこから見える部屋の中は天井が剥がれ落ち散乱するゴミ。
・・・映画で良く見るマフィアが人を〇す様な雰囲気の建物。
身の危険を感じ始めた頃、奥の方に明かりがついた部屋を見つけました。
どうやらここが下請け企業の事務所らしい・・・しかし、ここにも看板は無い。
もう一度言いますが、ここはただの廃墟の真っただ中。
通訳を通して聞くと、元々は食品加工会社が入っていた建物。
廃業後に放置され廃墟化していた物件を二束三文の価格で買ったらしく、
広大なエリアは、これから受注を増やしていく時に使うか、新しく物流倉庫ビジネスを始めるか・・・今まさに色々考えているよ、との事。
しかし、「建屋は雨風が凌げれば良いので改修はしない」、とも。
目的の工場は事務所の更に奥にありました。
薄暗く細い廊下の先にある少し大きな部屋に入ると、明るいLEDライトが・・・。
その灯りの下に自動化設備を施した機械加工設備が10台ほど並び、
作業者は全体で2名と意外にも少ないものの、
昼勤と夜勤で24時間操業をしていました。
まるで秘密工場みたいな所でドライブシャフトに使う小さな部品を延々と削っているのでした。
工場責任者に聞くと、
設備はと加工のための工具(いわゆる刃ですね)は全て中国製。
お値段を聞くと、信じられない事に各々日本製の1/2~1/3ほどで超安値。
最も驚いたのが、「加工後の品質検査を全くしていない」こと。
これには日本でものづくりを経験した人は誰でも驚くと思います。
私も自動車業界に長くいて、国内外9か国で100社以上のものづくりの現場を見てきましたが・・・全くもって初めての経験です。
今まで当たり前と思っていた事をやっていない、
正直頭の中は混乱していました。
検査をしていない理由を聞くと、
部品メーカーの図面で指定された寸法を数値制御で削っているので大丈夫
工具も決められた個数を削ったら交換しているので大丈夫
部品の品質は最後に部品メーカーが保証するので大丈夫
との事。
今まで日本で学んだものづくりの考え方が完全に崩壊した感じです。
あり得ない。
間違いなく当時所属していた自動車会社の品質保証部門が監査をしたら100%NGになるレベル。
更にこの部品を組み込んだドライブシャフトは、
中国製自動車の多くに採用され、
VWやFord、GM等の現地法人の新車にも採用され、
更にアフターパーツとしてアメリカにも輸出されていました。
常識では、ちょっと考えられない。
呆然としている私に、工場責任者は言いました。
「あんたたち日本人だけだよ、こんな下請けに検査を要求するのは。言われればやるけど、やってもNG品は出ないのでコストが高くなるだけで意味ないよ。」と。
建屋は廃墟で固定費を極限まで下げる、
設備や工具は安価な中国製で償却費も安い、
自動化を進め異次元の品質管理の考え方で作業員も少なく労務費も安い・・・。
会社はホームページすら持っておらずネットで検索しても出てこない。
日本人が絶対知らないものづくりの現場、
全ての下請けがこんな会社ではないだろうけど、
まさか自動車の・・・それも安全を確保すべき重要な部品でこんな造り方をしているとは。
多くの人が「Made in Chinaの価格競争力は安い労働力」と思っているはず。でもそれは違う。
本当はこういう会社が多いからかもしれない。
一方日本企業は、高級な日本製設備に投資をかけ、品質も行きつく所まで上げている。
カイゼン行い生産性を上げて製造原価を下げる努力をしても、
そもそも向こうは原価の起点が低いので焼け石に水、
結果的に価格で彼らに勝てないのは当たりまえか。
郷に入れば郷に従え、まさに中国で車を造ってコスト競争力に勝つためには、こういう考え方を素直に受け入れて常識外の部品を使っていかないと、とても無理なのだろうな・・・と、当時は思った。
ひょっとすると、ものづくりの考え方が劇的に変わりつつある現場を見たのかもしれない。
今はもう会社を辞めたので、これを検証する事は出来ないが・・・
ずっと気になっている。
「どう報告書を書けば良いのか・・・」
「これからの日本のものづくりは、どうすれば彼らに価格で勝てるのか?」帰国便の機内でPCを目の前に悶々としていたことをよく覚えている。
当たり前と思っている事でモノを見続けると、そのうち大負けをくらうだろう。
あれから5年、彼らは更に進化しているかもしれない。
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