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制作日誌⑥:祭りのあと
ここでは本作の監督がつづった制作日誌を全7回にわたって掲載します。
本作のご鑑賞と併せて、是非ご一読ください!
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高沢は静かだ。都会の喧騒を忘れさせる静けさと鳥のさえずり。田舎暮らしとか興味を持ったことがなかったがアリかもしれない。高沢に通う中で僕はそんな事を思い始めていた。
ある日、前夜に酔い潰れた翌朝のことだ。宿の外へ出ると喜純さんが自宅の前にいるのが見えた。声をかけて二人で喜純さんの家の縁側に座ることに。その日も静けさが心地よかった。すると「静かじゃな」と喜純さん。「ですねー」と僕。すると喜純さんが「まだ学校があった頃は、こんなに静かじゃなかったんじゃけどな」。
返す言葉がなかった。この静けさは、高沢の人にとって癒しではない。高沢の生活をただの田舎暮らしと呑気に捉えていた僕は頭をガツンと殴られた気分だった。
そんな静かな高沢が賑やかになる時期がある。夏休みだ。早朝にお堂前で行われるラジオ体操から始まり子供たちが一日中集落で遊びまわる。僕は子供と関わるのは不得意だが、高沢の子供には意外と懐かれた。大学生と遊ぶのが珍しかったのだろうが、ちょっと嬉しかった。
そして、夏祭りの前には帰省する人も多い。高沢が少しの間、昔の活気を取り戻す。祭りが行われる小学校には多くの人が集まり、大大宴会となった。また祭りではドリンク一気飲み競争が行われ、僕も半ば強制的に参加した。500mlほどのドリンクをストローで飲むという競技で、僕は控えめな雰囲気を出しつつも自信があり、本気で勝ちに行った。しかし、バキュームカー並みの吸引力を持つ人がいて完敗。そのうえ、がっつりドリンクを吹き出す失態を犯し、子供たちに散々バカにされた。
祭りが終わった翌日。小学校に向かった。提灯や紙コップなど祭りの名残が残る体育館。セミの鳴き声がうっすら響く。ほんの少しだけ、喜純さんの気持ちに触れたような気がした。
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