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はしご

俺は、はしごを上る。

一心不乱に、はしごを上る。

はしごを上りきったとき。

俺はきっと。

俺は。


…俺は?


俺は何で、はしごを上ってるんだ?


おかしいぞ。

俺は…屋根に上らなきゃいけなくて。

はしごを上ってた、はず。


何でこんなに上り続けてるんだ?

もう、屋根に上っててもおかしくないんじゃあるまいか。

ちらりと、下を見てみる・・・


「うわああああああ!!!」


なんだこりゃ?!

はしごが!!

雲を突き抜けてやがる!!

俺は今、雲の上にいる!!


上り続けすぎて、こんな所まで来ちまった!!!

戻れ!!戻らないと!!

下に降りていかなければ!!


けど!!

さっき見た地上が、あまりにも遠くて!!

遠すぎて!!!


怖くて、降りることが…できん!!!

足を踏み外したらと思うと、どうしても降りることが…。


上るしか、ない。

上るなら。

最後まで。


はしごを上りきるとそこには。


…なんだ?

ビルが建っている、芝生…?

おや、誰か来たぞ。


「おーい、ちょっと!!」



「…で、貴方こんな所まで来ちゃったと言う訳ですか。」

「はしごってのはだな、上るのは怖くねえけど、降りるのは結構怖いのさ。」


はしごを上りきった俺の前には、なにやら羽の生えて、頭の上にわっかを乗っけた奴ら。

いわゆるあれだ、天使って奴だな。


「気付いたときに飛び降りるかしたら戻れたんですよ、貴方。」

「怖いじゃん!!無理だよ、エレベーターとかないの、ここ。」

「そんなのあるわけないでしょう!!!」


俺は周りを見渡す。連れて来られたビルの中には、無機質な部屋が並んでいるが・・・。


「貴方ね、はしごから落っこちるときに、怖がって魂抜けちゃったんですよ。で、体だけ落っこちたのに気が付かないで、魂だけになってはしご上り続けちゃったんだよ。」

「え、じゃあ俺の体今どうなってんの。」

「魂抜けて、ぼやっとしてます。左手ぽっきり折ってるけど、命に別状はないかな。」

「じゃあ、戻りたいんだけど。」

「はしごで帰るしかありませんね。」

「無理だよ!!怖いんだって!!」

「ここにいたら戻れなくなりますよ?!」

「それって死ぬって事?!」

「まあ、有り体に言えば。」

「マジか…。仕方ねえな。」


俺はまあ…充分に生きたからな。

未練がない事もないが、まあ、受け入れる覚悟はできている。


「はあ?!あんたね、無事な体あるのに、戻らないつもりなんですか?!」

「いや、だって怖いし。無理。」

「怖いも何も!あんた今魂なんですよ?!こっから飛び降りたって平気な霊体なんですよ?!」

「霊だろうと何だろうと、怖いもんは怖いんだってば!!」

「だめです、貴方強制送還します。ちょっと!!皆さん来てください!!緊急事態です!!!」

「どうしたどうした。」

「この人はしごでここまで来ちゃって!!戻りたくないって言うんですよ!!」

「なーにー!よし強制送還だ!!」


ヤバイ、なんか大事になってきたぞ。


そろり、そろり・・・。


「つかまえろ!!!」

「ラジャー!!」


大捕り物が始まった!!!

捕まったら…ここから突き落とされる!!

運動不足が身にしみる!!

俺は逃げ切れず、天使どもに捕まってしまった。


「さあ、観念して、ここから飛び降りて下さい。」


ずらりと並ぶ、天使どもにずいずいと端まで追い込まれる、俺。


「背中押しますか?それとも自分のタイミングで行きますか?」

「じ、自分のタイミングで!!」


とはいったものの!!

地面!!地面が見えない!!


「ちょっと待って、着地地点が見えない、変なところに落ちちゃったり…!!」

「自動でもとの体に戻るから!」

「ちょっと待って、とりあえず一息つかせて!」

「はよいけ!!」


背中を押された俺は、とっさにすぐ横の天使に手を伸ばし…!!!


ぶち!!ぶっちぶちぶちぃいいい!!!


天使の羽根を一部、毟ってしまい!!


「ぎゃああああああああああ!!!」

「ぎゃああああああああああ!!!」


天使の叫び声を聞きながら、自分も叫び声を上げ、地上へと落ちていった。



「…はっ!!!」

「あ、目が覚めましたね、貴方二日も眠ってたんですよ!!!」


気が付くと、病院のベッドに眠っていた。

俺の左手はぽっきり折れている。


「ああ、そうなんですね。」

「そうなんですねじゃないですよ!あんた人の羽に何てことしてくれるんです!」


げげ、さてはこいつ…天使だな?!


「いやまあ、怖くてね、あはは…。」

「あははじゃない!おかげで降りたはいいけど上れなくなっちゃったんですよ!どうしてくれるんだ!」

「なに、飛べないの?」

「羽の枚数が足りないんだよ!」

「ダイエットでもしたら軽くなって浮かぶんじゃないの。」


ちぃとふくよかな、いや、かなり太ましい兄ちゃんに軽口をたたく。


「天使に体重があるかっ!羽はね、成仏した魂の脱け殻なんだよ!僕がどんだけがんばって集めたか…知らないくせにいいいい!」


ぐええええええ!

て、天使に絞め殺される!こいつ実は悪魔なんじゃ…!


「あんたには責任取ってもらいます。僕が飛べるようになるまで、依り代になってもらうんで。」

「はあ?!無理だよ!俺はただの一般人で…。」

「今から一般人でなくなる、それだけの話です!」


すぅーーーーー…

―――では、よろしく。


俺の中に天使が入りやがった!


ぐるりと周りを見渡すと…!


げぇぇぇぇぇぇぇぇ!

なんか!

めっちゃいる!


包帯巻いてるのや、血噴き出してるの、頭へこんでるのに、顔色悪すぎるやつ…!


―――じゃあ一個づつ成仏させて…


ふぅ…ん……がくっ……。


―――ちょっ!こんなんで気絶?!勘弁してくれよ…!


恐怖のあまり、気が遠くなってしまった俺の頭の中で、天使の愚痴が盛大に響いた。



あれからずいぶん経って、…今日。


「ようやく戻れそうです、長いこと世話になりましたね。」

「ふん、長くかかって悪かったな。」


この天使とのやり取りもこれで最後か。俺の魂でちょうど飛べるようになるんだってさ。……ホントかよ。


「とっとと連れてけよ!」

「はいはい。」


俺は長年の相棒に抱えられて、あの忌々しい天界に行くことになった。はしごの上から見下ろした、あの恐ろしい景色も抱えられて見ればまあ、きれいなもんだな。


「あ、やっと来たよ!」

「いよー、久しぶり!」


天使は懐かしい仲間たちと談笑している。


「あなたちょっとこっち来て下さい、ちょっとお話が。」


なんだよ、俺はもう成仏してだな…。


「なんか僕羽集め過ぎちゃったみたいでした。」


ほれみろ!集めすぎたと思ってたんだよ!返せ!俺の苦労!…まあ、今さらいいけどさ!


「太ましいし、いっぱいもってたら良いんじゃないの。良かったね、じゃ。」


立ち去ろうとする俺の周りを天使どもが囲いこむ。ちょ…!やな予感…!


「そんなわけに行くかい!」

「まあまあ、あのね、あなたこの天使と一緒に羽集めたでしょう、なんかね、羽があなたに愛着持っちゃってね。」


なんだそれ。ちょっとヤバイ風向きになって来た…。


ふしゅん…ふしゅん…ふしゅ、ふしゅ!!!!

…げぇぇぇぇぇぇぇぇ!

俺の背中に!羽が!羽がぁぁぁぁぁ!


「「「ようこそ、天使組合へ!」」」


「あなた羽の数足りないから、ここから落っこちないで下さいね。」

「落ちたら僕と同じ事をしないといけなくなっちゃいます。」

「あ、これ君のわっかね!なくしたらダメだよ!」

「ちょっ!俺に拒否権は?!」


「「「ない。」」」


俺は、俺は……!

何で、何ではしごを上って、降りなかったんだ!

何で、何ではしごを上って、魂だけで上っちまったんだ!

何で、何で一人でサクッと、飛び降りなかったんだ!


今さらながら、すんげぇ後悔が!

成仏して、のほほんと過ごす、俺の計画っ!


「まあまあ、そのうちまた生まれることもできますからね、それまで仲良くやっていこうじゃありませんか、わはは。」


かくして、俺は今日も雲の上で働いているのであった。


うちの旦那は超重量級なので、はしごに昇れませんです、はい。
耐過体重150キロなんだけど、荷物持つと超えちゃうんですよね。
なので私が登らないといけないという…ナケル……。


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たかさば
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