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手の入力から視線入力にいたるまで

ひとくちに同じALSと言っても、一人一人、進み具合が全く違います。ゆっくり進行して準備に時間をかけられる人、あれよあれよと急に進行して間に合わない人がいます。うまく準備できると、閉じ込め症候群にならずに、コンピューターを使って会話できます。

患者の多くは60歳代。コンピューターが苦手の人も多いです。しかし、少しずつ訓練すれば、動画のように視線入力もできます。元気なうちから、先を見越した準備が必要です。

ブギーボードを爪で引っ掻いて文字を書きます。指ひとつ動けば書けます。

病院にくる患者さんは、呼吸筋マヒのために、ささやき声も出なくなります。肺活量がないから、無声音になるのです。筆談から始めます。まずは指一本で文字を書きます。

痰が出せずに、のどにゴロコロ。誤嚥性肺炎を繰り返します。そろそろ気管切開を考える頃です。手足は動かなくても、指でボタンをクリックできます。軽い力で入力できる特別なボタンひとつで、文字入力できる装置があります。声が出なくても、ナースコールを押せます。

患者さんは、ゆっくり「ひと文字」ずつ拾ってゆきます。何か訴えたい時は、1行打つのに5分かかります。
「ああ、ゆっくり入力しておいてね。他の患者さん見て、5分後にまた来ますね。」
そう言って他の仕事して、5分後に、入力した文字を読みに戻ります。お互い、イライラしないためには、良い付き合い方です。ゆっくり時間が流れる患者さん、早く時間が過ぎる医療者、折り合いをつける必要があります。

医療スタッフでシステムを構築しました。入院中はナースコールが大切です。

ボタンも押せなくなると、目線で会話します。ALSは進行しても、目だけはよく動くのです。眼球を動かす筋肉は、脊髄を通らず、脳から直接神経支配を受けるので、最後まで眼球はキョロキョロよく動きます。瞬きもできます。透明板に書いた50音表、裏から介助者が「あかさたなはまやらわ」横に指でなぞっているところ、該当文字の上で「パチン」と瞬き、一文字づつ拾ってゆきます。これが慣れると意外に早く、文字を伝えられます。

透明下敷きにマジックで50音を書いて手作りです。

急に進むと、視線入力装置の準備ができずに、気管切開になってしまう人もいます。昨日まで、声で会話していた人が、急に誤嚥性肺炎になりました。酸素飽和度60%、意識朦朧で運ばれてきます。家族は「なんとしても助けてください」。本人も「苦しい、苦しい」。元気なうちは拒否してた、呼吸管理をお願いされます。気管挿管と人工呼吸器の出番です。抗生剤も点滴して、肺炎は数日で治りました。でも、一度始めた人工呼吸器は外せません。自発呼吸より、人工的に機械が呼吸を送り出してくれる方が楽なので、もう苦しい自発呼吸に戻れません。外すことは、イコール死につながるので、スイッチ切れません。肺炎が治った後に、気管切開が待っています。そんな時に、大活躍するのが、この50音表です。

肺炎おこさずに、緩やかに経過すると、視線入力装置コンピューターで色々なことができます。多くの企業が参入してます。お世話になっている病院、先生、スタッフが慣れている装置を薦められます。企業が近くで、壊れてもすぐ修理してもらえる装置が良いですね。カメラから、眼球を認識して追従するシステムは、ここ数年で格段の進歩があります。以前は、上下左右の眼瞼にシールで電極を貼って、眼球運動を記録していました。今は、AIが眼球の虹彩パターンを認識し、数ミリの精度で瞳孔の位置を記録できます。

モニタとキーボードの間の白い板に複数のCCDカメラがあって、眼球を捉えています。慣れない私が見ていると、バーチャルリアリティ酔いしました。

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