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俺、生まれ変わったら【銀のトレイ】になってて草
……俺は、銀のトレイ。
覗き込めば顔が映る、16インチのシルバーカラーの金属製トレイだ。
昔、俺は人間だった。
名前は忘れたが、お気に入りのカフェに毎日通う小金持ちだった。
何らかの事故で命を落としたとき、俺は願った。
「生まれ変わったら、銀のトレイになりたい」
そう願ったのには、理由(わけ)がある。
毎日通っていたカフェのウエイトレスに、心底惚れていたからだ。
顔も、名前も、姿も、何一つ覚えていないのに、コーヒーがひとつだけ乗った銀のトレイに映りこむ彼女の顔を見つめていた日々が…忘れられなかった。
神々しい笑顔を真正面から見ることが出来ずに目をそらし続けた事と、彼女が退職して店からいなくなった時にもっと目を見つめればよかったと後悔した事だけが、いつまでも心に残っていた。
願いが叶ったのだと喜んだ瞬間は、確かにあった。
だが、しかし。
―――ぐふふ、みくちゃんとお揃いのトレイ…ゲットだぜ!!
俺を購入したのは、メイドカフェにドハマりした中年のおっさんだった。
俺は願った。
「一刻も早く、生まれ変わりたい」
そう願ってしまうのは、当然である。
おっさんはおかしな性癖を満たすために、おかしな行動を恥ずかしげもなく嬉々としてやりのけていたからだ。
彼は自分専用のトレイで給仕して欲しいと図々しくのたまい、使用後に恭しく風呂敷につつんで持ち帰っては抱いて眠る…地獄でしかない。
恐ろしい願いをしてしまった事と、願いが叶ってしまった事が、いつまでも心をえぐり続けた。
……願いが叶ってしまって、もう…どれくらい、たっただろう?
―――け、けっこん?!
お気に入りのメイドが、店をやめることになった。
おっさんはメイドに頼み込んで俺に直筆のイラストとメッセージを書き込んでもらい、涙を流して喜んだ。
俺は願った。
「メイドカフェを十分楽しめたのだから、そろそろ真面目に働いてくれ」
そう願ったのには、理由があった。
おっさんはメイドカフェに足繁く通うために定時出勤を求められる仕事につかず、単発バイトや割の悪い内職をしていたからだ。
働く目的をなくし、ぼんやりしながら働いてはミスをすることが増えた。
毎日俺を拝み倒しては、あの頃の天国よもう一度と涙を流すので…心がえぐられ続けている。
……ほかに、推しとなるような人が見つかればいいのに
―――あ、あのっ、ココ…教えてもらっていいですか!!
おっさんのバイト先に、ドジっ子の若い女性が入社してきた。
いろいろと面倒を見ているうちに距離感が縮まり、積極的な女性のアプローチもあって、二人は一緒に暮らすようになった。
俺の願いも…むなしく。
同居を始めたとたんに地雷系の本性を表した痛い女は、ほんの少しの女の影を見つけては泣き叫び…おっさんを追い詰めていった。
長年心の拠り所にしてきたグッズをめちゃめちゃにされたピュアな中年は、抑えきれない怒りをこめて、メイド服姿のおばさんを、俺で…殴打し続け……。
ああ、次に・・・生まれ変わったならば。
おれは・・・
・・・
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