【特別編 :90年代の音楽を知らないアナタへ】ハイカロリーなマライアキャリーのシングルを振り返る!その1
新年、あけましておめでとうございます。親愛なる読者のみなさま。いかがお過ごしでしょうか。
こういった時期にはこれまでの一年をふりかえるのが筋かと思うのですが、わたし自身のプライベートにはまったくの進歩も異変もありませんでしたので、前回同様【特別編】としてTLCに続きまして大好きなマライアの90年代のシングルをあらためて振り返ってみようと発起した次第です。
わたしのnoteではマライアに関して多くの記事を出していますが、そういえばシングルに関して単発記事は少なかったような気がしています。マライアの90年代のシングルはほぼそのすべてが世界的にヒットしているし、ドがつくほどのメジャー曲ばっかりなので”あえて”避けていたところはありますが、ファンとして一度はシングルをじっくり振り返り、マライアに関しての知識や新たな発見をアップデートできればという裏テーマのもとファーストシングルからチェックしていきたいと思っております。
「VISION OF LOVE」
マライアキャリーの名を一躍世に知らしめたデビュー曲。アメリカでの特大ヒットはもちろん、世界中で「新時代の歌姫誕生」を強烈に印象づけた神々しいまでの名曲であります。ですがメロディ自体はすごく単純明快なの気づいてました?マライアの歌唱に騙されがちですが、曲自体はかなり単調。こんな歌には本当に説得力がある人が歌わないと、箸にも棒にもかからないつまんない曲になるところ。下手すればこの曲だけでキャリアは終了。素人であればメロディだけを聴くとこんな簡単な歌誰でも歌えんじゃね?ってなると思うんですが、マライアの歌を聞いた後だと、こんな難しい曲は誰でも歌えるもんじゃない…、となるのが面白いところ。特に音楽を勉強している方であればあるほど、こういう感想を持ってしまうのではないでしょうか。この歌は彼女のレパートリーに必ず入るんですが、スタジオ音源より素晴らしいのは98年まで。以降のライブではほとんど聴く価値はないかな…。個人的な感想です。
「LOVE TAKES TIME」
20歳を迎えた新人歌手にとってデビューシングルから2枚ともバラードというのはどういう意図なのか。ディレクション側にしてみれば、歌唱力を存分に知らしめて彼女への期待値をもっともっと上げたいという狙いがあったに違いない。しかし本人の意向は如何に?デビュー曲同様、メロディや歌詞は王道なスローバラードなんだけど、やっぱりマライアの歌唱があるおかげで誰も歌えない唯一の名曲になっている。これまでの2曲で十分マライアの魅力が魅力がわかるプレゼンテーションではある。この歌は初期の頃はよく歌われていたが、93年を機に2010年を過ぎるまでなぜか封印されることになる。絶頂期にこの歌の歌唱が聞けなくなっていたのがファンとしては心残りjかな…。
「SOMEDAY」
ここにきて満を持してのアップテンポがリリース。ファンもマライア自身も抑圧されたバラード続きからようやく放たれたようで、歌唱は伸び伸びと披露されるマライアの姿が印象的だったし、ファンはそれまでのまったりバラードの反動もあって勢いよく飛びついた結果全米1位を当然のように獲得することに。後々この歌はあんまり好きじゃないとインタビューで語っていただけど、リアルタイムでみていた感覚だとそこまで不満気はなかったような気がする。歌詞が人をやり込めようとする若干ネガティブソングだから、イメージの手前で好きだと言えないだけなのかも。マライアはバラード以外でも絶品だということを世界に知らしめた。
「I DON'T WANNA CRY」
そしてまたバラードのシングルカット。「SOMEDAY」までヒットしたから、もしかしたらここまでシングルを切る予定がなかったのかもしれない。次のアルバムの準備やレコーディングのスケジュールが入っているだろうが、年末年始にかけてヒットした「SOMEDAY」の余韻と記録を途切らせないようにしようというディレクション側の意向が大いに動いた気がする。どう考えてもシングル向きじゃないし、やっぱり地味。しかし彼女の中でも、特にサビのハイトーン終始する歌は後にも先にもないほどの異常な高さ。ライブではこれを再現したことは流石にない。これでキーキーといった印象にならないのはマライアの声の深さの賜物であると思う。ただ高いだけじゃなく、低さを持った高さなのである。地味だけどこのジャンルもいけるという宣伝にはなった。ラテン調のバラードの進化は後の「MY ALL」に繋がる伏線だったと考えると面白いかも。そしてこのシングルリリース時には「EMOTIONS」のレコーディングが始まっていたとは。
「EMOTIONS」
90年デビュー後1年足らずですでに4曲NO1を連続で獲得。グラミーの新人賞も獲得。アメリカ新時代のシンデレラストーリーとまでうたわれた、これ以上ない華麗なるキャリアがさらに飛躍することになるのが8月にリリースされたこのシングル「EMOTIONS」です。それまでのマライアの期待値を遥かに飛び越えて披露されるホイッスルレジスターの連続発射や、ハイテンションに終始するハードなメロディライン、おそらく「I DON'T WANNA CRY」と同等の高音続きによる歌唱で、この時期、明らかに彼女の声が覚醒していったのが聴き手にも伝わってきます。ライブではいまだにレパートリーに入っていて歌っていますが、彼女がまともに歌えてたのは98年のバタフライ・ツアーのセットリストで歌われていた時期が最後でしょうかね…。この曲は本当にまともに歌おうとすると喉が壊れるんだと思います。
「CAN'T LET GO」
「EMOTIONS」でかなり熱った市場を冷ますかのようにリリースされたのはミッドバラードが心地いこの歌。かなりエコー強めに仕上げられたこのアレンジは今聴くと時代の空気感がモロに出まくってあんまりいい仕上がりじゃないかもなーって思えてきます。いい歌であることは間違いないんですが。これまで連続で続いていたNO1の記録がこの歌で途絶えることになってしまったのは、市場は「EMOTIONS」のような勢いをまだ求めていたってことなのでしょうか。ここまできてバラードに落ち着くのは早いわーって思ったんでしょうか。ただこの歌でのマライアのボーカルレンジはかなり高く、これまでのバラードに比べても遥かに高いレベルで謳われています。やはり91年のマライアの声は別格になってることがよくわかると思います。近年まで長らくライブでのお披露目を封印していましたが、ベストテイクは「UNPLUGGED」かな…。
「MAKE IT HAPPEN」
結果的にアルバムからの最後のシングルになったのがこのポジティブソング。彼女自身もこの歌が大好きで当時からいまだに必ずといっていいほどセットリストに入れてくる曲です。みんなで盛り上がれるのと、なんといっても歌詞の良さが万人にウケています。要は「自分を信じていれば夢は絶対叶う」という王道テーマの前向きな歌詞なんですが、ベースとなるのは自分自身の下積み時代のことであるのも、彼女が歌い続ける理由でしょうか。歌うことで忘れずにいようとするところ、マライアの真面目さや堅実さが垣間見られるんですよね。ダンスアレンジはC&Cミュージックファクトリーなのですが、アルバム通して本当にいい仕事しています。
「I’LL BE THERE」
変則的なリリースなんですがMTVの人気企画「MTV UNPLUGGED」に出た際に披露されたジャクソン5のカバー曲をシングル化。嘘のような話、ライブバージョンで見事NO1を獲得しているあたりも、マライアが伝説化していく所以でしょうか。当時でもかなりびっくりした出来事でしたが、「ありえんの!?」て思えるくらい今でもありえないことですよね。92年3月に収録が行われて披露したものがすぐ20日にはオンエアされるという異例のスピードお披露目。彼女はこのカバーについて色々模索していたようですが、選曲自体は収録日に決まったとか。即席だったとしたら尚更彼女のヴォーカルコントロールイメージはどのようになっているのか。本当に素晴らしいカバーだと思います。ライブ中のMCでも言われていますが、幼い頃によく聴いた曲ということで、いろんな思い出がある1曲でもあるのでしょうね。グラミー賞にも歌唱が評価されノミネートされました。
「IF IT'S OVER 」(MTV UNPLUGGED VER.)
アルバム「EMOTIONS」に収録されていたこの歌がMTVライブバージョンでリリースされるという変則的なカット。ということでセカンドアルバムとアンプラグドEPそれぞれからのファイナルカットということになります。オフィシャルなシングルとして出されたはずなのですが、このシングルは世間的にも印象はほぼなく、歴史から抹消されているような…。
グラミー賞での圧巻のパフォーマンスは動画が回りまくって、マライアのハードスキルを印象づけることに一役買っている曲としても知られています。
共同でペンを取ったシンガーソングライターのキャロルキングとの面識はデビュー時期にまで遡ります。マライアがアルセニオホールのTV番組に出ていた際にキャロルキングからの影響を語っていたところをキャロル本人が見聞きしており、その頃から興味を持っていたとか。そんな矢先の91年、セカンドアルバム制作時にマライア側へコンタクトが入り、アレサが歌ったキャロルキングの名曲「NATURAL WOMAN」をカバーしてみない?と打診されたのがはじまり。マライアは乗り気がなく断ると、その気まずさから曲を作りませんか?ってことで一緒に作ったとされるのがこの曲「IF IT'S OVER」。初期のマライアは業界でもいろんな人に話題になっていたのは有名な話ですが、デビュー2年目にしてキャロルキングの打診を断る肝の座り方がさすが。この時期にレコーディングだけでもしておいたらよかったのに。アレサのカバー聞きたかったな。
「DREAMLOVER」
キャリアの中でさらに一段階ギアが上がったのがこのシングル。このシングルが意味するのはマライア永遠のテーマである少女性の解放。ノスタルジーでありノストフォビアでもあると解釈できる二面性。耀かしきエイジレスな魅力。懐かしさに浸りながらもそれが良いといっている訳では決してないという冷たさも兼ね備えた人間くさい魅力がこの歌の持つ魅力かと思います。現実を生きるには、たまには好き時代を思い出して楽しく身を委ねることも人生には大切だよね?って調子のテーマです。人間の本質だと思っています。さらに今のマライアでは当たり前になっているヒップホップ要素との融合(いわゆるサンプリング手法)がなされた彼女の最初のメジャー楽曲であるというのも、語られるべき注目の部分です。メアリーJブライジ「WHAT'S THE 411 ?」の仕事で名を馳せたデイヴ・ホールを起用したことが大きく、そもそもヒップホップラバーだったマライアにとっても念願の楽曲だったはことは言うまでもないかも。ダウンビートが効いた印象的なトラックはかつてのガールズグループ、ジ・エモーションズの「BLIND ALLEY」からの引用で、メジャーなポップソングにここまで大胆なサンプリングが施されたのはかなりの衝撃と新鮮さを持って注目を浴び、世界的に大歓迎を受けましたね。マライア初期を締めくくる曲であり、新時代を予感させる大ヒット曲です。
「HERO」
正直これまでのマライアの認知度・人気というのはあくまでもアメリカ国内での話でり、一部の洋楽好きの間での話題性が先行していただけの状態でした。とはいえマライアを取り囲む環境は順風満帆。前回のシングル(「DREAMLOVER」)がマライア過去最大のビッグヒットとなったことを機にここにきて一気に流れが変わります。まさに国際的な知名度は急加速で鰻登りになっていったのをファンの一人として肌感で覚えています。
そんな中放たれたのがセカンドシングル「HERO」でした。まさに新時代のDIVA誕生の瞬間として世界中にこの存在が知られることになった超特大の名曲です。さらに有名な話ではありますが、もともとこの歌はグロリアエステファンが歌うことを想定してマライアとウォルターアファナシエフが共同でペンをとっています。ダスティンホフマン主演の同名映画の主題歌のためでした。グロリアはマライアとはまた別種類の歌のうまさがあり、確かに朗々とこの歌を上手に歌ってくれそうです。のちにスペイン語バージョンも録音されていることから、グロリア歌唱でシングル化&ラテン圏へのグローバル展開が考えられていたのでしょう。その証拠にグロリアは93年に自身のルーツである初のスペイン語アルバム「MI TIERRA」をリリースするのですが、このアルバムはグロリアにとってもキャリア最重要の転機作としてとてつもない内容で世に放たれのちに大成功をおさめています。「HERO」が3ヶ月後に出ることを考えると、レコーディング時期的にもグロリアの飛躍プロジェクトの話題のひとつと捉えられていたに違いありません。がしかしグロリアが歌うことに難色を示し始めたのが当時のソニーの代表であったトミー氏。「HERO」をマライアが歌うことになったのは彼の功績です。クリスマスアルバム制作のアドバイスといい、ここまで公私共に影響力が及んだ人はいなかったでしょう。彼の決断こそが現在のマライアを作り上げたといっても決して過言ではないでしょうね。この歌はいわゆるポジティブソング。過去にあった「MAKE IT HAPPEN」の系譜であり、夢をあきらめるな、自分自身に打ち勝って夢を掴め、そういう系の歌です。ベストテイクはデイドリームツアー内で披露された東京ドームでの歌唱。観客の歓声や拍手も含めたこのテイク。これに尽きます。
「WITHOUT YOU」
「HERO」がラジオ・TVを席巻して勢いが止まるきっかけを半ば失いつつある中、いよいよ次のシングルとしてリリースされたのがハリーネルソンが歌ったこの曲のカバー。マライアらしいビッグボーカルがローからハイまで縦横無尽に響き渡る、本当に至極真っ当で、かつ情感たっぷりな正統派カバー
になっていると思います。オリジナルを知らない人はマライアがオリジナルだと勘違いしている人も多いとか。それだけ彼女のカバーっぷりが堂に入っているともいえますよね。
「NEVER FORGET YOU」
「WITHOUT YOU」とのダブルA面仕様として途中からクレジットが変わり、エアプレイでもかかるようになったことで中ヒットまで行ったミッドバラード。アルバム「MUSICBOX」の中でも個人的には「HERO」より「WITHOUT YOU」よりも好きな曲です。アメリカではエアプレイが好調で、ファンの間でもかなり人気が高いと認知しています。リミックスバージョン「EXTENDED VERSION」「RADIO EDIT」があり、ともにR&B・HIPHOP調にリアレンジされたこのバージョンで初めてジャーメインデュプリが起用されています。この仕事がのちの「ALWAYS BE MY BABY」へ繋がると思うと初々しい仕事ですが、なんか光の原石を感じるようでいいですね。
「ANYTIME YOU NEED A FRIEND」
アルバム「MUSICBOX」からの最後のシングル。エアプレイだけでなくセールスも好調で、チャート上位に長らく食い込んでいた記憶があります。久しぶりにダンスリミックスバージョンが複数種類作られたことでクラブで多くかかることになったことや、ダンスチャート・エアプレイも好調だったためトータルでの数字が良好だったのでしょうね。C&Cミュージックファクトリーやデヴィッドモラレスなどビッグネームが関わったリミックスはロング、ショート、ダブいずれも飽きずに聴くことができる名曲ばかりです。マライアのリミックスは人気が高いものが多いですが、すべての始まりはこの曲だった気がします。日本では当時久米宏がキャスターを務めていたニュースステーションにLIVEでインタビュー出演し、収録されたこの曲をライブで披露したことが話題になり、この放送が日本のTVデビューだった気がしています。スタジオ録音バージョンに比べて喉を酷使していたせいか、血を吐くように懸命に歌っていたのを鮮明に覚えています。それでも声がしっかり出ていたから若さって素晴らしいですよね。そしてさらに注目すべきがファッション面。それまでのカーリーヘアから脱却し、ミニスカート姿を披露。スタイリッシュに振り切り、ようやく23歳らしいキュートな姿にイメージチェンジを図り始めたのもこの時期でした。これでファッション業界からも注目される存在になったんじゃないかな。ベストテイクは「HERO」同様に東京ドーム。これに尽きます。この時期を境にこの歌を歌わなくなっていて、次にオフィシャルに聞くことができるのが2019年に開催された「CAUTION」ツアー。それまで長らく封印されることになってしまいます。
「ENDLESS LOVE」(WITH LUTHER VANDROSS)
この頃のマライアの勢いはとにかく止まることを知らない破竹のよう。まだ「ANYTIME〜」がヒットしているにも関わらず、ルーサーとのデュエットによるこの歌がリリース。結果チャートの2位まで上りつめるという快挙を達成。すっかりカバー曲の女王としても知られるようになっていました。本家のライオネルとダイアナに比べ、同じように清潔感はありながらもゴスペルのようで純度の高いヴォーカル強打者同士の歌はもう怖いものなし。
「ALL I WANT FOR CHRISTMAS IS YOU」
マライア初のクリスマスアルバムからのリリースで完全オリジナルソング。日本ではフジテレビ系列ドラマ「29歳のクリスマス」のテーマソングタイアップがついたことでも大ヒットを記録しました。アメリカをはじめ世界ではここ数年の再熱ヒットで毎年記録を更新するほどヒットしていますが、94年当時からヒットしているのは日本だけで、他の国では嘘みたいにスルーされていました。マライアはこの時の日本でのヒットを恩に感じているふしがあって、日本大好きになってるようでした。デイドリームツアーで初来日した際はアンコールでこの歌を披露していることからも、日本人にとってこの歌はかなり思い入れが強い国のひとつだと言えます。当時のアメリカではクリスマスアルバムはあくまでホリデー用ということで、それまでのマライア関連にしては今ほどヒットはせず、ましてやシングル単体でヒットするという現象には至っていません。まぁこれはあくまでも企画モノのひとつという位置付けですね。
「MISS YOU MOST」
クリスマスアルバムの中で披露されたオリジナル曲の中で個人的に一番好きな歌。当時を含めライブバージョンが存在しないのが本当に残念。当時の絶頂期にTVでも披露されたことないし、ライブでももちろんなし。2022年のクリスマスライブで初披露された際は往年のファンは大喜び。でもやっぱり全盛期にフルライブバージョンを残してほしかったな。マライアの作るクリスマスソングが他のアーティストと違うのは、アレンジにクラシックな音色が散りばめられているところ。大御所・新人関係なく数多くのアーティストが毎年クリスマスアルバムを出していますが、いまいちヒットしないのはなぜ。後世に残らないのは音作りに大いに関係しているからと強く感じています。それでいうとマライアの音作りはクラシックな音色を大事にしつつ、子供から老人までが浸れるんですよね。でも決してコーニーではなく、流行を意識しすぎてもいない。スタンダード的要素が多く含まれているからではないでしょうか。マライア自身が王道のクリスマスをこよなく愛しているからこそかもね。