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タトゥーを入れたかった。

今から25年ほど前、無性にタトゥーを入れたかった。
肩にドクロと十字架。ロックンロール。
まだ10代でオタク系専門学校に馴染めず悶々としていた日々。
萌えを意識したイラストを描きながら、周りと自分との技術の差も感じ始め、おそらく自分は子供の頃思い描いた仕事には就けないという諦めも感じていた。
とはいえまだ10代。何者でも無い自分でも輝ける事があるかもしれないという諦めきれない気持ちも抱えている。
まだ普通のサラリーマンにはなりたくなかったのだ。若いんだからしょうがない。

そこでタトゥーの出番である。
単純にカッコイイと思ってもいたが、タトゥーを入れることによって普通への人生は送らないぞ、という退路を断ちたかったのだ。

卒業後、進路先は街金とパチンコ店だった。街金は当然として、パチンコ店もまだまだクリーンな職場とは言い難い時代。普通ではない人生を歩む第一歩としてはなかなかのチョイスだと思っていた。

結果、就職先には街金を選択した。闇金ではない。ちゃんとした登録業者である。金利も当時のグレーゾーンと言われる29%。違法な金利ではない。(現在は違法。過払い金が還ってくるとかCMしてるよね)
でも予想よりクリーンだった。髪型や格好は厳しく、タトゥーも禁止だったのだ。
しかしそこは街金。格好に関してはクリーンでも仕事はえげつなかった。

えげつない仕事は色々あったが、あまりネットにも書かれてない内容として、貸すまで帰さないという営業をしていた。

街金に金を借りてくる客の多くは大手サラ金、現在でも残っているアイフルやアコム、プロミスなどからは既に限度額いっぱいまで借りており、それでも金を借りられそうなところを探した結果、街金に辿り着く人がほとんどだった。

こんな人でも借りれました。

もちろん、街金だってそんな人間には貸したくない。貸し付けたところでまたすぐにパンクするにきまってる。
ならどうすればいいか、まあ簡単。保証人を立てればいいのだ。
借りる側からすれば今まで保証人なんて無くても借りれたのにいきなり保証人を立ててくれと言われても困ってしまう。ここで9割以上の人がやっぱり借りるのを止めますとなる。
しかし、そこで簡単に帰さないのだ。
ここで断ったら今まで借りている借金も一括返済になりますよ、貴方も困るでしょ、なんて脅し文句から、ちゃんと返せば保証人にも迷惑は掛からないんだから、これで人生しっかりやり直しましょう、なんて優しく諭したり。
とにかく手練手管で債権者を追い込むのだ。それも何時間も。サインするまで絶対に帰さない。ちなみに借金を断っても延滞とかしない限り一括返済なんて求められません。
中には泣きながら勘弁してください、なんていう人もいたがそれでも帰さない。なぜそんなに厳しいのか。店長がもっと厳しい人だからだ。
契約に失敗したら折檻が待っている。腹パンとベルト鞭でしばかれるのだ。
先輩は顔以外はほとんど殴られたと言っていた。足の甲に根性焼きもあった。

結局自分は街金を2週間で辞めた。リンチぐらいは覚悟していたが意外とすんなり辞められたのには拍子抜けだった。日割りで給料もちゃんと頂いた。

その2週間ですっかり自分の中にあった普通になりたくない願望は抜け落ちた。平凡こそ素晴らしいし、難しい。タトゥーなんて絶対に入れない。

まあ今にして思えばそんな覚悟は無かったのだ。
今では全身に脂肪がついたおじさんである。そんなおじさんが肩にドクロのタトゥーは滑稽だったと思う。

今ではタトゥーもすっかりおしゃれの一環となり、気軽に入れれるようになった。
今からタトゥーを入れる方に気を付けて頂きたいのは、
その価値観に一生付き合っていけるのか
入れる前にしっかり考えてほしい。

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