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幻の絶景

……いつ見た風景だろうか。

私には、思い出せる、絶景がある。

若かりし時にドライブで訪れた、どこかの、谷。
ずいぶん高い場所の、赤い橋の下には、雲が浮いていた。
車を停めて、底の見えない谷間をのぞき込み、怖さよりも雄大さを感じて、魅入られた。

……あの場所は、いったいどこなんだろう。

記憶に残るあの谷を求めて、全国各地を、巡る。

……そもそも、あの場所が、谷であったのかすら、私にはわからない。

谷だ、とは、思うのだ。
赤い橋が、山と山の間に架かっていたような気がする。

山に沿う、道路の一部だったのかもしれない。
赤い橋の下に、木々のてっぺんが連なっていたのを覚えている。

あの景色は、この日本のどこにあるのだろう。
あの景色は、この日本のどこかにあるはずなのだ。

かつて自分が訪れた地を、なぞってゆく、日々。

私はあの雄大な風景を、もう一度この目に焼き付けたいと願って。

願い、続けて。

願い、続けて。

願い、続けて。

……なんだ、ここだったのか。

赤い橋の下に、雲が見える。

かつて見た、雄大な景色が、目の前に広がっている。

……ああ、絶景だ。

謎は、解けた。

かつてこの地を訪れた際、高速道路はまだ……なかったのだ。

山道を抜け、トンネルを抜け。
ずいぶん、時間をかけて越えた、山。

今は、利用する人がずいぶん減ってしまった、この場所を、私はずっと、追い求めていたのだ。

ずいぶん、身近に、ずっとあった場所なのに。

私は気付かず、……長い、時間を。

この。

素晴らしい風景。

私の、みたかった景色。

私の中に、ずっと残っていた、絶景。

……満たされて、ゆく。

私は、満足すると。

一人、空高く、昇って……いった。


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