episode 01. 高島音頭を残す理由
このお話に登場する人
藤原 高島の盆踊り歌保存会会長。高島音頭への愛だけは誰にも負けない。
大西 保存会の会員。最年少の30代。保存会の平均年齢を下げるのに貢献。
高島音頭を未来に繋ぎたい
伝統あるものを次の世代に繋ぐ。みんな大切なことだなーと思えるのに、なぜ繋げないのだろう。
大西はその難しさを知っている。自身が営む和ろうそく屋も伝統を継ぐ商売。デパートでの実演販売で「貴重なお仕事ねー、残さないとねー」とだけ言ってその場を離れていく人を何人も見てきた。だから余計に思うのだ。
「使ってくれなきゃ残せませんよ」
伝統だけでは残らない。そのことを痛いほど知っている。
高島音頭を残す理由
ときは2017年春。年に一度、高島音頭保存会のメンバーが揃い、総会が開かれた。総会といっても、決算と予算が報告され、いつもどおりに承認され、懇親会が行われる。
大西は憂鬱であった。総会はともかく、懇親会は骨を折る。平均年齢65歳のメンバーに囲まれ、その平均年齢を下げる要員としてここにいる。
おじいちゃん、おばあちゃんたちに囲まれて、マスコット的に扱われ、もう若い人が頑張ってもらわんと~というのを毎年シャワーのように浴びる会だ。
数年前、歳の近しい仲間3人で一緒にノリで入会した。そのうち2人は早々に会を抜け、一人残されていた。完全に抜けるタイミングを逸した。
高島音頭を残す理由
「藤原さんはなんで高島音頭を残したいんですか?」
藤原は高島音頭保存会の会長である。
最年長の78歳…であるがゆえの会長で、強烈なリーダーシップやカリスマ性を持ち合わせないどこにでもいる普通に温厚な人である。
冒頭は懇親会で、大西が藤原に尋ねたものだ。
ビールを一口含んでから藤原は語った。
「町の景色は変わりますが、盆踊りは無形ですやろ。こんな田舎やから、若い人は外に出ていってしまいます。それでもふるさとは帰ってくる場所ですやん。そのとき、ふるさとを感じられるものを残しておいてあげたいんです」
「それを残していけるのは、ここに残った者の使命だと思いますんや」
盆踊りを続けるのは、若い人たちのため。 帰ってくる人に「おかえり」と言ってあげるため。 つまり、それは未来のため。
大西は、入会した頃、盆踊りの聖地・郡上おどりへ連れられたことを思い出していた。高島の盆踊り大会にはない大勢の人が輪をつくる姿を前に、藤原は笑って言った。
「わし、死ぬまでにもういっぺん、こういう中で音頭とってみたいんよ」
藤原がビール瓶を傾け、グラスを促す。
大西は注がれるビールを眺めながら、ささやかなバトンが渡されるのを感じていた。
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