ドア
仕事を終え、コンビニでメシを買って帰宅しようとした俺は、おかしなことに気が付いた。
いつも歩き慣れている、歩道のど真ん中に……、ドアがある。
……なんだ、これは。
アスファルトの上に、ドアだけが立っている。
……テレビ番組の収録か?
辺りを見回すも…誰もいない。
とりあえず…避けるか。
ドアの横を通り、前に進む。
なんだ、スルーできるんじゃん…と思って、前を向くと。
……少し離れた場所に、ドアがある。
ちょっと待て、ドアが…移動した?
後ろを振り返ると、ドアがない……。
ぞわぞわする気持ちを押さえて、歩みを進める。
……ドアが、目の前にきた。
なんだ、これは。
あれか?今はやりの、ループ現象ってやつか?
なんか、こういうの、ショートショートで読んだような。
とりあえず…避けるか。
ドアの横を通り、前に進む。
今度は、地面ではなく…ドアをにらみつけて進むことにする。
真横を通ったあたりで、ドアが透けはじめ、背中を見せたあたりで、完全に消えた。
なんなんだ…と思って、前を向くと。
……少し離れた場所に、ドアがある。
よく見ると…ドア以外の景色が、変わっていない。
住宅の並ぶ、横道のない歩道は、通常であれば3分も有れば抜けられるはずなのに。
ずっと…マンション横を歩いている。
いつまでたっても…交差点にある100円自販機にたどり着けない。
……ドアを開けないと、抜け出せないパターンか。
いや……、今来た道を戻るという手もあるな。
多少遠回りになるが、面倒なことからおさらばできるならそれでもいいか。
俺は、ドアに近づくことをやめ、くるりと後ろを向いて……。
……少し離れた場所に、ドアがある。
なんなんだ、これは。
ホント…無駄なことをするなあ。
こんなごく普通の一般人を巻き込んで、何が面白いんだ。
……ドアを開けないと、抜け出せないパターンなのか。
……クソ、開けるしか、無さそうだ。
ドアノブに手をかけ、引いてみる。
……開かないじゃないか。
押すのか?
ドアノブに手をかけ、押してみる。
……開かないじゃないか。
もしかしてこのドアは…このデザインでまさかの引き戸か?
ドアノブに手をかけ、右に動かして引みる。
……開かないじゃないか。
もしかして…センサー式か?
ドアノブから手を離し、振ってみる。
……開かないじゃないか!
自動ドアかもと思い、足元を踏んでみるもやっぱり開かない。
なんだ、このドアは!
なんなんだ、このドアは!
おいおい…いい加減にしてくれよ!
俺は暇じゃねえんだぞ?!
コッチは色々と忙しいのに!
コン、コンコンコン!
苛つく気持ちを抑えきれず、ドアを叩く。
ばん、ばんばんばん!
腹立たしい気持ちをドアにぶつける。
ガッ…、ドカッ!!
つか、マジでなんなんだ?
ふざけんなよ?
せっかくのカツカレーが冷めるだろうが!
怒り心頭で、渾身の一撃をお見舞いしようと右足を後ろに引いた、その時。
……ガチャ。
ドアが、開いて……
『うっせえなあ!もうちょっと静かにできねえのかよ!』
うわ!!
なんか怖そうなおっさんが、出てキタ━━━━(゜∀゜;)━━━━!!
『おまえね、マジ礼儀がなってない!そんなんでいいと思ってんの?いい大人のくせに怒り任せにさあ!』
ちょっと待て、なんで俺が怒られる?!
「そ、そっちが勝手に出てきたんだろ?!何回も何回も目の前に現れやがって!」
『ぬあんだと?!俺はな、てめぇが呼ぶから来てやったんだぞ?!』
俺が呼んだ?
……いつ、どこで!!
「呼んでねぇし!!つか、カレーが冷めるんだよ!早くここから出せっての!」
『ああ?なんだ、お前はカレーが食べたいのか?!』
ああ、食いたいね!
今すぐこのおかしな空間を抜け出して、いつも通りの代わり映えしない日常に戻りたいんだよ!
『……ふん!』
ドアがバタンと閉められて、存在感が薄くなっていく……。
いつも通りの風景が、目の前に広がっている。
俺は、100円自販機の横を通り、アパートの階段をのぼり、自分の部屋に入った。
少し冷えたカツカレーを食べて、風呂に入って、ゲームをしながら寝落ちして、目覚ましアラームの音で目を覚まし、会社に行って働いて、コンビニでカツカレーを買って、100円自販機の横を通り、アパートの階段をのぼり、自分の部屋に入った。
少し冷えたカツカレーを食べて、風呂に入って、ゲームをしながら寝落ちして、目覚ましアラームの音で目を覚まし、会社に行って働いて、コンビニでカツカレーを買って、100円自販機の横を通り、アパートの階段をのぼり、自分の部屋に入った。
少し冷えたカツカレーを食べて、風呂に入って、ゲームをしながら寝落ちして、目覚ましアラームの音で目を覚まし、会社に行って働いて、コンビニでカツカレーを買って、100円自販機の横を通り、アパートの階段をのぼり、自分の部屋に入った。
代わり映えのしない毎日がつまらない。
何ひとつ変わらない日常から抜け出したい。
……みんな、こういう不満を抱えながら、生きているんだろうな。
……くさっているのは、俺だけじゃない。
少し冷えたカツカレーを食べながら、ぼんやりと…思う。
風呂に入って、ゲームをしながら、ぼんやりと…思う。
いつの間にか寝落ちして、目覚ましアラームの音で目を覚ました俺は、いつも通りに会社に行って働いて、コンビニでカツカレーを買って、100円自販機の横を通り、アパートの階段をのぼり、自分の部屋に入った。
少し冷えたカツカレーを食べて、風呂に入って、ゲームをしながら寝落ちして、目覚ましアラームの音で目を覚まし、会社に行って働いて、コンビニでカツカレーを買って、100円自販機の横を通り、アパートの階段をのぼり、自分の部屋に入った。
少し冷えたカツカレーを食べて、風呂に入って、ゲームをしながら寝落ちして、目覚ましアラームの音で目を覚まし、会社に行って働いて、コンビニでカツカレーを買って、100円自販機の横を通り、アパートの階段をのぼり、自分の部屋に入った。
……なんだか、いつも、同じような日常を繰り返している気がする。
ああ、刺激がほしい。彼女がほしい。金がほしい。夢がほしい。きっかけがほしい。チャンスがほしい。
……何かが、変わってほしい。
いつも通りに、少し冷えたカツカレーを食べて、風呂に入って、ゲームをしながら寝落ちして、目覚ましアラームの音で目を覚まし、会社に行って仕事を終え、コンビニでメシを買って帰宅しようとした俺は、おかしなことに気が付いた。
いつも歩き慣れている、歩道のど真ん中に……、ドアがある。
……なんだ、これは。
↓【小説家になろう】で毎日短編小説作品(新作)を投稿しています↓ https://mypage.syosetu.com/874484/ ↓【note】で毎日自作品の紹介を投稿しています↓ https://note.com/takasaba/