極道の家に生まれた子供
はじめに。
今回は極道の家族に生まれた息子に、取材する事が出来ました。
一般の家族とは違う生き方をしてきた子供だからこそ、話せる内容になってると思います。
団体名や名前は都合により変えさせて頂きます。
今回取材を受けてくれたのが、僕も子供の頃から知っているツヨシ20歳。
ツヨシは僕の地元の大先輩の、実の息子。
僕の地元の大先輩は、地元では有名な極道の親分で、僕達もガキの頃からお世話になっている。
地元で金杉組と言えば誰もが知ってるだろう。
その親分の息子ツヨシに、今まで極道の子供として生きてきて、何か感じる事があったか取材してきました。
ツヨシは何歳の頃、親が極道だと気がついた?
するとツヨシは笑いながら、「幼稚園」と答えた。
ツヨシは幼稚園の頃から髪は茶髪で、体格もよくてイジメばかりしてきたみたいだ。
自分でも何故、イジメをするようになったか、きっかけを教えてくれた。
「ルイ君、俺さぁ昔から友達なんていないんだよね。小学生の頃は何人か友達がいたけど、その子の家に遊びに行ってゲームが無くなったり何か無くなると全部俺のせいにされてきたんだ」
ツヨシは悲しそうに話してくれた。
「友達の親にはツヨシ君と遊ぶなって言われてたみたいで、学校では普通に仲が良いなのに、運動会や親が来る行事の時は必ず、俺の周りから人がいなくなっていた。たぶん友達は、俺と遊んでる所を自分の親に見られたくなかったんだろうな」
僕はそんな悲しい事があるのかと、他の質問をしてみた。
「じゃあツヨシが子供の頃、親父にしてもらった嬉しかった事は?」
するとツヨシは首を傾げた。
「ルイ君、全然他の家と変わらないよ。ただ親父も若い衆も一緒に住んでたから、お兄ちゃん的存在の人がいっぱいいて、親父よりお兄ちゃん達の思い出の方が強いかな」
僕はなるほどなと思った。一般家庭ではあまり無いお兄ちゃん的存在。ツヨシは親父より若い衆の背中を見て育ったんだな。だからツヨシは友達がいなくてもお兄ちゃん達がいるから寂しくなかったんだ。
「じゃあツヨシが中学生になってからも、中学の同級生は変わらずツヨシを避けてたの?」
するとツヨシは、また悲しそうな顔でこう言った。
「だって中学の入学式から2週間ぐらいで、親父もお兄ちゃん達も覚醒剤と恐喝で逮捕されたからね。しかもニュースにもなったから、先生すら俺に近寄って来なかった。中学の先輩も俺には何も言って来なかったから、中学校生活はやりたい放題だったね」
ツヨシから覚醒剤や恐喝の言葉が出てきても、ツヨシは当たり前の日常の様に話していた。
これが一般家庭と極道の子供の違いかと、なんとなくツヨシの生い立ちが分かってきた。
ツヨシは中学まで悪かったけど、何故真面目になろうと思ったの?
「それはやっぱり、仲良くしてくれてたお兄ちゃんが覚醒剤で自殺して、凄く悲しかったからかな。親父もお母さんもずっと泣いてたし、お前だけは薬物や覚醒剤には手を出して欲しくないとずっと言われ続けてきたし、俺はヤクザにはなりたくないとお兄ちゃんが自殺して思ったんだ。それまではお兄ちゃん達みたいになりたいと思ってたけど」
ツヨシの口から出てくる言葉があまりにもリアルで、僕はまた話題を変えた。
ツヨシに嫌な思い出を、あまり思い出して欲しくなかったからだ。
まだまだ取材の仕方が分からない…。
俺が個人的に聞きたいんだけど、誕生日とかお年玉とかって何を貰ってた?
「お年玉はお兄ちゃん達からも一万円ずつ貰えるし家に来たお客さんにも貰ってたから、17歳ぐらいまでお年玉は、15万ぐらい貰ってたかな。でもお兄ちゃん達に、大人になったらお金は必要だから使うなよと言われてたから、ずっと貯めてたよ。誕生日はいつも家族で焼肉に行くくらいだから、普通の家と変わらないかな」
ツヨシは17歳で隣町の埼玉に、1人暮らしを始めて、仕事もダイハツで、車の販売の仕事をしてるようだ。1人暮らしを始めてからお兄ちゃん達が、お金は貯めとけよって言ってた意味がよくわかったと言っていた。17歳で1人暮らしを始めた頃には、貯金が200万弱あったみたいだから大したもんだ。
ツヨシは二十歳になった今、親父とお母さんの事をどう思ってる?
「尊敬してるよ。お母さんはいまだに、毎日心配して電話が来るし、凄く今は愛されてる気がする。親父に関しても俺は1度も怒られた事もないし、もし悪い事をしてもお兄ちゃん達が怒られるから、俺も親父の言う事をちゃんと聞いて育ってきた。二十歳になってみて、この家に生まれて良かったなと思うようになった」
一般家庭でも二十歳になるまでに、親に感謝が出来る人が少ない中で、ツヨシはちゃんと家族と絆で結ばれていた。
最後に何か言いたい事ある?あったら書くよ!
と聞くとツヨシは僕の方を見て笑った。
「ルイ君、頼むから俺の名前は出さないでね。せっかくダイハツで働いて今頑張ってるから、また親がヤクザとか昔のように言われてクビになるのは嫌だからね」
「分かってるよ。俺にとってツヨシの親父は大先輩だし、ツヨシだってガキの頃から知ってるから絶対迷惑かけないから安心して。少しでもツヨシの生い立ちが誰かの役に立つように書かせてもらうね」
「ルイ君ありがとう!またね!」
ツヨシが笑顔で手を振りながら帰っていく姿を見て俺はこう思った。
例え親がヤクザでも、一般家庭の子供達と何も変わらない、ちゃんとした教育をされていて、本人もきちんとした、話し方や考え方を持っていた。
少しは一般家庭と違う部分もあったが、親が子に対して思う気持ちは、一般家庭と何も変わらなかった。兄弟が多い家族のように、お兄ちゃんの背中を見て、すくすくと育ったんだな。
今回取材して思った事は、ヤクザや極道の子供なだけに、勝手に想像するのはこっちの方で、親と子供の関係はどこの家族とも変わりない愛で、包まれていた。
ツヨシ、取材を受けてくれてありがとう。あんな小さかったツヨシに、家族の事を取材する日が来るなんて、自分でもビックリしてるよ。仕事頑張ってね。
そして今回の取材をするにあたって、大先輩とも久しぶりに話が出来て「ツヨシが良いならいいけど、あいつは俺の事も組の事もよく思ってないんじゃないか?」
そう言って了解してくれたが、いつまで経っても父親は子供の事を1番に考える、ごく普通の父親に感じました。
大先輩ありがとうございました。
お体だけは気をつけて下さいね。感謝しています。
これからの僕の目標は、引き続き極道の子供達にスポットを当てて、色々な事情のある子供達に取材を重ねて、いつの日か一冊の本にしてみたいと思ってます。
何年かかるか分かりませんが、いつか皆さんの目にも止まるような作品を作っていきたいと思ってます。
読んで頂きありがとうございました。押忍。