【10/1】FRB・ECB総裁の発言、中国の国慶節と習国家主席の発言など
■パウエル議長は「利下げ推進寄りの中立」、ラガルド総裁は「利下げ推進」の発言
昨晩9月30日、FRB・パウエル議長は全米企業エコノミスト協会の年次会合にて講演しましたが、同氏は会合にて「この先の経済が概ね想定通りに進展すれば、政策は時間と共により中立のスタンスへ移行するだろう」と現在の政策金利を時間を掛けて中立的 (経済を熱しも冷やしもしない、ほど良い水準) に持っていくとの考えを発言しました。
この考えをもっと詳しく言えばFRBの考える中立金利 (経済に程よい政策金利) は最新の数値で2.9% (前回FOMCの「経済見通し」より) ですが、現在の政策金利である4.75%~5.00%は明らかに経済を冷やすような高い政策金利であり、この状態が長く続けばどこかでデフレ、すなわち不況が来る可能性がグッと上がってしまいます。
ただし2022年に経験したとんでもないインフレは米国を大いに悩ませ、その結果として急速に5%ほどの高い金利水準まで利上げしたFRBは頭の片隅に1970年・80年代の「インフレ再燃」の記憶が残っているため、「デフレは病だがインフレは癖になる」との言い伝えに従い "ある程度" は高い金利を維持することに専念してきました。
翻ってここ最近、7月分の雇用統計 (8月2日発表) では失業率が大幅に上昇したことで米国株も大きく調整しましたが、以前と同じようにパウエル議長は「(FRBの目標とする) 2%のインフレ率を達成するには雇用市場のさらなる冷え込みは必要ない」としたうえで「労働市場はこの1年落ち着いてきたが依然強い」「委員会は利下げを急いでいない」と発言しています。
一見矛盾する発言のようにも見えますが、通常であれば労働市場が悪化する際に勢いがつくことで不況に突入することが多く (この状況は失業率の急上昇という形で顕現しやすいです)、パウエル議長としては "労働市場がちょっと強い" くらいの状態をずっと維持しながら金利を引き下げたい、ということをメッセージとして伝えたいのだと考えられます。
また「インフレリスクと雇用目標はほぼ均衡している」としており、FRBの重視する「デュアル・マンデート」(二重の使命) において取りあげられる物価の安定・雇用の最大化を同時に達成しながら利下げを行いたい旨も暗に示唆しています。
このためには利下げ "幅" だけでなくその "ペース" も非常に重要となりますが、9月FOMCにて大幅利下げとされた0.50%の政策金利引下げは「堅調な雇用市場による低インフレ達成への自信を反映したもの」としており、逆に9月のタイミングで0.25%の利下げに留まっていれば「ビハインド・ザ・カーブ」(利上げ・利下げなど金融政策の運びが後手に回ること) となり、少なくとも前回FOMCの大幅利下げは正当化に足るものであったと結論付けることが出来そうです。
加えてFOMCメンバーであるアトランタ連銀・ボスティック総裁は「労働市場が弱まれば0.50%の追加利下げを排除せず」としており、利下げペースを考慮しつつも "病" であるデフレを引き起こさないため、例外的に "強力な薬" となる大幅利下げも辞さない態度を示していることにも注目すべきでしょう。
もちろん強力な薬となる大幅利下げにはある程度の回数制限があると思われますが、重要なのはこのような投票権のあるFOMCメンバーが「どちらの利下げもあり得る」(パウエル議長は中立~小幅利下げ、一部メンバーは大幅利下げも視野とする、など) とメッセージを市場に対し流すことで不用意なサプライズを無くし、FRBの金融政策の自由度を暗に広げている、という観点から見ることでしょう。
他方、欧州中央銀行 (ECB) ラガルド総裁も同日にブリュッセルでの欧州議会にて発言を行いました。
こちらは「欧州の回復は逆風に直面している」と米国よりもやや経済が弱まっているようなトーンで発言しており、「次回インフレ率はベースラインを下回る可能性が高い」「最近の動向はインフレ率が速やかに目標に戻るという我々の自信を強めている」「10月の政策会合でそれを考慮に入れる」と次回利下げを示唆しています。
翻ってECBは利下げを6月より行っていますが、実際のところ利下げ幅で言えば米国のFRBと変わらない部分もあります。
これは今年春、ラガルド総裁が「想定よりもインフレが弱まっている」としたうえで "まずは利下げして判断" としたこともありますが、米国がついに利下げ (それも本来であれば2会合分の0.50%) したことで欧州も遠慮なく利下げする大義名分のようなものが出来、加えて国の成長率を表すGDPでは米国に大きく引けを取る欧州としては米国よりも利下げ自体が喫緊 (in dire need) ということかもしれません。
ただし欧州の場合は米国のように一枚岩として測定することが難しい面もあり、米国よりも利下げや利上げのタイミングは一層難しくなると考えられます。
下図はユーロ圏内のそれぞれのインフレ具合ですが、最も弱いイタリアの前年比+0.8%から最も強いドイツの+1.8%とややばらつきがあり、全体的に成長率の弱い今、どちらかと言えば「立場の弱い国」に歩調を合わせる、すなわち利下げを行ってあげなければならないとも解釈できます。
ユーロ圏内は経済的にも密接に繋がっており、一国の経済があまりにも沈みすぎれば時間と共に周辺国や全体にも影響するのは目に見えているために、米国よりも利下げに積極的な態度を見せておかなければ不安が波及しやすい点もあるかもしれません。
欧州と米国の二つを重ねた際、「もし利下げペースが速すぎた場合にインフレが再燃しやすいのはどっち?」と聞かれれば米国になると考えられますが、一方のユーロ圏はもし利下げペースを極端に早くし過ぎた場合に「インフレ」と「マイナス成長」(GDPマイナス成長や失業率の上昇など) が同時に訪れる "スタグフレーション" チックな状況に陥りやすいことには注意が必要だと思われます。
これは癖になりやすいインフレと病であるデフレが同時に訪れる、いわば最も厄介な状況である「癖になる病」ですからラガルド総裁もそのような轍を踏むことはしないでしょう。
ただし病の予防 (不況防止) と癖の予防 (インフレ防止) のどちらを優先すると言えば (現在の状況であれば) 病を防止する方向に舵を切らざるを得ないため、当面は緩やかな利下げが優先して行われる = 株などのリスク資産に追い風が吹きやすい環境にあることは認識すべきでしょう。
■中国も金融緩和策、ただし習近平氏のトーンはやや控えめ
このように米国の利下げは世界各国の金融政策に影響を与えていますが、中国も「待ってました」とばかりに景気支援策を発表しています。
先週24日に中国の中央銀行である中国人民銀行 (人民銀) のトップである潘行長、国家金融監督管理局の李局長、それに証券監督管理委員会の呉委員長の三名が記者会見を行い、短期金利や住宅ローンの引き下げ、及び市場に出回るお金の量を増やす効果を持つ「預金準備率の引き下げ」などを一斉に決定したことで中国株は大幅反発、たったの1週間で中国の代表的な株価指数が+20%となるなど大きな動きを見せました。
このような景気支援策は何も今回が初めてでは無く今までもさんざん発表されてきましたが、そのほとんどは今回のように大胆では無く小・中規模なものに留まる発表であったことも事実です。
これには中国の金融スタンスも関わっていますが、同国は「為替相場の安定」(米ドル・人民元の半固定相場)、「金融政策の独立性」(他国の金融政策に左右されず独自に利下げ・利上げなどを決めることが出来る) の二つを重視する代わりに「自由な資本移動」(国内と海外の間で自由に資本を移転できること) を犠牲にしており (これを国際金融のトリレンマと言います)、長らくFRBが高金利・ドル高政策をとっていたために中国の人民元が相対的に安く位置してしまい、更なる利下げや金融緩和により人民元安が加速してしまうことを恐れて二の足を踏んでいた事情もありました。
ここにFRBが利下げ、それも大幅な0.50%の利下げが加わったもので人民銀としても「そろそろ本格的に動くか」と人民元安を恐れずに金融緩和が出来た面もあり、実際人民銀は「年内に更なる金融緩和策を取る」ともしています。
未だ具体案や時期についての言及は無く、またこのような金融緩和策を取ったとしても根強い中国の不況を止めるには時間もかかりますが、とりあえず中国が本腰を入れようとしている、という態度変化だけでも株式としては大きなポジティブ要素になったと考えられます。
今週は中国の国慶節ですが、この金融緩和策を発表以後初めて習近平国家主席が建国75周年を祝って演説を行いました。
その中でここ最近の低調な経済指標を踏まえてか「潜在的な危険に留意し、雨の日に備えなければならない」「前途は平坦ではなく、障害や困難があり、激流や嵐のような大きな挑戦もあるだろう」とした謙遜的な態度を見せましたが、ここ最近の米国などによる中国への輸出規制、中国からEVを輸出する欧州における低成長などを考えれば、先端技術と称される製品の在庫を国内でダボつかせないことを狙って (つまり、自国経済を救うためになるべく経済的に敵対する国家を減らしておくために) 国際社会への当たりを以前よりも弱めており、習氏も同国の経済にはやや危機感を持っている印象を受けました。
それでも共産党一党独裁状態である中国はその回復スピードも速く、金融・財政における緩和策の決定と実行のスピードは他国を遥かに凌駕するレベルであるため、時間はかかるかもしれませんが案外中国経済は粘り強い動きを見せてくる可能性も視野にいれたいところです。
※当記事はファンダメンタルズにおいて事実の正確さを満たすために尽力していますが、万一事実と異なる点等ございましたらお気軽にご教示ください。
また本稿では分かりやすさを優先するため、金融用語を厳密に使い分けないこともございます。
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