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死亡フラグが微塵も立ってないのに、オレ、すぐ死ぬ…
キィぃイイイイイイイイイイイイイっ!!!
ドぐわっしゃぁああアアアアアアアあん!!
ぶちゅっ!!!
パ、ぱぁあああああアアアアアアア!!!!
中規模都市の、幹線道路の横断歩道に、ド派手な轟音が響き渡る。
生々しい肉の潰れる音も、俺の体内で響き渡ったわけだが…、外にはほとんど漏れ出していないと思われる。
ああ…アツい。
ヒリついているのは、のどか、胸か、骨か、筋肉か……。
今回は、視覚も聴覚も残ってるパターンね、なるほど、なる、ほ…。
「……ですかっ?!」
バンッ!!
「…早く、そっち…」
プー!!
だんだんと、ざわつく音が…遠のいていく。
視界が……どんどん、薄暗くなっていく。
俺は、今…、この瞬間……。
いのち、を……。
…死……。
あーあー、死んだよ。
今回もあっけなく、あっという間にな……。
俺は秋庭大祐(あきばだいすけ)35歳。
スーパーまるもの勤務、中肉中背のごく一般的な独身貴族。
一見どこにでもいそうな、パッとしないおっさんである俺なのだが。
実は……、トンデモない、特技?がある。
すぐ、死ぬのである。
何でもない瞬間に、いきなり死ぬ。
普通に暮らしているだけで、いきなり死ぬ。
ごく一般的な生活をしているのに、いきなり死ぬ。
毎日死ぬ。普通にしていても死ぬ。しょっちゅう死ぬ。いつも死ぬ。隙があれば死ぬ。とにかく死ぬ。
で、死んだら、死ぬちょっと前に戻る。
いわゆる死に戻りという奴だ。
ラノベなんかでは、要所要所で死に戻ってストーリーが進むもんだけど、俺のはタイプが違う。
実に気軽に、突然に。
実に容赦なく、豪快に。
青天の霹靂上等、まさに厄災。
死亡フラグのしの字もないような、平凡で平和でごく普通の日常に…いきなり命の終末が割り込んでくるのである。
何が死に直結しているのかわからない。
何が命を奪うのかまるで予想もつかない。
何が起こるのかは、起きてみないとわからない。
車関連がわりと多いが、三輪車と接触した事が原因で死んだこともある。
落下物関連が結構多いが、コップを落とした事が原因で死んだこともある。
食べ物関連がかなり多いが、食べなかった事が原因で死んだこともある。
病的な、身体的な不具合が理由で死ぬことはない。
あくまでも、まるで死亡フラグがたってしまった登場人物のように…、何らかの原因があって貴い?命がポンポンと失われてしまうのだ。
それなりに苦しむが、基本的に気が狂うような苦痛はない。
それなりに痛みを感じるが、基本的にアドレナリンが駄々洩れになって何とか耐えられる。
サクッと死んで、サクッと死ぬ前に戻る。
死ぬ瞬間はそれなりに気分の悪いものではあるが、どうせすぐに死に戻るんだろうという諦めがある。
……今も、サクッと、横断歩道を渡るところまで戻された。
遠くに…、勢いよく突っ込んでくるトラックが見える。
青信号を渡って、そういえばタイムカード押したっけなと思い出してくるりと進行方向を変えた瞬間、トラックは急ブレーキを踏んで砂利だらけの横断歩道の上でスリップをし、俺をぐしゃりと踏み潰すのだ。
俺が同じことを繰り返せば、素直に同じように死ぬ。
俺が違う行動をすれば、死ぬことはなく時間が進む。
そしてまた、ややあった頃に…サクッと何らかのきっかけがあって死ぬのだ。
これまでの平均、1日当たりおよそ7回。
1年でおよそ2555回。
これで通算114975回目の…御臨終だ。
小さい頃はカウントしてなかったから、正確な回数はわからない。
だけど、たぶん似たような感じで俺はずっと…死に続けてきたはずだ。
乳幼児期は、今よりも頻繁に死んでいたようにも思う。
35年もコンスタントに死に続ければ、達観もする。
だがしかし、無闇矢鱈と死に続けることを俺はヨシとしなかった。
何度も死に重ねて、学んで…、洞察力に磨きをかけてきた。
無防備になる瞬間を極力減らし、慎重な行動を心がけ、血のにじむような努力をしながら年齢を重ねてきたのだ。
身も心も大人になって…注意力が上がったからこそ、ここ半年ほどは死ぬ機会が減ってきたのである!
昨日は二度しか死ななかったし、今日はもうずいぶん遅い時間帯なのに、まだ死んだのは一回目。俺の地道な努力は、確実に実っている。
……もしかしたら、初の一日一死にを達成できるかもしれない。
夢にまで見たノー死にデーの到来は…近い。
俺はいつも以上に慎重に、この横断歩道を渡って二分の場所にある、自宅アパートに向かった。
『ば、番組の途中ですが、緊急ニュースをお伝えいたします!!』
無事帰宅したものの、シェーバークリームを取ろうと立ち上がった瞬間に足を滑らせて後頭部を蛇口に強打しサクッと死んだ俺は、最少死に数記録を樹立できなかった悔しさを酒を飲んで紛らわせようとチューハイの缶を開け、ぐいと一飲みしながらテレビをつけたのだが…何やら様子がおかしい。
『この放送は、地球全域で同時放送しております。同時通訳で、緊急発表…画像きた?!』
チャンネルをポチポチ替えてみるも、どの局もどこぞの外国?の中継画面が映っていて…なんだ、これ。
『全人類の皆様に、お伝えいたします。今から、地球外知的生命体との、こ、交流の瞬間が始まります』
………。
どうやら、宇宙人の存在が明らかになったらしい。
テンパるアナウンサーがおかしな顔色で説明している。
俺はまあ、こんな境遇だし…何があっても動じない自信がある。
不可侵条約だの、尊厳だの、観光だのいろいろ説明しているが…普段通りの生活は保証されているとのことだし、まあなんとかなるだろう。
『たった今、この瞬間から自由コンタクトが開始されました!みなさん、慌てず落ち着い…』
ひんよよ、ひんよよ、ぽへ〜!
何やらおかしな音が聞こえてきた。
どうやらさっそく…宇宙人が出没し始めたらしい。
俺は、音のした窓の外を確認しようとカーテンを勢いよく開け……
『?!@☆≧*#ω∞∂%!!!!!!』
緑色の物体の、赤い光を見た瞬間…、白い光に包まれて死んだ。
ひんよよ、ひんよよ、ぽへ〜!
何やらおかしな音が聞こえてきた。
宇宙人が出没し始めたそうそう、遭遇して死んで、巻き戻ったようだ。
俺は、音のした窓の外を確認しようとカーテンを勢いよく開けるのをやめ、テレビに見入った。
『宇宙人を刺激しないでください、何もしなければなにもされません…』
なるほど、さっきは闇夜にいきなり部屋の中の明かりが漏れたから、刺激してしまったんだな。
…ピルプー!
ぺほ、ぺほ…
コン、コン……
窓の外を叩く音がする。
……無視するか。
『@☆≧*#ω∞∂%……』
ちゅどーん!!
突如窓近辺が爆発し、木っ端微塵になって死んだ。
ひんよよ、ひんよよ、ぽへ〜!
何やらおかしな音が聞こえてきた。
宇宙人が出没し始めてそうそう、遭遇するのは決定事項らしい。
俺は、音のした窓の外を確認しようとカーテンを勢いよく開けるのをやめ、テレビに見入った。
『宇宙人を刺激しないでください、何もしなければなにもされません…』
刺激はしなかったが、宇宙人の問いかけを無視したから攻撃されたんだな。
…ピルプー!
ぺほ、ぺほ…
コン、コン……
窓の外を叩く音がする。
……返事をするか。
「はい、なんですか」
『!!!@☆≧*#ω∞∂%、$&$@Ω?!ま、まど、あけて、あけてね、たのむわ』
逆らわないほうがいいだろう、そう判断して、そっとカーテンごと窓を少しだけ開ける。
緑色の物体がうねうねとしている。赤い光が…後退していく。
…弱点なのだろうか。もしかして、アレを見つめてしまったから死んだ線もあるな…。
騒いで刺激してはならないと、相手の出方を見ると…細長いモノが伸びてきた。
つい、条件反射で…目の前に出されたひも?を、指先でチョコンと、さわ……。
……ジュッ!
シュウ…、パチュ、パチュ……
熱いような、冷たいような、死に慣れた俺でも経験したことのない感覚が、人差し指の先から右掌、腕、身体にあっという間に広がって、融けて死んだ。
ひんよよ、ひんよよ、ぽへ〜!
何やらおかしな音が聞こえてきたあと、サクッと死んだ。
ひんよよ、ひんよよ、ぽへ〜!
何やらおかしな音が聞こえてきたあと、サクッと死んだ。
ひんよよ、ひんよよ、ぽへ〜!
何やらおかしな音が聞こえてきたあと、サクッと死んだ。
ひんよよ、ひんよよ、ぽへ〜!
ひんよよ、ひんよよ、ぽへ〜!
ひんよよ、ひんよよ、ぽへ〜!
何をしても、いきなり死ぬ。
普通に対応しているだけなのに、いきなり死ぬ。
ごく一般的な反応をしているのに、いきなり死ぬ。
すぐ死ぬ。結局死ぬ。あり得ないレベルで死ぬ。簡単に死ぬ。隙があれば死ぬ。とにかく死ぬ。
で、死んだら、死ぬちょっと前に戻る。
これでもう、何回だ……?
確実に1日の最高死に数を更新している。
ひょっとしたら、一年分くらい死んだかもしれない。
もうそろそろ、自分は先に進むための正解に近づいているのかなと思わないでもない。
なぜならこうして、自分の状況を振り返るだけの余裕が。
……余裕が。
ひんよよ、ひんよよ、ぽへ〜!
何やらおかしな音が聞こえてきた。
ひんよよ、ひんよよ、ぽへ〜!
何やらおかしな音が聞こえてきた。
ひんよよ、ひんよよ、ぽへ〜!
何やらおかしな音が聞こえてきた。
ひんよよ、ひんよよ、ぽへ〜!
何やらおかしな音が聞こえてきた。
今までに培ってきたテクニックが、通用しない。
今までは生きる道に繋がった選択なのに、通用しない。
今までの経験を持ってしても、先に進めない。
ひんよよ、ひんよよ、ぽへ〜!
何やらおかしな音が。
ひんよよ、ひんよよ、ぽへ〜!
何やらおかしな。
ひんよよ、ひんよよ、ぽへ〜!
何やら。
ひんよよ、ひんよよ、ぽへ〜!
すぐ死ぬ即死ぬ毎回死ぬまた死ぬやっぱり死ぬどうしても死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死 ぬ しぬ しぬしぬしぬしぬしぬ しぬしぬしぬし ぬしぬしぬし ぬしぬしぬし ぬしぬしぬしぬしぬしぬしぬしぬしぬしぬシヌシヌ シヌシヌシヌシ ヌシヌシヌ シヌシヌシヌシヌシヌシヌシヌシヌシヌシヌシヌシヌシ ヌシヌ シヌシ ヌシ ヌ
あと、どれくらい、宇宙人に殺され続けるのだろう。
あと、どれくらい…、宇宙人に殺されなければいけないんだろう。
あと、どれくらい……、宇宙人に殺されたら、いいんだろう。
あと、どれくらい………、宇宙人に、殺されたら、解放されるんだろう。
……ボンヤリと、思い、ながら。
ひんよよ、ひんよよ、ぽへ〜!
何やら、おかしな音が聞こえてきた、瞬間。
俺は、初めて…、気を、失い。
………失い。
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