29枚目 PEARL「PEARL FIRST」(1987年)/自分らしさを捨てず、現実から逃げず、自分の腕でやりぬく強さ(ジャニス・ジョプリン・フォロワーその2)
ジャニス・ジョプリン・フォロワーの2人目。分かりやすいところでPearl(SHO-TA=田村直美)などいかがでしょう。
80年代後半の日本のロックシーンは、雰囲気モノのヴォーカリストが主流であり、浜田麻里や寺田恵子のように歌唱力だけで勝負できる女性"シンガー"は、実は意外と少なかったのです。そこにまさに彗星の如く登場したのが、SHO-TA率いるPearlでした。SHO-TAのハスキーなのに綺麗に高音に抜ける声質、パワフルなのに繊細な歌い回しもできる表現力は、当時のシーンには衝撃的でした。
名古屋のライヴハウス"E.L.L."をベースに活動していたSTEPというバンドでソニーのオーディションに合格。ギターとベースを入れ替え、バンド名をPearlと変えてデビューしました。この名前は、もちろんジャニス・ジョプリンのラストアルバムのタイトルから取ったもの。まさにジャニス・フォロワーを宣言したようなもので、2ndアルバムの「Pearl Second」には、ジャニスのことを歌っているのが容易に連想できる「Rock and Blues Woman」なる曲も収録されています。
男女混成バンドでドラマーが女性だったり、ロックバンドで5弦ベースを使っていたりというのも当時としてはまだまだ珍しかったですし、ギターの大橋"KAZUYA"勇がザ・スクェアの安藤まさひろの教え子だったり(安藤が講師をしていたメーザーハウスの一期生です)、そしてなんと言っても、プロデュースがCharであったことなどいろいろ注目される点も多く、このデビューアルバムが出る頃には業界内でもかなりの注目を集めていたようです。
このデビューアルバムは、そんな前評判を裏切らない出来で、骨太で重心が低いバンドサウンドと、カッチリまとまっているのにロックらしいダイナミズムを失わない楽曲とメロディなど、バンドの実力、SHO-TAのソングライティング能力の高さなど、出来過ぎといっていいほどでした。また、3rdアルバムのリリース後にバンドが崩壊するまでシングルをリリースすることがなく、シングルヒットを狙わないアルバム志向を打ち出していました(「One Step」はシングルカットこそされていませんが、プッシュ曲としてプロモオンリーのシングル盤が存在します)。
彼らの代表曲の1つである「Love Songを」「Half Moonに照らされて」(これもジャニスを意識して付けたタイトルでしょう)「Cry My Boy」などを収録するほか、Charも「Hey Keds Move」を提供しています。そして、何と言っても、「One Step」です。同じ毎日の繰り返しから一歩踏み出すための勇気を歌った曲ですが、ヘヴィなビートとソウルフルなメロディ、エモーショナルなプレイ、そして、ある種の格調高さを持った歌詞に込められたプライドと、80年代のジャパニーズロックを代表する名曲の1つといっていい出来に仕上がっています。自分らしさを捨てず、現実から逃げず、自分の腕でやりぬくというテーゼを、アジテーターのように強く叩き付けていく。これらは同年にリリースされた2ndアルバムまでの共通のテーマになっているといっていいでしょう。SHO-TAの歌には、こういった強い言葉で書かれた歌詞に説得力をもたせるだけのパワーがあったのです。
ただし、決して完璧だったわけではありません。個人的に最初から違和感をかんじつづけていたのが、KAZUYAのギターでした。高度なテクニックに裏打ちされたプレイはメディアからの評価も高かったのですが、ヴァレイ・アーツのストラトにエフェクター感丸出しのディストーションサウンドは、明らかに彼の立脚点であるフュージョンを感じさせ(ただし、Char好みのコーラスを2台使ったようなサウンドも聴かれるので、Charの指示による可能性もあります)、バンドが指向していたであろう泥臭くグルーヴする音にあまり寄り添っているようには聞こえませんでした。メジャーデビュー時に、おそらくレコード会社の意向でバンドに加入させられた"大橋勇"にとって、Pearlというバンドに参加していた約1年間は我慢の時間だったのかもしれません。
【収録曲】
Side A
1. Love Songを
2. Blue Cap Man
3. Half Moonに照らされて
4. Cry My Boy
5. 記憶をよびおこせ
Side B
1. Hey Kids Move
2. 気分はどうだい?
3. New Song
4. 子供たちに
5. One Step