アメリカからの反共メール
ベトナム人にとって、欧米や日本などでの生活は憧れです。留学や就労で何とかベトナムを脱出して、先進国で豊かな生活をしようとする若者が多くおり、海外で暮らす友人は、ベトナムに残った若者にとてもうらやましがられます。今となっては笑い話ですが私も若い頃アメリカに憧れましたので、現在のベトナムの若者たちの気持ちがとてもよく分かります。
私が以前に働いていた会社にチャンさんという女性がいました。彼女はベトナムの有名大学の大学院で日本文学を専攻している才女で、授業の空いている時間にアルバイトで私の会社で働いてくれていました。修士論文作成のために、芥川龍之介や谷崎潤一郎を辞書片手に一生懸命読んでいるような女性です。
そんなチャンさんには、アメリカで働いている友人がいました。その友人とチャンさんは、高校の同級生だったそうですが、その友人はアメリカの大学に留学し、大学卒業後、アメリカで働いています。その友人の親戚の多くもアメリカにいるようで、その友人はもうベトナムに戻る気がありません。
そんな友人からチャンさんに定期的にメールが送られてくるようになりました。内容はベトナムの民主化を求めるといったもので、ベトナム共産党への非難が書き連ねてあります。ホーチミン市のことをサイゴンと呼んだり、ベトナムで行われた国会議員選挙のことを共産党の茶番だと書いたり、政府幹部の汚職を書き立てたりしています。メールは庶民レベルの感覚と合致する内容ですし、アメリカや日本でなら何の問題もないメールです。しかしベトナムは共産党一党独裁の国なので、ベトナム国内でその様なことを言ったり、書いたりすると公安に逮捕されます。そのメールは、BCCで送られてきますので、他の誰に送っているのか分かりませんが、かなり多くの人に送られているようです。
メールには、このメールをできるだけ多くの人に転送してくださいといった趣旨のことも書かれていますが、チャンさんは、政治に関心がありませんし、公安ににらまれるのも嫌なので、メールが来ればいつも転送せずに削除していました。しかしこのメールをきっかけに自由に発言できる民主主義国への憧れが強くなったようで、私に「いつかアメリカや日本に行ってみたい。」とポツリと漏らしました。
ベトナムの若者がアメリカや日本に憧れる理由は、経済的な豊かさだけでなく、このような自由な雰囲気にもあるのかもしれません。ベトナムが経済発展するだけでなく、政治においても自由になればいいのになあと思います。