卒業文集
86年1組やまふじしげお
「楽しかった人間生活」
人間は、とても面白かったです。何が面白かったかというと、すぐに自分以外の人と比べるということです。自分のやりたいことをしているはずなのに、人がしていることが気になって仕方がないのです。自分がやりたくないことを一生懸命やるのも面白かったです。僕は、もう二度と人間にはなれませんが、この86年間の思い出は、いっしょう心に刻み込んで大切にしていこうと思います。僕と途中までいっしょに生きてくれた加奈子ちゃんには、心から感謝をします。ありがとうございました。
72年5組わだじゅんこ
「一生懸命がんばった孤独生活」
私は、この72年間、とても辛かったです。一生懸命がんばっても、誰も褒めてくれませんでした。そのせいで一人で生きていくということしか選べなくなってしまったのです。何をしていても満たされることはありませんでした。一人でいいので、友達が欲しかったです。もしもう一度人間になることがあるなら、絶対に私は友達を作ります。いろんなことを覚えましたが、最後の十年は何も思い出せなくなってしまったので、もったいなかったです。次があるなら、今度は体を使って人生を楽しみたい。
52年9組おおしまかずき
僕は52年間ずっとがんばって生きてきたので、何も思い残すことはありません。おいしいものもたくさん食べたし、可愛い人ともたくさん恋をしたし、難しいこともたくさん覚えたし、体もたくさん動かしました。人間はとてもやりがいがありました。もう少し生きていたいと思っていたし、生きていくつもりでしたが、残念なことに信用していた人に裏切られてしまいました。もし今度生まれることがあるならば、安易に他人を信用せずに自分ひとりの力で生きていこうと思います。お世話になった先生、ありがとうございました。
52年9組おおしまみゆ
私は52年間流されるように生きることができました。自分で何も考えないで、人のいうことだけ聞いて生きるのはとても楽でしたが、知らないうちに心が壊れてしまっていました。人間の心は、自分が管理していないといけないということに気付くのが遅かったです。かずきくんがすべてを終わらせたいというので、頼みごとを断りきれずにおかしな判断をしてしまったのが残念でした。次は自分の心をしっかりと守って、自分の気持ちを優先させた人生を生きたいと思います。
32年8組ほしなしんいち
僕はにんげんはきらいです。あまり行きたくなかった。大勢の人間と同じことを学ぶのが嫌だった。
66年5組こんどうさえ
にんげん、すばらしい。私は人間生活を送ることができてとても勉強になりました。命の尊さを知り、体の仕組みを目いっぱい使うことができました。使い古されていく人体の、けなげな様子がとても心を打ちました。お酒で壊れていくからだが愛おしかったです。どんどん体組成が壊れていくのに、対組成を壊さずにはいられない、人間のサガを感じました。とても貴重な人生を送ることができました。ずっと苦しかった日々を忘れずに前を向いていこうと思います。
~先生より~
皆さん、人間卒業、おめでとうございます。
人間として、たくさんのことを学んだ時間は、かけがえのない宝物だったのではないでしょうか。
皆さんはもう、人間ではありません。
人間を卒業した皆さんは、これから自由に自分と向き合うことができます。
人間で学んだことを生かして、皆さんは何になろうとしますか?
神になりたいと思う人、悪魔になりたいと思う人、自然になりたいと思う人、消え去ろうと試みる人、何かを生み出そうとする人、何かを消し去ろうとする人…いろんな人がいることでしょう。
人間を卒業したあと、なにをするのかは、皆さんの自由です。
けれど中には、何をしたらいいのか分からなくなってしまう人もいるかもしれません。
何をしていいのか困ったとき、自分の選んだ道が正しいのか分からなくなったとき、自分の選択の過ちに気が付いたとき、この卒業文集を見てみましょう。
きっとあなたは、人間を卒業する時に、何を感じたのか振り返ることができるはずです。
また、3,129人の、同じ日に人間を卒業したお友達の作文を見て、自分が人間であった時に感じることのできなかった気持ちを知ることもできるでしょう。
これから忙しい日々が待っていますが、どうぞ自分自身を失わず、しっかりと前を向いて行って欲しいと切に願います。
本日は、本当に人間卒業おめでとう。
皆さんに、幸が多いことをお祈り申し上げます。
レイワ◯◯年、某月某日
人間界の神様より。
なお、私は卒業文集を一度も読み返したことがありません(*'ω'*)