円周率
「皆さんはじめまして、数学を担当します、杉山です。」
中学に入って初めての数学の時間。教室に現れたのは、めがねをかけた痩せ型の男の先生だった。
僕は算数が大好きなので、数学に興味を持っている。
これから三年間、お世話になる先生だ。怖い先生じゃないといいな。
「じゃあ、今日は、僕の自己紹介をしますね。皆さんは、僕の話を聞いて思ったことなんかをノートの1ページ目に書いて来てください。それが今日の宿題になります!」
初日から宿題を出す先生らしい。
数学にまつわる話は結構面白かった。懸賞金がかかっている問題のことを質問しようかなと思ったんだけど、僕には気になっていることがあったのでそれを優先させることにした。
―――コラッツは僕の母がやっていたので聞いたことがありました。答えが1になる計算式、楽しいですよね。僕は小町算が好きです。僕が気になったのは、先生は円周率をどれだけ覚えているかということでした。僕は、3.141592653589793238462643383279502884197169399375105820974944592307816406286208998628034825342117067…今のところ、百桁まで覚えています。
円周率を書き込んだら、あっという間にノート1ページが埋まってしまった。先生の返事が書き込まれる場所がなさそうだと、少しだけ、残念に思った。
提出したノートが返ってきた。
何が書いてあるんだろうと、わくわくした気持ちで開いてみると…。
―――先生はあまり円周率を覚えてないんですよね…。お母さんは一億円ゲットできそうですか?よかったらお話聞かせてね!!123□4□5□6□7□8□9=100←解いたら職員室にGO!!!
その日の終業後、部活見学に行く前に職員室に行ってみた。
「杉山先生はいますか。」
「お!!!持ってきたか!!どれどれ……!!!おおー、あってる!!123-4-5-6-7+8-9=100!!!じゃあ、次はセンチュリーパズルやってみる?」
よく分からないけど、僕は数学好きな生徒として…覚えられてるみたい?
うれしいような、やばいような……。
「僕はあまり除算…特に分数が得意ではないです。」
まずい、僕が得意ではないといったとき、なんか先生の表情が…輝いたのを、ばっちり見た!!!
これって多分、苦手なものをやらせて克服させようとしてるんだよね?!
……めんどくさい事になりそうな予感、これは…ごまかすしか、ない!!
「あの。先生は円周率を覚えていないと言っていましたが、どれだけ覚えているんですか」
「え?!うーん、3.141592653589793238462643383279502884197169399375105820974944592307816406286208998628034825342117067…百桁までは完璧に覚えているかな。あとはところどころ微妙でねえ……。」
「めちゃめちゃ覚えてるじゃないですか」
「いやいや…本気の数学オタクはね、ものすごいよ?いわゆる記憶法を用いて、とにかく先まで脳髄に刻み込もうと…ホント上には上がいてねえ、僕は若い頃に途中で戦線離脱したんだよ。」
「どこまで覚えているのか、聞いてみたいです」
「え?!ほんとに?!ええと3.141592653589793238462643383279502884197169399375105820974944592307816406286208998628034825342117067982148086513282306647093844609550582231725359408128481117450284102701938521105559644622948954930381964428810975665933446128475648233786783165271201909145648566923460348610454326648213393607260249141273724587006606315588174881520920962829254091715364367892590360011330530548820466521384146951941511609433057270365759591953092186117381932611793105118548074462379962749567351885752724891227938183011949129833673362440656643086021394946395224737190702179860943702770539217176293176752384674818467669405132000568127145263560827785771342757789609173637178721468440901224953430146549585371050792279689258923542019956112129021960864034418159813629774771309960518707211349999998372978049951059731732816096318595024459455346908302642522308253344685035261931188171010003137838752886587533208381420617177669147303598253490428755468731159562863882353787593751957781857780532…ダメだ、これ以上言うと、文字数稼ぎと後ろ指を差されることに!!!ええとね!!僕の同級生には、30分間ずっと円周率を言い続けてた人がいたよ!!春川君も数学の極みを求めて貪欲に知識を蓄えていくといいと思うよ!!ちなみに僕は整数論で卒論を書いたんだけど、素数とか、好き?!」
どうしよう、なんかよく意味の分からない言葉を聞いた気がする!!!
……やっぱり数学って、小学校までの算数とは全然違うんだ。円周率を100桁覚えたぐらいで、いい気になってたのが…恥ずかしい!!!
「あの。勉強、がんばります……。」
僕は、深々と頭を下げ、職員室をあとにしたのだった。
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