episode 07. 江頭先生、爆誕
前回までのあらすじ
クラウドファンディングは大成功のうちに、支援期間が終了。しかし、暗雲が漂う。どうなる高島おどり。
このお話に登場する人
江頭 生粋の盆踊りマニア。本業はイラストレーター。一児の母。
大西 保存会の会員。最年少の30代。高島の盆踊り大会のリブランディングに取り組む。
江頭ゆかりは、夏に輝く
江頭ゆかりは、夏に輝く。
子どもを早くに産んでよかった。子育てを早々に切り上げ、各地の盆踊りを転戦し、踊り狂うのが最近の夏の過ごし方だ。
なにも高島市に限らない。京都で盆踊り大会があるとなれば、わざわざ出かけ、聖地・郡上おどりにも毎年参戦。母親譲りの身のこなしで、20~30代には決して出しえない「しなよさ」と色気を手に入れていた。
好きが高じて、先生に成る
その日の江頭は、高島のとある集落の盆踊りに参戦していた。
集落の人だけが集まって、踊ったり、踊らなかったりする中に、彼女のようなガチ盆踊ラーが参戦するわけだから、中高年男性の目が釘付けられる。そんないかがわしさも宿る視線を軽くスルーする能力は、ここ数年で極まった。
汗だくで踊りきり、今夜を楽しみ尽くしたことに江頭は満足していた。
輪の中に入り、お囃子をかけて音頭取りを乗せ、それが夜空に溶けて消えていく快感は何物にも代えがたかった。
「ちょっとすみません」
声をかけられることはよくあった。女性なら踊りを教えてほしいだし、男性なら、どこから来てるのかだの、こっちで一杯やらないか、だ。しかし、この日は違った。
「高島おどり、つくりませんか?」
へ?
すっとんきょうな声を出してしまった。私としたことが。
「高島おどり。新しい盆踊り大会を作ろうと思ってるんです。いや、新しいといっても今までやってきたことをちょっと変えようと思ってて。そこに力を貸してもらえませんか。」
おもしろそうだと思った。好きが高じて、踊りの腕があがり、今度はお祭りを作る側に回るのか。悪くない。
「で、私は何をすればいいの?」
「先生になってほしいんです」
「先生・・・」
おそれ多いとも思う。ベテランの踊り子さんたちも顔見知りはたくさんいるし、その人たちを差し置いて先生だなんて。でもやってみたい気もする。
大西は江頭に「ナンパしている」と思われないように細心の注意を払った。
怪しいものではありませんよオーラを終始出していたのが功を奏してか、どうやら断られる感じはなさそうである。
大西はこの盆踊り大会を成功させるために、シンボルが必要だと思っていた。参加動機になる人、つまり、「この人に会いたい」人。
そこに白羽の矢を立てたのが、毎回見かける熟女盆踊ラーだった。
あの人には華がある。どこの誰かもわからないが、こんな集落のお祭りに来るくらいだから、高島の人だろうとは思っていた。
高島のマリリン・モンローになれ
江頭は、大西のプランを聞いたとき、膝から崩れ落ちそうになったが、本当に崩れたらみっともないので、耐えた。
「高島のマリリン・モンローになってほしい」だなんて、こいつ正気か。
でも、不思議と悪い気はしない。私の中に女優気質があるなんて、想像だにしていなかったが。
しかし、大西はどうやら本気っぽい。
私は後日、撮影に駆り出され、高島市中を引きずり回されることとなった。いわゆる「ここがどこか」がわかりやすい場所に連れていかれて、踊らされたり、スチール写真を撮られたり。
もうどうにでもなれ。女優になりきってやる。
この人、意外にノリがいいな、と大西は少しひいていた。
自分でも、これは無茶ぶりだなー、と思うことも嫌な顔を見せず、要求にこたえてくれる。まさかここまでやってくれるなんて。こんな逸材がいたなんて。
この人を高島のスターにする。
こうして、後の世に名を馳せる江頭先生が爆誕したのであった。
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