59枚目 THE MODS「FIGHT OR FLIGHT」/バンドの力量を後押ししたロンドン・レコーディングの録音クオリティ
まずは個人的な思い入れから。僕が始めてモッズを聴いたのは「激しい雨が」(83年)の時。あと、坂上忍が主演だったドラマの主題歌(エンディングだったかな?)が「バラッドをお前に」(84年)でした。たしか、そのドラマには本人たちも出演してたはず(坂上が学祭にモッズの出演を依頼するが、いろんな事情でポシャるという話。「モッズじゃなければダメなんです!」ってセリフがあったような。うろ覚えですが)。
そんな風にして知ったモッズ。初めてアルバムを聴いたのはベスト盤の「BEAT ODDYSEY」(86年)(の市販カセット!)で、「崩れ落ちる前に」「不良少年の詩」「ゴキゲンRADIO」の3連発にノックアウトされたわけです。でも、初めて聴いたオリジナルアルバムが「Yum-Yum Gimme Some」(87年)だったのがいけなかったのかな(笑)。結局、「BEAT ODDYSEY」ばかり聴いて、このデビューアルバムにはなかなかたどり着きませんでした。「激しい雨が」のシングルを買ったのもずいぶん後だったので、「TWO PUNKS」も知らずにいました。
モッズは、リーダーの森山達也を中心に74年に結成。メンバーチェンジや幾度かの解散を経て、79年にデビュー時のメンバーが揃います。スモール・フェイシズやフーなどのブリティッシュ・ビートをルーツに、クラッシュに大きな影響を受けながら完成したスタイル。実は、ギターの苣木寛之のロカビリー趣味が、爆音ギターバンドにさせなかった一面があるのではないかという気がします。
このデビューアルバム「FIGHT OR FLIGHT」は、ジャパニーズ・ロックの数ある名盤の中でも、明らかに別格的な位置付けの作品です。アマチュア時代の集大成といえるようなアルバムですが、デビュー作にしてロンドン・レコーディング。レコード会社の期待値の大きさが伺えます。同年に出た2ndアルバム「NEWS BEAT」は日本レコーディングでしたが、こちらもアマチュア時代の作品が中心ということで、この2枚はセットみたいな感じで考えるといいでしょう。
収録曲も名曲だらけなのですが、中でも森山とベースの北里晃一が上京するときのことを歌にした「TWO PUNKS」は、ジャパニーズ・ロックの歴史の中でもアイコンの1つと言えるような名曲。ライヴでは必ず客席が大合唱になるのですが、盛り上がりすぎて会場が危険になるため、演奏しなかった時期があったなんて話を聞いたことがあります。
しかし、作品の出来とは裏腹に、メンバーたちはロンドン・レコーディングについて、実はあまりいい印象を持っていないようで、街の雰囲気は暗いし、言葉は通じないし、自分たちが演奏したのを向こうのスタッフが勝手に録っただけ、みたいな発言をしています。
とはいえ、逆に言えば、自分たちが勝手にやってこのクオリティ。初めてのレコーディング。しかも、セルフ・プロデュースだったので、アレンジなども含め全部自分たちで判断しているわけです。Youtubeに福岡時代、79年のモッズのライヴ映像が上がっていたのですが(ギターとドラムはデビュー前のメンバーです)、「崩れ落ちる前に」などは、もうレコーディングされたものと同じアレンジでやってるんですよ。このムダのない曲構成やアレンジをアマチュア時代に完成させていたのかと思うと驚愕です。時代的にも、ルースターズやARBなど、地元福岡のバンド仲間たちがどんどんメジャーデビューしていった時代とはいえ、80年代型のジャパニーズ・ロックがようやく世に出はじめたという時期。前例が少ない中でこの完成度なのです。
このアルバムを名盤たらしめる要因の1つに、録音のクオリティがあります。マトリックス・スタジオでの録音で、エンジニアはニック・ブラッドフォード。メンバーは勝手に録っただけみたいなこと言ってますが、とにかく楽器の音がいいんです。シャキッとクリアに抜けるのに太く迫ってくるギターの音。ベースの地を這うような低音。実際のベースの音作りは、中音域を上げたゴリゴリの音だったんじゃないかなと思います。それをこの音で録ったのはエンジニアのセンスでしょう。特にドラムの音が素晴らしくて、スネアやベードラのアタックの音のパワーの伝え方、適度なアンビエンスと奥行きの距離、シンバルの音の繊細さなど、ほんとにベストバランスで見事なものです。その音の違いは「NEWS BEAT」と聴き比べてみると一目瞭然です。一般的に、この音を日本国内で録れるようになるのは、80年代も半ばを過ぎてからです。
もう1つ重要なのは、演奏が上手かったことです。当たり前のことのように思いますが、この時代のパンク〜ビート系のバンドは国内外問わずヘタクソで、その中でもモッズは抜群に演奏が上手かった。あんなに隙間だらけの音作りなのに、すごくドライヴするんですよね。当時、クラッシュのポール・シムノンやジャムのポール・ウェラーと親交があったことは知られていますが、モッズのミュージシャンシップに一目置いていたからこそなのではないかという気がします。
そんなバンドが2019年の現在も普通に活動しているということは、本当に素晴らしい。活動停止期間もなく、メンバーチェンジはドラムが梶浦雅裕から現在の佐々木周に交代した1度だけ。正味の活動期間で言えば、サザンやシナロケを超えているはずで、そういう意味では、もはや日本一長い活動歴を持つバンドと言っていいのかもしれません。
【収録曲】
A1. 不良少年の詩(SONG FOR JOHN SIMON RICHIE AND US)
A2. WATCH YOUR STEP
A3. 崩れ落ちる前に
A4. HEY! GIRL
A5. が・ま・ん・す・る・ん・だ
B1. TWO PUNKS
B2. NO REACTION
B3. くよくよしたって
B4. ONE MORE TRY
B5. TOMORROW NEVER COMES(WARNING FOR KIDS)