聴けば残るもの #04 ( #凸プレ archives 2022/4 )
※コメントを付しているものと付していないものがありますが、そのときにたまたま言語化できる何かがあったかなかったかの違いでしかなく、コメントが無い・文量が少ないからといって「取るに足らないもの」としているわけではありません。
音楽:アルバム
KAIRUI - 海の名前(2022.4)
気仙沼に行く高速バスのなかで聴いて、ぶるぶる震えた。それから一週間くらいはこの1枚ばかりを延々と、繰り返し聴いていた。
1曲目から3曲目までのたった8分ほどで構築された「海」の世界に、こちらとしてはかなりノッてきているのだが、最後の4曲目「哥(うた)」で落し所がはっきりと示される。水中を幻想的に迷うのではなくて、ちゃんと海面に着くように。最後はコロコロと遊ぶようなトラックも置かれずに、ミクのアカペラだけで次のように歌われている。「海を抱いて/瞑る夜を/優しい哥が包みますように/つないだ手が/言葉の形をして/あなたに届きますように」。
あぁ、祈りだったのか、などとどうでも良い結論にぼんやり到達しながら、囁くようなミクの声と海の音を聴く。
ASA-CHANG & 巡礼 - 花-20周年記念集-(2022.4)
ASA-CHANG & 巡礼 - 花-The 20th Anniversary Remixes(2022.4)
ずっと楽しみにしていた。名曲「花」のRemixを全国から集め、それだけをひたすら収録した2枚。後者はあまり聴き込めていないが、前者の長谷川白紙、辺乃銀一郎、後者のimkoheがとても良かった。というか、これだけ「花」という曲が解釈され、音楽的にあたらしく作り直されていること自体が、風景として壮観。
「光はいらね、水をください」にどうやって持っていくか。これを軸に聴いていくと、物語の発展の仕方をそれぞれ楽しめる。
(ところで、長谷川白紙のremix、誰も助からない映画みたいだ。)
NEEDY GIRL OVERDOSE - 「NEEDY GIRL OVERDOSE」Soundtrack(2022.4)
にゃるらプロデュースの配信者育成シミュレーションゲーム「NEEDY GIRL OVERDOSE」のOST。トラックメイカーはAiobahn。
レトロゲーム風に8bitのピコピコを聴かせつつ、同時にその情緒をハードコア/テクノによって破壊する。僕は8bit音楽にはノスタルジーとは別に、電子音楽やボカロをはじめとした機械音声の「乾き」の部分を徹底させたような狂いを時折感じることがあるのだけど、それがハードコア的なサウンドの暴力性ともよく馴染んでいる。ゲームのキャラクターであり、そしてまた僕たち自身でもある「あめちゃん」の自意識とも響き合う。世界-自己に対する乾きや冷たさの視線と、時折猛烈に浮上する破壊衝動。思えば、Vaporwaveもそうだった気がする。
サカナクション - アダプト(2022.3)
5曲目「ショック!」、7曲目「シャンディガフ」をよく聴いた。
江沼郁弥 - 極楽 EP(2022.3)
plentyのvoによるデジタルEP。「景」という曲を繰り返し聴いていた。
Yard Nule - Yard Nule(2021.2)
日本ではあまり紹介されていないのだろうか。Spotifyのプレイリストでは「Chill out jazz」に分類。アンビエント・ドローンっぽいエレクトロニカもあれば、結構グルーヴィーなトラックもある。9曲目「Journey」が良い。
Dominguinhos - Domingo,Menino Dominguinhos(1976.5)
ブラジリアン・ジャズを調べはじめて、最初に目に入った。名盤。1曲目がキャッチーすぎる。
Aaron Choulai - Raw Denshi(2020.7)
随分前にお気に入り登録だけしてちゃんと聴いてなかったアーロン。改めて聴いたら、すんげ〜かっこいい〜。角銅真実をフューチャリングした3曲目「Fushigi」が別格。
歩く人 - atelier(2022.4)
前作に比べると落ち着いた曲が多い。キャッチーなメロディに心地よい金属的なノイズを敷き詰めるソングライティングはより洗練されている。リード曲のようなものは無いが、繰り返し聴くと1曲1曲の完成度の高さに驚く。特に「ランドリーノート」「天使」が印象に残っている。詩世界は「ここではないどこか」というより、都市生活的な馴染み深さに満ちている。
loli主語 - 普通に恋(2022.3)
2曲目「哀傷」は自分の血液で汚したテープ音源を収録しているらしい。あたらしい音の質感(くぐもり)が生まれている。loli主語さんのことも楽曲のこともまったくよく分かっていないのだが、3曲目「手紙」を聴いてから「普通に恋」というアルバムタイトルについて思いを馳せると何故かちょっと泣けてくる。
David Darling & The Wulu Bunun - Mudanin Kata(2004.5)
台湾・ブヌン族の合唱音楽とデヴィッド・ダーリングのコラボレーション。「雨と休日」で紹介されていたので聴いていたところ、つくばに居る友人も同時期にこのアルバムについてツイートしていたので思わずクソリプを飛ばしてしまった。
音楽:単曲
夜夏,ゆうさり - そこない(2022.4)
メロディ、アコースティックな伴奏、ゆうさりさんの声、歌詞、アートワーク、すべてが良い。
対象化された風景はひとつの例外もなくいつかすべて忘れられていくが、「きみといた」という共在感覚みたいなものだけが淡く、薄れながらも残っていく。ほのかな予感とちいさな決意が、粒のような伴奏に乗って歌われている。
「僕らのことを示す名前なんてないけれど」というのは、関係性の奥行きに対する繊細な自覚だろう。ひとことで説明できるような名前なんてない。この関係性を誰かに伝達できるような分かりやすい記号はない。だから、もちろん形としては残らないが、「覚えている」という形式でのみ、それはすこしだけ滞留する。
本常詩音 - 汽粒(2022.4)
待ちに待った本常詩音の新曲。出だしから凄い。いきなり「窓についた雨粒」に感情移入してて怖い。最初の一小節目が鳴っているとき既に、我々はこの孤独のなかにいる。サウンドに持って行かれている。
サビ「細かい雨が漂っている/五月雨はまだ冷たい」を聴いて、「(雨が)漂っている」っていうのはなかなか特殊な表現だけど細かすぎる小雨はそういうふうにも見えるよな、五月雨は冷たいよな、うんうん、と分かった気になったのもつかの間、「わたしが雨に降るみたい/急がなきゃいけないから」という歌詞となによりもここの異様なコード進行によって、意識は完全に置いてけぼりにされる。そして、音楽が意識の知らないところへ抜け去っていくこの感覚に、いつも取り憑かれる。
きくお - ごめんね ごめんね(yuigot remix)(2022.4)
悪夢みたいな、絶望的な音が鳴っている。
ミクがスキャットを歌っている箇所の背景で鳴っている「ズン…ズン…」みたいな鈍器の音は、1拍目で一度鳴ったあと、二度目は必ず3拍目の少し後ろにズレて鳴っている。サビはむしろかなり素直な音が鳴っているように聴こえるので、スキャット部分の歪みが対照的に目立つ。
ラスサビの直前、3分54秒くらいで臓器が潰れるような音が鳴る。原曲はもう少し軽いように聴こえたが、このリミックスでは凶悪に響く。実際は原曲とおそらくほとんど同じ音だろう。この新しい聴こえ方はもちろん、ここに至るまでの展開によって生まれている。ゲームや映画のホラーシーンにかかる無調音楽のようなトラックがクレッシェンドし、反響するミクの声もどんどん歪む、絶望的な展開。差し迫った狂気が、案の定、逃れようもなく「わたし」の臓器を圧し潰す。
天音かなた - 中空の庭(2022.4)
作詞はやなぎなぎ、作編曲はbermei.inazawa。最初のハミングから異様な雰囲気が漂う。Vtuberのオリソンもエレクトロニック×ポップな楽曲が多いが、この曲はオーケストラとクワイアを贅沢に使っている。何の曲を聴いているのかわからないし、そんなことはどうでも良くなる。Miliの「Utopiosphere」などを思い出した。
3分48秒からメジャーに転調。ヴォーカルのリズムもがらっと変わる。かなたその声、吐息が絶妙に混ざって、雲のように優しくなっていて、とっても綺麗ですね…。
星街すいせい,Mori Calliope - Wicked feat. Mori Calliope(2022.4)
全体的にはマッチョなエレクトロ×ヒップホップなのであまり好きな曲調ではないが、2番ラップ部分のチェンバロとCメロ(「とても不思議ね」〜)の落とし方がとても良い。
神聖かまってちゃん - 僕の戦争(2021.2)
コード進行はシンプルなカノン進行だが、クワイアとシンフォニックなアレンジで荘厳な厚みが出ている。の子はこんな曲も書けるのか…。インタビューを読むと、タイアップされてお金が出たのでやりたいことを色々できた、と。
Omoi - テオ(2017.7)
太鼓に収録されているんだけど、叩いていてとても楽しい。単調といえば単調な譜面だが、BPMが丁度良い。
「離さないでよ眼差しを〜」のところが好きなんですけど、それって単純に4度進行が好きなだけなんだな、と気づきました。
cosMo@暴走P - モノクロボイス(2020.1)
太鼓の達人のために書き下ろされた。サビのコーラスが美しい。サビ後にバロック音楽的な展開で落ち着くところが好き。
Yard Nule - Angel Feed(2021.2)
2分20秒からのピアノソロが聴きどころ。特に入り方。
春ねむり,NERO IMAI - アンダーグラウンド - shnkuti remix(2018.4)
温泉マークさんのツイートから。NERO IMAIが格好良い。「ゆーうぉんみーあいうぉんちゅー、べび!?」
花譜 - 蕾に雷(2022.4)
作詞作編曲は長谷川白紙。「こんな曲を歌いこなしてる花譜ちゃんすごい!」という素朴なコメントをよく見るが、むしろ花譜の声を楽曲が「引き出している」というか、いや、長谷川白紙による挑発的な作曲・編曲と花譜の応答によって声が「相互生成されている」と言うべきかも、などとつまらぬことを考える。もちろん、声は予め主体(歌い手)に潜在的に備わっていると単純に言い切っても良いのだが、しかし、それが「現れる」という出来事には花譜というヴォーカルだけが参与しているのではない(と、どうしても思ってしまう)。
戌神ころね - Doggy God’s Street(2020.4)
Bメロのあお〜ん!がかわいい。
ミツメ - トニック・ラブ(tofubeats remix)(2020.9)
いよわ - パジャミィ(2020.3)
Midnight Grand Orchestra - SOS(2022.4)
yanagamiyuki - 食えないアート(2022.4)
窓辺リカ - 分娩室設計図(2022.4)
記事
書籍
(ほぼ全部途中)
平出隆 - 葉書でドナルド・エヴァンズに(2021、講談社学芸文庫)
書簡という形式に目覚めるきっかけになった。SNS的なファストなコミュニケーションに飽き飽きとしていたから。
そして、こういう文章を書きたい。目標ではなく、方向として。
グレゴリー・ベイトソン - 精神と自然 生きた世界の認識論(2022、岩波文庫)
ミシェル・テヴォー - 誤解としての芸術(2019、ミネルヴァ書房)
ユリイカ 特集・バーチャルYouTuber(2018、青土社)
今更ながらメルカリで購入。赤月ゆにが寄稿している。
佐藤秀彦 - 新蒸気波要点ガイド(2019、DU BOOKS)
千代章一郎 - 歩くこどもの感性空間 みんなのまちのみがきかた(2015、鹿島出版)
徳田剛 - よそ者/ストレンジャーの社会学(2020、晃洋書房)
動画
YOUTUBEという媒体で言語学の持説を展開するミネルバさん。現時点(2022.5.7)でこの動画は25万回再生。濃紺の内容がこれくらいの反響を呼んでいるのはなんとなく希望が持てる。古語で有名楽曲を歌ってみるシリーズ、ロリ声朗読シリーズなど傑作が多いが、僕は特にこの日本語史シリーズが好きです。
恥を知れ!
音量設定を間違えすぎた咀嚼音【ASMR】
ハードコア。
これをいつかみんなで合唱しているのを聴きたい。おめーが星だー!ほしまちー!
Kankyuuga yabee…
矢野顕子にヤられる二人、最高。この動画を機にYMOをちゃんと聴き始めた。『ライブ・アット・グリークシアター 1979』が欲しい。
4月に見た動画のなかでは一番おもしろかった。絶対音感に加えて、ちゃんと音楽理論的な素養がある人なんだろうな。いや、そんなことはどうでも良くて、注目すべきは説明の上手さ。「葉加瀬太郎、いるね」じゃないよ。
そのへんの不条理ギャグやシュールレアリスムを叩き潰し、そのうえでじだんだ踏みながら放尿するようなナンセンス。「意味不明」の次元が違う。「生まれてきた意味は?」「宇宙が存在する意味は?」みたいな問いかけの破壊的な虚ろと似たものを突きつけられるので、これはもはや新手の実存主義だし、新手の宇宙論。この動画を見るとき、実存は恥ずかしげもなく失禁している。
懐かしい。ゴリ押し過ぎて笑う。
ヨワテルさんの手描き切り抜きが一番好きかもしれませn
やはり「中空の庭」(40:36-)が伝説。
「インドア系ならトラックメイカー」で「おお!?」という声が出た。音源化してほしい。
LINEってめんどくさいよね。
エイプリルフールって同時多発的に「フィクションに身を入れる」日なのか…などと、やたら真面目に感動してしまった今年。
おまけ↓