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提灯、スイカ、ほおずき、ウマ、ウシ
さやかがお盆におばあちゃんの家に行ったら、仏壇に変なものがたくさん置いてありました。
薄紫色の提灯、オレンジ色の変な花のようなもの、スイカ、丸い葉っぱの上に乗ったおままごとのごはんのようなもの、そして…棒がさしてある、ナスとキュウリ。
いつもは仏壇の前におりんのセットがあるだけなのに、やけに豪勢で様子が違っていて…何事だろうと驚きました。持ってきたお供えの赤福を置く場所がないので、どうしたものかと立ち尽くしながら、まじまじと見入っていました。
「これはねえ、お盆飾りなんだよ。ご先祖様をお迎えするための準備がしてあるからね、触ってはいけないよ」
葉っぱの上のお米を触ろうとした時、おばあちゃんがさやかに声をかけてきました。
伸ばした手を引っ込めると、おばあちゃんがスイカの位置を少しずらしてくれたので、そこにお供え物を置くことにしました。おざぶとんの上で正座をして、いつものようにおりんを鳴らし、手を合わせ、顔を上げると…おばあちゃんが立ったまま、飾ってあるものを一つ一つ説明してくれました。
きれいな提灯はご先祖様が目印にするもの、葉っぱの上のごはんはご先祖様についてきたものののどを潤すために用意されたもの、ほおずきはご先祖様の魂が入ったりするもの、お供え物はご先祖様たちが生前好きだったものを用意すると喜んで食べてくれる……。お盆という日本古来の行事と由来、お供え物の意味などについて丁寧に教えてくれるので、逃げ出すこともできず…さやかは黙って話を聞いていました。
「これは精霊馬(しょうりょうま)といってね、あの世にいるご先祖様たちを乗せてきてくれるんだよ。お盆が終わる頃には、おみやげをこの牛の背中にのせてあの世に帰っていくの。だから、大きめのナスを買ってきてねえ。きゅうりもお隣の畑から一番大きいのを選ばせてもらって、もいできたんだよ」
おかしなナスとキュウリが馬と牛だと聞いて、さやかは驚きました。
野菜に棒をさすなんて遊んでいるみたいだし、こんなものにおじいちゃんが乗ってくるなんて信じられなかったのです。こんな小さなものに乗ったら、つぶれてしまうではありませんか。おみやげをのせて帰ると言ってもお菓子くらいしか持っていけないし、お盆と言うのはおかしなことをするのだなと思いました。
「こーんにーちはー!!」
元気な声が聞こえてきたので振り向くと、いとこのシンちゃんがおじさんと一緒にやってきました。後ろには、春に生まれたばかりの赤ちゃんを抱いたおばさんもいます。
「おお、おお…よく顔を見せておくれ、かわいいねえ!!」
「うわあー、ちいさーい!」
「さやかの小さい頃を思い出すね」
おばあちゃんはナナちゃんを抱っこして喜んでいます。ママはなぜか少し泣いています。パパはデレデレしています。
さやかは、自分がはじめてここに来た時も、こんな風にみんなに代わる代わる抱っこされたのかなと思いました。
10:30、親戚が全員揃ったので、みんなでお墓参りに行く事になりました。
今まではおばあちゃんが一人でお墓まで行っていたのですが、足腰が弱ってしまったので全員で行こうという話になっていたのです。
さやかははじめてお墓参りと言うものをしました。草を抜いたり、水をかけたり、花を生けたりしなければいけないので、大変な仕事なんだなと思いました。暑いし虫が飛んでくるし、もう二度と来たくないと思いましたが、今年から年二回、お墓参りに行かないといけないのだそうです。
さやかは気が重くなりましたが、杖をついて足元の悪いお墓を歩いているおばあちゃんを見てしまっては、もう来ないとは言えませんでした。汗をハンカチで拭いながら、黙って掃除をするパパのお手伝いをしました。
「さやちゃん見て!!でっかいバッタ捕まえた!!これ、持ってかえろっと!!」
シンちゃんは素手で虫を捕まえて喜んでいます。さやかは虫が好きではないので、そっとママの後ろに隠れました。
「シンちゃん、お墓にいる虫はご先祖様が生まれ変わったものかもしれないから、捕まえてはダメだよ。ばちが当たるかもしれないからね、離してあげなさい」
「ええー?!ちぇッ、オウジに自慢しようと思ったのに!!」
シンちゃんがバッタから手を離すと、大きなバッタはぎちぎちといって遠くのほうに飛んでいきました。
さやかは、虫に生まれ変わるなんていやだなあと思いました。
そして、さっきからやたらと飛んでくる蝶やハエ、ミンミン鳴いているうるさいセミがご先祖様かもしれないと思うと、なんだかぞっとして、すぐに家に帰りたくなりました。赤ちゃんも泣き始めたので、一緒になって泣きたくなりましたが、来年は小学生になるので一生懸命我慢をしました。
「お供え物は食べきれないから、あんたたちで全部持って帰ってくれないかい」
お墓から帰ると、おばあちゃんは仏壇の前に供えてある食べ物を持って帰るように言いました。一人暮らしのおばあちゃんにはこんなにたくさんのお供え物を食べる事ができず、週に三回来てくれるヘルパーさんにもあげることが出来ないのだそうです。
「オレ、この馬と牛欲しい!!家でロボのせて戦う!!」
「じゃあ、スイカほしい!」
さやかはスイカをもらって帰ることになりました。
帰りの車の中で、冷蔵庫に入れて明日のお昼に家族で食べようねと約束をしました。
次の日、午前中にパパにコミュニティプールに連れて行ってもらったさやかは、お昼に流しそうめんをやったあと、デザートとしてスイカを食べる事になりました。
「ママ、スイカ、お願い!」
「はーい、ちょっと待ってね!」
パパがスイカを抱えてきて、リビングのつくえの上に置きました。
ママがまな板の上にのっているスイカに包丁を入れました。
ばりっ・・・・・・!
スイカが真っ二つに割れて、良いにおいがしたので、のぞきこむと……。
「えっ…なに、このスイカ…」
なんと、真っ二つに割ったスイカの中身は…スカスカでした。
いつも家で食べているような、みっちりとスイカの実が詰まったものではなく…明らかに食べるところが少ないように感じました。
「供えてあったからなあ…古くなったのかも?あ、でもうまいよ!」
「うん、おいしい!さやかも食べてみて!」
「う、うん・・・」
スイカは確かにおいしかったのですが、なんとなく口の中がざらざらして、なんとなくぼそぼそとしていて…いつも大好物のスイカを食べている時のような感動がありませんでした。ジューシーな果肉感が無くて、まるでお墓の砂を食べているようにさえ感じました。
さやかは、お供え物はご先祖様が喜んで食べるというおばあちゃんの話を思い出しました。
そして、お供え物の中身だけをちゃんと食べていくなんて…と、怖くなりました。
きっと、この中身のなくなったスイカは、ご先祖様の食べ残しなんだ…、そう思いました。
「あれ?もう食べないの?」
「パパ貰っちゃうよ?」
「う、うん…おなかいっぱいになっちゃった」
さやかはなんだか急に食欲がなくなってしまいました。
あんなに大好きだったスイカなのに、まずいような気がしたからです。
あんなに楽しみにしていたスイカなのに、食べたくないなと思ってしまったからです。
スイカを半分残したさやかは、べたつく手を水道で洗いながら、来年はお供え物をもらってくるのはやめようと決めました。
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