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『銀の匙』の泉を求めて -中勘助先生の評伝のための基礎作業 (123) 我孫子訪問記(その2)
高嶌家のお嫁さんにいろいろたずねたり、お話をうかがったりした覚えがありますが、詳しいことはみな忘れてしまいました。「沼のほとり」のお嫁さんに会えるとは思ってもいないことでしたので気持ちが動顛していたのでした。中さんの手紙もたくさんあったけれどもみんななくなってしまい、今では一通だけ残っているとのことで見せていただきましたが、妙な崩し字で一字も読めませんでした。署名入りの『沼のほとり』などもあったが、我孫子市の教育委員長のだれとかがちょっと借りていったきりいっこうに返してくれず、なんとはなしにそれきりになってもう十数年になるという話もあり、そこに先ほどのおじさんが、もうそろそろ取り戻したいと思っているのだがと言い添えました。
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中勘助先生は『銀の匙』の作者として知られる詩人です。「銀の匙」に描かれた幼少時から昭和17年にいたるまでの生涯を克明に描きます。
●中勘助先生の評伝に寄せる 『銀の匙』で知られる中勘助先生の人生と文学は数学における岡潔先生の姿ととてもよく似ています。評伝の執筆が望まれ…
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