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お ま え か 

 ……なんだか、足が、むずむずする。

 ごく普通に、座ってパソコンに向かっているのに…足がむずむずする。
 普段どおりに、立って晩御飯を作っているのに…足がむずむずする。

 ……ふと気がつくと、足に違和感がある。

 買い物の最中、帰宅途中。
 病院の待ち時間、寝る直前。

 ……明らかに、左足の外側、すねとふくらはぎの境目辺りがおかしい。

 かゆいわけではない、痛いわけでもない。
 ぼんやりと、しかし確かに。

 ……なんだ、これは。

 病院に行くべきか?
 だがしかしこんな症状で行くのもな。

 様子を見ていればいいかな?
 だがしかし悪化する可能性もある。

 放置しておいたらまずいかな?
 だがしかし後悔する事になりはしないか。

 ……ほんの少しの気のせいが、思わぬ大病の前触れであることもある。

 例えば、下肢静脈瘤とか。
 例えば、脳梗塞とか。
 例えば、神経狭窄症とか。

 ……心配になってくる。

 足を見ては、気のせいかと思う。
 足を触っては、気のせいかと思う。
 足を撫でては、気のせいかと思う。

 ……心配のしすぎだよね。

 足を見ては、気のせいだったと思う。
 足を触っては、気のせいだったと思う。
 足を撫でては、気のせいだったと……。

 ……うん?

 なにやら、指先に…違和感が。
 なんだ、ゴミでも…付いていたようだ。

 そっと、指先で、足を払う……。
 ……なんだ、髪の毛が付いている。

 指先で細い何かをつまんだ瞬間、ちくりとした感覚が…。

 ぷつっ

 ……?!

 何かをつまんだまま、目の前に持ってくると…げえ!!
 なんか、長い…毛が!!!

 プリッとした毛根、ひょろひょろとした白とも灰色とも茶色とも称し難い五センチほどの毛が!!

 うぉお・・・これ、宝毛じゃん!!!

 というか、ずっと感じていた違和感の正体は、この毛がそよそよしていたからだったのか!!
 お前が…お前がいたいけな私を振り回し、翻弄していたのか!!

 長年地道な除毛活動を続けた私の脛には、ほとんど毛が生えていない。
 あれほど毎月脱毛機を転がしていた脛から恐ろしい再生速度を誇っていた毛が…自主退場し始めたのはいつの頃からだったか……。

 加齢に伴い、私の中の成長部門はすっかりなりを潜めていたと思っていたのだが。

 最後の一花を咲かせようと、脛毛連合軍が屈託した?
 それとも毛の細胞が、『脛毛は二センチ(仮定)の長さまで』という規律をスルーして、自由気ままに暴走した?

 ……いずれにしても、脛毛らしくない脛毛を誕生させてしまうほどに、私の体の中のシステムはエラーが発生しやすくなっているようだ。

 ああ、老いた体は…より優しくて繊細な扱いが必要なのだ…。
 そうだな、何のケアもせずに冬のクソ寒い空気に晒してたから、すねちゃったのかもしれないな。

 ……よし、たまには体をいたわって、とびきり贅沢をしてあげよう。

 ちょっとお高いボトル入りの…イイにおいのボディローションを、毎日擦り込んでいたら。

 ……やけに自己主張の激しいやつらがですね?!

 ケラチンの整った、キメの細かいすべすべお肌に……にょきにょきと現れる、黒い悪魔、悪魔が――――――!!!

 なんというか、体ってのは…本当に図々しいというか、ちゃっかりしているというか、ふてぶてしいというか、実に現金にできているのだなあと思ったという、お話です・・・。

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たかさば
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