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【10/4】高まる中東不安と拮抗する米国の大統領選挙

■米副大統領候補のテレビ討論会とイランによるミサイル攻撃

先日2日(水)朝方、米国で副大統領候補のテレビ討論会が開催されました。
各候補に対し司会者より質問を投げかけそれらに応じていくスタイルが採られましたが、討論会のテーマとしては概ね「中東問題」「気候変動」「移民問題」「中絶問題」など様々なテーマについて話し合いました。

お互いおおよそ冷静な対応をしたこともあり前回の大統領テレビ討論会よりもマイルドな印象でしたが、全体として民主党のウォルズ氏が押される場面も見られ、市場としても今回の勝者は共和党のバンス氏であるとの見方も多いようです。

副大統領候補者の討論会に対するベット (Polymarketより)
ウォルズ氏が負けたとの見方が多い

テレビ討論会の内容自体は無難な内容でしたが、最初に「イスラエルによるイランへの先制攻撃に賛成か」という質問が投げかけられたとき、民主党のウォルズ氏は安定したリーダーシップが求められることからトランプ氏を批判、バンス氏はトランプ氏がむしろ世界に安定をもたらしたと主張しましたが、両者イスラエルの判断に任せつつも同国を支援するという点で共通した見方をしていました。

またつい最近米国を襲ったハリケーン・ヘレンがここ最近の気候変動により以前よりも威力が増したことについて、バンス氏は二酸化炭素の排出がすべての気候変動を起こしている考え方に疑義を呈しつつも "米国のエネルギーがクリーンである" との考え方を基に米国へ製造業を回帰させることを提起した一方、ウォルズ氏はバイデン政権下の「インフレ削減法」(IRA) による大規模な投資が20万件もの雇用を生み出したと応戦しながら "災害自体のダメージをどう軽減するか" は考慮すべきと述べました。

総じて副大統領候補によるテレビ討論会は無事に終わりましたが、民主党のウォルズ氏がこの討論会で負けたと判定されても激戦州での支持率は大きく変わっていません。
以下は10月3日時点の激戦州における各候補の支持率ですが、結局大統領・副大統領候補のテレビ討論会は両者の支持率において圧倒的な差をつけるほどのイベントにはならず、勝負は大統領選挙当日の投票に掛かっていると言っても過言ではないようです。

激戦州における、トランプ氏とハリス氏の支持率差

そうこうしている間にイランからイスラエルへ弾道ミサイル (ballistic missile) が180発ほど飛ばされたとの報道が出てきました。
今まではヒズボラなどの親イラン組織とイスラエル間の代理戦争に留まっていたものが、9月27日にイスラエル軍がヒズボラ本部の地下施設空爆を行ったことでヒズボラ最高指導者であるナスララ師が殺害されたことも今回の「イランによる直接攻撃」に繋がったとされています。

またイランの直接攻撃である今年4月の攻撃では巡航ミサイルやドローンなど数百発をイスラエル側に撃ち込みましたが、この際は事前にイスラエル側に通告したこともあり、今回は事前通告なし (ただしリークはあり) で巡航ミサイルよりも高威力の弾道ミサイルを撃ち込んだことがマーケットに対しマイナスの影響を及ぼしたと考えられます。

1日(火)、イランによるイスラエルへの攻撃
弾道ミサイルは巡航ミサイルより高威力であり
イラン側が "やや本気で" 怒っていることが分かる
なお上空でピカリと光るミサイルは弾道ミサイル
(通常の巡航ミサイルは大気圏まで行かないため光らない)
(参考) 各種ミサイルの挙動
弾道ミサイルは放物線を描く際、高度数百キロまで到達するため
探知が難しい、または探知した時には迎撃が間に合わないケースもある
そのため弾道ミサイルを確実に迎撃・墜落させるためには
それ専用のシステムが必要となる
出典: MAMOR web
(参考) ミサイル迎撃イメージとイスラエルの多層防空システム
出典: 産経新聞

イスラエルと中東諸国が争うのは第二次世界大戦後のイスラエル建国の後からの歴史となりますが、昨年10月7日にガザ地区を事実上制圧していたハマスがイスラエルに向けてミサイルを発射、そこから今日までハマス側を取り持つ国や組織と敵対してきたイスラエルは「我々が最初に攻撃されたからやり返すのは当然だ」との姿勢を維持しており、一方のイランは「向こうが攻撃を仕掛けたからやり返すのは当然」といたちごっこの状態が続いています。

もちろん戦闘力としては依然「イスラエル > イラン」であり、今回発射された弾道ミサイルのほとんどはイスラエルの防衛システム及び米軍により迎撃されましたが、この件に絡んでバイデン大統領は「イランの石油施設への攻撃を支持するか」と問われ際に「協議している」と答えたことで石油生産に影響が及ぶと見た市場が反応、原油価格も前日比+5%近くまで上昇しました。

■「デフレ」を心配する米国からすれば好都合になるかも?

ただし現在、市場はどちらかと言えば「デフレ」を心配していることもあり、今回の動きは「これ以上原油価格が下がることによるデフレ懸念の増加」を一時的に食い止めたとして株価も底堅く推移しており、また今夜発表となる雇用統計の方が少なくとも米国株や金利においてはより重要となるのは間違いありません。

現在もヒズボラ最高指導者の後継者とされるサフィディン氏をめがけてイスラエルが空爆した (生死は不明) とのニュースも出ており今後もこのような「全面戦争一歩手前」を匂わせるニュースが続出すると思われますが、あくまでも米国本土での出来事でないこと、仮に戦争が大規模化して株価が下落しても一時的 (~半年以内) に留まりやすいこと、金融緩和の弾が米国にあることなどを考えれば、引き続き米国株には強気でありながら "Buy the Dip" (適度な押しは買い) を実践していく戦略が良いと見られます。


※当記事はファンダメンタルズにおいて事実の正確さを満たすために尽力していますが、万一事実と異なる点等ございましたらお気軽にご教示ください。
また本稿では分かりやすさを優先するため、金融用語を厳密に使い分けないこともございます。

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たかし
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