10月30日(月)~11月3日(金)の見通し
※特段断らない限り、すべてのイベントに関する日時は日本時間基準でお話しています。
また、チャートでは単純移動平均線 (Simple Moving Average、以下MA) を用いており、25MA (緑線)、91MA (赤線)、200MA (黄土色線)としています。
チャート内のオシレーターであるRSIの期間は14であり、MACDは短期12と長期26、シグナルは9としています (オシレーターはほとんどのチャートソフトでの初期値を用いています)
主要指数はすべて現物取引のチャートを用いています。
ティッカーシンボルは個別銘柄とETF以外、TradingView内のものを使用しています。
■先週の振り返り
◆先週の米国経済指標と市場の立ち位置
先週の前半、米国のサービス業及び製造業PMI (購買担当者指数) の速報値が発表されました。
製造業PMIは50.0であり半年間の中で最も高い数値を記録、サービス業PMIも50.9と予想を超える数値をマークしています。
どちらも予想を超える形となっていますが、ここ最近は50から大きく離れずに推移しており、50を超えれば景気が上向き・50を下回れば景気悪化と見られる同指標にしては上にも下にも動かず判断がつきにくい状況が続いています。
同週に発表された新築住宅販売戸数も伸びています。
この数字は先月の確報値より+12.3%、前年比で+33.9%と堅調ぶりを示しており、同時に発表された (先行指標としても用いられる) 建築許可件数も悪くありません。
新築住宅が昨年12月を底として順調に販売戸数が伸びている一方、中古住宅は販売戸数が減少し続けています。
日本と異なり米国では新築住宅の開発及び土地利用のルールが厳格であり、一例としてある程度の人口密度を持つ地域では都市基本計画 (Master Plan) が策定されており、仮にある場所が住宅地域と策定されていてもゾーニング (Zoning) と呼ばれる決まりにより「どのような住宅を、どう建てるのか」を行政 (市など) と打ち合わせしなければならないことが多いです。
また米国の国民は古い住宅も修復するのを厭わないことも多く、新築で突飛な家を建てるより古くからある家を大事にすることで整然とされた街を維持し、街ごとの価値を下落させない傾向が見られます。
これらより中古住宅の数は全体の80%近く (近年は新築の割合が増えています) と言われており、加えて2020年のコロナショックにおけるローン借り換え等で低金利の恩恵を受けている住民が家を売らないため、中古住宅が販売に出ている件数も少ない状態に対する一定の需要によって価格高騰に繋がっています。
一方、新築住宅はもちろん価値あるものですが、ローンを組んで新築を買うにも長期金利が高止まりしていることから高額であり、また新築住宅の価格も下落していることから (中古住宅市場と比べ) 需要が相対的に少ないことが分かります。
ただしこのような新築と中古住宅の需要のひずみはしばらくして解消されると思われます。
以下は新築の月間供給 (今の販売ペースが続いた場合に何ヶ月で在庫がなくなるかを示した指標) ですが、この指標が下落するほど新築の在庫が減少するため、新築住宅価格にも上昇圧力をもたらすはずです。
ここから逆算するのであれば、新築住宅の供給を上回る需要による販売戸数の増加、及び間接的に建築許可件数の増加につながりやすいと見られます。
建築許可件数は先行指標となりやすいため、住宅の面から経済の先行きは悪くないと考えることも出来ます。
そのほか、米国では国内総生産 (GDP) が発表されました。
予想4.3%に対し結果は4.9%であり、アトランタ連銀のGDPNowではほぼ正確に予期できたことでちょっとしたニュースとなりました。
国内総生産が上昇した要因の一つに住宅設備への投資増加が挙げられており、これは上で述べた通り、新築件数が増えている部分も寄与していると思われます。
具体的に見ると個人消費において前期比で+4.0%と強く、財部門やサービスもそれぞれ+4.8%及び+3.6%と依然底堅さを見せています。
住宅への投資は前期比+3.9%となり、新築住宅への投資 (とりわけ建設) が着実に増加していることが読み取れます。
先ほどの建築許可件数の緩やかな増加を裏付ける一つの数値とも言えそうです。
これとは別に食品とエネルギー価格を除いた「コア個人消費支出価格指数」 (コアPCE) が第二四半期に比べて+2.4% (前回は+3.7%) と発表され、加えて実質可処分所得 (インフレ分を引いた実際の可処分所得) と個人貯蓄は前四半期よりも減少しており、GDPが景気に一致する指数であることを考えれば個人主導の消費はこれから減速する可能性がやや高いと見られます。
◆欧州中央銀行 (ECB) による政策金利発表
先週後半、欧州中央銀行による政策金利発表がありました。
今回、利上げを2022年7月に開始してから初となる利上げ停止となりました。
タイミングとしてはFRBとほぼ並ぶような形で、ECBも経済データから利上げを様子見する段階に入ったと考えられます。
ECBのラガルド総裁は声明において、金利を現在の水準で長く据え置くことはインフレ率を目標である2%まで戻すことに大きく貢献すると強調しています。
一方で利下げについては全くもって時期尚早とし、利上げも停止をしたわけではないことを改めて述べました。
記者会見では種々語られましたが、ユーロ圏のインフレ率は現在4.3% (9月分) であり着実に経済が減速していること、イスラエルでのハマスによる攻撃や長期間続いているロシア・ウクライナ戦争、また (日本を除く) 主な先進国による政策金利を「より高く、より長く」(Higher for Longer) する効果が表れているなどのお陰で、政策金利が高すぎる故の「経済の締め付け過ぎ」を多少心配する段階に入っているように思われます。
一方、ECBは現在「パンデミック緊急購入プログラム」(PEPP) と呼ばれる債券への再投資を引き続き行っています。
端的に言えばこのPEPPはFRBが以前行っていたQE (量的緩和) に近く、債券を買い支えることにより市場に流動性 (=お金) を供給する役目を果たしています。
FRBは昨年6月より保有する国債等の資産を減らす (=市場に国債などを売り出すことで市場からお金を回収する) ことを始めており、政策金利とダブルで経済を引締めていました。
対照的にECBは今年3月より保有する国債等の資産を減らすことを行っており、また上で述べたPEPPでは未だに多量の資産を保有したまま (つまり市場にお金が残ったまま) であり「いつPEPPを止めるのか」がしばしば議論になっています。
PEPPは2024年末まで維持されることが現状決まっていますが、2024年末までに金融緩和が必要な状況になる際に「PEPPを辞めて政策金利を低くする」(PEPPは緊縮方向に向かうのに対し政策金利は緩和する方向へ向かうちぐはぐ状態) 、もしくは「更なる資産購入プログラムを行い、政策金利も下げる」(資産購入と政策金利の低下で経済緩和をブーストできるが、その後のインフレ再発が早まるデメリットあり) の選択肢のどちらを選ぶかまだはっきりしていません。
そのような意味では「緩和」か「継続」の2択ではっきり示すFRBよりもメッセージ性が曖昧とも言え、次回以降の金融会合はこの「PEPPをどうするか」に注目が集まりそうです。
※もう少し触れたいこともありますが、時間の都合上ここで切る形にさせて頂きます。
■今週の見通し
今週は金融政策の会合が各地で行われる予定です。
まず10月31日(火)に日銀による政策金利発表、及びその後の植田日銀総裁による記者会見も予定されています。
その後は米国・英国と、先週の欧州金融会合から各国で金融政策が発表される予定です。
また11月3日(金)は日本が祝日ながら、米国では雇用統計が予定されています。
先週の強いGDPを打ち消すような雇用市場悪化 (すなわち失業率上昇や雇用者数減少) が見られれば、パウエル議長がこれ以上利上げをしなくても済むという理由から株価にはポジティブになりやすいと考えられます。
いずれにしても今週は目まぐるしい1週間となりそうです。
◆ナスダック100 (NDQ)
ナスダック100は下落トレンドが続いています。
以前の14450付近を下に超えたことで地合いの悪い状況となっており、また通常であればこのあたりで買いが入ることにより年末までのラリーが期待できる状態のはずでしたが、これを覆そうとしています。
直近の支持ポイントは14000ジャスト付近ですが、ここを下に割れば13720 (昨年8月の高値) が目標値となるでしょう。
今回の下落によりラリーが来るというシナリオは一度保留とし、短期的なショートを追いかける (上級者向けです)、または何もせず資金を温存することが良いと思われます。
特に13720は日足の200MA (黄土色の細線) にも掛かっており、年末まで何かしらのラリーが起こるのであれば割りたくない水準のため、買い方向で考えるなら様子見が良いと思われます。
なお13720をしっかりと下に割ってしまうと、2018年年末の下落相場を思わせるような値動きになる可能性が跳ね上がります。
その確率は現在薄いと思われますが、念のため買いを控える、もしくは中長期用として、来年前半までの上昇に備えた買いを細かく入れるなどが良いと見ています。
現在は「下落トレンドの途中」であることを念頭に立ち回り、資金を守ることに意識を集中させる場面となりそうです。
これはトレードの一つの例ですが、もし月曜か火曜日までに13720に近づくのであれば、短期的に揺り戻しが発生すると考えられます。
具体的には今週の火曜までに13850あたりを下回った時、一時的に14300までの戻りが期待できます。
想定レンジ: 13720~14700
◆S&P 500 (SPX)
こちらも下落トレンドが加速しています。
S&P 500は4時間足において売られすぎの領域に近づいていることもあり、ナスダック100と同様に「週前半の」下落で一定の上への戻りが期待できそうです。
月曜・火曜までのストラテジーとして、もし下落から週が開始するのであれば、4080を下回ると一定の戻り (4200まで戻れば上出来) が期待できると思われます。
なおナスダック100と同様、株式指数でショートを狙う時は「追いかけず、値動きの戻りを利用して有利な価格で、最初にどこで利確しどこで損切りするか必ず決め、間違えたと思えば迷わず退散し考え直す」を意識すると勝率が上がるでしょう。
想定レンジ: 4040~4270
◆米国10年債利回り (US10Y)
先週は下落引けとなりましたが、上昇トレンドにいながらの小幅な調整にとどまっています。
引き続き、上昇トレンド又は横ばい相場は崩れていない状態です。
債券投資として債券ETFを購入することも良いと思われますが、長らく低金利時代が続いた反動もあり、米国の長期金利がそこまで下がらないのではないか?という議論が一部で活発にされています。
米国におけるベースの成長率がコロナショック以降の金融緩和を経て高まっているのであれば、長期金利は今後も年単位で上昇していくと考えられます。
昨今の世界各地で起こる戦争によるインフレはコモディティ (原油や小麦、金など) の価格高騰が大きな要因であることが多く、先週半ばに国際エネルギー機関 (IEA) の2023年版エネルギー見通しによると「石炭、石油、天然ガスの世界的需要は2030年までにピークを迎える」と言われています。
また米エネルギー大手のシェブロン及びエクソンが別のエネルギー会社をそれぞれ買収し石油利権を拡大する動きもすでに出ており、クリーンエナジーの台頭が期待されつつも未だ安定したエネルギーのリソースとして原油や天然ガス等に対する需要は年々増すことが見込まれます。
ひるがえって現在、2020年に原油が一時マイナス価格を付けたあたりを起点とし「コモディティの時代」が始まるとすれば、過去の周期 (コンドラチェフサイクル) とも辻褄が合うため決してあり得ない話では無いと思われます。
詳しい議論は省略しますが、自然利子率 (経済を過熱も冷却もしない金利) が以前の0.5%よりも上昇していること (すなわち、低金利時代は既に過去のものということ) が年を追うごとに確実となれば、長期国債への大きなリターンを狙った投資 (例えば現在の5%からコロナショック時代の1%台まで保有したりなど) は上手くいかない可能性があります。
以上より、先週と同様に2年債との逆イールドが解消するまで、10年債は緩やかな上昇を演じ続け、この先仮に景気後退のイベントがあっても1%台へ金利が落ちることは難しいと考えられます。
想定レンジ: 4.50%~5.29%
◆香港ハンセン指数 (HSI)
こちらは動意に乏しい展開となっています。
引き続き、下落トレンドをベースとしたトレードが良いでしょう。
ただし1日単位で数%動くことはよくあることであり、レバレッジを掛けた取引ではエントリーポイントに神経を使うことが求められます。
想定レンジ: 16400~18300
◆米ドル円 (USDJPY)
ドル円は今週の金融会合まで静かな動きとなりやすいです。
トレンドは上昇ですが、既に小動きの期間が1か月ほど続いています。
こうなると突発要因で円高に向かうこともあり得るため、現在は日銀の金融会合を待つ形となりそうです。
もしYCC (イールドカーブ・コントロール) に変更が加えられ、日本の長期国債の金利が上昇するのであれば、ドル円は円高方向に動くと思われます。
2022年の高値である152.00にタッチしてから円高に戻るか、すぐに円高に戻るかは不明ですが、いずれにしてもドル円ロングのポジションは落とすと良さそうです。
なお、152.00を超えて円安が進む場合、
・米国の長期金利も大きく上昇することで日米の長期金利差が広がること
・日本が2%以上のインフレを放置し緩和政策を続けることによる円自体の価値減少
のどちらかのシナリオだと思われます。
前者は日本の長期金利が上昇圧力を受けている中、大きく差が広がるとは考えにくいです。
後者はまだまだ先の話ですが、日銀の植田総裁の記者会見次第で「緩和を引き続き行う」旨が今後の会合でもシグナルされ続ければ十分にあり得ると考えられます。
今週はそのあたりに関する発言もあるか探りながらとなりそうです。
想定レンジ: 145.00~152.00
◆日経225 (NI225)
日経225は下向きですが、この付近は買い支えられやすい部分と思われます。
30480付近 (10月4日の安値) にトライしながらも週末に上昇して引けたことは一旦安心できる材料ですが、下落圧力を消化してからの上昇となりそうです (数日かかりそうです)。
ただし30480を下回ると30000まで下落が見えてきそうです。
想定レンジ: 30480~32300
◆原油 (CL1!)・ゴールド (GOLD)・天然ガス (NG1!)
【原油】は下落した後に下値が堅い動きをしており、91MAにも支えられていることから再上昇の可能性が高まっていると思われます。
81.5ドルを割らない限り上昇トレンドと見て、引き続き目標値を104ドル付近と見ています。
想定レンジ: 81.50~95.00
【ゴールド】も堅調です。
地政学リスクからも買われていますが、FRBが政策金利を上げない (≒ドル高にこれ以上なりにくい) ことも併せて追い風が吹いています。
今年5月の2080ドルを超えるのは時間の問題と思われます。
想定レンジ: 1950~2050
【天然ガス】は先週、買い材料が不足していると申し上げましたが、この見方を一変させる値動きをしました。
今週で言えば2.70ドルを割らない限り上昇トレンド継続ですが、長期的に見てもこの価格は十分に安いと思われます。
ただし現時点では急速に上がったこともあり、押し目を待って有利な価格で買いを入れたいところです。
3.10ドル付近まで落ち、耐えながら上昇すれば綺麗な上昇となりそうです。
想定レンジ: 2.90~4.00
※当記事はファンダメンタルズにおいて事実の正確さを満たすために尽力していますが、万一事実と異なる点等ございましたらお気軽にご教示ください。