出来高・移動平均線・オシレーター
※こちらの記事は内容の量が多くなっております。
一気に読んでいただくのはもちろん、時間をかけてお読みになる・レファレンスのように利用していただくこともおすすめしています。
■市場を分析するための重要な情報
金融市場を分析する際の要素の中で、皆さんが一番最初に思いつくものは何でしょうか?
「決算」や「金融政策」など様々ありますが、ほとんどの人はまず「価格」や「値動き」と答えるでしょう。
そもそも皆さんが金融市場に関わるきっかけやモチベーション自体「お金を稼ぎたい」という (潜在的な) 目的から来ており、お金稼ぎに直結する要素が株価や為替などの「価格」なのはごく自然なことでしょう。
テクニカル分析の元祖であるダウ理論は「トレンド (値動きの強い流れ) はそれを否定するまで続く」とありますが、もし否定する前に何らかのメッセージが出ていればあらかじめ回避することも出来るでしょう。
そのような副次的な情報として、テクニカル分析者は「出来高」も重視します。
「価格」に続き「出来高」が重要であることを言い過ぎることは無いでしょう。
また株式ではほとんど聞かれませんが、先物市場では「取組高」という言葉をしばしば耳にします。
「取組高」はその市場においてどれだけ皆が建玉 (たてぎょく) を持っているか、言い換えれば「ポジション量」を指します。
取組高はその量と変化量を追うことが重要となり、特に横ばい (レンジ) 相場からトレンドが開始した際にどれだけ続きやすいかを教えてくれる情報です。
これら3つ (価格・出来高・取組高) のうち、当noteの前半では出来高と取組高にスポットライトを当てていきます。
なお、以前のnoteにおいてはローソク足を以下のように表記していました。
今回より実際のチャート画面を用いた説明を行うため、誠に勝手ながら (実際のチャート画面の表記では) 陽線と陰線を反転させた以下のような表記といたします。
緑色を「陽線」、赤色を「陰線」としていますが、始値や終値、高値や安値などの表記について以前より変更はありません。
陽線の場合は下から始まり上に引け、陰線の場合は上から始まり下に引けることはもちろん、高値や安値はヒゲ (実体から上下に伸びる細い線) にて表現されることも今まで通りとなります。
また実際のチャート画面で一部背景が黒 (ダークモード) となっておりますが、こちらも背景が黒である意味は特にありません (見づらいことをお詫び申し上げます)。
また当noteでは「出来高」や「オシレーター」など、値動き以外の情報で重ねると見づらいものは上段に値動き、下段にそれぞれの指標を配置しています。
例えば以下の図ではオシレーターの説明をしていますが、中ほどの線を境目に上は値動き、下はオシレーターに分かれています。
実際のチャート上では重ねても問題は無いですが、見やすさを重視して分けていることをご了承ください。
■出来高について
◆出来高は「ロケット」
出来高 (Volume) は価格に次ぐ重要な情報であると申し上げましたが、間違った認識を防ぐためここで正確な定義をしておきます。
出来高とは「ある期間において実際に取引された量」と言い換えられます。
※例えば、買い10枚と売り10枚が約定 (やくじょう = 取引が成立すること) した場合、出来高は10枚となります。
新規で買いや売りの注文を出した場合、必ず反対 (新規買いであれば新規売り・決済売りのどちらかと注文が合わなければならない) の注文とかみ合わせなければ約定しないため、買いと売りをそれぞれ足すのではなく「セットで」1つの出来高となることに注意が必要です。※
ある期間はチャートで見る時間軸によって変わります。
すなわち日足で見れば1日の合計出来高であり、週足で見れば1週間の合計出来高となります。
なお出来高はほとんどのチャートソフトにおいて、ヒストグラム (棒状の連続したデータ) として表されることが多いです。
出来高の量は相場における圧力を表すと言われています。
何らかのトレンドにおいて出来高が増加する時、そのトレンドに参加する投資家が増えていることを示しています。
例えば「出来高が増加しない上昇トレンド」よりも「出来高が増加する上昇トレンド」の方がより力強く、長続きしやすいトレンドになりやすいです。
なお出来高を比較する際、該当するローソク足の出来高とその1つ前 (直前) の出来高を比較するのが最もシンプルな方法です。
例えば底から上昇する際、底と思われるエリアの最後のローソク足とその直後に突破したローソク足の出来高を比較します。
もちろん、中長期投資では出来高の全体的な量を比較することが多いです。
出来高は進行中のトレンドと同時に増加する法則とも言え、上昇トレンド時には価格上昇とともに出来高が増加し、一時的な押し目を作る時に出来高が減少しやすいです。
もし押し目を作る際に出来高が増加していれば、それは下降トレンドに突入した可能性を示唆しています。
言い換えれば「投資家がどれだけそのトレンドに本気になっているか?」を示しているのが出来高です。
上昇トレンド時に「このトレンドは早く終わりそうだな…」と考え資金を入れない投資家が多ければ (厳密に言えば、強い投資家が参加しなければ)、その上昇トレンドは弱くなりやすい傾向にあります。
下降トレンドでも全く同じことが言えます。
逆に「このトレンドは長く続きそうだ」と考え資金を入れる投資家が多ければ、それだけトレンドが長く続く傾向にあります。
言霊 (ことだま) ではありませんが、実際にこのようになることが多いのです。
もっと直感的に例えると、出来高はロケットの推進力と言えるでしょう。
出来高が多いほどまるでロケットから吹き出る炎が大きくなるように、価格は力強く上昇または下落していきます。
出来高が少ない状態ではロケットが上昇する力が足りないため、その後の値動きが落ちやすいとも言えます。
この考え方は下降トレンドにも言えます。
天井からトレンド転換した後に下降トレンドに突入した初期では必ずしも出来高は重要ではありませんが、下降トレンドが色濃くなる場合は下向きにロケットが発射されるように、出来高も増加することが望ましいです。
※下降トレンド初期の出来高が重要ではない理由の一つとして、「ゆるやかな利確売りが大きな出来高を伴わない」ことが挙げられます。
利確売りで天井から下降トレンド初期に突入しても、場合によっては押し目の可能性も十分に考えられます。
すなわち、その初期に突入した時点では必ずしも本格的な下降トレンドに入るとは限らないのが実情です。
何もせずとも重力で物が勝手に地面へと落ちるように、値動きが下落すること自体はどの局面でも良くあることで「下落したから、下落トレンドに入った」とならないことに注意が必要です。
◆出来高のダイバージェンス (矛盾)
テクニカル分析において、「ダイバージェンスする」とは「値動きと別の指標が矛盾する」ことを意味しています。
例えば上昇トレンドにおいて、価格が上昇しているのに出来高が減少している時など、「通常と異なる動きを見せる」時にダイバージェンスという用語を用いることがあります。
以前のnoteで「底から上昇する際は出来高の増加がほぼ必須となる」と説明しましたが、もし底から上昇する際に出来高が減少していれば「通常と異なる動き」であるため、ダイバージェンスの可能性があると言えるでしょう。
この矛盾が発生した場合、底からの上昇はダマシである可能性が高く、買いは控えてしばらく様子見をすることが正しい動きとなります。
またこのようなダイバージェンスでは値動きよりも先に出来高がトレンド反転のサインを示しており、一部の人は「出来高が価格に先行する」と考えています。
上昇トレンド時・下降トレンド時の明らかな出来高減少はそれぞれの方向への圧力減少を示しているため、早期のトレンド転換の注意信号となり得ます。
加えて、出来高は価格パターンを確認するためにも重要です。
例えば以前のnoteにて三尊パターンと呼ばれるものがありましたが (天井を表すパターン)、三尊パターンの頭部分が形成される時点では通常の上昇トレンドにあるはずです。
この左肩から頭部分が形成された後に出来高が増加しているようであれば、そもそも三尊パターンではない可能性 (つまり、通常の上昇トレンドである可能性) が高まります。
出来高が増加している通常の上昇トレンドを、形だけ見て「これは三尊天井だ!」と決めつけ売るのは尚早であることが多いです。
◆出来高でトレンド転換を察知する
チャートを研究する投資家は常に出来高から良い情報を得られるとは限りません。
「出来高を見る」の最小単位は1日ごとであり、あるローソク足とその直前のローソク足をすべて見比べるわけにはいきません。
またあまりに厳密に適用しすぎると「木を見て森を見ず」となり、トレンドが継続しているにも関わらずちょっとした出来高減少を見て「反転だ!」と早とちりする原因にもなりかねません。
これら出来高の日々の変化を連続的にとらえた優秀なツールが「オンバランスボリューム (OBV)」です。
オンバランスボリュームは通常の出来高のようなヒストグラムで表示をせず、連続線で表示をします。
各取引日のそれぞれの出来高を、相場が前日より上昇して引ければプラスとして加え、相場が下落して引ければマイナスとして差し引くことでこの曲線は完成します。
言い換えれば「当日のローソク足の終値が前日の終値より上昇して引ければ出来高はプラスされ、前日の終値より下落して引ければ出来高はマイナスされる」となります。
オンバランスボリュームを表示する際、その数値よりもトレンドに注目すべきです。
例として値動きが上昇しつつオンバランスボリュームが上昇していれば正常ですが、値動きが最高値を更新しているのにも関わらずOBVが最高値を更新していない時はダイバージェンスとなり、上で述べたように矛盾を示します。
このようなダイバージェンスはトレンドが一時休止、もしくは転換したことを示唆します。
今後、「ダイバージェンス」という言葉は様々な場所で出現しますが、ほとんどのダイバージェンスはトレンドが転換する注意信号となります。
その他、需要指数 (Demand Index) やヘリックペイオフ指数 (Herrick Payoff Index) などありますが、核心であるダイバージェンスやトレンドのとらえ方は同じであり、後述する取組高が絡んでくる指標もあり煩雑となるため、ここでは省略します。
興味のある方はぜひ一度調べてみてください。
ここで一旦、出来高について簡潔にまとめます。
出来高はある期間に行われた取引の数であり、どれだけ活発に取引が行われているかのバロメーターである
トレンドが発生している時の出来高増加は圧力となってトレンドを後押しする
出来高が多い時、そのトレンドは確かなトレンドとなりやすい (ダマシになりづらい)
出来高を比較する際、基本は前日比で比べるが、より大きな視点で見ると確実 (上昇トレンドで1日だけ出来高が減少しても誤差のことも多いため)
トレンドが継続しているのに出来高が減少する際は「ダイバージェンス」となり、トレンド転換の早期注意信号となる (出来高は価格に先行しやすい)
天井・底のパターンの中では、パターンを進むごとに出来高が減少し、パターンを抜けて新たなトレンドになると出来高が増加する
■取組高について
◆取組高は「燃料」
取組高、というと株式市場を主戦場とする投資家は恐らく聞き慣れない言葉だと思われます。
出来高と取組高は間違えやすく、字面は似ていますが異なる用語になります。
取組高 (Open Interest) は相場における建玉 (たてぎょく) を指します。
すなわち、その時点で投資家が持っているポジション (新規の買い・売り後に持っているもの) を指しますが、 この取組高は滑らかな直線や単純に棒グラフなど、チャートソフトによってさまざまな表し方があります。
また株式市場で見かけることはあまり無く、先物市場で用いられることが多いです。
取組高はその市場における「買いの量」「売りの量」を足し合わせた量を表します。
これらポジション量はそのまま燃料となりますが、その仕組みは簡単に説明できます。
通常、上昇トレンドや下降トレンドが堅調に推移しながら取組高 (ポジション量) が増加している場合は何ら問題はありません。
これは健康な相場そのものであり、その後のトレンドも持続しやすい傾向にあります。
この原則は出来高とほぼ同じであり、トレンド方向と取組高の増加が揃うとそのトレンドは強いものとなります。
ここで取組高が多い状態で天井圏を形成するパターンを考えてみます。
この場合、もし天井圏からトレンドが反転、下降トレンドに突入するとより多くの投資家が含み損状態に陥ります。
以前の「トレンドをつかむ様々なライン」にてトレンド転換の例を市場心理とともに説明したことがありますが、この「含み損を抱えた投資家が多くなる」状態がまさに「燃料が溜まった状態」となります。
含み損を抱えた投資家が多くなると「一刻も早く抜け出したい!」と願う投資家が一部出てきます。
特に天井圏において (これから更に上昇すると思った投資家たちによる) 多数の買いを集めた場合、天井圏を脱した際 (上図において、③の水準を下回った際) に含み損を抱える投資家により売り注文が殺到しやすくなります。
これら買いポジションを持つ投資家が次々に売り注文を出して損切りする減少をしばしば「投げ」とか「ロング・リクイデーション」(Long Liquidation) と呼びます。
逆に、底値圏での横ばい相場において「これからもっと下がるかも」と警戒した投資家たちの売りが溜まってくると、底値圏から上に抜けだした際に売りポジションをもっている投資家たちの損切り (売りを決済する買い注文) が殺到しやすい傾向にあります。
これを「ショート・スクィーズ」(Short Squeeze) や「ショート・カバリング」(Short Covering) と呼びますが、これら売りポジションの損切りが落ち着くまである程度まとまった上昇が期待できます。
天井圏からの下落、底値圏からの上昇のどちらのケースでも、横ばい相場において「燃料」となる取組高が積み上がり、横ばい相場から離脱した時にその「燃料」が消費されトレンドを動かす初動の力になることはまさに投資家心理を如実に表している、と言えるでしょう。
取組高の蓄積は何も平行な横ばい相場だけではありません。
以前のnoteでも触れた様々な継続・反転パターンにおいて、パターン中に溜まった取組高 (ポジション量) はその後のトレンドの燃料になりやすいです。
例えば天井を示唆するヘッド・アンド・ショルダーズ (三尊パターン) はパターン内を進むごとに出来高が減少するとありますが、取組高は独立して増加する場合があります。
取組高が三尊パターンの中で増加し、同パターンが完成した際 (ネックラインを下に抜ける) に取組高が減少すれば、それは三尊パターン内で間違えた方向に賭けた投資家の損切りが発生していることを意味します。
これら損切りでパターン完成後の初動の動きが加速され、取組高が一旦減少します。
その後、十分に減少した取組高は再度、明確なトレンドの動きと共に積み上がることで「燃料」を追加しながら力強いトレンドとなります。
そして積みあがった取組高 (燃料) がその増加を止めて減少に転じた時、トレンド転換の注意信号であることが多いです。
このように取組高の推移は増加・減少を繰り返しながら、値動きの強さを裏付けるような動きをするために先物市場では好んで用いられます。
取組高は株式で直接的に使うことは少なく、馴染みが薄いのですが、一旦まとめます。
取組高 (=市場におけるポジション量) は出来高と基本的な性質が同じ
上昇トレンド・下降トレンドが進む際、取組高が増えていれば強いトレンドとなる
トレンドのある時点で、取組高の増加が止まり減少に転じるとトレンド転換の注意信号となる
横ばい相場、もしくは天井・底のパターン形成時に取組高が増加した場合、それらパターンを抜けた時に (含み損になった投資家の損切りによって) 取組高が減少する
含み損の損切りを巻き込んだトレンドは初期に現れやすく、損切りが終わればそのトレンドが進むごとに再び取組高は増加する
なお、トレードを実際に行う際の大まかな手法は主に以下の2通りとなります。
A. 明らかなトレンドがある状態、かつ取組高が積み上がり増加している状態でトレンド方向に順張りする (出来高と同じ使い方であり定番のやり方)
B. 以前のトレンドが変化し、かつ取組高が減少する場合、短期的にそのトレンド転換に付いていく (市場のポジション量が十分に減るまでトレンド転換が止まらない性質を利用した逆張り法)
もちろんおすすめはA. (いわゆる順張り) ですが、取組高を利用し短期でトレードを仕掛ける先物では逆張りの勝率が高まるためB. の方法も非常に有用です。
状況に応じて使い分けるとより利益の機会を逃がしにくくなるでしょう
。
◆取組高はどのようなときに増加・減少するのか?
取組高の性質についてある程度知ったうえで、どのようなときに増加や減少をするのかを簡単にまとめます。
これは取組高の増加や減少がどのように市場へ影響を与えるかを見ていくものであり、いわば内部を見ていくものです。
上図は買い手と売り手が新規・決済のアクションを起こした際、どのように取組高 (建玉) が変化するかを見たものです。
まず、新規の買い・新規の売りが発生した場合、これらは建玉を増加させます。
良く「ポジションを取る」という言葉を耳にすると思いますが、これは新規で買いや売りを行うことを指し、新規の買いや売りでは「相場というゲームに参加する」ことに他なりません。
買い手又は売り手のどちらかが新規でポジションを取る場合、反対側に決済のアクションを取る投資家がいることがあります。
この場合、例えば「新規の買いに対し決済の売り」「新規の売りに対し決済の買い」が合致し、ポジション (取組高) の量は不変となります。
また、買い手と売り手の両方が決済のアクションを取る場合、どちらも相場から離脱することを表します。
相場から離脱すれば全体としての取組高はおのずと減少します。
以下は別の角度から、価格上昇時・下降時の出来高と取組高の増減に注目したものです。
価格が上昇・下落する時 (すなわち、上昇トレンド・下降トレンドにいる時)、出来高及び取組高は増加することが望ましいです。
上で述べた通り、どちらも増加することは市場が本物かつ力強い (後押しのある) トレンドであることを証明し、減少することは後押しの力が一時的に弱まっていることを表します。
しかし更に大切なのは、出来高・取組高どちらにおいても小さな視点で見るのではなく、全体の流れで見るべきことです。
仮に上昇トレンド内のあるローソク足とその直前・直後を見て比較し「出来高が減っている」と判断してトレンドと逆のポジションを取ればやけどを負う可能性が高いです。
トレンド転換は急に訪れることは少ないため、大抵は横ばい相場や何かしらのパターンを形成して転換すること、それを踏まえて俯瞰してチャートを見ることをオススメします。
◆取組高とブローオフ・セリングクライマックス
ブローオフ (バイイングクライマックス) 及びセリングクライマックスについては以前のnoteにて「クライマックス」の項として多少触れましたが、急激な値動きを伴う上昇及び下降の周辺には出来高・取組高の急変がつきものです。
ブローオフは急騰から大きく反転すること、セリングクライマックスは急落から大きく反転することを意味します。
また出来高に関して、価格の急騰時には段階的に減少しやすい反面、価格の急落時は段階的に増加しやすい性質を持っています。
一方、取組高は価格の急騰や急落に左右されるよりも「その変化が短期間で起きるか」で増加・減少が決まってくることが多いです。
取組高は価格が短期間で急変する時に減少しやすく、価格が時間を掛けて変化する時に増加 (トレンドと共に増加する「正常な状態」) しやすいです。
以下、それぞれ例を見ていきます。
急騰・急落した後に価格が戻ってくることは「価格を急騰・急落した水準で維持する力が無い」と言い換えることも出来ます。
維持する力が無いことは市場参加者のポジションが減っていることと同義であり、価格の急騰・急落の少し前から取組高が減少する傾向が良く見られます。
ここで一般に、価格が急騰した後に大きく反転する (ブローオフ) 時の典型的な変化の段階を見ていきます。
❶ まず価格が急騰する「初期の段階」において出来高が大きく増加する。
価格の急騰前に取組高が普段より高い水準にあるなら瞬間的に減少することがある。
❷ 価格が急騰する中期~末期 (天井を付ける時) へ時間が進むにつれ、出来高は大きく減少する。
価格の急騰する値幅が大きいほど、取組高も比例して大きく減少する。
❸ 価格が天井を付けたまさにその時に「出来高の減少」と「取組高の減少」が確認できるのであれば、その天井は本物である可能性が高い。
反対に、価格が急落した後に大きく反転する (セリングクライマックス) 時の典型的な変化の段階は多少異なります。
❶ 価格が急落する「初期の段階」において出来高が段階的に増加していく。
急騰時とは違い、出来高は階段状に増加するケースが多い。
❷ 価格が急落する中期~末期 (底を付ける時) へ時間が進むにつれ、出来高は大きく増加する。
市場参加者がパニックで売ることが多く、取組高は減少を続けていく。
❸ 価格が底を付けたまさにその時に「出来高の大きな増加」と「取組高の減少」が確認できるのであれば、その底は本物である可能性が高い。
このような急騰・急落から大きく反転するパターンの「クセ」を知っておくと、いざという時も冷静に分析が出来、要らない損失を避けることも可能となるでしょう。
また価格の急騰・急落どちらのケースでも、出来高と取組高が反対に動くタイミングがあります。
出来高と取組高が反対に動きながら価格が急変する時は基本的に「ダイバージェンス (矛盾)」となりやすく、進行中のトレンドが反転しやすいことは常に警戒しておきたいところです。
◆大口投資家とポジションの偏り (特に先物について)
取組高の基本について学ばれた皆さんは「ポジション (取組高) の他の利用価値はあるのか」という疑問が湧いてくるかと思われます。
ポジション (取組高) は燃料になることはすでにお話しましたが、この燃料の中にも「強い燃料」(大口投資家) と「弱い燃料」(個人投資家) が入り交ざっていることが良く見られます。
大口投資家を見る伝統的な方法として、商品先物取引委員会 (CFTC) によって公開される「投資家ポジション報告書」(CTR、Commitments of Traders Report) が知られています。
これは穀物・大豆・原油などの先物ポジション、為替や株価指数の先物ポジションを見ることが出来る貴重なレポートであり、週間ベースではありますが強い投資家の動向を確認することが出来ます。
今回は為替 (FX) を例にとり説明していきます。
上図では日本円に対する各投資家別のポジション量が載せられています。
上左部から、
"Dealer Intermediary" (仲介業者)
"Asset Manager/Institutional" (資産運用/機関投資家)
"Leveraged Funds" (ファンド)
"Other Reportables" (個人含むその他)
の4種別に分かれていますが、ここで注目すべきは左から2つ目の "Asset Manager/Institutional" (機関投資家) となります。
この機関投資家は他の種別よりも慎重に運用することで知られ、その時々のファンダメンタルズや経済環境、政治情勢等を入念に把握したうえで「失敗しない」運用を行うことで知られます。
すなわち (ファンドを除く) 機関投資家の持つポジションは間違える確率が低く、これからの相場の大局を先導するとされています。
これら機関投資家の持つポジションは上で述べた「強い燃料」として働きやすいです。
上図では機関投資家の日本円のポジションが "Short" (売り) に偏っており、機関投資家はこれから円が売られる、すなわち円安になることに賭けていることが分かります (2023年8月中旬時点)。
黄蛍光部はポジションの具体的な量が書かれていますが、"Long" (買い) が59000ほどに対し "Short" (売り) は98700程度と2倍弱の差がついています。
一方、"Other Reportables" は機関やファンド以外の投資家、言い換えれば個人投資家を主とした「弱い燃料」のポジションを表しています。
これら個人投資家は概ね機関投資家とは逆のポジションを張ることが多く、またほとんどのケースで間違えた方向に張っています。
上図ではLongが9000ほどに対しShortが4000弱と、圧倒的にLongの割合が高いです。
これは個人投資家が円を大きく買い越していることを示しており、個人投資家の大勢は円高になると見越していることが分かりますが、(2023年8月中旬時点で) 米国金利と日本の金利が拡大しやすい環境にあったこと、日本のインフレが強くなりながらも日銀の設定する国債利回りは依然低水準でインフレを放置していること※などを考えればすぐに円高になる形は難しいかもしれません。
※現在の日本におけるインフレを放置すると自国通貨 (日本円) の価値が薄まり、円安への圧力がかかりやすいです。
通常、インフレによりお金の価値が減少するとそのしわ寄せが「他国に対する為替レートの悪化」として現れやすいためです。
このように先進国の通貨価値が下落することを私は「通貨の新興国化」と呼んでいます。
ただし2023年末時点では世界中のインフレが静まると共に日本でもインフレが穏やかになると見られ、2024年以降もインフレが穏やかならば「通貨の新興国化」(急速な円安) は起こりにくいと考えられます。※
また弱い燃料である個人投資家のポジションが大きく偏ると、限界を迎えた個人投資家による決済注文 (大抵は損切り) により個人投資家が張っている方向と反対に相場が進む傾向があります。
上図の例であれば、機関投資家が円安に大きく張る中、個人投資家は円高に張るも耐えられずに損切り、それが更なる円安を加速する構図が発生しやすいです。
この例からも、強い燃料に付いていく作戦が自ずと有効になっていくのです。
常に機関投資家のポジションが効くとは限りませんが、強い燃料である機関投資家の現ポジション、更には1週間前と比較したポジション増減や個人投資家のポジションを見ることで「今相場はどの方向に圧力が掛かっているか」が一目でわかることは知っておいて損は無いと思われます。
まさに「巨人の肩に乗る」戦略と言えるでしょう。
■移動平均線とその使い方
◆魔法のトレンドライン、移動平均線
実際に投資している皆さんが一度は耳にするであろう「移動平均線」は最も広く使われているテクニカル分析のツールです。
そもそも移動平均とは「ある期間におけるデータの平均を連続して繋げるもの」と言えますが、通常は「~日 (~時間または~分、~週間など) 移動平均」のように期間を定めて日数で割り、それら各点を滑らかな線でつなぐことが多いです。
移動平均は本質的にトレンドに追随する (トレンドフォロー) ツールです。
すなわちダウ理論の基本である「トレンドはそれを否定するまで続く」傾向を利用し、滑らかな曲線でトレンドを可視化するものですが、例えば5日平均と言えば現在を含む直近5日間 (今日~4日前まで) の、各ローソク足の終値平均を出したものになります。
明日になれば最も古い日は対象外となり、明日を含む直近5日間の平均が出されますが、これらを点でつなげることにより「今どの方向に圧力が掛かっているか?」を視覚的に判別することが可能となります。
移動平均の中にもさまざまあり、主に単純移動平均・加重移動平均・指数平滑移動平均の3つに分かれます。
※なお、以下「平均線」や「線」と言えば「単純移動平均線」を指すものとします。
【単純移動平均】 (Simple Moving Average、SMA)
単純移動平均はその名の通り、ある期間における平均 (算術平均) をそのまま期間の数で割ることで導き出す手法です。
例えば直近5日間の数値がそれぞれ「3・7・6・4・10」の条件だと仮定し「5日単純移動平均」を導き出すならば、$${(3+7+6+4+10)/5}$$ のようにして計算することで (この例では答えが6) 直近の点を描くことが可能となります。
単純移動平均は該当する期間のみを考慮すること (5日平均であれば直近5日間のみ)、各取引日の重要性が全て同じであるために直近の急激な値動きに対する反応が鈍い、などの欠点が指摘されています。
特に短期勝負では直近の価格に対する反応度が高い平均線が扱いやすいとの声もあり、瞬発力という点では劣る部分も確かです。
【加重移動平均】 (Weighted Moving Average、WMA)
上で述べた単純移動平均は各期間の重要性 (これを「重み」と呼びます) が等しく取り扱われており、直近の値動きに対する反応が遅れるケースがしばしば発生します。
5日単純移動平均線であればそこまで問題にはなりませんが、仮に100日と長くすると重要性の低い昔の値動きまで等しい重みとして扱われており、急落などの反応が遅れてしまいます。
そこで加重移動平均は「直近であればあるほど重要性が増す」とし、直近の値動きにより重みを付け、対象期間内の古い値動きの重みを軽くすることで素早い値動きへの反応度を高めることが出来ます。
上の例で (日付の近い順から)「3・7・6・4・10」の5日間の数値であれば、最も直近である「3」は最大の重みを付け、最も古い「10」は最小の重みを付けるべきです。
上記の例では直近の数値から5~1までの整数とそれぞれ掛け合わせ ($${5×3}$$、$${4×7}$$、$${3×6}$$、$${2×4}$$、$${1×10}$$のように振り分け掛けていく)、それらを期間数の合計 $${(5+4+…+1)}$$ で割ると出てきます。
これらはすべてテクニカルツールとしてほとんどのチャートに標準装備されており数式を覚える必要はありませんが、直近の価格反応度が優先される特徴だけでもぜひ覚えて頂ければと思います。
【指数平滑移動平均】 (Exponential Moving Average、EMA)
上記の加重平均では5、4、3…と1ずつ重みが減っていきましたが、指数平滑移動平均では重みの減り方が異なってきます。
詳細な式は省きますが、平滑化定数 ("α" や "k" と置き換えられます) と呼ばれる数を混ぜて掛け合わせることにより、直近からの重みが指数関数的に減衰することで更なる価格反応度の高さが達成できます。
こちらもすべてテクニカルツールで標準装備されており、「直近の価格に対する反応度は3つの中で最も高い」ことだけ知っておけば十分です。
◆移動平均線の「最適解」
最も広く、かつ多くの人に用いられているのは単純平均であり、テクニカル分析は「多くの人が見るテクニカルが効きやすい」という特徴もあるために本稿では単純移動平均 (Simple Moving Average = SMA) をお勧めしています。
加重移動平均や指数平滑移動平均も市場やタイミングによってはピッタリ当てはまるときもあるのですが、細かく売買する以外の目的ではダマシ (ノイズ) となりやすく、時にトレンドの大局を誤ることがあります。
そのような意味では単純移動平均は最もノイズを引き起こしにくく (= 感応度が低いため)、無駄なポジションを取る回数が少なく済む特徴があります。
もちろん、3日移動平均など期間が非常に短ければそれ自体がノイズになりやすいため、期間自体もある程度余裕を持たせた (長めの) 平均線を使うと良いでしょう。
また株式や為替 (FX)、原油などのコモディティなど様々な市場がありますが、平均線の適切な「期間」に正解はありません。
その時々で適切だと思われる期間 (例えば50日移動平均線、10日移動平均線など) は存在していますが、刻一刻とその適切な数字が変わる以上、これを導き出すことに実用上の意義は薄いと考えられます。
仮に統計的に「株式市場では〇〇MA、為替市場では××MAが良い」と出ても、結局人間が使うためのツールでありそれぞれの異なるMAをある程度習熟するには時間がかかります。
そうするよりも皆が見ている (使用している) 移動平均線の期間を自分なりにアレンジし、また実際の相場に照らし合わせて使い方を学ぶ方が効率が良く定着しやすいと思われます。
なお、この期間についての議論は後ほど触れます。
◆移動平均線の使い方
ここからは実際に平均線をどのように使えば良いかを考察してみます。
上で述べた3種類の平均はすべて単純移動平均をベースにしているため、まず最もシンプルな1本の単純移動平均線 (以下、平均線) を用いてトレードを行うと仮定します。
最も基本的な使い方として
・「価格が平均線を上に抜けた時に買い、下に抜けた時に売り」
が有名です。
これは視覚的にも非常に分かりやすく、ただ単に価格が (終値で) 上に抜ければ買いのアクション、下に抜ければ売りのアクションを取るだけのシンプルな手法となります。
ただし実際の相場においては平均線を超えたと思ったら再び元に戻ってくる、いわゆるダマシの動きが見られることが多々存在します。
また平均線にちょうど沿うような値動きが見られる際は短期間に何度も線を超えたり戻ったりする羽目になり、細かなトレードをすることで手数料と小さな損失が重なり勝てずに終わることもしばしばです。
そこでもう少し踏み込み、ダマシの少ない使い方として平均線の向きを考慮する手法も多く使われています。
すなわち
・「価格が平均線を上抜け、更にその平均線も上に向いていれば買い」
・「価格が平均線を下抜け、更にその平均線も下に向いていれば売り」
とする方法です。
また上で触れたように、期間が短すぎる平均線もダマシが多く短期トレード以外では不必要なトレードを招き損失の原因となりやすいです。
期間が短い = 感応度が高い (トレンド転換にも素早く対応できる) のですが、トレンド転換の合図が多すぎるためにどれが本物のトレンド転換であるかが分かりづらくなるためです。
短期間の平均線に従い、上昇トレンドから下降トレンドへの転換かと思い売りを入れたら実はただの押し目であり、不利な価格で売りを掴まされる (損切りに繋がる) ことも良くあります。
「トレンド転換に素早く対応できること」と「ダマシに逢いにくいこと」を両立することは難しいのです。
◆1本より2本、2本より3本
平均線は1本で使うことも出来ますが、1本だけでは対応しきれない相場も確かに存在します。
例えばトレンド転換した時「どこまでそのトレンド転換が続くか」や「そのトレンドは本物か」といった疑問には平均線を2本として使うことで解決しやすくなります。
1本目の平均線を短期間に、2本目の平均線を長期間に設定し、これら平均線が交差することで買い・売りの合図 (シグナル) を得る手法が一般的であり、二重交差メソッドと呼ぶ投資家もいます。
例えば米国株でよく使われる50日平均線と200日平均線は2本セットでチャートに表示させることでより正確な買い・売りのシグナルとしてトレードに生かすことが可能となります。
この場合、買いのシグナルは「50日平均線が200日平均線を上に抜ける」ですが、ここに前節でも扱った「価格が平均線を上抜ける + 平均線も上向き」を加えるとより確実性を増す買いのシグナルが完成します。
もちろんトレンド転換に気づくのも遅いですが、ダマシに逢う確率もグッと減ることで途中で無駄に降りることなく、強気相場にしっかり乗れるメリットは大きいと思われます。
なお、短期の平均線が長期の平均線を上抜けることを「ゴールデンクロス」、逆に下抜けることを「デッドクロス」と呼ぶこともあります。
上では50日と200日を扱いましたが、実際はお互いの期間をもう少し縮めても良いでしょう。
例えば50日と100日、25日と75日など、このあたりは工夫しても良いかもしれません。
なお、米国株で良く使われる (標準的な) 50日と200日はかなり長期に渡るトレンドを察知するのには優れていますが、しばしばコロナショックなどの急落時 (パニック売り) に対応が困難になる欠点が存在しています。
これら急変に乗り遅れる事態を防ぐには期間を短くすれば良いのですが、おすすめとして投資家に広く使われている期間を "2" という数字で割った数値を平均線の期間に用いると (上の例では$${\frac{50}{2}}$$で25日、$${\frac{200}{2}}$$で100日と言った具合) 全体のバランスを崩さずにより反応度の高い平均線システムとして利用できます。
逆に、期間が自分には短すぎると感じれば "2" を掛けることにより ($${50 \times 2}$$で100日など) 調和的な平均線の組み合わせとなります。
もちろん3本の平均線を使うこともあります。
こちらはそれぞれ短期・中期・長期として (数値は人それぞれですが) 使い分けますが、先物取引 (為替・株価指数先物・商品など) において4日・9日・18日の組み合わせが利用されています。
株価指数でも3本の平均線は強力に働き、例えば50日・100日・200日など ("2" の倍数で隣り合う期間を選ぶと上手く働きやすいと言われています) の3つの平均線を利用すれば、それぞれ短期・中期・長期線としてより正確に買いや売りをシグナルしてくれます。
3本を用いる場合、上昇相場として最も良い状態は「上から短期・中期・長期線の順番で並んでいること」です。
反対に下落相場として最も良い状態は「下から短期・中期・長期線の順番で並んでいること」となります。
平均線が3本でも2本でも、それぞれの線の順序が完璧にそろうことを「パーフェクトオーダー」と呼ぶこともあります。
3本の平均線は良く使われていますが、短期の線を「トレンドの方向」、中期及び長期の線を「価格が一旦止まりやすい場所」として見ることも有用な手法の一つです。
中期及び長期の線すべてを順序通りに待つとかなりの時間がかかる上、それら3本が揃って綺麗に伸びる期間は実際長くはありません。
そのため、中期線と長期線は「移動するトレンドライン」として見ることで利確・買い増し (売り増し) の基準にすると良いでしょう。
※これら平均線を利用したトレードは数値により無限の組み合わせがあるため、後ほど別記事にて平均線を利用したトレードを取り扱う予定です。
なお4本以上の平均線を表示することも可能ですが、より管理が煩雑になりトレンド転換などに気付きにくくなるデメリットが大きくなるため、本稿では3本以内での利用を推奨しています。
(もちろん4本以上使う方もいるため、自分に合うかどうか試す価値はあると思います)
◆移動平均線とサイクル
移動平均はサイクルと深く結びついています。
サイクルとは日本語で「周期」と訳されますが、「地球の自転周期が1日」や「月の満ち欠けが29.5日」と自然界には様々なサイクルが存在しています。
例えばコモディティ市場には月次サイクルと呼ばれる、それぞれの月における取引可能な営業日をベースとした周期が存在しています。
おおよそ1か月の平日は20日ほどありますが、これをベースとした20日移動平均線は先物市場において良く使われています。
また20日を基準とし、2で割る (10日)・2で掛ける (40日) と元の20日と調和的なサイクルに落ち着き、20日の長所を生かしながら期間を短く・長くすることが可能となります。
"2" という数字で割る・掛けることで様々な平均線を自分に適した期間で使うことが可能になるのです。
同じように、定番の期間と隣接した数字 (例えば、20日であれば21日、10日であれば9日など) も一般に良く用いられ、移動平均線として効きやすいです。
ところで、先物取引においては有名な「4週間ルール」と呼ばれるものがあります。
遡ること1970年、"Trader's Notebook" と呼ばれる小冊子が出版されましたが、この中でリチャード・ドンチャンによって開発された4週間ルールが最も成績の良いシステムとして結論付けられました。
この4週間ルールはチャネル (値幅の上下幅) を上抜けもしくは下抜けする時に、それぞれ買いまたは売りを仕込むことでトレンドに付いていく手法です。
以下、参考までにルールを記載しておきます。
ただし上記のルールは常にポジション (建玉) を保有している点が特徴であり、昨今の急激な値動きについていけない可能性もあります。
その場合、ポジションを仕込む時は4週間の高値・安値を抜いた時、ポジションを手仕舞う時は2週間の高値・安値を抜いた時など、「利確は早く、損切りは素早く」の格言に沿うようなオリジナルルールも設定することも一つの方法でしょう。
4週間の高値及び安値抜きで仕掛け、2週間の高値及び安値抜きで手仕舞えばよりリスクが少ないトレードが可能となり、またニュースや感情に踊らされずに機械的に取引できる点は非常にメリットとなるでしょう。
※なお、4週間ルールをオリジナルに改変する際も、基本的には "2" という数字で割る・掛けると上手くいきやすいです。
例えば2週間・1週間でサイクルをより短く、8週間に拡大して更にゆったりとしたトレードを行えば、自分に適したペースで投資を継続することが出来るでしょう。
◆移動平均線の注意
移動平均線は概してトレンドが無ければ上手く働かないため、特に横ばい相場において移動平均線はほとんど役に立たないことが多いです。
例えば上図では25MA (緑線) を利用しており、トレンドの方向を推し量る25MAが一度は値動きを支えていますが、その後頂上付近で再び下に反落しています。
これにより値動きが25MAを下に割り、かつ25MAも下向きになりいよいよトレンド転換…かと思われた矢先、再び上に戻ってきています。
このような現象はしょっちゅう見るものであり、上記の例では日足単位で平均線が役に立たなくなっていますが、同じチャートを週足や月足 (もっと長い時間軸) で見れば、より長期間の足における25MAが未だ効いていることが分かります。
全ての時間軸において平均線が効かなくなることは多くなく、日足で横ばい相場なら週足でトレンド、週足で横ばい相場なら月足でトレンド…といった具合に大抵はどこかの時間軸でトレンドが発生しているものです。
また月足で横ばい相場に入っても、その値幅がある程度あれば日足でトレンドが発生していたりと意外にチャンスは落ちているものです。
自らが得意とする時間軸 (多くの投資家は日足) に集中してトレンドに乗ることは大切ですが、横ばい相場に突入しても冷静に再びトレンドが出るまで待ち、横ばい相場内でむやみに平均線を利用したトレードをしないことが肝心です。
■移動平均線で値幅を「囲む」
◆移動平均エンベロープとボリンジャーバンド
移動平均線はトレンドの方向や「曲線のトレンドライン」としての利用価値の他に、「平均線と価格の乖離 (行き過ぎ) を知らせる機能」も持っています。
例えばある平均線があるとして、上に5%・下に5%だけ離れた場所に線を引いてみます。
仕手株やペニー株など、一部の個別株を除いて株は多くの投資家が参加しています。
一時的に急騰・急落しても、すべての投資家が一斉に同方向に取引することはまれであり、ある水準で買い手・売り手が枯渇することで価格が元の方向に戻る、又は小さな横ばい相場に移行し再び急騰や急落を待つ状態に移ります。
言い換えれば「ある平均線から一定の水準だけ離れると値動きが落ち着きやすい」とも捉えられ、利確や短期的な逆張り (トレンドとは反対方向に取引すること) に利用することが出来ます。
上の例では上下に5%ずつずれた (すなわち、平均線から±5%の) 部分で「値動きが落ち着く」と見込み、保有する買いや売りのポジションを手仕舞いしたり、反対方向に売買して利益を得る作戦が上手く当てはまるでしょう。
これを応用するとかの有名な「ボリンジャーバンド」に繋がっていきます。
ボリンジャーバンドは価格が平均線からどれだけ分散しているかという「標準偏差」を利用し、それぞれの値動きに適した「行き過ぎ線」を滑らかに表示してくれます。
そもそも標準偏差は「統計的に有意な数値を確率で表す」、すなわち「現在のチャートから見ると上下〇〇の水準までなら95%の確率で収まる」といった具合の「確率」をベースとした理論です。(詳細な式や議論は省略します)
標準偏差はσ (シグマ) という単位でどれだけ離れているか表され、ボリンジャーバンドでは1σ (値動きが1σ線の内部に収まる確率が68.3%)、2σ (95.4%の確率で2σ内部に値動きが収まる)、3σ (3σにおける同確率が99.7%) の間で使うことが多いです。
ただし誤解のないように言うと、これら標準偏差はあくまでも株価が「正規分布」に従うときのみ効果を発揮します。
正規分布とは自然の中で生じる誤差や個体差をグラフで表したものであり、例えば成人の身長がおおよそ130cm~200cmほどに収まる (あくまでも例です) ことをグラフで表したときに、以下の「ベルのような」形になります。
より厳密に定義するなら、正規分布では「平均値 = 中央値 = 最頻値 (最も出現率の高い数値)」となります。
正規分布は一昔前まで株価にも当てはまると考えられてきましたが、2000年代に入るにしたがい「正規分布では数百万年以上の単位で来ない極端な下落が、株式市場には頻発する」という議論から現在は「株価 = べき分布」という考え方が定説になっています。
「べき分布」は正規分布よりも極端な値が発生しやすく、身近な例で言えば年収のばらつきや地震の揺れなどが挙げられます。
日本の平均年収は450万円程度ですが、その中でも極端な数字である1億や10億円の収入を稼ぐ人も「そこそこの割合で」いるのがべき分布の特徴です。
株価にも同じように当てはまり、特に値動きにトレンドが出た際はべき分布の傾向を色濃く見せます。
話を戻すと、ボリンジャーバンドは正規分布に従う前提での指標でした。
そのため後述するように、トレンドが発生している際は株価の推移がべき分布に偏っている状態である可能性が高く、安易に逆張りをすると (つまり、株価の値動きを「正規分布」と誤解すると) 痛い目をみる可能性があることには留意したいところです。
逆にある一定の値幅を行き来するレンジ相場においては正規分布に近い動きをするため逆張りが成功しやすく、「現在は上昇・下降トレンドか?それとも横ばいか?」の判断をなるべく正確に下すことが重要となります。
ボリンジャーバンドは相場が静かなときに狭くなり、トレンド中や急騰・急落を挟むと広がる傾向にあります。
相場の変動の激しさを「ボラティリティ」とも呼びますが、変動の激しさに応じてバンド (帯) が拡大・縮小し、その時々の最適な「値動きの限界値」を教えてくれることが最大の特徴です。
◆ボリンジャーバンドの具体的な使い方
上でも触れましたが、ボリンジャーバンドは標準偏差を利用し、値動きの限界値を視覚的に分かりやすくするツールです。
通常は2σか3σ、もしくはその両方をチャート上に表示させることが多いです。
多くの投資家は95.4%の確率で値動きが収まる "2σ" を基準として買われすぎ・売られすぎと判断することが多いですが、強烈なトレンドが発生する際は 2σ~3σ 以上の値動きを演じることが多いです。
その場合、2σ でポジションを利確することは良いアイデアですが、2σ を基準とした逆張り (トレンドとは逆の方向にポジションを取ること) は危険であり時に大やけどを負いかねないトレードとなります。
また強いトレンドはしばしば何らかの経済指標発表・要人発言等によってもたらされます。
このような強いトレンドが発生する「イベント」自体が相場の5%未満の時間で発生するわけですから、ボリンジャーバンドの 2σ において逆張りをする際は事前に予定される重要イベントが無いかを調べつつ、突発的なイベントによる値動きが来てもしっかり損切りをする力が必要になります。
一方、3σ の線は99.7%の確率で収まると言われています。
こちらはその確率ゆえ、主に既存のポジションを決済する場所、及びトレンドに逆らう形でのトレードが良いとされていますが、とりわけ横ばい相場からトレンドが開始した際には 3σ での逆張りが危険となりやすいです。
これは横ばい相場における 3σ はあくまでも横ばい相場のみに当てはまる指標であり、トレンドが開始するとそれまでとは全く違う範囲が 3σ となるため大やけどを負う可能性が高くなるためです。
このため大きな上昇・下降トレンドが発生した時のみ、3σ を超える部分でトレンドと反対方向に売買するとより質の高いトレードとなりそうです。
以下、ボリンジャーバンドの使い方について簡単にまとめます。
ボリンジャーバンドは値動きがどの水準まで進むか (どの水準まで来ると元来た道へ帰りやすいか) を視覚的に示す曲線
ボリンジャーバンドを用いると、横ばい相場において逆張りが効きやすいが、トレンドが発生した相場では逆張りは
通常は 2σ と 3σ を使う
大きなトレンドでは 2σ を超えた値動きを見せることがあるため、2σ は保有しているポジションを利確することに使うもトレンドに逆らう取引は時に危険
3σ はほとんどの場合、保有しているポジションを決済する理由になり、またトレンドに逆らう取引を行ってもケガをしにくい
3σ は横ばい相場 (トレンドが無く一定の値幅を行き来すること) から新たなトレンド相場に移行する際に無効となりやすく、横ばい相場の中で 3σ を頼りにしたトレードはいずれ破綻しやすい
■オシレーターとその使い方
◆オシレーターという存在
オシレーター (Oscillator) は教科書的な書き方をすれば「価格が一定の範囲を行き来する (横ばい) 相場において、『買われすぎ』や『売られすぎ』を示すオシレーターを用いることでトレードの助けとなる」となります。
そもそも英語の "Oscillator" は振動するものという意から「発振器」「振り子」とも訳され、まるで振り子が行き来するような (言い換えれば、行き過ぎたところで戻ってくるような) 形で相場の行き過ぎを教えてくれるテクニカルツールです。
通常は横ばい相場において最もパフォーマンスを発揮するオシレーターですが、トレンドが出ている相場においても使い方次第で非常に有用な振る舞いを見せてくれる不思議なツールです。
横ばい相場ではオシレーターの「買われすぎ」「売られすぎ」を基準に逆張り、横ばい相場を出ればすぐにドテン (反対方向に取引すること) し順張りに切り替え、トレンドが短期的に進み過ぎた場合にも保有しているポジションを利確することが出来ます。
まずオシレーターは主要なツール、すなわち平均線や継続・反転パターン、出来高などとは異なり、あくまでも副次的なツールです。
自転車で言えば継続・反転パターンや平均線、出来高は前輪と後輪ですが、オシレーターは補助輪程度の役割だと思っていただいて構いません。
トレンドが綺麗に出ている状態を「舗装された道」、トレンドが出ていない横ばい相場状態を「悪路」とするならば、まさに補助輪は悪路で真価を発揮します。
裏を返せば、綺麗にトレンドが出ているのにも関わらず「舗装された道」を補助輪頼みで走れば上手くトレンドに乗れない (補助輪より前輪と後輪だけの方が効率が良い)、または間違えた方向に取引 (補助輪を気にかける余り店頭するなど) し損をこうむることすらあり得ます。
オシレーターをあくまでもサブのツールとして使うのが良いと言われるのはこのためです。
実用上、オシレーターと呼ばれるものの代表には「MACD」「RSI」「RCI」「ストキャスティクス」などが挙げられます。
これも後ほど触れていきます。
◆オシレーターの本来の意味
オシレーターは二次的なツールとして紹介しましたが、ここぞという時 (補助輪だとすれば、悪路にいる時や悪路に入りそうな時) に使うと頼もしいものであることも事実です。
ここでオシレーターの使い方として、今一度箇条書きで先にまとめます。
オシレーターは元来、値動きの上限や下限付近に達した際に最も力を発揮する
値が上限付近にあれば「買われすぎ」、下限付近にあれば「売られすぎ」となり、進行しているトレンドの不安定さを表す
オシレーターの値が極端に振れている (買われすぎの領域、もしくは売られ過ぎの領域) 状態において、オシレーターと値動きにダイバージェンス (矛盾) があると「トレンドが転換する」などの注意信号になる
オシレーターは0~100、又は中心を0とするものが多く、中心線を超えることはそのトレンドが力強いものであることを裏付け、通常はそのタイミングでトレンド方向にポジションを取る
少々話は脱線しますが、オシレーターを使う時に (特にトレンドが発生している相場において) 値動きの「勢い」という考え方が出てきます。
これは英語で「モメンタム」とも言いますが、日本語では値の上昇や下降する速度のことを指します。
このモメンタムはのちの様々なオシレーターに通ずる考え方なので少々触れていきます。
トレンドが発生する際、ある程度の期間継続することが普通です。
そしてトレンドは最初の弱い伸びから徐々に力強く、ある一定水準の強い伸びを経験した後は緩やかに弱くなり、再びトレンドが出るまで横ばい相場に移行することが多いです。
この考え方の中での「伸び」が「モメンタム」であり、これを数式で表せば、
$${M = V - Vx}$$
となります。
ここで$${M}$$ = モメンタム (値動きの伸びる速度)、$${V}$$ = 直近の終値、$${Vx}$$ = $${x}$$ 日前の終値を表しています。
例として$${x}$$ = 5 (5日前の終値) としておきます。
上昇トレンドの中にいると仮定すれば、直近の終値が5日前の終値より必ず上に位置しているはずです。
この場合$${M}$$ (モメンタム) はプラス方向に存在しますが、値動きの上昇幅が大きいほどモメンタムも伸びる性質があります (この場合、$${M}$$は2,3,4…とモメンタムの数字自体が上昇します)。
値動きの上昇幅の大きさでその値動きが力強いかどうかを判断するツール、とも言い換えられます。
上昇トレンドが終わりかけに近づくと、以前よりも $${M}$$ の数値は減少していきます。
例えば5あった $${M}$$ が4、3…と減って行けば、モメンタムの観点から「値動きは上昇しているのに上昇幅が減少している」と解釈でき、同時に上昇トレンドの一時停止を教えてくれます。
更に進み、直近の終値と5日前の終値がほぼ同じになれば$${M}$$ は0付近まで落ちてきます。
$${M}$$ がマイナスに突入すると5日前の終値よりも現在の終値が下がっており、トレンドが下落に傾いていると判断できます。
このようにモメンタムは線 (モメンタムライン) で表すことにより、「〇日前より上昇幅が大きいか」を視覚的に測定でき、上昇幅が小さくなれば線は下向いて来ることで買いポジションを手仕舞うなどの行動を起こすきっかけを作ってくれるのです。
下落トレンドでも同様に、〇日前より下落幅が大きければモメンタムラインは下へ加速し売りポジションを持つ理由を提供してくれるのです。
モメンタムに関するこれ以上の詳細は省略しますが、
「モメンタムが勢いを失えばトレンド転換の注意信号となる」
「モメンタムが再び勢いを取り戻せば (その方向に) 新たなトレンドとなる」
「モメンタムは0 (中心線) をどちらかに超えるとその方向にトレンドが形成されていく」
という感覚を覚えて損はないでしょう。
またモメンタムはその性質上、値動きに先行して様々な情報を教えてくれるため、先行指標としての価値が高いです。
(この考え方はすべてのオシレーターにも通じます)
モメンタムを応用したものにROC (Rate of Change、変化率) がありますが、こちらは当日の終値を$${x}$$日前の終値で割り、100を掛けることで%表示にするオシレーターです。
また期間の異なる移動平均線を2本使い「ゴールデンクロスすればオシレーターがプラス域へ」「デッドクロスすればオシレーターがマイナス域へ」とするオシレーターもありますが、考え方はモメンタムと似ているため説明は省略します。
(これから出るオシレーターのほとんどはモメンタムと考え方が軌を一にしています。煩雑になりすぎることを防ぐため、モメンタムの考え方をふわっと理解するだけでも良いと思われます)
◆RSI (相対力指数)
実際のトレードで良く使われるオシレーターの一つ、RSIについても見ていきます。
RSI (相対力指数) はウェルズ・ワイルダーが開発したオシレーターであり、オシレーターの中でも良く使われる代表選手の一つです。
上の節で述べたモーメントは非常に有用ながらもいくつか問題を抱えています。
まずモメンタムの幅が上下一定で無いため (上は+5、下は-8など) 「実際にどこまでが行き過ぎか」をあらかじめ予測できない点、また計算の対象となる期間外の値動きが大きすぎる場合 (例えば5日モメンタムにおいて、6日前に急騰した部分が反映されずに、実際は強い上昇トレンドであるにも関わらずモメンタムが下を向いてしまうなど) にトレンドとのミスマッチが発生してしまう点が挙げられます。
これを一挙に解決するRSIは有用なツールであり、上昇幅と下落幅の平均を割り算することで相対的な力 (Relative Strength) を見る指標 (Index) となっています。
そもそもトレンド自体はいつまでも続くものではなく、短期的に上がりすぎれば買い手がつかずに必ず一時休止するものです。
RSIではこれを0~100の数値で表し、100に近づくほど「相対的に買い手がいなくなり、価格を支えきれなくなる」としたうえで、その考え方を線で視覚化したものになります。
もっと教科書的に言えば、RSIは0~100までの数値で買われすぎ・売られすぎを判断する指標であり、通常は70以上を買われすぎ、30以下を売られすぎと見ることが多いです。
なお計算式は以下の通りです。
$${RSI = 100 - 100 ÷ (1+RS)}$$
$${RS}$$ = 上昇幅の$${x}$$期間平均 ÷ 下落幅の$${x}$$期間平均
上の式からわかる通り、上昇幅や上昇日が多ければ多いほどRSIは上昇し (100に近づき)、下落幅や下落日が多いほどRSIは下降します (0に近づく)。
$${x}$$期間平均は14という数値 (日足なら14日、週足なら14週、月足なら14月など) が標準で用いられており、例えば28日のように対象期間を長くすればRSIはより緩やかに、7日のように短い期間であれば値動きに対して敏感になり、より激しく動きます。
基本的にはデフォルトの期間である14日で構いませんが、期間を調整して自分に合うRSIを探すのも良いでしょう。
RSIは0~100までの中で動くことは既に述べましたが、買われすぎや売られ過ぎの水準は常に70以上・30以下とは限りません。
これは目安であり、実際の相場ではその銘柄ごとに (例えばナスダック総合指数やS&P 500など) 異なった水準が買われすぎ・売られすぎとなることが多いです。
またトレンドが発生している際は更に余裕を持つ必要があり、「上昇トレンド時は80以上で買われすぎ」「下降トレンド時は20以下の時に売られすぎ」と見るのが現実的です。
ここからは上昇トレンドの中にいるとして話を進めていきます。
RSIの買われすぎ領域において一度高値を作った後、その高値を超えることが出来ず、前の安値を下回ってしまうと売りを示唆するというものがあります。
図で見ると捉えやすいですが、このことはRSIにダウ理論を応用していることに変わりありません。
値動きも前の高値を超えられずに前の安値を下回れば下落トレンドの警告となりやすいですが、RSIでは買われ過ぎの領域にある高値を超えられずに安値を割ってしまうとRSI自体が下落トレンドに入りやすく、結果として値動きも追従する (上昇トレンドから横ばい or 下落相場に突入する) ことがままあります。
※以前の高値を超えられず近辺の安値を割ることを「フェイラースイング」と呼ぶこともあります。
これを値動きとリンクさせることで価格の反転を予測する「ダイバージェンス」(矛盾) という手法はRSIでも良く効くことが知られています。
ダイバージェンスは本稿の初めでも出てきましたが、RSIでも考え方は同じです。
一例としてまず価格がある高値を形成し、RSIも買われすぎ領域に到達するとします。(この「RSIが買われすぎ領域に到達する」ことが重要です!)
このこと自体は良くあることであり、強いトレンドでは頻繁にあるためとりわけ気にせず買いのポジションを持ち続けます。
その後再び価格が上昇して以前の (価格の) 高値を超える場合、RSIも以前の (RSIの) 高値を超えるかどうかに注目してみます。
もし価格は高値を更新しているのにRSIは高値を更新していない場合、価格とRSIにダイバージェンス (矛盾) が生じています。
この現象が発生すると一時的に価格が反転しやすく、ポジションを一旦手仕舞うなどして乗り切ることを検討すべきでしょう。
またダイバージェンスが発生した後に、RSIの2つの高値 (以前の高値とそれを更新できなかった高値) の間にある安値を割ると、一時的な天井を打ったと見ることが出来ます。
これは以前のnoteにおけるヘッド・アンド・ショルダーズにおける安値を割るのと似たような形です。
RSIの買われすぎ領域内において、2つの高値の間にある安値を割るとダイバージェンスを (本物であると)「確認した」とする投資家もいます。
このようなダイバージェンスは今後様々なテクニカル分析にて使われ、「値動き自体と関連する指標との間に生まれる乖離」は非常に重要な考え方です。
ダイバージェンスとは、
「オシレーターが買われすぎ・売られすぎの領域に一度到達した後、再びそれを上回る・下回ることが出来ない」
「オシレーターの動きに反して、値動きは高値・安値を更新している」
という複数の条件が重なると発生する、と覚えておけば問題ありません。
今後もダイバージェンスが使われるところではぜひ思い浮かべてみてください。
◆ストキャスティクス
ジョージ・レインによって1950年代後半に広められたストキャスティクスもオシレーターの代表選手として、現在も多くの投資家から根強い人気を誇っています。
このストキャスティクスもRSIと考え方は似ていますが、ストキャスティクスでは上昇トレンドが進むと価格レンジの上限に近づく傾向があり、下降トレンドが進むと価格レンジの下限に近付く傾向があることを利用したオシレーターです。
価格レンジの上限とは一体?と思われた方はまさにその通りで、上昇トレンドが進んでいる最中はどこが頂点であるのかは誰にも分かりません。
しかし上昇トレンドが短期間にハイペースで進むと、それら高値が「恐らくは」横ばい相場の上限になりやすいことが分かっており、言い換えれば高値付近で一度価格が戻りやすい、という考え方がベースとなっています。
もちろん確実に価格上限を当てることは出来ませんが、上でのRSIでも相対的に「買われすぎ水準 = 価格を支えづらい水準」を示すために使われており、言い方は異なれど考えはほぼ同じと言っても差し支えないでしょう。
話を戻すとストキャスティクスでは「%K」と「%D」の2種類が存在します。
%Kは価格に対する反応度が高く値動きにすぐ反応し、%Dは%Kの3期間平均 (3日、3週間などそれぞれの時間軸で異なります) となり、%Dはごく短期の値動きに左右されないより洗練されたシグナルとなります。
なお、計算式は以下となります。
$$
\%K = \left(\frac{C - L_{14}}{H_{14} - L_{14}}\right) \times 100
$$
$${\%D = \%K}$$ の3期間 (単純移動) 平均
ここで$${C}$$は直近の終値、$${H\text{\scriptsize 14}}$$は14期間 (14日、14週間、14月など) の最高値、$${L\text{\scriptsize 14}}$$は同期間の最安値を表します。
%Kは終値が現時点で (0%~100%の間で) どこに位置しているかを示すことに過ぎず、80%を超えれば「現在の終値が値幅の上限に近い」と解釈され、逆に20%を下回れば「現在の終値が値幅の下限に近い」と言われています。
なお、これら%Kと%Dを組み合わせたものを「ファストストキャスティクス」とも呼びますが、実際のトレードでは上記の「%D」を「slow%K」として、「slow%K」の3期間平均を「slow%D」として扱います。
この実用上のストキャスティクスを「スローストキャスティクス」とも呼び、以下「%K」「%D」はすべてスローストキャスティクスでのお話とします。
(計算式が違うためにダマシが減り使いやすくなるだけであり、使い方は全く同じです)
上でも触れたように、ストキャスティクスでも買われすぎ (80超え) と売られすぎ (20未満) の水準がありますが、買われすぎのゾーン内で「%K」が「%D」を下に追い越す時に「売り」のシグナルが出ます。
同じく売られ過ぎのゾーン内で「%K」が「%D」を上に追い越す時に「買い」のシグナルが出ます。
トレンドの行き過ぎにおける逆張り指標として有用なオシレーターの一つであり、素早い動きをする (平均線で言う短期線) %K と比較的ゆっくりな動きをする (長期線のような) %D を組み合わせることでより正確にトレンド休止・転換を察知しやすくなります。
ストキャスティクスにおけるもう一つの代表的な使い方として、RSIでも触れた「ダイバージェンス」が有効です。
%Dに着目し、80以上の買われすぎ領域に一度到達し、再びその高値を目指すも失敗した「切り下がる2つの山」が出来た際は値動きに注目します。
価格が高値を更新しながら%Dが高値を更新できていない場合はダイバージェンスとなり、ダイバージェンス後に%Kが%Dを下に交差した際に初めて売りシグナルとなります。
売りの局面でも、20以下の売られすぎ領域で%Dが切り上がる2つの谷が出てきた場合、その間に値動きが安値を更新していればダイバージェンスとなります。
この時も同じく、実際はダイバージェンスを確認した後に%Kが%Dを上に交差して初めて買いシグナルとなります。
なおオシレーターのダイバージェンスにおいて、例えば買われすぎ領域に一度到達し山を作った後に再びその高値を更新できない時、二度目の山は必ずしも買われすぎ領域に到達する必要はありません。
ただし二つの山の距離は適度に近いほうが、ダイバージェンスとしては信頼性が高まります。
◆MACD (マックディー)
MACDは日本語で「移動平均収束拡散法」と訳され、チャートを見る皆さんの中には聞いたことがある方も多いかと思われます。
ジェラルド・アペルにより開発されたMACDというオシレーターは2つの線、すなわち「MACDライン」と「シグナルライン」で構成されているのが特徴です。
MACDラインは12期間と26期間の指数平滑移動平均 (EMA) の差で出される曲線であり、シグナルラインはそのMACDライン自体の9期間EMA (つまり、MACDラインよりシグナルラインが遅い) となっています。
$$
\text{MACDライン} = \text{12期間EMA} - \text{26期間EMA}\\
\text{シグナルライン} = \text{MACDラインの9期間EMA}
$$
2本の線が交差する時に売買アクションを行うのが定番の使い方ですが、買いのシグナル (合図) は「MACDライン」(速い線) が「シグナルライン」(遅い線) を上抜いた時であり、売りの合図はMACDラインがシグナルラインを下抜いた時となります。
またモメンタムと同じく、0ラインより上にあれば上昇、下にあれば下落を示唆します。
MACDは上で紹介したRSIやストキャスティクスとは異なり、上下の幅が一定ではありません (上下の幅が一定で無いのはモメンタムと似ています)。
モメンタムと同じく、前よりも値動きが大きく推移すればその分MACD自体は拡大し、〇〇を超えたら買われすぎ、という使い方は出来なくなっています。
教科書的な書き方では「中心の0ラインから上下に十分に離れた時、それぞれ買われすぎ・売られすぎとなる」となっていますが、これは非常にあいまいな書き方です。
そこで (またしてもですが) ダイバージェンスという考え方が再び光ります。
今回はMACDラインに着目し、値動きは高値を更新しているにも関わらず2つのMACDラインの山が高値を更新していないとき、他のオシレーターと同じように近い未来における反転を示唆します。
なおすべてのオシレーターに言えますが、この反転は大きなトレンドの転換になるとは限らず、また見ている時間軸によってもどの程度の反転になるかはまちまちであるため注意が必要です。
例えば1時間足でのMACDラインのダイバージェンスが観測されたとして、それより長い時間軸の日足では未だ上昇トレンドの最中であるとき、新規の売りを入れるよりも既に保有している買いのポジションを決済する理由として使うほうが良いでしょう。
◆大衆心理は優秀なオシレーター
ここまでオシレーターの代表的なものを紹介してきました。
今までのような数式を用いるテクニカルツールが有用であることはもちろんですが、別の視点から大衆心理に着目してみると面白い結果が得られます。
一般に、大衆心理はトレンドを形成する上で非常に有用ですが、大衆のほとんどが同じ方向を向くと非常に危険とされています。
この「皆が同じ方向に向くことを利用し大衆に逆張りする」ことも広い意味でオシレーターの一種と言えます。
英語では「コントラリーオピニオン」(Contrary Opinion) と訳されますが、どんな題材・テーマであれ多数派が向かうものは間違いだと仮定し、それと反対の行動を取ることが時に役に立つこともあります。
ただし「多数派」という言葉も非常に曖昧であり、「大衆の何%が同じ方向 (買い又は売り) を向いていれば逆張りをしていいのか」という割合の問題も無視できません。
ここで、仮に99%の投資家が買い向かうとどうなるかを考えていきます。
99%の投資家が買いポジションを保有していれば、高値を更新する余地はまだ参加していない1%の投資家の買いのみとなります。
取組高の章で「機関投資家は強い燃料である」と説明しましたが、相場では機関投資家のような賢い投資家が「残り1%の買いが入る前に逃げなければ」と自らの買いポジションを決済し上手く逃げるようなことが当たり前に発生しています。
このように賢い投資家は「どれだけの割合の投資家が同じ方向を見ているか」を常にチェックしており、我々のような個人投資家もその賢い投資家の行動を真似ることでより良いトレードを行うことが出来ます。
翻ってオシレーターはあくまでも「補助輪」であることは説明しました。
オシレーターのみに頼るとトレンドに反することとなりますが、大衆が同じ方向を向けば向くほどにトレンドが成熟し支えきれなくなります。
この「トレンドを支えきれない状態」を間接的に示す大衆心理は立派なオシレーターであることは自明です。
さて大衆心理を測るツールは多々ありますが、個人投資家でも得やすいものはやはり米メディアのCNNが発表している「Fear & Greed Index」でしょう。
これは0~100の数値で投資家がどれだけ恐怖・強欲になっているかを毎日算出し、0に近付くほど恐怖 (皆が売り目線)、100に近付くほど強欲 (皆が買い目線)、といった具合に一目で判別できるようになっています。
ただしこれも過信しすぎるのは危険です。
0~5、95~100の極端な状態では逆張り指標として非常に効きやすいですが、1年間の履歴を見て80でおおよそ反転すると確認し、「80くらいで売りを入れよう」とすると上手く行かないこともあります。
それよりも「80くらいだから買いのポジションを減らしておこう」など、極度の恐怖・極度の強欲に到達してもトレンド方向に行く前提は崩さずに自らのポジションを一部決済し、身軽にするなどに留めると良いと考えられます。
なお株価に対する機関投資家や大衆の心理を示すサイトへのリンクを以下掲載いたします。
興味のある方はぜひご覧ください。
CNN Fear & Greed Index (個人投資家の心情を表し、通常は逆張り指標として役立つ)
AAII Investor Sentiment Survey (米国個人投資家の心情を表しているが、履歴で過去1年間の最大記録を確認できる)
CFTC Commitments of Traders Reports (COTレポート、強いと言われる機関投資家のポジションを見ることで「巨人の肩」に乗ることが出来る)
大変お疲れさまでした。
以上が出来高と取組高、移動平均線とオシレーターについての基本となります。
私が以前投稿した「トレンドをつかむ様々なライン」や「チャートの継続・反転パターン」も合わせて読んでいただければ、テクニカル分析に用いる基本的な知識は一通り網羅した形となります。
ぜひ、ご自身のトレードなどにも生かしてみてください。
なお今後、実際のトレードをケースバイケース方式で読み解くような記事も執筆する予定です。
2024/1/14 追記
復習用やさっとイメージを掴むために「ここだけ!重要ポイント」の図を各章の末尾に載せました。
ぜひご活用ください。
※この記事は加筆訂正することがあります。