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二度寝

 ピー、ピピー!

 …遠くでかすかに聞こえる、少し高めの、気持ちのいい音。
 …ふふ、今日もおいしいご飯が、炊けたみたい。

 毎朝、私は、ご飯の炊ける音で目を覚ます。

 1階のキッチンから、かすかに届く、炊飯器の音。
 2階の部屋で寝ている私の耳に届く、炊飯器の音。

 しんと静まり返った、深夜から朝に変わる時間帯に響く、控えめではあるけれど確かに届く、小さな、音。

 耳を澄まさなければ聞こえないような、か弱い音で、毎朝同じ時間に目を覚ます。

 不思議なものだ、あんなに小さい音なのに、しっかり聞こえる。
 不思議なものだ、あんなに小さい音なのに、目覚ましとして優秀だ。

 毎朝5時に炊ける、お弁当用のごはん。

 ごはんが、私を握る時間が来ましたよと、教えてくれているのだ。
 ごはんが、私を握るために起きなさいと、教えてくれているのだ。

 ……そろそろ、起きないとね。

 でもまだ大丈夫、アラームは鳴っていない。

 私は、スマホの5:00のアラームを聞いて布団を剥ぐと決めている。

 目覚ましのアラームが鳴るまで、あと2分。
 少し慌て者の炊飯器は、2分、時間が進んでいるのだ。

 この、2分間で…今日見た夢を、振り返る。

 ……今日の夢は、少し愉快だった。
 空も飛べたし美味しいものも食べた。

 ……今日の夢は…オチが弱かった。
 おじさんが意味不明だったし私はぼんやりしていた。

 ……今日の夢は……、どんなだったっけ。

 目が覚めてきた、夢が揮発してゆく。

 ……夢を思い返して微睡む、この時間が、好きだ。

 二度寝とは違う、夢と現実の境目に浸かっている感じ。
 二度寝ではない、夢を解き放ち現実に戻ってゆく感じ。

 ズンズガ☆ズガズガ!ズッガッシャーン♪

 アラームが、鳴った。

 スマホに手を伸ばし、静まり返った静寂を取り戻しつつ…シーリングライトのスイッチを入れる。

 薄暗い部屋の中に明かりがともり、寝ぼけた目玉がぎゅうと凝縮する。

 ……さあ、もう起きなければいけない時間だ。

 よし、起きるぞ。

 起きて、おにぎりを、作らねば……。

 起きて、おにぎりを……。

 起きて……。

 ……。

「わあん!!お母さんがお弁当作ってくれてない!!」

 私は、キッチンの方から、娘の叫び声がしたのを聞いて飛び起きましてですね?!

「わあ!!間に合う、間に合うから!!!」

 勢いよく階段を駆け下り!!!

 お弁当箱にご飯を詰め詰め!!!

 炒り卵とそぼろを作ってのせのせ!!!

「は、はい、いってらっしゃい!!」
「ありがとう!!」

 やばかった、今日こそ間に合わなくなるところだった……。

 どうも最近春眠暁を覚えずといいますか、ついつい二度寝をですね?!

 おかしいなあ、疲れてるんだろうか、もしやこれが老いと言うものなのかしらん。

 毎朝きっちり5時2分前に目を覚まし、5時ちょうどのアラームをとめ、よし起きるぞと思うはずなのに、なぜか二度寝をしてしまうんだよなあ。

 …まあ、間に合ったから、いっか!

 私は、顔を洗い、歯を磨き、パジャマを脱ぎ捨て、洗濯機を回し、ぼさぼさの髪に櫛を通して、服を着て、水を飲んで…、あわただしく新しい一日をスタートさせたというお話ですよ…。


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