でえと
仕事から帰る道すがら、仲睦まじい様子でベンチを分けるおばあちゃん二人を見かけた。
肩を寄せ合い、時折口元に笑みを浮かべながら、手のひらをパタパタやっている。たまにつぶらな目を見開いて驚いているのが、とてもチャーミングでほほえましい。仲良く膝の上のミカンを分けあってもぐもぐしているのも、実にのどかだ。
あれは、でえと、だろうか。
たまに遠くに目をやり、時折ミカンに目を落とし、時々見つめあって笑い合う……。幸せそうな二人を見ると、つまらない日常を過ごし無感情が常の私であるはずなのに…笑みが、こぼれる。
忙しなく帰路に就く自分が、せせこましく感じる。
……自分だけがこんなに生き急いで、バカみたいだ。
私も、もっと。
この、おばあちゃんたちのように。
心に余裕を持って、笑い合えるように、なれたら。
歩行者優先の細い市場通りと主要道路が交わる交差点横。ここにはベンチがふたつと花壇があって、小さな集会スペースとなっている。信号待ちの老人やベビーカーを押すママさんたちの休憩所として愛されるだけでなく、夏祭りの際にはチケット販売会場となる、町のみんなが訪れる馴染みの深い場所だ。
街路樹が良い感じに日陰になっていて、涼しいんだよね。炎天下を帽子も被らず歩いていた私だったが……、信号がちょうど黄色になった事もあり、空いているベンチに腰を下ろすことにした。
穏やかでのんびりとした、心地好い空間のおすそわけをして、もらおうと、思っ……
「でさあ、あのクソババア何て言ったと思う?うちは関係ないですだって!」
「だから新参ものはダメなのよ!若いやつらはホント礼儀がなってない!」
「引っ越し祝いもやっすいもんでさあ、貧乏人の癖に一戸建てとかしゃらくさいんだわ!」
「犬もうるさいし早く追い出したいねぇ。」
「町内会長押し付けてイビろうか?」
「ゴミ捨て場所、あの家のガレージ前推薦しとこう。」
「子供の学校にさあ……」
「ああ、市役所に……」
「あはは!ざまあみろ……」
「ウフフ、楽しみねぇ……」
私は、腰を下ろすことなく、赤信号の根元に一直線に向かい!!
ミンミンと鳴く蝉の声に、懸命に耳を傾けたのであった!!!
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のどかな風景に、のどかな会話が流れているとは限らないのだ……。