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CD「コスタンツィ/チェロ・ソナタ集」発売!
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2012年の「ランゼッティ/チェロ・ソナタ集」から12年。
ようやく2枚目のソロCDをリリースすることができました。
「コスタンツィ/チェロ・ソナタ集」チェンバロ共演は前回同様、イタリアの渡邊孝です。
ジョヴァンニ・バッティスタ・コスタンツィ
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18世紀ローマのチェリスト、作曲家のG.B.コスタンツィのチェロ・ソナタを7曲、そしてチェンバロ渡邊孝によるガスパリーニのトッカータが収録されています。前作と同じコジマ録音さんから9月7日に発売します!
コジマ録音の公式サイトはこちら
ジョヴァンニ・バッティスタ・コスタンツィ Giovanni Battista Costanzi (1704-1778) は、18世紀ローマの作曲家、チェリストですがおそらくはほとんどの方が初めて耳にする作曲家かもしれません。
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アルカンジェロ・コレッリがローマで亡くなったのが1713年ですから、コスタンツィはおそらくコレッリとともに活動したことはなかったでしょう。オットボーニ枢機卿の元でコスタンツィが働き始めるのが1721年(弱冠17歳)、そして1737年にはコレッリのポストでもあった器楽隊長に就任します。ローマにおける芸術のパトロンであったオットボーニの庇護を受けつつ、数々の重要な教会のポストに就任、1755年にはサン・ピエトロ大聖堂の要職につきます。
コスタンツィに関する詳しい解説は、ぜひCDブックレット内の私懸田が書いた文章をお読みください。同時代のローマのチェリストたちの情報と合わせて、コスタンツィの解説としてはこれ以上に詳しいものは他にありません。通奏低音付きのソナタの作品リストもあります。
(ちなみに渡邊孝によるチェンバロ・ソロのガスパリーニ解説も非常に充実したものです。)
前回作のランゼッティは、ナポリ音楽院の教育によって生み出され、パリやロンドンなど欧州での活躍によってナポリのチェロスクールを大きく広めた18世紀の重要なチェリスト、作曲家でした。チェロという楽器と作品の発祥は、D.ガブリエッリらボローニャから、というのがこれまでの定説ですが、それと同時期の17世紀後半からのナポリの低音弦楽器の伝統も近年大きく注目されており、ボローニャのチェロ単一起源説は修正が強く迫られています。
と同時にローマはコレッリはじめ優秀な弦楽器奏者がいたことでも知られ、またローマとナポリの密接な関係も指摘することができます。ナポリのチェリストとしては、ランゼッティの他にフランチェスコ・アルボレア、フランチェスコ・スプリアーニら非常に進んだ技術をもったチェリストが知られていますが、それと同じ、もしくはそれを超えるようなテクニックを持った可能性のあるチェリストとして筆頭に挙げられるのが、今回のジョヴァンニ・バッティスタ・コスタンツィなのです。
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例えばこれ。実音はオクターブ下ですが、ト音記号で書かれ、最高弦の2オクターブ+3度上のcまで一気に駆け上がるパッセージは、18世紀前半のソナタでは例がありません。
そして、こうした非常に技術的に華やかで名人性の高いパッセージはどこかでみたことがあるような、、、、。そう、コスタンツィは、なんと18世紀後半から19世紀初めにかけて活躍したルイジ・ボッケリーニがローマでおそらく師事したチェリストでもあります。その根拠となる資料についても今後ご紹介しましょう。
しばしば「ハイポジションで左手親指を運指に使った奏法(カポタスト奏法)はボッケリーニが発明し・・・」といったような誤った解説がなされることがありますが、カポタスト奏法はすでに18世紀初めのナポリで生まれていたと考えられています。そして、それが1704年生まれのローマのコスタンツィによって、遅くとも1730年頃までには完全に自家薬籠中のものとされ、見事に作品として結実している。それがのちにボッケリーニに受け継がれたと考えることもできるでしょう。
ランゼッティは1710年頃のナポリ生まれ、1736年出版の作品1(前回の録音作品)はカポタスト奏法が明確に示される最初期の作品として挙げられますが、コスタンツィの作品もいくつかはおそらくそれとほぼ同時代のものと考えられます。コスタンツィの奏法がどのようなものであったのかはまだ研究の余地はあるものの、18世紀前半にはローマでもナポリのチェリストと同等、もしくはそれを越える技術的な発展を遂げていたという一つの大きな証左となるのが、これらコスタンツィのソナタ群なのです。
通奏低音のみのソナタは、現在分かっているだけで17曲。ソナタと題されたものもあれば、シンフォニアというタイトルが付されたものもあります。ロンドンで出版された「ポルポラ/コスタンツィ 2つのチェロとヴァイオリン、通奏低音のための6つのソナタ」という作品がありますが、あれはヴァイオリンのオブリガートが付いた、実質的にはチェロ協奏曲といってもよいものです。それは今回のブックレットのリストには含めていません。
ランゼッティの続編としてのコスタンツィ、なわけですが、それによって18世紀ナポリからローマを経て、ボッケリーニを初めとする18世紀後半のスタンダートになっていくチェロの歴史が、音楽を通して聴くことができる、というのが狙いの一つではあります。これまでにそのような視点で音楽史のストーリーが作品を通して語られることはなかったからです。
とはいうものの、それよりもなによりもコスタンツィの異形と言ってもいいような、チェリストならではの発想と音楽言語のボキャブラリーをぜひ聴いていただきたいと思っています。18世紀ローマの音楽世界の豊穣さの一面をぜひお楽しみください!
お買い求めは、以下のサイトリンクから。Amazon、tower、HMVでご注文ください。
もちろん私のコンサートでもお買い求めいただけます。
サインなどお求めでしたら、お気軽にどうぞ!
直近はこちら!
9月22日(日)14時&17時の2回公演
アンサンブル・パルテノぺ公演 駒込・今井館聖書講堂
「アルプスを越えた天才たち」朝吹園子・西山まりえ・上田朝子・懸田貴嗣
https://teket.jp/10497/36192
CD注文サイトのリンクはこちら。
コスタンツィCDリリース記念ということで、今後ローマのチェロを巡ってもnoteを連続で更新する予定です。
CDと合わせてお楽しみください!
懸田 貴嗣