シン・リスクチェーンモデルを用いたケース検討シリーズです。
前回に続いて、ケース「人材採用AI」を対象にAIサービスに関わる重要なリスクシナリオの検討を進めていきます。
シン・リスクチェーンモデルのアプローチはこちらの記事をご覧ください。
前回の振り返り(パーパスアセスメント)
前回は、AIサービスに関わるパーパスを検討しました。
Step4. リスクシナリオの識別
デジタルMATSUMOTOのシミュレーション
前回に続いて、デジタルMATSUMOTOに以下のプロンプトテンプレートで指示を与えて、リスクシナリオを識別します。(ChatGPTやClaudeでも同じようにできますので、良ければ試してみてください)。
以下のリスクシナリオが識別されました。
リアル松本による修正
デジタルMATSUMOTOが検討したリスクシナリオ一覧について、過去のリスクチェーンモデルの検討も参考にしながら、リアル松本が修正しています。
https://ifi.u-tokyo.ac.jp/wp/wp-content/uploads/2022/10/RCModel_Case01_Recruitment-AI_JP.pdf
まず並び順は以下のように修正しています。
・AIの出力に関わるリスク
・利用者や社会との関係性に関わるリスク
・サービス全般の維持・信頼性に関わるリスク
以下のように内容も個別修正しています。
・「コンプライアンス違反」は内容がアバウトなので削除
・「人材トレンドの変化」「虚偽の申込」「判断結果の目的外利用」を追加
最終的にリスクシナリオの一覧は以下のように整理されました。
Step5. リスクシナリオの評価
次に識別したリスクシナリオを評価していきます。
従来のリスクチェーンモデルでは各リスクシナリオの影響評価を行っていなかったのですが、シン・リスクチェーンモデルでは以下4つの項目で評価を行っています。
・影響度: 1.不便さ, 2.利用離れ, 3.損害あり, 4.回復困難, 5.回復不可
・影響範囲: 1.内部限定, 2.内部広範, 3.外部含む, 4.社会全体
・持続性:1.瞬間的, 2.一日以上, 3.一月以上, 4.永久的
・発生確率:1.月次以下, 2.週次以下, 3.日次以下(不確実), 4.日次多発
デジタルMATSUMOTOのシミュレーション
人間の検討ではなかなか判断が難しいので、ここでもデジタルMATSUMOTOに以下のプロンプトテンプレートで影響評価してもらいます。
以下のように出力してくれました。
リアル松本による修正
先程と同様にリアル松本がスコアを修正し、4つのパラメータをリスク初期値(リスクスコア)を積算して、優先度を以下のように設定します。
- Very High(VH):リスクスコア100以上
- High(H):リスクスコア60以上100未満
- Middle(M):リスクスコア30以上60未満
- Low(L):リスクスコア30未満
機械的に決められた優先度を実態に合わせて見直していきます。
・R003.過去の偏見の再生産「持続性」を「4.永久的」→「3.一月以上」:AIの公平性による問題は関心が高いですが、永久に被害が続くという認識は極端だと思います。
・R005.透明性の欠如「影響度」を「2.利用離れ」→「3.損害あり」:R001と同じく人材を取り逃がすので、損害ありと見直しました。
・R007.職場環境の悪化「発生確率」を「2.週次以下」→「1.月次以下」:発生頻度が高いものではないので見直しました。
・R008.労働市場の偏り「発生確率」を「3.日次以下(不確実)」→「1.月次以下」:発生頻度が高いものではないので見直しました。
・R008.労働市場の偏り「影響度」を「4.永久的」→「3.損害あり」:永久的な偏りは大げさと感じたので見直しました。
・R008.労働市場の偏り「発生確率」を「3.日次以下(不確実)」→「1.月次以下」:発生頻度が高いものではないので見直しました。
・R009.個人情報の流出「影響度」を「5.回復不可」→「4.回復困難」:回復不可は人命を失ってしまった場合等で見直しています。
・R011.アップデートの遅れ・誤り「発生確率」を「2.週次以下」→「3.日次以下(不確実)」:発生頻度を実態に応じて見直しました。
最終的に、このケースでは「R003.過去の偏見の再生産」「R009.個人情報の流出」「R010.判断結果の目的外利用」が特に重要なリスク(Very High)として識別されました。
次に重要なリスク(High)として「R005.透明性の欠如」と「R011.アップデートの遅れ・誤り」が識別されています。
※また、Middleのリスクもビジネス上は重要なものが認識されていると感じています。
注:リスクスコアの大きさが必ずしもリスクの重要性とは限りません。
最終的にはビジネス上の機会損失も含めて優先度を検討していきます。
次回は優先度の高いと認識されたリスクシナリオを対象として、リスクチェーンを用いた検討を行っていきます。