タコさんウインナー
五月の中旬から梅雨明けにかけて、うちから程近い場所にある三叉路に…ちょっと良いモノが出現する。
アスファルトの上に無造作に転がる、赤いやつ。
見かけるだけで、ちょっとほほえましくなるやつ。
目に入ると、ちょっぴりテンションがあがるやつ。
丸い頭に跳ね上がる足。
よく焦げたのにテカテカしてるの。
元気なやつにおとなしいやつ。
頭でっかちに小ぶりなの。
平凡な街のぼちぼち人通りの多い歩道の上にザバっと広がっているのは……、どこをどう見てもお弁当の中に入っている、タコさんウインナー!!
あっちにタコ、こっちにもタコ、ここにもタコ、あんな所にもタコ、タコ、タコタコタコさんウインナー!!!
まるで派手にお弁当箱をぶちまけてしまったかのような豪快な散らばりっぷり。
歩道の一部に集団で堂々と転がり、食欲増進効果を遺憾なく発揮している…この物体。
その正体は…ザクロの花である!!
中規模マンションの端に植えられている大きなザクロの木は、毎年毎年この時期になると、ド派手に落とし物をするようになる。ザクロのボリューミーな花が、ぼとぼとと地上に落ちるのだ。その数たるやかなりのもので、どこのどいつがどんだけ大量に弁当箱をひっくり返したんだと頭を抱えたくなるような景色になる日も珍しくはない。マンションの管理人さんらしき人がちり取りとほうきを片手に奮闘しているのを見かけて、思わず声をかけてしまう事もあったりするレベルだ。
掃除をする人は大変だと思うが…、この場所はわりとこの辺りの人気のスポットとなっている。
すぐそばに小学校も保育園もある通学路の一角なので、登下校時に子どもたちが喜んでいるのをよく見かける。主要駅に繋がる道にあるので、学生さんや近隣住民、大人の皆さんが足を止めて写真を撮ることも珍しくない。
ここに引っ越してきて以来、毎年この場所でタコさんウインナーを見て大喜びするのが、私の初夏の習わしとなっている。
初めてこの光景を見た時は娘がまだ保育園児の頃で、信じられないくらい大はしゃぎをして…以降、食べられないウインナーを見かけると俄然テンションが上がる体になってしまったのである。一緒になっておいしそう!と盛り上がった事を思い出すたびに、若かりし頃の自分がひょいと戻って来て…気持ちを底上げするとでもいうのか…やけに気分が高揚してきて、少々のつまらないことを忘れてしまうくらいに機嫌がよくなり、なんとなく体調も良くなるように感じるのだ。
タコさんウインナーが、実に日々の平凡な生活に彩いろどりをもたらしてくれるのだなあと…しみじみ感じる。
散歩や買い物に出かけてこの場所を通るたびに…赤ウインナーを買いたくなり、晩御飯にタコさんを並べ。タコさんウインナーを見るたびに…今年のザクロはどれくらい撒き散らし無双をするのかとワクワクし。食品コーナーで赤ウインナーを見るたびに…この季節を思い出してニマニマし。
ああ、なんという素晴らしき、この連携よ…。
この時期、私のように歩道の上に散らばっている洗練されたタコさんウインナーのフォルムを見て…にこやかな感情を抱く皆さんは多いに違いないと思うのだ。こころなしか近所のスーパーのチルドコーナーには赤ウインナーが多く並んでいるような気がするし、食欲をそそられている皆さんも少なくないと思われる。
……というか、明らかに私の赤ウインナーを買う頻度が上がるというか。ついつい、お徳用赤ウインナー袋が売ってると手に取ってしまうのだなあ。あれはタコになるよう加工してバターで炒めるとめっぽううまくて…。おそらくたぶんきっと我が家は、ひいきにしているスーパーのウインナー部門売り上げ上昇に多大なる貢献していると思われる。
ああ、なんかめちゃめちゃおなかが空いてきたぞ!!
よーし、今日はタコさんウインナーがたっぷり入ったナポリタン作ろ!!!
そうだ、玉ねぎ買わないと…ケチャップも買っておこうかな、パスタも太麺のやつ用意しないとね、そういえばパルメザンチーズのストックが無くなってたんだった……。
タコさんウインナーを見かけようが、見かけまいが…うちのエンゲル係数は信じられないくらい高いのだという事には気が付かないようにして。
私は、両手に持てる分しか食材を買わないよう…歩いて買い物に出かけるのだった。
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